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東京とは、編集である。大丸東京店「明日見世」に見る都市の本質。

東京とは、編集である。大丸東京店「明日見世」に見る都市の本質。

東京都千代田区

    2026.01.29 (Thu)

    目次

      東京駅・八重洲北口直結の大丸東京店。全国から人が集まり、日々無数の移動が交差するこの場所の9階に、少し風変わりなスペースがあります。日本全国のプロダクトを“売る”のではなく、“魅せる”ことに重点を置いた“明日見世”です。東京という都市が持つ流動性や多様性を、日本全国の魅力を“編集する”という価値へと転換するこのスペース。本記事では、明日見世のプロジェクトマネージャー・和田房恵の言葉を手がかりに、この場所が映し出す東京の姿を読み解いていきます。

      “買う”から“出会う”へ。明日見世という発想

      百貨店といえば、完成された商品が整然と並ぶ場所というイメージが一般的です。しかし明日見世では、あえて従来の売場の文法から距離を置いています。期間限定で入れ替わるブランド、背景や思想を丁寧に伝える展示、つくり手の声が可視化された空間設計。そこにあるのは、購入を促す“売場”というよりも、発見や共感を生むための“入口”としての役割です。

      3カ月ごとに切り替わる展示のダイジェストともいえる店舗入口のスペース。

      この構想の背景には、百貨店が長年担ってきた役割そのものへの問いがありました。大量消費の時代を経て、今求められているのは“何を買うか”ではなく、“なぜそれを選ぶのか”です。明日見世は、その判断に至る前段階に立ち、“価値と出会う瞬間をつくるための場”として設計されています。明日見世のプロジェクトマネージャーである和田は、その成り立ちについて、こう語ります。

      明日見世のプロジェクトマネージャーを務めている和田房恵。

      「全国に店舗を展開している大丸・松坂屋ですが、バイヤーや各店舗が知っている、その地域ならではの魅力は私たちの大きな財産です。それらを地域の中だけに留めず、広く伝えていくことで、素敵な出会いや価値が循環していくのではないか。そうした発想が、明日見世の原点でした。たくさんの出会いから生まれるケミストリーを創造し、新しい未来をつくっていく。それこそが、明日見世のコンセプト『であい めぐる みらい』に込められた想いなのです。」

      東京駅という“入口”に存在する意味

      明日見世のある大丸東京店の立地は、きわめて象徴的です。東京駅直結で、そこを行き交うのは、観光客や出張者、通勤途中のビジネスパーソン、そして日常的にこの街を利用する人々です。全国各地、さらには海外からも多様な人が集い、交差していきます。

      大丸東京店は東京駅に直結しており、八重洲口の北側に立地する。

      明日見世が紹介しているのは、東京のコンテンツに限りません。日本全国の各地域で育まれてきたブランドやプロダクトを広く集め、ここ東京で紹介しています。全国から人が集まる東京だからこそ、日本各地の魅力を一度受け止め、編集し直す。その役割を、この場所に担わせたのです。

      ディスプレイが引き立つように整然とアイテムが並ぶ店内は、まさに“編集”された空間。

      和田は、東京を“目的地”であると同時に、“通過点”でもある都市だと捉えています。地方から東京へ、東京から各地へと人や情報が行き交うこの場所で、日本全国のものづくりや価値観を提示すること。それは、東京を起点に新たな出会いや関係性を生み出す試みでもあります。

      展示スペースは3カ所に点在し、こちらは視認性が高く、インパクトも大きい、9Fエスカレーター前のスペース。

      東京という交差点で日本全国の魅力を集め、編み直し、次の行き先へと手渡していく。そのための“入口”として、明日見世は機能しているのです。明日見世は大丸東京店の9階に位置しています。その事実もまた、明日見世にとって重要な要素であると、和田は言います。

      同じようなカテゴリーのブランドを並列展開することで、来店顧客との深く長い接客を試みているのだとか。

      「2024年9月のリニューアル時に9階にオープンした明日見世ですが、2021年に検証も兼ねてスタートさせた際は、実は4階の婦人服フロアにありました。移動した理由は、いらしてくださるお客様に、よりゆっくりとした時間を過ごしていただきたかったからです。行き交うお客様の数が多い4階も魅力的でしたが、9階に移動したことは、結果的にとてもよかったと考えています。」

      選び、そして編集する

      明日見世で展示・販売されるブランドは、約3カ月に一度入れ替わり、各シーズンのテーマに沿っておよそ20~25ブランドが紹介されます。その選定基準は、大きく3つあります。1つは「ソーシャルグッド」であること。アップサイクルをはじめ、社会の持続可能性に目を向けた取り組みがなされているかどうかが重視されます。

      「PostCoffee KIOSK」で取り扱っている世界各地のロースターの味を自宅でも楽しめるドリップバッグシリーズ。ローカルコーヒーに焦点を当てて社会全体を豊かにしようとする姿勢に注目が集まる。

      2つ目は「エッセンシャルビューティ」。直接的な美だけでなく、プロダクトが持つ機能美や伝統美、デザイン美も含まれます。

      東京・町屋発の「Soji」。まち工場の熟練の職人たちによる繊細なものづくりが特徴的。卵を“面で混ぜる”というよりも“線で切る”ことにより滑らかな食感を実現する「ときここち」が人気のアイテム。

      そして3つ目が「ブレーキングステレオタイプ」。これまで社会に根づいてきたさまざまな“あたりまえ”をポジティブに問い直し、新たな価値を生み出しているかどうかです。

      健やかな素肌印象を叶えてくれる色づき美容液が人気の「IROIKU」は、男女兼用で使える。

      また、売上規模や知名度よりも、その背景にある思想や姿勢が重視されている点も、明日見世の大きな特徴と言えるでしょう。素材への向き合い方、ものづくりのプロセス、社会や暮らしとの関係性。そうした文脈を丁寧にすくい上げ、訪れた人々にまだ見ぬ「であい」を届けることこそが、明日見世の目指す姿なのです。

      「3カ月に1度のブランドの入れ替えの際は、商品提供による実体験の他、個々での深いリサーチもしています。」(和田)

      「それぞれのブランドを、どうすればお客様に深く理解していただけるのか。スタッフ全員が、常にそこを考えています。そのために、ブランドに関するインプットも徹底して行っています。せっかく足を運んでくださったお客様と、私たちが紹介したいブランドの架け橋になれたらと思っています」(和田)

      インスタレーションとカフェがつくる“滞在の時間”

      明日見世の魅力は、ブランドやプロダクトの展示・販売だけにとどまりません。各シーズンのテーマに沿って、インスタレーション(アート)が展示されている点も、この場所を特別な存在にしています。

      シーズンテーマに合わせて、さまざまなジャンルのアーティストに依頼して創ってもらうインスタレーションも展示される。

      ものづくりの背景や思想を、視覚的かつ空間的に体感できるインスタレーションは、売場という枠を超え、訪れる人の感性に直接語りかけてきます。プロダクトとアートが響き合うことで、テーマへの理解はより立体的なものになります。

      世界のロースターのスペシャルティコーヒーを日替わりで楽しめる「PostCoffee KIOSK」。ハンドドリップコーヒー、エスプレッソドリンクの他、フードメニューも提供。

      さらに、明日見世にはカフェが併設されており、ここで過ごす“時間”そのものも体験の一部として設計されています。展示を眺め、スタッフと会話を交わし、カフェで一息つく。そうした一連の流れのなかで、訪れた人は自然と明日見世の世界観に身を委ねていきます。

      カフェで購入したものは明日見世内のスペースでもゆっくりと味わえる。

      「実は、カフェも固定された存在ではありません。ブランドの展示、販売が約3カ月ごとに入れ替わるのに対し、カフェはおよそ1年に一度、内容が変わります。明日見世が“完成形”を目指す場ではなく、常に更新され続ける場所であるということが、来てくださるお客様にも伝わったら嬉しいですね」(和田)

      “明日”を見せ続けるということ

      明日見世という名前には、当初「未来(明日)において、新しい価値観として注目されるようなモノ、コトを紹介する見世棚」という意味が込められました。そして、リニューアル後は、その前提に“買うから出会う”という、物事の自分なりの選定に役立つ情報や体験の提供する、という想いが足され、バージョンアップが図られました。派手な未来予測ではなく、日々の選択や編集の積み重ね。その連なりが、都市や百貨店の姿を形づくっていきます。

      シーズンによっても異なるが、アパレルから家電、スキンケアアイテム、レザー小物まで、全国に眠るさまざまなブランド、アイテムが明日見世には並ぶ。

      百貨店は、単に商品を流通させる場所ではなく、価値観を媒介する存在であり続けてきました。明日見世は、その役割を現代的に更新する試みです。デジタルとリアル、消費と体験、作り手と使い手。その間に立ち、関係を編み直していきます。東京は、今日も変わり続けています。そしてこのスペースもまた、完成することなく更新されていきます。東京とは、編集である。明日見世は、その現在進行形の現場なのです。

      明日見世

      公式ウェブサイトhttps://dmdepart.jp/asumise/