大阪府
2025.05.02 (Fri)
目次
大丸松坂屋百貨店は、大阪・関西万博にオフィシャルストアを出店しています。大丸と松坂屋が江戸時代に創業したことから、「元禄時代の大店(おおたな)/EXPO2025 Ver.」をコンセプトに掲げ、百貨店のノウハウを活かしたオリジナル商品も展開。また、風神・雷神をモチーフにしたねぶたや提灯ウォールなど、日本の美意識と伝統を表現した店内のデザインにも注目です。内装を手掛けたVMD担当の寺井孝夫と、万博オフィシャルストア店長の大濵が、空間としての見どころや、大阪・関西万博オリジナルの商品開発にかける想いを語ります。
大阪・関西万博では会場内に4つのオフィシャルストアが出店し、各事業者のオリジナル商品をはじめとした、公式ライセンス商品を販売しています。そのひとつが東ゲートマーケットプレイスにある、大丸松坂屋百貨店です。ストアのテーマ「元禄時代の大店/EXPO2025 Ver.」は、この時代に日本の伝統や文化が大衆に浸透し、上方から全国へ広がったことへのオマージュ。ストアの内装も商品ラインナップも大阪・関西万博の会場内ストアオリジナルで、チーム一丸となって“全国のどこにもない大丸松坂屋らしいお店”を作りあげました。
歌舞伎の「隈取」を施した力士が入り口で迎える
ストアの内装責任者となったのは、ブランディング戦略室長 兼 営業本部 営業企画部 部長VMD担当の寺井孝夫。1988年にディスプレイ部門として入社し、2022年から現職となり本社で勤務していますが、これまで「売場を作ること」を主体に、ショーウィンドウの空間演出や改装時のストアデザインなどを手掛けてきました。
大丸心斎橋店の建築に憧れて入社したという寺井(左)
大阪・関西万博への出店は、新たなハコに一から店舗を作るという意味で、「実に久しぶりの現場」になったと寺井は明かします。
「今回手伝ってくれたのは、普段から僕のもとで動いてくれている優秀なスタッフたちです。普段は自分たちで売場を作り上げる機会があまりないので、大変良いスタディの場になりました。僕の持っているバトンを渡せるチャンスでもあり、商品開発のチームと協働できる貴重な経験になったと思う。売場を作るのは本当に楽しいし、つらい。けれどやっぱり、楽しい。」と爽やかに笑います。
提灯には店内で扱っている商品の種類がひらがなで書かれている
「元禄時代…」のコンセプトも寺井の提案でした。日本の美や伝統を表現するというテーマで、根底にあるのは「廃棄をしない」という意識。それは寺井の好きな言葉である禅の教え「吾唯足知(われただたるをしる)」に通ずるものです。与えられた環境を、いかに変えず、素のまま活かすか。建物はあらかじめ用意されたものですが、中に入れる装飾や什器などは、「買わず・作らず・捨てず」をモットーに、有るものを出来る限り活かして調えられました。
床や壁にもほぼ手を加えておらず、バックヤードと売場を隔てる仕切りは簡素なトタン素材。キャッシャー台の後ろの壁に飾られた般若とおかめの能面も、未使用のまま約20年倉庫に眠っていたオブジェを活用。スチールの棚なども「会社で捨てられそうになっていたものをかき集めた」そう。商品を陳列している和箪笥や、レトロな机や椅子なども、全て骨董店で見つけてきたヴィンテージ家具です。
「古くてボロボロのものばかりでした(笑)。でもそれを磨いたり、直したりして、新たに再生させて作り上げたこの空間こそが、今の時代の豊かさ・美しさの象徴だと僕は思っています。古いだけでは進化がない。そこに新しい要素を掛け合わせて何かが生まれるんですが、その要素というのが環境への配慮だったり、サステナブルの考えだったりするわけです。当社のような老舗企業は、古い伝統に支えられていますが、古いだけでは止まってしまう。新しい視点を足して、次の時代へ繋げていく。だから元禄時代の“2025 Ver.”ということです。」
寺井にとってのハイライトは、天井から見下ろす風神・雷神のねぶた装飾。CCF(一般社団法人 サーキュラー コットン ファクトリー)代表理事の渡邊智惠子さんにプロデュースを依頼し、日本屈指の女性ねぶた師・青森の北川麻子さんに制作してもらった『廃棄素材で作られた和紙』を使用したオリジナル作品です。「風神・雷神というモチーフも、歴史の中で様々な作家が描いてきた自然への敬意の象徴。再生紙を使っている点でも、時代の進化や変化を表すシンボルとして、この空間にマッチしているかなと。」
日本の伝統と美を表現した空間ではありますが、「和」に振り過ぎないことを寺井は意識していると強調します。
「全部『和』だとダサくなっちゃう(笑)。だから大阪らしい遊び心やユーモアを取り入れました。店内にはアイコン的に提灯が随所に飾られていますが、これには関西弁が書かれています。僕自身も京都出身なのですが、僕より関西在住歴が長い大濵君からアイデアをもらいました。ね、大濵君」と、急遽話を振られた大濵に、ここからのトークはバトンタッチ。
関西出身でもともと長らく大丸神戸店に勤めていた大濵は、会場内オフィシャルストアプロジェクトの公募に応募し、念願叶って任命を受けた志願メンバー。
「神戸店では場所柄、洋菓子などのシェフ・作り手達と『日本のいいもの』を世界の方々にどう伝えられるかということに焦点を当てて、環境づくりから商品開発、オペレーションの部分まで、全てに関わらせていただきました。」
店内には、お菓子、アパレル、コスメ、ぬいぐるみ、雑貨などのカテゴリーに分かれ、約2300種もの商品が陳列。他の事業者でも販売される商品と大丸松坂屋オリジナル商品が混交してディスプレイされていますが、中でも力を入れたのは2カ所のギャラリースペースです。
入り口付近には、トラディショナル(伝統)をテーマとした「ギャラリー01」、中央付近にはコンテンポラリー(現代)をテーマとした「ギャラリー02」があり、それぞれ日本の伝統工芸職人や、関西の現代アート作家とコラボした作品を展示販売しています。
「ギャラリー01」の目玉は、博多人形《いのち輝く コブラツイスト》。福岡の博多人形作家・中村弘峰氏がミャクミャクを表現したユニークな作品です。他にも金箔工芸の「箔一」や、漆器の老舗「山田平安堂」など日本の伝統工芸ブランドや作家が、ミャクミャクや公式ロゴマークをあしらったオリジナル商品をコラボで制作しました。これらが時代ものの和箪笥や棚の上にディスプレイされ、日本の古民家のような空間に演出されています。
一方、「ギャラリー02」では関西出身の若手現代アーティストとのコラボ作品を展開。『occhan』で知られる神戸出身の造形作家・堀川由梨佳さんと、大阪出身のイラストレーターのHimeさんが、ミャクミャクをモチーフにしたオリジナルのオブジェや原画から、和紙糸を使ったTシャツなど手が届く価格の商品まで制作しました。
「この二人は大丸心斎橋店などでも展覧会を開いた新進気鋭の作家。まさにこれまでの百貨店としての繋がりから実現できたコラボレーションといえます」と大濵。
コラボ商品は、アート以外にも、お菓子、雑貨、日用品まで多岐にわたっています。京都の「マールブランシュ」や「神戸風月堂」といった地元ブランドに加え、外国人にも人気の「森永ハイチュウ」なども、オリジナルパッケージの大阪・関西万博限定品が登場。さらに、店内にはカプセルトイも設置され、「海洋堂」のミャクミャクフィギュアや、ヘアゴム、キーホルダーなど14種のオリジナルグッズが入っています。
大丸松坂屋百貨店が掲げているのは、「価値共創リテーラー」として、お客様と一緒に感動を生み出す「感動共創」、地域とともに栄える「地域共栄」、環境課題に取り組む「環境共生」の3つの価値。まさに今回の大阪・関西万博への出店は、国境を超えた「価値共創」であり、日本という地域の魅力を世界へ向けて発信する、グローバルな視点を持った「地域共栄」への大きな一歩といえるでしょう。
しかし、インバウンドで海外からのお客様が店舗にも増えているとはいえ、日本の老舗百貨店という看板を背負っての大阪・関西万博出店には、並々ならぬプレッシャーがあったのでは。そう問うと大濵は、「普段やっていることと、根本は一緒なのかなと思いました」とのこと。
「確かに店長という立場で関わらせていただきましたが、このプロジェクトのために、商品に関わるMDチーム、オペレーションを考えるチーム、環境デザインを考えるチーム、クリエイター、デザイナー……と店舗の垣根を超えたメンバーが集まり、やはり目指したのは『お客様にどう喜んでもらえるか』ということ。そこに自分達らしさ、地域(日本)の良さを落とし込んで完成したのがこのストアです。僕たちが百貨店として今するべきことを形にした。結果としてそれが、“Think LOCAL”に繋がったといえます。」
元禄時代からの文化、美術、大衆芸能をユーモラスに表現した店内は、まるでそのものがアート施設のよう。アイテムも、普段店舗では手に入らない作家とのコラボ作品や、大阪・関西万博会場内オフィシャルストア限定商品などが多数用意されています。これまでの歴史の中で築いてきたノウハウや地域とのコネクション、技術とマンパワーを集積した、もうひとつの大丸松坂屋百貨店。これからの新時代に向け、「日本の良いモノ」を世界へ発信する拠点となり、ヒントを得る場にもなりそうです。
入り口に掲げられた大暖簾は、和紙を裁断して糸にした「和紙糸」で作られている