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【イベントレポート】“みずもの”がつなぐ、人と文化。京都の今を映す「京都大茶会」

【イベントレポート】“みずもの”がつなぐ、人と文化。京都の今を映す「京都大茶会」

京都府京都市

    2022.11.29 (Tue)

    目次

      京都一敷居の低い(!?)茶会

      「結構なお点前で…ほほほ」なんてゆかしい作法も必要なし、大御所の家元も名作の茶釜も登場せず。そんな“茶会”が京都・烏丸(からすま)を中心としたエリアで定期的に開かれています。大丸京都店が2019年にスタートした「KARASUMA大茶会」。お茶をテーマにしたメニューの提供やワークショップなどを行うカジュアルなイベントで、今年は10月26日(水)→11月8日(火)に開催。その中でも今回初の試みとなった、竹間(ちっかん)公園を舞台としたスペシャルイベントをレポートします。

      「KARASUMA大茶会」は、お茶を通じて烏丸周辺を活性化させる目的で開かれており、今回で6回目となります。

      今年は市の公園でも開催

      通常は大丸京都店の8階屋上で屋台喫茶やワークショップなどを行っていましたが、今年は初めて、京都市が2021年からスタートした「おそとチャレンジ(公民連携公園活用トライアル事業)」の一環でイベントを開催。「おそとチャレンジ」とはより柔軟に公園を民間企業や市民に活用してもらい、公園の理想像を探るプロジェクトです。すでに桂坂公園でのマルシェや宝が池公園でのウエディングといったイベントが実験的に実施されています。

      百貨店が市の公園でイベントとは驚く人も多いですが、実は「大茶会」は、大丸京都店が2018年から始めた社会貢献事業「KKP(古都ごとく京都プロジェクト)」の一環。京都発祥の百貨店という自負のもと、京都の伝統や文化を守り伝えながら地域を盛り上げることを目指しています。今回は大丸京都店が「より生活に根差した場所で地域とつながりたい」と「おそとチャレンジ」に手を挙げ、京都御苑の南にある竹間公園をサテライト会場としたイベントが実現しました。

      「百貨店というとよそ行きの恰好でお出かけ、というイメージですが、公園なら生活の延長上。気軽に寄って休日の思い出づくりをしていただければ」と大丸京都店の広報担当。また、「おそとチャレンジ」に携わる京都市の葉山和則さん(写真)は、「公園は禁止事項が多く、何をやって良いか分からない方もいらっしゃいます。今回のイベントを通じて、大丸さんをはじめとしたさまざまな社会貢献事業者と来園者や地域の方々がより近い距離でつながったことで、管理一辺倒の公園から今後どうすれば多様な方々が“共創”を生む公園にしていけるかのヒントが得られそうです」と話していました。

      お茶、コーヒー。“みずもの”には人をつなぐ力がある

      竹間公園でのスペシャルイベントは10月29・30日の両日行われ、約20のブースが出展しました。「福寿園」では日本茶インストラクターの手ほどきで、自分でほうじ茶を煎ってラテを作る「自家製ほうじ茶体験」を有料(500円)で実施。スタッフの矢野杏奈さんは「当店の高級な玉露を使っているので、この価格はかなりお得です」とこっそり明かしていました。市内外から訪れた女性3人組は、「焙じている時の香りに癒されました」「普段飲んでいるものより丸い味わいで、甘い!」と煎りたてのほうじ茶に感動していました。

      他にも、玉子サンドで有名な「喫茶マドラグ」、大学生を主体とする「京都カフェ パピヨン」なども出店。初回から参加している「Coffee Base KANONDO」の牧野広志さん(写真)は京都のコーヒーシーンの牽引役であり、梨木神社の「染井の水」を存続させることを目的に境内にカフェもオープン。自らを「地域系コーヒー屋」と称し、「どんな小さなイベントでも呼ばれたらどこでも行きます。梨木神社もそうであるように、コーヒーは人を集めることができ、地域を盛り上げるツールにもなるもの」と語ります。

      この日も染井の水を持参し、豆から挽いてその場で淹れるドリップコーヒーを提供。どこにも染井の水と書いていませんね…と突っ込むと「あ、忘れてた!どこかにアピールしておけばよかった」と照れ笑いしていました。

      レモネードから激苦茶まで、モバイル屋台も出陣

      会場には、今話題の「モバイル屋台」も登場。社会福祉士の橋本千恵さんが発起人を務める屋台集団で、現在25人の“屋台家”が個々の得意なことや趣味を形にした屋台で活動しています。今回は、「チャリティーレモネードスタンド」「中国茶ISO」「ぶんぶんごまと風車を作ろう」といった個性豊かな11のモバイル屋台が出陣。橋本さんはというと、中京区役所の屋上で育てたホップでお茶を淹れ、「苦くてまずいですよ~」と斬新な呼び込みで激苦ホップ茶を振る舞っていました。

      橋本さん(写真)のホップ栽培の目的は、若い人とお年寄りの交流のきっかけを作ること。来年には自家製ホップを使ったクラフトビールの完成を目指しているのだそうです。「屋台は、相手とちょうど良い距離でコミュニケーションが図れる発表の場だと思います。こうしたイベントに出ることで、地域の住民同士がハードル低くつながることができます。」と話していました。

      DJによる、世界一平和なライブ!

      イベントのトリとなったのは東京オリンピック開会式の音楽監督も担当した「ファンタスティック・プラスチック・マシーン」のDJ田中知之さん(写真)によるライブ! 普段なら大規模な会場で、お酒片手の若者を前にターンテーブルを回す田中さん。しかしこの日は公園に設けられた簡易DJブースに、木のベンチに腰かけるお年寄りや子供たちが観客、というボーダーレスすぎる野外フェス。知らない人は「何が始まるんやろ」と興味津々…。

      それでも「上を向いて歩こう」や、グレイス・ジョーンズの「ラ・ヴィ・アン・ローズ」などのカバー曲が流れると、リズムを取ったり、手を叩いたりと次第にノリノリに。終盤は、噂を聞いて駆け付けたファンも交えて手拍子の大ステージとなりました。みんなの手にはビールではなくお茶やコーヒー、隣の滑り台では子どもたちの歓声。世界を股にかけて活躍する田中さんの、こんな健全で平和的なライブはまたとないことでしょう。

      終わると子供たちが田中さんに駆け寄り、「公園で音楽が流れていて、気持ちよかった」とハイタッチ。90歳の女性たちは「生き返ったわあ、元気もらえた」「こんな音楽なかなか聴ける機会がないし嬉しかったわあ」などと言いながら、イキイキした表情で帰って行きました。

      京都出身の田中さん、おそらく人生で一番小規模だった今日のライブの感想は…? との問いに、「いろんな修羅場をくぐり抜けてきたけど、今日が一番緊張しました(笑)。でも観客が多かろうと少なかろうと全部同じ。こういう思いがけない素敵な現場に巡り合うことがあるから、私はDJをやっているんだなと思います」と達成感に満ちた表情を見せてくれました。

      “みずもの”は人と人をつなぎ文化を発展させる京都のアイデンティティ

      お茶、コーヒー、屋台、DJ。普段なら交差することのないジャンル同士が、このイベントを通じて交わり、心に灯りを点す。そう言えば、千利休が示した「四規七則」の中に、「お互いに敬い合う」「心にゆとりを持つ」「互いに尊重し合う」という心得があります。茶席とは、出会いを大切にし、誰かと過ごせる時間に感謝すること。その意味でこの「大茶会」は、“みずもの”が人と人をつなぎ文化を発展させるものであることを再認識できる、「茶の湯」の新時代を築くイベント。老舗から現在注目のショップまで、まさに京都の今を映すコミュニティーといえそうです。