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まちの社交場をつくる。名古屋テレビ塔からスタートした「SOCIAL TOWER MARKET」の試み

まちの社交場をつくる。名古屋テレビ塔からスタートした「SOCIAL TOWER MARKET」の試み

愛知県名古屋市

    2023.01.31 (Tue)

    目次

    名古屋・栄のランドマークである通称テレビ塔(新名称・中部電力MIRAI TOWER)は、電波塔としての役割を終え、まちのシンボル、そして国の重要文化財として、新たな価値を築いています。

    役割を終えたテレビ塔の新たな価値創造に一役買ったのは、テレビ塔眼下に広がる公園で開催されるイベント「SOCIAL TOWER MARKET」。市民の有志による活動でしたが、現在は法人化し、株式会社ザ・ソーシャルとして活動の幅を広げています。テレビ塔を起点に、まちを面白くする試みを仕掛けるザ・ソーシャルの代表である長崎正幸さんと青木奈美さんにお話をうかがいました。

    存続か撤廃か。役目を終えたタワーの行く末は!?

    名古屋の繁華街・栄の真ん中にそびえるテレビ塔は1954年に日本初の集約電波塔として開業しました。高さ180メートルのタワーは当時、東洋一の高さを誇り、年間100万人以上の来場者を集める盛況ぶりだったといいます。戦後復興の象徴ともいわれ、名古屋のまちのランドマークとして親しまれました。

    時は流れて2011年。テレビ塔はアナログ放送の終了とともに電波塔としての役割を終えました。一時は解体も検討されましたが、市民の声を受けて存続が決定。テレビ塔が新たな価値や役割をもって自ら魅力を発信することを目指し、NPO団体やボランティアを中心に、テレビ塔のこれからを考えるソーシャルタワープロジェクトが発足しました。

    当時、名古屋市の職員という立場でソーシャルタワープロジェクトに参画していた長崎さんはこう振り返ります。

    「『テレビ塔は役目を終えたのだから、もういらないんじゃないか』という声もありました。そこで、『存続or撤廃。市民と考える名古屋テレビ塔』と題してアンケートを実施しました。その結果、8割近い市民からテレビ塔を残してほしいという声が集まったんです。残すからにはノスタルジックな過去の象徴としてのタワーではなく、新しい活用の仕方を模索したかった。その活用の一つが『SOCIAL TOWER MARKET』だったんです。」

    テレビ塔から発信される、まちの新しい楽しみ方

    2012年の秋、テレビ塔がある久屋大通公園を会場に第一回目の「SOCIAL TOWER MARKET」が開催されることになりました。その準備は大変で、ソーシャルタワープロジェクトの活動趣旨を説明し、信頼していただくところからのスタートでした。

    課題だったのは、南北に1km以上続く久屋大通公園がテレビ塔を境に北側と南側に分断していたこと。テレビ塔の南側は人通りが多く栄えているのに対して、北側は人通りがあまりなく、夜には物騒で近寄りがたい雰囲気さえありました。「SOCIAL TOWER MARKET」はその分断を解消することを期待され、テレビ塔北側で開催されることになったのです。

    着々と準備を進めて迎えた当日は見事な秋晴れ。想定以上の来場者が集まり、プロジェクトのメンバーは胸を撫で下ろしました。

    第一回目から運営に携わってきた青木さんは、「テレビ塔の北側に人が集まってくれるのか不安でしたが、当日の盛り上がりを見て、いいコンテンツを用意すればまちに新たな人の流れをつくることができるという手応えを感じることができた」と振り返ります。

    長崎さんは、「マーケット開催前はあやしい団体と思われていたかもしれませんが(笑)、開催後は『こんなイベントなら毎年やってほしい』という喜びの声をいただき、開催した意義を感じました。」と話し、青木さん同様に確かな手応えを感じていたようです。

    テレビ塔から派生していく「SOCIAL TOWER MARKET」

    2012年の初開催以来、マーケットは毎年秋の恒例イベントとなり、テレビ塔といえば「SOCIAL TOWER MARKET」というイメージが定着していきました。

    しかし、2019年はテレビ塔と久屋大通公園が大規模改修を行うことになり、マーケットは会場を名古屋城に移し、「SOCIAL CASTLE MARKET」として開催しました。

    翌2020年秋には、改修工事を終えて新しくなったHisaya-odori Park(久屋大通公園)に会場を戻してマーケットを実施しましたが、公園は商業施設や芝生広場ができてすっかり様変わりし、テレビ塔北側の人通りや賑わいも日常のものとなっていました。

    「テレビ塔と公園一帯を盛り上げたいという思いがありましたが、改修によって市民レベルで活動をしなくても日常的に賑わいが生まれる場所になりました。それなら私たちは同じ場所にとどまるよりも、新たな場所で新たな社交場をつくっていく方が、これまでやってきたことをつないでいけると考えました」と、青木さん。

    元々、年に一度の大きなイベントよりも日常的に人が集まり、交わる場をつくりたいと思っていたことも重なって、「SOCIAL TOWER MARKET」は2021年以降、名古屋城やオアシス21、ブロッサといった栄のまちの新たな場所へと派生していきました。

    コロナ禍で求められた「まちの社交場」

    テレビ塔と公園一帯がリニューアルしたのと同時期に、ソーシャルタワープロジェクトは法人化し、株式会社ザ・ソーシャルとして体制を整えました。新しいメンバーが増えたことでマーケットの開催場所や開催日も増え、日常の中に社交の場をつくりたいというビジョンは実現しつつあります。

    また、2020年といえば世界的に新型コロナウイルスが蔓延した年でもあります。マーケットを開催するのかしないのか正解が分からない中で、市民や出店者からの「やってほしい」という声に後押しされ、感染対策をしながら実施しました。

    「屋外イベントだったこと、時期的にgo to travelキャンペーンなどが始まり、少しずつ外に出て行こうという空気があったこともあって開催できました。これまで2日間で行っていたマーケットを6日間に分散したり、テント同士の距離を離したりして工夫をし、コロナ禍でのやり方をつかむことができました。実施したことで、『子供を公園で思いっきり遊ばせることができた』『久しぶりに対面でお買い物ができて楽しかった』といった声をいただき、あらためて活動を続けてきてよかったと感じましたね。」(青木)

    「批判的な見方はもちろんあったと思いますが、あらゆることが中止となる中で、『SOCIAL TOWER MARKET』までやめてしまったら全てが停滞してしまう。あの時、開催した意味はあったと思います。」(長崎)

    これからの「SOCIAL TOWER MARKET」

    テレビ塔に新しい価値を創出したいという思いからスタートした「SOCIAL TOWER MARKET」ですが、ザ・ソーシャルはこれまでの経験や知見を活かし、エリアを限定せずまちの社交場づくりのお手伝いをしていくことを事業の柱としています。ただし、その根底にあるものは何も変わっていないといいます。

    「『SOCIAL TOWER MARKET』に関わっているメンバーはそれぞれ個人的な思い入れをもって活動していると思いますが、私は栄に住んでいるので、自分のまちにワクワクできる場、新しい出会いが広がる場をつくってまちをもっと面白くしていきたいんです。そのためにも栄での活動はこれからも続けていきますし、他の場所に行くときには地元の方の価値観に寄り添って、栄とはまた全然違った新しい場づくりをすることになると思います。私たちの活動が派生していくことで、新しい出会いを生み出せることが楽しみです。」(青木)

    「ザ・ソーシャルとしてやりたいのは、まちの社交場をつくること。地域の人が自分のまちをもっと好きになる。そういう価値をつくり出していきたいと思っています。活動の発端となったテレビ塔への思いも変わっていません。電波を発信することは無くなっても、テレビ塔は名古屋の人にとっての心象風景であり、まちのシンボルとしていつまでもそこにあってほしい存在です。ザ・ソーシャルがどこで活動をしていても、心の中にはいつもテレビ塔があります。」(長崎)

    松坂屋とのコラボレーションが生み出す新たな価値

    2023年2月8日〜14日には、松坂屋名古屋店南館1階のオルガン広場にて、「SOCIAL TOWER MARKET “いとしのお菓子”」の開催が決定しました。

    「栄のまちを魅力的にしていきたいというザ・ソーシャルの思いは、まさに松坂屋が目指すものと合致します。そういう意味でも、『SOCIAL TOWER MARKET』が松坂屋に来てくれるのは嬉しいこと。松坂屋で開催することで、双方にとって新しいものが生まれると思いますし、松坂屋のお客様にマーケットで新たな出会いをたくさんしていただけたらと思っています。」と話すのは、松坂屋名古屋店の営業推進部マネージャー・山田紀子。今回の取材で、「SOCIAL TOWER MARKET」が栄のまちにもたらした価値を再認識したといいます。

    ザ・ソーシャルの青木さんにとって、松坂屋は親しみのある場所なのだとか。
    「栄のまちは北に名古屋城、真ん中にテレビ塔、南には松坂屋というイメージがあり、松坂屋はまちを構成する大事な要素だと思っています。おじいちゃんおばあちゃんと連れ立って買い物に行ったとか、名古屋の人にとってパーソナルな思い出がたくさんある場所ではないでしょうか。百貨店での開催は初めてですが、『SOCIAL TOWER MARKET』が新たなチャレンジをさせていただくのに、こんな素敵な場所はないと思っています。」

    松坂屋にとっても、栄のまちは特別な場所。江戸時代に名古屋城近くにあった呉服店から始まり、まちとともにここまで歩んできました。「SOCIAL TOWER MARKET」と松坂屋名古屋店のコラボレーションによってどんなシナジーが生まれるのでしょうか。期待は膨らみます。

    SOCIAL TOWER MARKET (外部サイトに移動します。)https://socialtower.jp/