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個性派ワイナリーが集う北海道余市。世界に誇る“Made in JAPAN”

個性派ワイナリーが集う北海道余市。世界に誇る“Made in JAPAN”

北海道余市町

    2023.01.31 (Tue)

    目次

    現在、大小で15軒のワイナリーが存在する北海道・余市。2011年に「ワイン特区」に指定されて以来、ワインづくりに適した豊富な土壌を求め、年々ぶどう栽培農家とワイナリーが増加している、いわばワインの一大産地となっています。世界でも高く評価される余市のワインの魅力と、それを生み出す北の大地を紐解きます。

    余市に集う、個性派ワイナリー

    北海道の道央エリアにある小さな街、余市。ここは、日本有数のワインぶどう収穫量を誇る街でありながら、ぶどう産地としての知名度はそう高くありません。しかし、ぶどう栽培農家やワイナリーの創業が増加傾向にあるなど、近年はワインやぶどうにまつわるシーンが盛り上がってきています。現在、大小あわせ15軒のワイナリーがあり、醸造されるワインは「個々のワイナリーの個性が感じられて美味しい」と、人気を集めているのです。

    余市が一大ワイン産地になるまで

    余市は、2011年に「北のフルーツ王国よいちワイン特区」という認定を受けました。ワイン特区の認定を受けると、最低製造数量基準が従来の年間6,000L(ボトル約8,000本)から低くなり、最低製造量の2,000L(約2,700本)で醸造免許が取得可能になります。この特区認定をきっかけとして小規模なワイナリーが出来始めました。余市という土地の気候がワインづくりに最適であるということが徐々に周知され、小規模な業者でも参入しやすい制度が整ったことで、余市は一気にワイン一大産地へ成長しはじめました。

    世界一のレストランから評価される「ドメーヌ・タカヒコ」

    そして余市のワインが大きく注目されるきっかけとなったのが「ドメーヌ・タカヒコ」の存在です。余市・登町エリアで2010年からワインづくりをスタートした「ドメーヌ・タカヒコ」。世界のベストレストラン50で世界一を獲得したデンマークのレストラン「noma」が、ドメーヌ・タカヒコのワインの採用を決定。

    世界中のワイナリーや業者、レストラン関係者だけにとどまらず、美食好きの間でも「余市のワイン」「Made in JAPAN」に大きな注目が集まり、世界的な評価を得るに至ったのです。

    今や「ドメーヌ・タカヒコ」は余市ワインシーンの顔ともいえる存在となりました。

    ドメーヌ・タカヒコの醸造家・曽我貴彦さんの実家は、長野県にある小布施ワイナリーを営んでおり、昔からワインが身近にあったのだといいます。

    「昔からワインに携わってきましたが、北海道に“ワインぶどうの収穫量が日本一”の産地があることを知りませんでした。余市にワインぶどう農家さんは数多くいますが、ワイナリーがほぼなかったからだと思うんですよね。こんなに魅力的なぶどうを作れる土壌があるのに、もったいない。そこで、ワインぶどうの栽培から醸造までを小規模でおこない、“ワインの街余市”をもっと盛り上げようとしています。」

    曽我さんは、2009年に登地区にある4.6haの農地を購入し、翌年からワイナリーとして本格的に始動しました。当時、余市には1軒しかワイナリーがなく、ドメーヌ・タカヒコは36年ぶりにできた2軒目のワイナリーだったのだとか。開業以来ドメーヌ・タカヒコでは毎年研修生を受け入れてきました。

    「ドメーヌ・タカヒコで研修を受けた卒業生は、新規就農制度を利用して余市でワイナリーを始めています。私は余市に小規模ワイナリーを100軒つくることを目標にしているので、研修生とは『独立する場合は余市でワイナリーをオープンする』という約束をしているんですよ。」

    余市がワインの街として盛り上がるためには、まずワイナリーの数を多くすることが大切、と話す曽我さん。ご自身のワインぶどう栽培から醸造まで、持っている知識を惜しみなく研修生に伝え、余市にワイナリーを増やすことが地域の活性化につながっていくと考えているそう。

    「誰でもできる、漬物のようなもの。」ワインづくりを広めることが使命

    「ドメーヌ・タカヒコで醸造するワインは“誰でもつくることのできるワイン”です。自社畑で有機栽培しているピノ・ノワールを収穫したら、房ごと醸造タンクに入れて放置し、ある時期が過ぎたら足で踏んで発酵を促す。誰でもつくることができるワイン…これを例えると“漬物”ですね。食材と容器があれば誰でもつくることのできる漬物ですが、おいしい漬物をつくるおじいちゃんおばあちゃんっていますよね。それがドメーヌ・タカヒコですかね。」と笑いながら話してくれた曽我さん。

    タンク2つで醸造免許取得が可能な約2,000L。省スペースでの醸造ができる

    「ぶどう農家さんが、自分で育てたワインぶどうを使って、自らワインをつくってもいいじゃないかと思っています。『そんな難しいことはできない』『莫大なお金がかかるのではないか』といわれるのですが、小規模醸造であれば、さほどお金はかかりません。だからこそ、原料供給だけしている農家さんに“自分達でワインをつくる”という世界観を私たちがつくりあげる、そして小規模ワイナリーの数を増やすことで、多くの方が余市へ足を運ぶきっかけになると考えています。」

    あくまでも、誰でもつくることのできる方法でワインづくりをおこなうことが、ドメーヌ・タカヒコのこだわりなのです。

    余市だからこそ。世界的にも恵まれた条件を活かしたワインづくり

    「余市という恵まれた気候の地では農薬を使わなくても、品質のよいワインぶどうが育ちます。自社畑では有機栽培を取り入れているため、除草剤が使えません。草刈りなど時間がかかりますが、農薬を使わなくて済むのはワインづくりに最適な余市だからではないでしょうか。」と話してくれました。

    北海道の中でも余市は降水量が少なく、比較的温暖で山に囲まれている地域です。冬にはピノ・ノワールの畑がすっぽり雪に埋まる、高さ1m以上の積雪があります。パウダースノーと呼ばれるふわふわな雪質なので、ピノ・ノワールの樹を傷つけることなく、優しく包み込み、厳しい冬の寒さから樹を守る。世界的に見ても稀な条件が揃う気候で、余市はワインづくりに最適なのです。

    「余市でワイナリーを始めてから約10年経ち、ようやくまともな製品ができるように。少しずつドメーヌ・タカヒコのワインが、いろいろな人に評価され始めてきました。」という曽我さん。

    恵まれた気候条件の上に、小規模のワイナリーが参入しやすい街・余市。それゆえ、こだわりの強い個性的なワイナリーが続々と生まれているのだそうです。

    「ワイナリーの数が増えてきた現在では、それぞれのこだわりが反映された個性的なワイナリーがたくさんあります。栽培や醸造方法などの技術が高く、ドメーヌ・タカヒコよりも1歩も2歩も優れているワイナリーも多くありますよ。特に、平川ワイナリーさんは『どうすればよりよいワインができるのか』ということをストイックに追求されていて、うちでは真似できないようなワインづくりをしています。」

    そうドメーヌ・タカヒコの曽我さんが語る「平川ワイナリー」は、余市の最北端ともいえる沢町というエリアに位置するワイナリーです。

    “余市のワイン”を表現する、食とワインのスペシャリスト「平川ワイナリー」

    “土地のワインをつくる”というコンセプトのもと、さまざまな白・ロゼ・赤・スパークリングワインを、年間5万本生み出している平川ワイナリー。

    オーナーの平川敦雄さんは、12年間にわたり、フランスの有名ワイナリーでぶどう栽培・ワイン醸造に携わると同時に、世界的な名声を持つ高級レストランにてソムリエとして従事。フランスソムリエ協会認定ソムリエ、栽培からサービスまでの幅広い知識を有する、食とワインのスペシャリストでもあるのです。

    平川ファームのある沢町エリアは、山々からの強い風を受け、雪の重みで全ての雑草がなぎ倒されることを繰り返して数千年、標高30〜40mの穏やかな南斜面に、排水性と高い地温効果を持つ真っ黒な腐植土が形成されています。初めてこの土地を訪れた際、平川さんは余市を代表する銘譲畑となることを確信したのだそう。

    2014年に余市の先進的農業者である藤城議(ふじしろ・はかる)さんから畑を引き継ぎ、平川ファーム(ぶどう栽培)を設立。翌年に小さな醸造所として、平川ワイナリーを立ち上げました。

    「藤城さんという大先輩が手がけたこの土地には、古い農庫とトラクター用の管理器具庫があり、かつては果実の選別や出荷作業がされていたのです。倉庫内はまるで昭和の空気がそのまま取り残されているかのようであり、ワイン醸造の場所として未来のために残していきたいと決心し、ワイナリーを立ち上げました。」

    豊富な土壌だけでなく、品質を追求して調和させるのが余市ワイン

    余市の畑の中でも特に日照条件に恵まれている場所である平川ファーム。平川さんがフランスで得てきた知識や技術を活かすことのできる素晴らしい自然が、その畑にあるのだといいます。

    「ワインは四季がある温帯の気候から生み出すことができます。ワインを生み出すためには、気象条件が最重要なのではなく、その気象条件にあった品種と栽培をどのように組み合わせ、適用させ、調和させるかが重要です。園地の生態系を重視し、余市の気候風土を表現できる品質を追求、気象変動の影響に負けない、強い農業づくりを目指しています。」と、高品質なぶどうの栽培に対する情熱を語ってくれました。

    余市という土地を味わってもらう「美食に寄り添うスタイル」

    「一本の樹から複数回収穫があり、味わいがそれぞれ異なるワインができ上がります。品種名非公開ですが基本は単独品種でワインを製造し、タンクごとに全く異なるつくり方をしているのがこだわりですね。」と平川さん。

    平川ワイナリーでは「余市という土地が生み出す味わいのワイン」ということはもちろん、飲食店の料理との組み合わせを確認し、「美食に寄り添うスタイル」を目指しています。フランスをはじめ世界を渡り歩いた経験のある平川さんだからこそ、食との相性はもちろん、質感やフレッシュ感、繊細さのあるワインをつくり出せるのでしょう。

    また、品種非公開ということで、ワインのラベルには一切ぶどう品種名を記載していないといいます。これには、「余市という土地が生み出すワインを味わってほしい」というこだわりがあるそうです。

    将来の変化も見据えて・・余市がつくる日本のワインシーン

    今までは単なる「ワインぶどうの産地」だった余市が、ワイナリーが増えることにより世界から注目される「ワインの街」へと変貌しつつあります。

    現在は、複数のワイナリーを訪ねてワインと景色を楽しむ「ワイナリー巡り」で余市を訪れるワイン好きも増加中。

    美しく手入れされたぶどう畑と、その恵まれた土壌や気候を表現したワインはまさに余市の自然そのものです。

    また、近年の気候変動によって、今まで日本での栽培が難しいとされていたワインぶどうの品種も、今後は余市で栽培できるようになる可能性が高いと期待されています。近い将来、大自然に囲まれている余市は、世界を代表する“Made in JAPAN”ワイン産地として、さらに注目を浴びる地になるでしょう。

    取材協力
    ドメーヌ・タカヒコ(外部リンクへ移動します)
    http://www.takahiko.co.jp/

    平川ワイナリー(外部リンクへ移動します)
    https://hirakawawinery.jp/