東京都新宿区
2022.08.23 (Tue)
目次
“東京のローカル”と聞いて、思い浮かべるものは何でしょう?歴史ある下町エリアのものづくりの文化や、都心に次々と建つ最先端の商業施設やスポットなど、「東京ならでは」といえるものは、きっと聞く人の数だけ多様に存在するかもしれません。
ローカルとは、街や文化だけにとどまらず、暮らし方そのものにも表れているはず。そこで、東京の街を舞台に働く外国人タクシードライバーと一緒に、東京のローカルを探す旅に出てみました。
地方や海外から多くの人が夢や目標を抱いて集まってくる街・東京。そんな東京ならではのスタイルを象徴するのが、「外国人タクシードライバー」。お客様を目的地まで移動させるのはもちろん、東京の観光案内も担います。
都内に本社を置く日の丸交通株式会社では、現在20カ国以上の外国人ドライバー約60名が在籍中。この取り組みをおこなっているのは、実は東京だけ(2022年7月現在)ということでダイバーシティーな街・東京らしい働き方といえそうです。
今回、一緒に東京ローカルを探す旅に協力していただいたのはフランス出身のアバディさん。2013年に東京に来てからレストランのシェフなどを経験し、2021年、タクシードライバーに。訪日のきっかけは、オーストラリアでのワーキングホリデーで出会った日本人の “サムライスピリット”に興味が湧いたから、とのこと。
「日本や東京の“モノ”よりも、そこに暮らす人たちの “気質”に興味があるから、早朝から夜中までタクシードライバーをしながら、いろんな街でお客様を乗せられることがとても楽しいです。新橋は忙しそうなサラリーマン、中目黒に行くと、こじんまりしたお店から出てくるおしゃれな方とか、街によって人の違いを感じられるのも、東京ならではなのかなと思います。」(アバディさん)
そんなアバディさんが「東京らしさ」を感じるスポットは「渋谷スクランブル交差点」、「東京スカイツリー」、「浅草・浅草寺」の3つ。
「フランスでテレビを観ていると、日本のニュースなどが報道されるときに映るのが渋谷の交差点なんです。だから、多くのフランス人が東京のイメージと結びついていると思います。東京スカイツリーでは、『東京は “どこまでも街が続いている”』という大きさを感じられますね。そして、故郷の家族や友達が東京に来たら、絶対に案内するのが浅草です。人力車が走っていたり、着物を着て散策している人がいたり、昔の日本らしさを感じられる場所だし、それが東京そのものだと思いますよ。」(アバディさん)
いずれも文化・建築・歴史が感じられる東京の代表的な観光スポット。新しさと古さが混在する東京らしさが象徴された場所といえるでしょう。
「東京に来てから働く場所はずっと都心で、それ以外の街をあまり散策したことがない」と話すアバディさん。よりディープに“東京のローカルな暮らし”を感じてもらえる場所へのタクシー旅を敢行しました。
そして、今回アバディさんをお誘いしたのは神楽坂。新宿区にありながら、細い路地に入ると今も江戸時代の面影が残る街です。加えて、日仏文化交流の地とされる東京日仏学院が1952年に開校して以来、神楽坂とフランスの関係はとても深いものに。在仏フランス学校が設立され、フランス人の住人が増えたことなどから、本場の味が楽しめるフレンチレストランも多く並んでいます。
これまでも、運転中に通りかかったことはあるというアバディさんに神楽坂の印象を聞いてみると「フランス人が多すぎて、日本・東京らしさを感じない場所」との反応が。でも、実際に散策してみると、その印象はガラッと変わってしまいました。さっそくアバディさんとのタクシー旅をご紹介しましょう。
はじめに降り立ったのが、神楽坂の坂下に位置する「毘沙門天 善國寺(ぜんこくじ)」。「神楽坂の毘沙門さま」と呼ばれる本尊の毘沙門天は、江戸時代より徳川家の祈願所として栄え、今もなお多くの人の信仰を集めています。老舗の飲食店や新しい商業施設が立ち並ぶ中、神楽坂のシンボルとして圧倒的な存在感を誇っています。
「初めて見たとき、街の中に突然(神社が)現れるのもすごいなと思いました。東京って、意外に歴史的なスポットがきれいに残されていますよね。」(アバディさん)
毘沙門天・善國寺の向かい、建物の隙間を入っていく「兵庫横丁」。戦国時代に武器商人が住んでおり、兵庫(武器をしまっておく倉庫)があったことからこの名前がついたのだそう。神楽坂といえば、この迷路のように張りめぐる細い裏路地をイメージする人も多いのではないでしょうか。
石畳は、コンクリートがなかった江戸時代、夜でも歩きやすいようにと敷かれたものなのだとか。料亭や遊郭が立ち並び、「夜の街」と呼ばれた神楽坂ならではのエピソードです。表の大通りから入った瞬間に変わる街の空気感にアバディさんも感動の様子。
「職業柄、大通りばかりを運転していたので、裏にこんな街並みがあることを初めて知りました。石畳はフランスの道に似ているけれど、木造の古い建物がたくさんあるのは日本らしくて新鮮。東京なのにフランスのエッセンスもあるし、この入り混じった感じがとても好きです。」(アバディさん)
“え、こんなところに?”と驚くような裏路地にラーメン屋さんを発見。この日のランチはこちら、「かずまちゃんラーメン」へ。いただいたのは、コクのある味噌ベースにやわらかい名古屋コーチン、シャキシャキとした刻みショウガが効いた「味噌ラーメン」。濃厚ながらさまざまな食感で飽きのこない美味しさです。
しかしこのお店、味噌ラーメンはたまにしか出していないのだそう。さらに営業はお昼のみで、夜は違う居酒屋さんに様変わり。間借り営業で日によって違うメニューが楽しめる、フレキシブルなスタイルも東京らしい店舗です。
「好きな日本食は鶏だしのラーメンだけど、味噌味もいいですね。東京って、いろんな味が楽しめるのもうれしい。普段のランチはサクッと食べられるサンドイッチが多いけれど、たまにはこうしてタクシーを降りてゆっくりお店で食べるのはいいね。」(アバディさん)
かずまちゃんラーメン
住所:東京都新宿区神楽坂4-2-30
営業時間:11:30〜13:30(月曜〜土曜)
定休日:日曜
外部サイトへ移動します。https://www.instagram.com/kazuma0212kuma/
最後に、神楽坂ならではの和菓子屋さんをご紹介。1935年創業の「御菓子司 神楽坂梅花亭」は、当初西新宿のあたりに開業しましたが移転を経て2005年に神楽坂にお店を構えます。神楽坂の坂道沿いにある本店の他に、東京理科大学と地元神楽坂の人たちによる共同開発事業として生まれた商業施設「PORTA神楽坂」にもテナントを出店。今では神楽坂を象徴する和菓子屋さんです。
こちらのお店の定番のひとつが「神楽焼」と称するどら焼き。たっぷりの青えんどうあんを挟んだ、ふわっとした仕上がりの生地。これは先代がミキサーで生地を泡立てて空気を入れる製法により実現したとのこと。従来のどら焼きの作り方ではなく、あえて洋菓子の製法を取り入れた先代のこだわりは、今も大切に受け継がれています。ちなみに現在の四代目・井上豪さんは美大の出身。手がける和菓子はどれも色鮮やかで洗練されていて、地元の人はもちろん多くの来訪者を魅了しています。
御菓子司 神楽坂梅花亭 神楽坂本店
住所:東京都新宿区神楽坂6-15
電話:(03)5228-0727
営業時間:10:00~19:00
定休日:不定休
外部サイトへ移動します。https://www.baikatei.co.jp/
「観光するお客様を乗せてタクシーを運転してきたけれど、自分自身はあまり東京を散策できていなかったから、今度は家族と来て神楽坂を楽しみたいです。フランスのイメージが強かったけれど、知らなかった場所や街並みばかり。こうしてひとつの街でいろんな空間や時代を感じられるのは東京のもっとも面白いところだなと思います。」(アバディさん)
おしゃれなカフェや雑貨店などを気ままに散策しながら、ふと、江戸時代など昔の日本を感じられる街並みに浸る。神楽坂こそ “東京を感じる”街といえるのではないか、とアバディさんの街へのイメージもアップデートされたようです。神楽坂の新たな一面を発見し大満足してもらえたところで、この日のローカル探しの旅を終えました。
東京はなんでもある街。でも、ただ雑多に存在するだけでなく、多様な技術を取り入れて新しい価値を生んだり、暮らしをより良くしていく「東京らしい知恵」が紡がれたりして、この街を作っているのかもしれません。江戸時代と現代、日本とフランス。雑多でありながらもそれぞれが調和しながら存在している「東京らしい街」神楽坂。ぜひ一度、神楽坂で東京のローカルを感じてみてはいかがでしょうか。