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駅から始まる姫路のソウルフード。開拓者精神受け継ぐ「まねき食品」

駅から始まる姫路のソウルフード。開拓者精神受け継ぐ「まねき食品」

兵庫県姫路市

    2022.09.09 (Fri)

    目次

    幕の内駅弁発祥といわれるJR姫路駅とともに歴史を重ねてきた兵庫県の「まねき食品」。創業者からのフロンティア精神を受け継いできた老舗企業は、6代目の竹田典高(たけだのりたか)さんの代になると、今までとは違う目線でさまざまな挑戦をしています。常に地元への恩返しを忘れない「まねき食品」の地元愛のストーリーをご紹介します。

    注文を受けてからつくる作りたて穴子めしを提供

    世界遺産・国宝姫路城の城下町として開発が進んだ姫路駅北駅前広場。隣接する姫路駅前フェスタビル1階に「たけだの穴子めし まねき本店」があります。約135年もの歴史を持つ駅に育てられてきた「まねき食品」が、2020年に駅前でオープンした穴子めし専門店です。

    • 肉厚の白焼きを炙る

    • 煮だれで数分炊く

    • 煮つめて仕上げて切る

    • ご飯をつめ兵庫県産胡麻の金播磨をパラパラ

    • 穴子を10切れ敷き詰める

    • 姫路城イラストの掛け紙も上品

    たけだの穴子めしは、注文後にあらかじめ活〆した真穴子白焼きを炙り、甘辛い秘伝の煮だれでさっと炊くのが特長。特注羽釜で炊き上げた「兵庫県産米きぬむすめ」を使うごはんも、美味しいと評判です。

    ファン待望の本格的な穴子めし専門店ですが、1周年記念には期間・数量限定で「たけだの穴子一本巻」、2周年の今年は「ちらし寿司」を販売。酢飯の上に海老やイクラなどをのせ、穴子を約半身分置いた寿司でした。

    「季節限定も含めれば駅弁は200種類以上、通常販売で50種ほどあり、それぞれにファンがいて人気もあります。しかし、駅弁に目玉商品がありませんでした。姫路グルメを全国へ発信していきたい想いが強いので、まず名物の焼き穴子に注目。今まで扱ってきた食材ですし、焼き穴子を使う駅弁や寿司もあるなか、“最高峰の穴子めし”を作ろうと社内プロジェクトを発足。作りたてにこだわり完成させました。」と、代表の典高さんは話します。

    姫路のソウルフードと呼ばれる理由

    「まねき食品」は当初茶店を営業していましたが、明治21年の姫路駅開業と同年に初代の竹田木八(たけだきはち)さんが「駅で何か売ろう」と発案、翌年から弁当を製造販売。これが日本初「元祖幕の内駅弁」です。駅弁といえば当時にぎりめしの時代に、なぜおかずとごはんの組み合わせにしたのでしょうか。

    「初代の奥さんの実家が料亭でしたから、腕の良い料理人を抱えていました。それで、鰹と昆布のダシを使う和食をギュッと閉じ込めた二重の折り詰め駅弁になったといいます。当時お米1升が6銭、この幕の内弁当は12銭ですからかなり贅沢です。ちなみに実家の料亭は、後に料理旅館『靄楽園(あいらくえん)』に変わります。昭和の初期までは播州一円の政財界の社交場となり姫路の名所といわれるほどの料理旅館でした。」

    そう話すのは、社史編纂室の竹田和義(たけだかずよし)さん。「まねき食品」の歴代代表は全員、新しいことをはじめる開拓者。中でも4代目の二郎(じろう)さんは特異な人で、「姫路市民のソウルフードえきそば」を誕生させたと語ります。

    うどんでも中華そばでもない、幸せの黄色い麺「えきそば」

    現代の駅弁は売店で買うもの。しかし昔は、ホームを行き来する立ち売りが主流で、売り子たちが肩にかける紐つきのトレーに駅弁をのせ、窓を開けて待つ車内の乗客に販売していました。竹田和義さんは、同じスタイルで麺類を販売し、それが今の「えきそば」に繋がるといいます。

    「えきそばは、駅弁から始まりました。あらかじめ茹でて湯切りした麺を丼鉢に入れて天ぷらをのせ、声が掛かるとやかんに入れたダシをかけて渡す。車内に蓋付きの丼鉢が持ち込まれ、食べた後は床へ。返却すればお金になるので、誰かが置いた丼鉢を集めて小遣い稼ぎをする人もいました。時代は変わり、列車の停車時間が短縮され窓も開かなくなりましたから、昭和29年に下りホームで初めて立ち食いそばスタイルとなる、えきそばの店ができました。」

    「えきそば」の始まりは戦後の混乱期、手に入りにくい小麦粉代わりに、そば粉とこんにゃく粉など試行錯誤し、うどん風麺を作り販売。しかし、風味が落ちやすく腐りやすいので、保存性を高めるためにかんすいを加えた黄色い麺を試作。この時スープも中華風にする提案もありましたが、鰹と鯖などの魚系と昆布といった和風ダシは好評で捨てがたいということでそのままになり、中華麺に和風ダシというスタイルで、73年の年月が経ちました。

    JR姫路駅の在来線上下ホームにある「えきそば」は、朝6時から上りは夜11時まで、下りは深夜0時までオープンしています。朝食から夜食までの時間帯を網羅し、時間のないサラリーマンはもちろん、学生たちの小腹を満たし、時には飲んだ後の〆に。地元の方から「上りと下りではダシが違う」「あの人の作るのが美味しい」など、さまざまな意見があり常にお客様の声を聞いてきた「まねき食品」。そして、いつもの場所に変わらない味があるからこそ、人に寄り添う一杯になったといいます。

    「えきそばとの思い出がある地元の方からの口コミでも広がりました。気づけば“えきそばは姫路駅の名物”として姫路城への観光客、県外サラリーマンの方にも召しあがっていただけるようになったのはとてもうれしいことです。」と、竹田和義さんは話します。

    時代にあわせた食のカタチ

    「駅」と「歴史」を大切にさまざまな事業を展開する「まねき食品」。そして、現代表の典高さんは、たけだの穴子めしを始め、コロナ禍中にお客様の声に耳を傾け「美味しさを閉じ込められる冷凍技術」にも注目をされています。

    甘辛くすき焼き風に炊いた牛肉が美味しいと人気の駅弁「但馬牛牛めし」。ダシが染み込むご飯と柔らかな牛肉の美味しさを冷凍で表現するには、ご飯の角が硬くならないようにする工夫が必要で、弁当箱を改良したといいます。

    そして、あの「えきそば」も「まねきの冷凍えきそば」に。麺の冷凍技術がアップしたことで、行かずして同様のえきそばが楽しめると好評を得ています。のどごしの良い麺に、風味豊かな和風ダシのスープ、スープが染みてフワトロになる天ぷら。店の味がお家で味わえます。

    典高さんは「まねき食品といえば駅弁とえきそばです。130年以上の歴史で培ってきた信用を継続するよう努力して、もっと兵庫県・姫路市の皆さんに喜んでいただける食の展開をするのは我々の使命。美味しいのは当たり前の今、選びたくなる魅力や物語が見えることも大切で、姫路駅から始まった我々にはそれがあると思っています。そして、地域の隠れた美味しいものを発掘して発信していくことも『まねき食品』がすべきこと。播州らしい郷土色豊かな食に、今後も注目をしていきたいと思います。」