滋賀県近江八幡市
2023.02.28 (Tue)
目次
滋賀県のほぼ中央に位置し、かつて織田信長が天下統一を目指す拠点とした近江八幡には、滋賀県でナンバーワンの人気を誇る観光スポットがあります。
「ラ コリーナ近江八幡」は、和菓子の「たねや」と洋菓子の「クラブハリエ」のフラッグシップ店として2015年にオープンしました。
連日多くの観光客や地元の買い物客で賑わうラ コリーナですが、そこには単なる観光スポットにとどまらない不思議な魅力があります。ラ コリーナがこの地でどのように生まれ、どんな未来を描いているのかうかがってきました。
オープン以来、まるで物語のなかに迷い込んだかのような唯一無二の世界観が話題を呼び、若い世代からファミリー層まで幅広い世代に人気を集めているラ コリーナ。甲子園球場3個分もの広大な敷地には、「たねや」「クラブハリエ」のショップやスイーツを楽しめるカフェなどが点在しています。
ラ コリーナに到着するとまず目に飛び込んでくるのが、「八幡山」を背景にし、屋根全体を芝に覆われた三角屋根の建物。この建物はラ コリーナのメインショップであり、たねやとクラブハリエの定番商品のほか、ラ コリーナ限定商品を購入することができます。
夏は青々とした緑、冬には雪化粧と、四季折々の姿で訪れる人たちを迎えてくれる三角屋根は、建築史家・藤森照信(てるのぶ)氏によるもの。鉄などの工業製品をなるべく使用せず、栗の木や漆喰、銅板など自然に溶け込む素材が使われています。
三角屋根のメインショップの向こう側に広がるのは、まさに田園風景と呼べるものです。琵琶湖のイメージが強い滋賀県ですが、実はそのほとんどは田園風景だそう。その昔ながらの滋賀・近江八幡の風景をラ コリーナは再現しています。
そして、その田園風景の中に点在しているカフェやショップの1つ1つも、「自然」を活かしたつくりとなっています。
100本以上の栗の木を使ったカステラ専門店「栗百本」もそのひとつです。たねや3代目の山本德次が極めた自慢のカステラを焼きたてで提供しており、お昼どきにはカステラのたまごを使ったオムライスを求めて、たくさんの人が訪れるといいます。
店内の柱には栗の木がそのまま使われており、歪なカーブを描く栗の木はまさに自然そのものです。
美味しいお菓子や、甘い香りを目当てに訪れても、知らず知らず「自然」と触れていることに気づきます。
「この土地は、元は厚生年金の休暇センターが建っていたんです。私も幼い頃は、ここでプールで泳いだり、テニスしたりしていました。」と話すのは、たねやグループの広報を務める髙曽さん。近江八幡市民の憩いの場でもあったこの土地をたねやグループが購入したのは2008年。ラ コリーナ近江八幡オープンから7年も前のことだったといいます。
購入したのはいいものの、どんな施設を作るかはその時点では未定だったそうで「大きな店舗を建てるという計画もありましたが、そうじゃなくて、この八幡山を借景に“近江八幡にきてよかったな、ほっとするな”と言ってもらえるような空間を作りたいという代表の思いから、今のラ コリーナの形になりました」。
確かに、この「ラ コリーナ」は、東京や大阪などの都市部に似たような施設はありません。八幡山をバックに、唯一無二の美しい田園風景がそこには広がっているのです。
テーマを“自然に学ぶ”としてから、とんとん拍子に計画は進んだといい「ラ コリーナのシンボルとなるメインショップの設計については、自然素材をふんだんに使った建築を得意とする藤森照信先生にお願いすることになりました。」
2015年、たねや・クラブハリエグループのフラッグシップ店「ラ コリーナ近江八幡」が誕生しました。
ラ コリーナ構想に終わりはなくオープンから8年経った今でも未完成。約3万6000坪もの広大な敷地面積のうちまだ公開していない土地もあるのだとか。
年を重ねるごとに進化を続けるラ コリーナですが、オープン当初から変わらないこともあるといいます。
「ここに広がる自然を楽しんでほしいという思いは変わることはありません。ラ コリーナには近江八幡の原風景があるんです。敷地内中央には田んぼがあって、その周りには畦道がある。畦道には季節の野花が咲いていて、小さな生き物たちが暮らしている。目線を上げると、背後には八幡山が連なっている。昔の人たちが見ていたような風景が残っているんです。」
一度だけでなく、何度でも来たいと思わせる魅力がラ コリーナには詰まっているのです。
「たねやグループには、菓子製造販売の『たねや』『クラブハリエ』のほかに農藝部門を担う『キャンディファーム』があるんです」と髙曽さん。
草屋根のメインショップを初めとした、さまざまな植物のメンテナンスや、田んぼの手入れなど、敷地内の自然を維持しているプロ集団がいます。
ラ コリーナを語るうえで欠かせないのが、この農藝部門「キャンディーファーム」なのです。
「お菓子の源である農業を知る、農家の方々の苦労を知るために田植えや稲刈りを従業員が行う「学びの田んぼ」を敷地中央に作りました。たねやグループでは、製造、販売のスタッフが部署関係なくここでキャンディーファームのスタッフとともに田植えや稲刈りなどを経験するんです。『農家の人はこんなご苦労があるんや』とか『こんなに育ててこれだけしか採れないんや』と知ることで、お菓子の源である小豆、お米の1粒1粒を育てる大変さを学び農家の方々や農作物へのありがたみを学ぶことができるんですよね。」
ラ コリーナの田んぼでは、キャンディーファームを主体に、毎年、田植えに稲刈りなどをすべて手作業で行っているそうで「田んぼを通して農家の方々がいかに自然と向き合いながら作物を作っているか学んでもらえれば」と髙曽さんは話します。
1年を通して地域の方々に参加してもらえるワークショップも開催しているというキャンディーファーム。「たとえば、松明(たいまつ)作り。近江八幡には100年以上続く火祭りという伝統文化があります。毎年3〜5月に市内各地で200基を超える松明を結い、火を放って神様へと奉納するお祭りです。松明作りは、周辺に生えているヨシ刈りから始まります。」
琵琶湖の水をきれいに循環させる役割を担う「ヨシ」。近江八幡の水郷にはヨシの群生地があり、かつてはヨシ産業が主要産業として街の経済を支えていました。織田信長の時代には、このヨシが年貢として納められていたともいわれています。
「ヨシ産業を担ってきた世代が少なくなってきた今、次の世代へと受け継ぐために、このようなワークショップを行っているんです。」
伝統文化を継承するのもラ コリーナの大きな使命なのだと話してくれました。
「100年後も近江八幡のこの自然を残していきたい」というたねやグループが未来に向けて行っている活動があります。
その名も「どんぐりプロジェクト」。ラ コリーナの借景ともなっている八幡山とラ コリーナが大きな森で繋がるようにと、どんぐりを育てて苗木にし、植樹をするというプロジェクトです。
「目標は10万本。現在は4万6000本、100種類以上もの苗木を植樹しました」と話してくれたのはキャンディーファーム園長。「どんぐり以外にも、多くの八幡山の植生を植樹しています。そうすることでより良い森、強い森になるんですよね」。植樹には、たねやグループの従業員やその家族も参加し、八幡山の自然を守っているのだと教えてくれました。
「目先の利益を得ようと思えば、得ることもできる。だけど、私たちが見ているのは100年後の未来なんです。」(髙曽さん)
お菓子の力で多くの人々を幸せにするだけでなく、近江八幡に生まれ、近江八幡で育ってきた企業としての使命を果たす。そんな気概を感じられるからこそ、ラ コリーナには一観光地にとどまらない魅力があるのかもしれません。
「伝統を守り、自然を守り、おいしさを守る」。八幡山の麓に広がる近江八幡には、そんな地元企業の姿がありました。
ラ コリーナ近江八幡
〒523-8533滋賀県近江八幡市北之庄町615-1
(外部サイトに移動します。)
https://taneya.jp/la_collina/
大丸松坂屋ONLINE STORE
たねや(外部サイトに移動します。)
https://www.daimaru-matsuzakaya.jp/otoriyose/brand/taneya/