愛知県名古屋市
2022.08.23 (Tue)
目次
ゆかたを着る楽しさを提供し、地域の伝統文化に触れる機会を創出しようと、松坂屋名古屋店で開催した「Yukata Dancing night 松坂屋 盆踊り大会 2022」。3年ぶり3回目の開催となった今回、マスク越しながら参加者の笑い声と笑顔が伝わる、活気あふれる夏の一夜となりました。イベントに関わった方々にその思いを取材しました。
お盆の時期になると日本各地で行われる盆踊り大会。ゆかたを着て、おはやしに合わせて音頭をとり、夜店や露店で楽しむ……。そんな風景が夏の思い出として心に刻まれている人も多いのではないでしょうか。
民踊(みんよう)に分類される盆踊りは、それぞれの地域で伝承してきたものが多く、地域色の強い伝統文化という側面があります。一方でアニメソングや歌謡曲が取り入れられるなど時代の流れとともに柔軟に変化し、子供からお年寄りまで誰もが一緒になって楽しめるエンターテインメントにもなっています。
東海地区では郡上八幡の「かわさき」、名古屋の「名古屋ばやし」といった伝統的な楽曲から、近年では定番になりつつある「ダンシング・ヒーロー」、「おどるポンポコリン」などのJ-POPまで、“なんでもあり”のスタイルで盆踊りが発展してきました。
松坂屋名古屋店では、2018年に盆踊りイベントをスタート。2年間コロナ禍での中止を挟みましたが、今年「Revive! Yukata Dancing night」として、3年ぶりの開催となりました。会場となったマツザカヤホールでは、射的やヨーヨー釣りなどの出店、似顔絵やスタチューパフォーマンス、お笑いコンビ「にゃんこスター」のステージ、そして地域の伝統芸能として、「大治太鼓 尾張一座」、美濃加茂市の盆踊りサークル「舞童(まいどう)」、日本舞踊西川流らによる演奏・演舞プログラムなどを用意。リバイブにふさわしいイベントとなるよう企画を進めてきました。
イベントテーマは、「地域共生×挑戦」。伝統文化である盆踊りを、立場や世代を超えて楽しみ、体験できることを目指しています。さらに今回は、新たな挑戦として地元の学生とともに松坂屋名古屋店オリジナルの盆踊りを制作。会場ではその楽曲と振り付けを披露し、参加者みんなで踊りました。
オリジナル盆踊りの制作に協力したのは、地元の専門学校「名古屋ビジュアルアーツ」の学生たちです。POPバージョンとして「おいでまつざかや」、伝統バージョンとして「松坂屋音頭」の2種類を制作しました。どちらも作詞作曲は同スクールのサウンドクリエイターコースの学生が担当。POPバージョンの振り付けはダンサーコースの学生が、伝統バージョンの振り付けは日本舞踊西川流の家元・西川千雅氏が手がけました。
同スクールで今回のプロジェクトを指導した音響学科の服部幹生先生は、「学生たちが想像以上にセンスと技術を発揮してくれた」と、胸を張ります。
POPバージョンの楽曲を担当した学生は、「盆踊り唄は人と人との交流が生まれる『祭り』という場で聞く音楽なので、テーマのPOPを意識して楽しく踊れる曲を目指しました。」(サウンドクリエイターコース2年・清水乃彪さん(写真中央))、「実際に店に足を運んで、松坂屋名古屋店の面白いところ、楽しいところを歌詞に盛り込む工夫をしました。」(サウンドクリエイターコース2年・吉山響貴さん(写真右))。自分達が制作した楽曲でたくさんの人が踊っている様子を目にし、思わず笑顔に。
伝統バージョンの楽曲を担当した学生は、「伝統的な盆踊り唄を作ることに苦労しましたが、先生や松坂屋の方と相談しながらストーリー性のある楽曲に仕上げることができました。」(サウンドクリエイターコース2年・石田透依さん(写真左))と話してくれました。
楽曲を制作する中で、「伝統」について考えたり調べたり、今までにない経験をたくさんしたようです。
POPバージョンの振り付けは、ダンサーコースから選出された2名の学生によるもの。「『盆踊りらしさってなんだろう?』ということから考えはじめて、『みんなで楽しく踊れること』、『キャッチーで覚えやすい振り付け』を意識しました。私たちが考えた振り付けで皆さんが楽しそうに踊っているのを見て、あらためてダンスっていいなと感じたし、盆踊りについてもっと知りたいと思うようになりました。」(ダンサーコース2年・大浦杏美さん(写真右)、蟹七稀さん(写真左))
今回のプロジェクトは、学生たちにとっても地域参加の場、そして自分たちが手がけた作品を発表する場として貴重な体験となったようでした。初めはやや緊張していた学生たちも、子供からお年寄りまでたくさんの人が踊って笑顔になっている会場の様子を見て、徐々に笑顔が戻ってきました。知らない人同士が一緒に踊り多くの交流が生まれる、まさに伝統文化である「祭」の醍醐味がそこにありました。
会場を終始盛り上げていたのは、岐阜県美濃加茂市で活動する盆踊りサークル「舞童」のメンバー。「舞童」は、地元の盆踊り大会「おん祭MINOKAMO」を盛り上げる活動をしており、小学校で盆踊り講習会を開催するなど精力的に活動しています。今回は、岐阜の伝統的な盆踊りから「舞童」名物の「ダンシング・ヒーロー」の踊りまで、緩急さまざまな楽曲で踊りを先導してくれました。
お話をうかがったのは「舞童」の2代目代表を務めた今井一彦さんと、今井さんの後を継ぎ3代目代表となった鷲見圭祐さん。
「盆踊りは地域ごとにカラーがあるのが面白いところです。美濃加茂では、地元の盆踊り大会でもオリジナリティーを追求し、また幅広い世代に楽しんでもらえるようにPOPで現代的な楽曲を多く取り入れてきました。そんな中で、『ダンシング・ヒーロー』を踊っていることが注目され、テレビなどで取り上げてもらうようになったんです。」と、今井さん。
今井さんは「おん祭MINOKAMO」でも選曲を担当しており、今回のイベントでは「舞童」らしいプログラムを組み立ててくれました。
「ここ2年ほどは地元の祭りも中止となり、踊る機会を失っていましたので、今日このような機会に呼んでいただけてうれしく思います。名古屋とは少し違った盆踊りだったと思いますが、会場一体となって楽しむことができてよかったです。」と、鷲見さん。
「踊れなかった期間に体力が落ちてしまった」と笑う鷲見さんですが、そんなブランクを感じさせない「舞童」の熱い踊りに会場が沸きました。
今回の企画を担当したのは松坂屋名古屋店営業2部の佐藤彰紀。
「今回は3年ぶりということで、まずは安心安全に配慮しながら、当店にとっても地域にとっても意味のあるものとして盆踊りイベントを復活させることが最重要。さらに、過去2回と同様に地域共生をテーマにしながら、学生と一緒にオリジナルの盆踊りを作るという新しい挑戦も盛り込みました。
オリジナル盆踊りの制作をプロに依頼する案もありましたが、それだと私たちの思いをどこまで入れられるのか。地域の学生とともに作り上げることで、いいものができあがるのではないかと考えました。」
準備をスタートしたのは春。学生の思いと店の思いをすり合わせながら制作をすすめ、最終的にはお互いの意見がマッチして、思い描いていた以上の作品ができたといいます。
「今回の挑戦を次に生かしたいと考えていて、次はハロウィーンシーズンに向けて、子供フロアを会場にして行うイベントをまた学生と一緒に作り上げていこうと思っています。」
今回の制作の過程で、世代の違う若者たちの自由で柔軟なクリエイティビティに触れ、信頼関係ができあがっているようです。
Yukata Dancing nightは、さらに地域のイベントへと発展させたいと佐藤は語ります。
「ゆかたをお買いあげいただいたお客様に着る機会を提供するという主旨で始めたイベントでしたが、今は地域共生というのが第一のテーマになっています。そこに向かって、来年以降もバージョンアップさせていきたい。今はまだ人数制限などもあり、クローズドのイベントですが、いつかは名古屋・栄エリアの皆さんと一緒に輪になって、松坂屋名古屋店オリジナルの盆踊りを踊れる日がきたらいいなと思っています。」
「地域共生×挑戦」を掲げた今回のイベントは、まずは地元の若者との共同プロジェクトで、思いをひとつにできたそう。さらに多くの人とプロジェクトを共にし、一緒に踊りたい……。少しずつ輪を広げていく盆踊りは、世代や立場を超えた地域のイベントへとさらなる挑戦につながっていくようです。