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地域の課題を資源に。高知・土佐山が教えてくれた、“オモシロ”がる心。

地域の課題を資源に。高知・土佐山が教えてくれた、“オモシロ”がる心。

高知県高知市

2022.09.20 (Tue)

目次

変化の多いこの時代を、どう乗り切るのか。
そのヒントのひとつが、「面白がること」と提唱するのは、土佐山アカデミー事務局長・吉冨慎作さんです。山口県出身の吉冨さんですが、高知県の面白さに心惹かれ2013年に移住。高知県高知市土佐山(とさやま)地域(旧土佐山村)で過ごす中で気が付いたのは、現地の人たちが生きるために受け継いできた「面白がる気質」でした。
「土佐山には未知なる挑戦をし続けてきた風土がある」と話す吉冨さんに、高知へ移住をしたきっかけ、そして面白がることへの真髄についてお聞きしました。

心の距離が近い場所。「住所をくれた」高知の仰天エピソード

高知県県庁所在地である高知市から、車で北へ20分。「さっきまで都市部にいたのに!」と思わずいいたくなるような、美しい山々が広がる土佐山地区で、2012年に開設されたのが「NPO法人土佐山アカデミー」です。土佐山アカデミーが目指すのは、次の100年のための学び場の創出。土佐山地域の課題を資源と捉え、新たな出会いやアイデアを生み続けています。

そんな土佐山アカデミーの想いに共鳴し、高知へ移住をしたのが、現在土佐山アカデミーで事務局長を務める吉冨慎作さんです。移住前は外資系の広告代理店に勤務し、全国各地を飛び回っていた吉冨さんに、高知の印象をうかがいました。

「幼い頃に家族で四万十川へ来たことがあって、すごく広い川があるところだなと思っていました。ものごころがついて龍馬ファンになってからは、高知や京都、長崎といった龍馬ゆかりの地を訪問していたのですが、その中でも高知は特に印象的で、いい意味で『やばい』ところだなって(笑)。」

「ひとりで呑んでいたら、知らない人に声を掛けられ奢られていた」と話す吉冨さん。今となっては酒豪大国高知のあるあるだと気が付いたと笑いますが、一番びっくりしたのは「住所をもらったこと」と驚きのエピソードを教えてくれました。

「高知で知り合った記者の方と何度か食事に行く中で『あんたそんなに高知が好きやったら、高知に住民票移しや!』といわれて、『これ、おばあちゃん家の住所やき(住所だから)』って箸袋に住所を書いて渡されたんです。『そんなことある!?』って笑いましたよ(笑)。もちろんその時すぐには移住しませんでしたが、高知の人のエネルギーに度肝を抜かれる出来事ばかりで、どんどん魅了されている自分がいました。」

「それを言われたら移住したくなる。」移住を決意させた2つの魅力

徐々に知り合いも増え、高知へ行く頻度も多くなる中、「高知の(さまざまなことを教えてくれる)師匠のひとり」から教えてもらったのが「土佐山アカデミー」の存在。

「『高知に面白い団体がある。君の考えと近いんじゃない?』っていわれたんですよ。調べてみたら職員を募集していて、飛行機の中だったんですけど、その場で写真を撮って軽い気持ちで履歴書を送信しました。」

「当時金髪だったけど、無事に合格して今がある」と笑う吉冨さんですが、転職、移住へと突き動かした土佐山アカデミーの魅力とは一体何だったのでしょうか。

「土佐山アカデミーには『それを言われたら、移住してでも来たくなるよね!』を分かっている人がいるんです。『土佐山ってこういうことに困っていて、こういうところが面白い。だから一緒にやらない?』っていうのがすごく伝わった。そんな面白いことを発信している人たちの仲間になりたいという気持ちでした。」

その中でも特に「仕組みづくりの巧みさ」と「土佐山の見せ方の上手さが、長年広告業に携わってきた吉冨さんの心を打ったのだとか。

土佐山の人たちはDNAレベルのオモシロガリスト®。地域の人を先生にする考え方

間もなく移住10年。現在は土佐山アカデミーでワークショップや企業研修といった取り組みを企画している吉冨さんですが、今目指しているのが、どんな状況でも課題を資源と捉えオモシロがれる人、通称“オモシロガリスト®”を育成すること。「面白がる力が武器になる」と考える吉冨さんですが、そこへ行き着いた経緯はどんなものだったのでしょうか。

「土佐山に来て思うのが、土佐山の人たちはDNAレベルで“オモシロガリスト®”だということ。たとえば、これだけ自然と近い場所に住んでいると、『2000万円かけてつくったビニールハウスが一瞬にして風で吹き飛ぶ』とか、『台風で家の水がとまる』(土佐山の多くの家は沢の水を砂で濾過して飲んでいるが台風や強風で山奥に仕掛けた取水場所が崩れたりする)といった、自分たちではどうしようもないことに振り回されることがあるんです。でも、それを辛いことと受け止めると生きていけないので、一つひとつを“面白がる”ことで学びに変えて生き抜いてきた。そういう精神が土佐山にあるからこそ、僕らみたいに外から来た人が『土佐山アカデミーをやりたいです』っていっても、『やってみたら?』でやらせてくれる。土佐山の人たちが失敗と挑戦を繰り返してきたからこそ、未知なことでも面白がることができるんです。」

地域課題を面白がりながら学びに変えてきた土佐山アカデミーですが、その代表的な取り組みが、「世界最速!?のそうめん流しチャレンジ」。土佐山の課題である、「斜面が急すぎる」「竹が生えすぎている」を面白がった結果、流体力学のエンジニアやさまざまな企業を巻き込み実施したのだといいます。

「この活動からコミュニケーションやリーダーシップを習得したり、どうすれば早く流れるのかと考える人がいたり、個々人が学ぶべきポイントがたくさんある。僕たちは遊びと学びの境界線をなくそうと取り組んでいますが、遊ぶって自主的にするから楽しい。広告の仕事をしていた時はスポンサーに向けて仕事をしていましたが、今は地域の人たちの困りごと(課題)ややりたいことを自主的にアイディアへと昇華する。『地域を元気にするって何?』『参加者のやりたくなることって何?』を考えて、モチベーションをデザインするという意味では、前職も今の仕事も特に変わらない。土佐山の人が築いてきた面白がり方を、僕らなりにかみ砕くのが役割ですね。」

何でもやらせてくれる高知の魅力。今後目指すは「土佐山遊学」!

前職と比べ、楽しさも忙しさも倍増したと笑う吉冨さんに、今改めて感じる高知の良さを教えてもらいました。

「何でもやらせてくれるところだと思います。もちろん大変なこともありますが、都会ほど人間関係がわかりにくくないですし、移住者には“テヘペロ”力という特権があると思っています。どんなことでも、『えー!知らなかったです、テヘッ』ていいながら、どんどんチャレンジできる。極端なことをいうと、同じ場所にずっと住んでいる方々は、小さい時から地域のコミュニティーの中でキャラクターや関係性が決まってる。でも移住者の人は全部無視して飛び込めるんです。」

さらに、四国に根付く「お遍路さん(四国八十八箇所礼所巡り)」文化には、「お接待」という、巡礼者をもてなす文化があるのですが、おもてなしをする側には、さまざまな土地の話を聞く楽しみがあるのだそうです。

「話を聞く習慣が高知にはある=新しい文化や他者の価値観が受け入れやすい土地、なんです。だからお酒を勧めるのがうまいのかな(笑)。」

最後に、吉冨さんが目指す今後の展開をお聞きしました。

「今までのプログラムでは土佐山に1、2日来てもらうのが多かったのですが、もう少し長く滞在してもらえるような仕組みができないかと考えています。昔から、違う土地に行って学問をすることを『遊学』と呼んでいましたが、まさに目指すは『土佐山遊学』。土佐山アカデミーとの単発的な関わりではなく、長期にわたって関係を築けるようなものにしたいんです。つまり土佐山流の関係人口の作り方ということです。」

そして、吉冨さんは高知市内の大丸高知店と手を組んで、“高知らしさ”をもっともっと追求していくプロジェクトにも参加しています。

「高知大丸では『高知大丸ローカリティ研究所』というチームを立ち上げました。さまざまなイベントを企画したり、高知らしさを追求したりしようというラボみたいなものですね。土佐山アカデミーも企画に関わらせていただいています。
全国の大丸・松坂屋に通底する考え方のひとつに『Think LOCAL』というものがあると高知大丸の安藤さんよりお聞きしました。ただ、ローカリティって分かるようで分からない。そう考えた時に『ローカリティって誰かに与えてもらうものじゃないな。自分たちで探し求めるものなはずだ』と気が付きました。それで高知大丸として高知らしいローカリティを研究しようということになったんです。100周年を目指し高知大丸のある中心市街地『おまち』と、『いなか』の関係人口を生み出すべく従業員全員が研究員となっています。そんな面白い店はなかなかないでしょう。これこそオモシロガリスト®だと思いますね。」

高知の山奥にある人口900人の山村に隠されていた「面白がる」ことへの大きな可能性。面白がることを武器にこの時代に立ち向かう吉冨さんの姿勢こそ、令和を生きる坂本龍馬の姿なのかもしれません。