静岡県静岡市
2023.03.28 (Tue)
目次
首都圏にも中京圏にも近く、自然豊かな地域性を生かしたバラエティーに富む産業がある静岡県。その地にある松坂屋静岡店では、県内事業者の新たな挑戦を地域一体で応援する「しずおかMIRUIプロジェクト」を手がけています。
今回は、このプロジェクトに参加してネオンアートを広める挑戦を続ける、株式会社アオイネオンの荻野隆(おぎの たかし)さんとネオン職人の横山幸宜(よこやま ゆきのぶ)さん、松坂屋静岡店 販売企画担当 木庭英之(こば ひでゆき)の3人が集まりました。
「しずおかMIRUIプロジェクト」は、松坂屋静岡店、静岡パルコ、そして静岡新聞SBSの3社合同で、静岡県内事業者の新たな挑戦を応援しています。どういうものかご説明しましょう。
ところで、「MIRUI(みるい)」とはどのような意味かご存知でしょうか? 実は「みるい」とは静岡弁で、新茶に使う新芽の柔らかくみずみずしい状態のことなんです。そこから「若い」「未熟な」という意味で使われています。
そして、MIRUIの「U」を逆さにすると、「MIRAI(未来)」にも見えます。現時点ではまだ「みるい」かもしれませんが、がんばっている事業者に未来へとつながる一歩を踏み出してほしい──。しずおかMIRUIプロジェクトという名称には、そういった熱い思いが込められています。
「社会構造が変化するなかで、いま『地域との共生』が大きなテーマとなっています。さまざまな人々が分野を超えてつながり、地域を盛りあげていかなければなりません。そこで『静岡県のがんばっている事業者を知ってもらう手助けをしよう』と立ちあがったのが、松坂屋静岡店、静岡パルコ、静岡新聞SBSの3社でした。」
プロジェクト誕生の背景について、松坂屋静岡店の担当者である木庭はこう話します。
いずれも静岡県に根差した企業ですが、それぞれの役割は異なります。静岡パルコはクラウドファンディング「BOOSTER」による資金調達、静岡新聞SBSは自社メディアを使った情報発信、そして松坂屋静岡店は、ポップアップショップでのPRや店頭告知など、駅前のリアル店舗という立地を活用して参加する事業者を応援します。
応援する事業者の挑戦には、3つの選定基準があるといいます。1つめは静岡県をおもしろくする個性をもつ事業者であること。2つめは地域産品であること。3つめが歴史や伝統を後世につなぐこと。
木庭「これまで30件の参加がありましたが、そのうち28件で目標を達成するなど、非常に高い目標達成率となっています。静岡県内で知名度の高い企業がリアル店舗やメディアで事業者の挑戦を多角的にアピールすることができますので、そうした選択肢の多さが支持されている理由だと思います。」
この選定基準のうち「静岡県をおもしろくする個性をもつ事業者」「歴史や伝統を後世につなぐ」という観点から選ばれたのがアオイネオンです。「本物の『ネオン』を『アート』として残したい」という思いを実現するためにプロジェクトに応募。クラウドファンディングを通じて活動資金を集め、2020年12月から約1カ月間、松坂屋静岡店で「大ネオン展」を開催しました。
もっとも、アオイネオンは1951年に静岡市で創業された屋外看板設計・施工の老舗企業ですから、けっして「みるい」事業者というわけではありません。渋谷「109」のロゴや銀座の数寄屋橋にある不二家の屋上看板もアオイネオンが手がけたものでした。
その老舗企業がなぜチャレンジャーを応援するプロジェクトに応募したのか──。ここからはアオイネオンでCSR統括マネージャーをつとめる荻野さん、ネオンマイスターの横山さんに話を聞いていきましょう。
木庭「アオイネオンさんはCSR(企業の社会的責任)に力を入れていて、社会貢献活動にネオンを役立てる取り組みを行っています。私が荻野さんと知り合ったのもそうした活動を通じてのことでした。でも、昭和の時代は都市を彩る大看板の象徴だったネオンも、いまではLEDに置き換わっているそうですね。」
荻野さん「弊社でも、製作する看板の98%はLEDになっています。10年ほど前まで社内に5人いたネオン職人は、いまや横山1人になってしまった。おそらく、ネオン職人は国内に50人程度しかいないと思います。」
LEDが主流になっていくなかで、再びネオンの価値創出に取り組むことになったのには、とあるきっかけがあったのだとか。
荻野さん「あるとき、社外の方から『ネオンづくりの技術を文化として捉え、産業からアートへ転換できる可能性がある』と言われたんです。ネオンがもっている価値や可能性にあらためて気づかされ、そこから自分自身でもネオンに関する知識をイチから学び直しました。」
木庭「私もアオイネオンさんでネオンづくりの現場を見学させていただきましたが、たしかに横山さんの技術は文化だと思います。ガラス工芸の職人に通じるものがありますよね。」
ネオンアートは、ガラス管を800度のガスバーナーで温め、息を吹き込みながら曲げることで、一筆書きのような表現をするもの。さらにネオンマイスターの横山さんは、二次元の図面を見て三次元に仕上げていくという特殊な技術を持っているのだそう。
横山さん「曲げるだけなら5年で習得できます。でも、ガラス管を曲げて文字にしたり形にしたり、作品として仕上げられるようになるには、やっぱり10年以上は必要になると思います。」
木庭「だからこそ、このネオンづくりという技術を後世につなぐためにも、MIRUIプロジェクトを通じて多くの人に『本物のネオン』の価値を知ってもらおうと考えたわけですね。」
荻野さん「祖業であるネオンとそれを生み出す技術を未来へとつなぐことは私たちの使命です。本物のネオンを産業からアートへと再生させ、次の世代にネオンの魅力や技術が残るような市場を創出したいと思っています。」
クラウドファンディングは成功し、松坂屋静岡店で開催した「大ネオン展」は大きな反響を呼びました。約6年前にネオンアート活動に取り組み始めて以降、著名アーティストのMVに登場するなどエンターテインメント業界で注目を集めていたのですが、大ネオン展をきっかけに昔のネオンを知らない若い世代にもファンが増えたそうです。
「大ネオン展を通じて、ネオンそのもののファンになっていただき、いまでは弊社が製作したネオンを必ず見に来てくださる追っかけのファンも増えています。」と、顔をほころばせながら荻野さんは言います。
さらには、2023年1月に放送されたNHK「沼にハマってきいてみた」では、ネオンアートが特集され、アオイネオンの作品が番組全体を通して大きく取りあげられています。
荻野さんは、MIRUIプロジェクトについてこう振り返ります。
「クラウドファンディングは資金集めの手段ですから、最初は心理的に抵抗がありました。でも、木庭さんからお話を聞くと、MIRUIプロジェクトは資金集めというより、店舗やメディアを使ったPRに軸足を置いているということが分かった。その効果は想像以上に大きなものでした。私たちはBtoBの製造業ですからPRが得意ではなかったんですが、プロジェクトのおかげでネオンアートを多くの人に知っていただくことができました。」
もともとネオンはギリシャ語で「新しい」を意味するそうです。中高年にとっては懐かしく、若い世代にとっては新しいネオン─。MIRUIプロジェクトをきっかけに、今後はさまざまなシーンでネオンを目にする機会が増えていきそうです。
もちろん、MIRUIプロジェクトが求めているのは文化と呼べる技術をもった老舗企業だけではありません。「みるい」という言葉が示すとおり、若くて未熟な、個人の事業主も大歓迎です。
木庭はMIRUIプロジェクトについてあらためてこう話します。
「静岡県は産業のデパートとも呼ばれており、多彩な産業集積が見られるコンテンツの宝庫です。私自身、プロジェクトを通じて『まだこんな事業者があったのか!』という新しい発見を楽しみにしています。参加者は随時募集していますので、ワクワクするような挑戦をお待ちしています。」
しずおかMIRUIプロジェクト
誰だって、最初はみるい(静岡弁で「未熟、若い」)。そんな静岡県内事業者の新たな挑戦や困りごと解決を、クラウドファンディング「BOOSTER」、静岡に密着した百貨店「松坂屋静岡店」、ファッションビル「静岡パルコ」、静岡に根ざしたメディア「静岡新聞」SBSが一体となって応援するプロジェクト。合言葉は「みるい(MIRUI)を、みらい(MIRAI)へ。」
公式サイト(外部サイトに移動します)
https://camp-fire.jp/channels/shizuoka-mirui?page=2