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「都城メンチ」を全国区へ!官民連携プロジェクトの舞台裏

「都城メンチ」を全国区へ!官民連携プロジェクトの舞台裏

宮崎県都城市

    2022.11.08 (Tue)

    目次

    霧島山の麓にある宮崎県都城市は、畜産王国として知られている地域。今、この地で地元の人々に愛されるメンチカツを全国区の名物商品に育てるプロジェクトが始まっています。
    自治体と地元の生産者、そして博多大丸による官民連携プロジェクトによって、「都城メンチ」が誕生。自治体の担当者として、このプロジェクトを牽引してきた都城市役所ふるさと産業推進局の久野玉絵(ひさのたまえ)さんに、その舞台裏をうかがいました。

    知られざるローカルフード都城市の豚メンチカツ

    「都城メンチ」とは都城市で養豚された白豚または黒豚を使った豚肉のメンチカツを指します。都城市は養豚が盛ん。豚は市町村別の農業産出額において、肉牛とともに国内第一位の産出額(令和元年・2年)を誇ります。

    しかしなぜメンチカツなのでしょうか。

    「そもそもメンチカツが出始めたのは、今から20年ほど前だと思います。地元で有名な生産者のひとつ『観音池ポーク』から広まったといわれていて、今では市内の数店舗でメンチカツを買えます。家族で休日に公園で遊んだあと立ち寄ってまとめて大量に買うことや、職場で人数を集めて注文することもあります。」

    養豚場を営んでいる5件を含む直売所や精肉店など、さまざまな場所でメンチカツを買うことができます。
    「豚一頭を、豚バラやロースなどと部位を切り分けていると、ウデなどの部位が余ります。これらを上手に活用して豚ミンチ肉にし、メンチカツを作るようになったと聞いています。『観音池ポーク』の評判が広まって、ほかも追随するようになり、いつしかメンチカツ自体が都城市民に支持されるようになったのだと思います。」

    惣菜から全国区のブランドへ

    政府が旗振り役となって、地方に看板商品を作り出し、地域活性化につなげる政策として2022年春にスタートしたのが、観光庁の「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業」、通称「看板商品創出事業」です。
    新しく看板商品となるものを創出するのもよし、すでに地域にある商品を対象とするのもよし、というのがルール。地域の独自性があり、観光需要につなげられるかがポイントです。

    都城市役所で6次化の商品創出を担ってきた久野さんは、博多大丸からの声がけもあり、制度を活用した計画を進めることにしました。

    博多大丸は、地域の魅力的な商品や生産者を発掘する「九州探検隊」の活動に取り組んでいて、都城市とも連携を深めてきました。看板商品創出事業を活用することで、さらにステップアップした取り組みができるのでは……と、都城市の観光促進につながるような名物を生み出すための企画を持ちかけました。

    「大丸さんには、都城の6次化商品を何種類か提案したんです。でもどれもあまり反応がよくなくて……。メンチカツは候補のリストの最後のほうに挙げていたものでしたが、それが目に留まったようです。自分たちにとっては惣菜であり、日常のものだったから選ばれたことが意外で驚きました。『そんなにメンチカツの店があるんですか?』とたずねられたときには私も得意になって『ありますよー』と自信たっぷりに答えていましたけどね。」

    灯台下暗しとはまさにこのこと。地元では「一度に10個買うのが普通」というほど親しまれてきたメンチカツに、誰もが認める魅力があったのはいうまでもありません。

    こうして、官民連携の「都城メンチプロジェクト」が動きはじめました。

    信頼関係があったからこその働きかけ

    ふるさと産業推進局に配属になって5年を迎える久野さん。普段は、6次化商品の創出や補助金申請などの経営相談にのっているため、生産者とは旧知の仲でした。

    「まず生産者に1軒ずつ声をかけていきました。こういう事業を進めていこうと思うけど、参加してくれますか?もちろんしてくれますよね!という勢いで。役所が声をかけるからこそ、各社を超えた街ぐるみの取り組みができるのは、面白いと思いましたね。」

    さらに、地域を盛り上げるには、飲食店の後押しも不可欠です。久野さんは同僚とともに今までお付き合いのあった8軒のお店に1軒ずつ声をかけていき、メニューの開発などを依頼。
    「買って家で食べるもの」として根付いていたメンチカツを飲食店でも楽しめるように働きかけました。こうして14の事業者が「都城メンチプロジェクト」へ参加し、全国に誇れるご当地名物となるための地盤づくりを進めることになったのです。
    (※プロジェクト参加数は2022年9月末時点)

    行政はあくまでもきっかけづくり

    プロジェクトを進めるにあたって、心配事もあったと話します。
    「今、農業界や畜産業では、原油や飼料の高騰が経営を圧迫する問題になっています。こんなことをしている場合じゃない、という声もありました。また、協力いただいたところで、積極的に取り組んでもらえるか、という心配もありました。」

    そんな心配を押しのけた要素のひとつに、これまで培ってきた生産者との良好な関係と、久野さんのハツラツとしたお人柄がありました。

    生産者の方とは、下の名前で呼ぶような親しい間柄で、頻繁に進捗確認に出向くなどして距離を縮めてきました。そうした関係値の高さと久野さんの熱心さが伝わり、大変な状況下でも、やりがいや楽しさを得てきたのでしょう。

    「私はもともと窓口で相談を受ける立場なので、こちらが動くのが当たり前となってはいけません。この事業は市役所のものではなく、生産者や飲食店が主役となるもの。私たちはあくまできっかけづくりです。自分たちでやるんだという気持ちをもってもらう。むしろそれを作るのが私の役割だと感じていました。」

    決起集会の様子

    そして7月。参加者を集めて決起集会を実施したほか、久野さんが独自に参加者を集めて、大変なことはないか、本音を聞き出す機会を設けることもありました。

    「正直、途中でプロジェクトに参加できなくなるところがいくつかあるかもと予想したこともありました。でも、いざ蓋を開けてみると、それぞれの事業者が想いを形にしたり、新しいメニューを考えてくださったりして、予想よりも楽しんでやっていただいている気がします。」

    久野さんの前向きで献身的な姿勢が功を奏し、共同のプロモーションへと結びついていったのです。

    通過点のひとつ「都城メンチ」のお披露目

    都城メンチの初お披露目となったのが、大丸福岡天神店の催事「熱いぜ!宮崎展」でした。さまざまな宮崎名物に混じって、催事場の中央に華々しくブースを構えることができました。

    今回登場したのは、白豚に野菜をあわせたもの、白豚を使ったあっさり味のもの、黒豚を使ったジューシーなものの3種類。補充が間に合わないほど、次々と注文が入り、飛ぶようになくなっていきます。

    「皮が薄くて、豚肉の味がして美味しい」といった感想のほか、「都城にメンチカツがあるとは知らなかった」「そんなにお店があるの?」など驚きの言葉も聞かれました。
    早速、初日から用意した個数は完売。たくさんのお客様に受け入れていただいたようです。

    催事では、生産者とともに久野さん自ら店頭に立ち、調理も担当。まさに“チーム都城”が一丸となったお披露目となりました。

    都城メンチを食べに来た人で都城がにぎわう日を夢見て

    「目標は『佐世保バーガー』や『横須賀海軍カレー』のように、地域の名前を冠したグルメへと成長させることです。こちら側が実演や販売で出かけていくのではなくて、食べるためにわざわざ都城に来てもらえればいいなと。」
    12月には「都城メンチ」のブランドブックも完成し、食べ歩きも楽しめるような店舗の紹介や、新しく開発されたメニューなども紹介されます。地元のローカル食が、地域を飛び出して全国区へ。今後の展開に期待が高まります。