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「北海道に魅せられた人たち」が紡ぐ「つながり」の輪

「北海道に魅せられた人たち」が紡ぐ「つながり」の輪

北海道中川町

    2022.08.23 (Tue)

    目次

    「作り手の顔が見えること」は、今どき買い物をするときの重要なポイントの一つです。さらに、その作り手の想いやストーリーを知ることができたなら、その商品は買い手にとってかけがえのない「体験」になることでしょう。松坂屋上野店で開催された「北海道に魅せられた人たち」展は、そんな商品の中に込められた想いやストーリーを直に感じることのできる貴重な機会でした。

    同イベントは、北海道の暮らしに惹かれて道外から移住した作家をはじめ、北海道内各地で活動する16のものづくり作家が生み出した作品を販売。実際に手に取って買い物できるだけでなく、ものづくりのワークショップなど作り手との交流も楽しめます。

    「私自身もそうでしたが、北海道といえば新鮮な魚介に名物料理…。それだけでも十分、この土地の魅力を感じることはできます。ただ、北海道の暮らしや文化に踏み込んだ別の魅力の側面は百貨店ではお伝えできていなかったと思うのです。」

    そう語るのは、本社催事企画スタッフの原亜美多(はらあみた)。今回のイベント企画を全面的に任され、出店者の選定や会場のディスプレイまでを総合プロデュースしています。

    イベントでは原自ら店頭に立ち北海道のものづくりの魅力を伝えていました

    「この企画で目指したのは、お客様に購入した商品を愛用して、北海道に愛着を持っていただくこと。そして、最終的にはお客様と北海道との間に『観光以上移住未満のつながり』を創ることです。そのための道筋としては、少しずつ手応えを感じ始めています。」(原)

    原が「つながり」を重視するように、同イベントでは商品を媒介にしてお客様と作り手が交流する機会がふんだんに演出されています。店頭に立つのは商品の作り手たち。商品の特徴だけでなく、その技法や工程も丁寧にお客様に語っていきます。中には実演する作家の手さばきをみることができるブースも。出展された商品のバリュエーションも多彩で、ガラス細工や定番の木彫りの熊を始め、食品や衣類などなど。開始当初に8万円超の手染めのワンピースが即座に売れるなど、集まったお客様も商品の価値に共感し、作り手の熱心な話に耳を傾けている様子でした。

    • 一二三草堂・金井さん・一二三草堂の理念に共感する仲間でイベントの際は応援に駆けつけるそう

    • 一二三草堂・潮麦を使った「潮麦ラテ」や「おやつミックス」など

    • 北海道中川町・アウトドアアクティビティガイド・野中豪さん

    • 野中さんによる、フライ(毛針)制作の実演販売。熊の毛などを使う

    • 幸愛硝子(ゆきえがらす)・「ジュエルグラス・トライアングル」など

    • 遊木民・店長川口直人さんの作品のほか人気熊彫り作家の作品が並ぶ

    魅せられたのは「おおらかで温かい北海道の暮らし」

    今回のイベントの始まりは中川町の髙橋さんとの出会いでした。髙橋さんは、地元の作家の販売支援や技術支援のほか、町外のネットワークも持ち、沢山の作り手たちのPRを行っている地元のキーマンです。

    「髙橋さんとの出会いは、まさに『つながり』だったんです。当初別の方に相談をしていたのですが、その方が私の想いを丁寧に聞いてくださった上で、『この人なら…』ということで髙橋さんを紹介してくれたんです。すぐにメールで想いを語って、中川町におうかがいしました。」(原)

    催事企画開発担当の原

    2021年の5月頃、原は髙橋さんと面談。髙橋さんは、当時の様子をこう振り返ります。

    「率直に言って、とてもうれしかったんです。大丸・松坂屋さんのようなメジャーな百貨店からお声がけいただくということもありましたが、それよりも、原さんのイベントのコンセプトに共感する部分がとても多くて。」(髙橋さん)

    北海道中川町・産業振興室・室長の髙橋さん

    髙橋さんは中川町の職員となってから、ほとんどの時間を森林の管理や木材生産など森林に関わって過ごしてきました。当時、日本も世界も森林資源や木材を量的に生産する方向にシフトしていて、現場では粗雑で粗放な木材管理・生産の実態がありました。とても「自然との共生」とはいえない状況の中で、「中川町はそこに与しない」という想いを強くしたそうです。

    そこで、森にある資源を最大限価値化するために、木の樹皮や樹液、根や葉に至るまであらゆる資源をアート&クラフト作品として生み出し、販売することを考えました。それから、作家探しや育成に奔走する日々を過ごします。最近では北海道で最も大きなアート&クラフトイベントである「北から暮らしの工芸祭」の実行委員をつとめ、工芸品だけでなく様々なジャンルの作家や生産者たちの輪が生まれ、「つながり」は道内全域に広がっていきました。

    「北海道は、材料が豊富にあるけど産地としての集積が弱いとか、伝統工芸的な技術の蓄積が本州に比べると不足しているという不利な条件もあります。一方で、土地の歴史が浅い分、生活様式を早くから洋化していることもあって、実用性の高い商品が多いんです。それが北海道のものづくりの特徴だと思っています。」(髙橋さん)

    髙橋さんと原

    伝統を活かしながらも、北海道の大自然や暮らしの中で創意工夫がなされる商品。まさに、原が思っていた北海道のものづくりの魅力が髙橋さんからも語られ、出会いからトントン拍子にイベントの準備が進んでいきました。

    移住者の作家が見いだす北海道の暮らしの本質

    このイベントのもう一つの特徴はタイトルにもある「北海道に魅せられた人たち」。作り手は、生まれも育ちも北海道というわけではなく、むしろ大半の作家は移住者だそう。このタイトルに込めた想いを原はこう語ります。

    「北海道に住んでみると感じられる、ゆっくりとした時間や穏やかな人間関係は、外から来た人こそ引き込まれる魅力なのかなと思います。そんな北海道の暮らしに魅せられた人たちが創る商品には独特の雰囲気があるんですね。」(原)

    道外からやってきた職人たちが客観的に感じた北海道の魅力。その感性が宿って商品になることで、内部からは見えにくい価値が見えてくることもあります。出展された手仕事の商品を手に取るお客様も、その背景にある北海道の自然や暮らしまで感じているかのようです。

    移住者を惹きつけ、東京のお客様をも魅了するその商品の魅力は、具体的に言えば「自由」と「自然美」なのだそう。

    幸恵硝子(ゆきえがらす)・ジュエルディッシュ

    坂本友希さんの布作品

    「伝統工芸的なアプローチがしにくいからこそ、北欧的といいますか、自由で自然美のあるデザインが多いのですが、それはまさに北海道の暮らしそのもののように思っています。」(髙橋さん)

    北海道に魅せられた人たちの「つながり」はこれからも続く

    中川町で職人の支援を続ける髙橋さんは、今回のイベントを経てさらにその先の「つながり」も感じているといいます。

    「中川町として、移住やワーケーションを含めた誘客や誘致しているんですけど、今回の取り組みを移住候補者にも見ていただくんですよ。そうすると、『北海道のすごい辺鄙なところに行っても都市とのつながりが残せるんだ』とか『東京で商売しているなんてすごいよね』というポジティブな意見をいただいています。そういう意味で今回のイベントは売り買いをこえて、地域を育てていただいているなという実感があります。」(髙橋さん)

    北海道に魅せられた人たちのつながりがイベントを創り出し、さらに作り手とお客様の末永いつながりを生む。そんな「つながりの輪」がこれからも広がっていく様子を見届けていきたいですね。

    北海道に魅せられた人たちは今冬 松坂屋名古屋店、松坂屋上野店で開催予定です。