STORY
郷土玩具の過去といまと未来をつなぐ、福岡「山響屋」

郷土玩具の過去といまと未来をつなぐ、福岡「山響屋」

福岡県福岡市

    2023.03.15 (Wed)

    目次

    日本各地の習慣や信仰に結びつき作られてきた、郷土玩具。土地の風土を生かした独自の素材を使い、1つ1つ丁寧に手作りされてきました。受け継がれてきた郷土玩具の文化は現代の感性豊かなアーティストたちによって少しずつ形を変え、世代を超えて人々を魅了しています。
    今回、福岡の人気スポットでもある民芸品店「山響屋」の店主で、日本各地の郷土玩具に造詣が深い瀬川信太郎さんに、現代の郷土玩具を紹介していただきます。

    全国の郷土玩具に込められたストーリーの発信地「山響屋」

    福岡の中心、天神エリアにあるアパートの小さな空間。そこには2,000点を超える郷土玩具が所狭しと並べられています。店主の瀬川さんが全国各地に直接足を運び、8年の歳月をかけて集めてきたものです。

    「玩具との出会いは一期一会だと思います」と語る瀬川さんは、だるまの絵付け師というアーティストとしての顔も持っています。絵付けをしていく過程でだるまにもさまざまな種類があることを知り、少しずつ全国各地のだるまや招き猫といった郷土玩具を集め始めたそう。

    「元々自分のお店を持つという夢がありました。ジャンルにこだわりがあったわけでも、お金儲けがしたかったわけでもない。ただ自分の好きなものを扱うお店をやりたいという思いがありました。」

    通常であれば、販売する商品ありきで店舗探しをするのがセオリーですが、瀬川さんは自身の夢を叶えるべく、まず先に店舗を借りたといいます。

    「福岡でお店をやることが決まり、販売するものを探すためリサーチをしてみると、九州にはたくさんの郷土玩具があることがわかりました。だるまや招き猫などの縁起物が好きで集めていましたが、買おうと思っても販売しているお店自体が少なかった。それであれば郷土玩具の作り手さんに直接会いに行き、自分のお店で販売すればいいと考えたのです。」こうして瀬川さんの「好き」が集結するお店「山響屋」が誕生しました。

    本格的に集め始めてみるとだるま1つをとっても、土地や作り手によって種類が異なることを知り、さらに魅了されていったそう。

    「選挙のだるましか知らない人は多いと思いますが、各地で特徴があっておもしろいんですよ。たとえば名古屋から西の地方で作られているだるまはハチマキが巻かれています。これにも縁担ぎの意味が込められているんです。」と店内に並ぶだるまを指さしながら教えてくださいました。

    「来店されたお客様には見た目の特徴だけでなく、玩具1つ1つに込められた作り手のストーリーもお伝えするようにしています。」本やインターネットだけでは知りえない作り手の人柄や土地の歴史まで伝えて販売しているのだといいます。

    山響屋には20代から80代と幅広い層の方々がやってきます。「郷土玩具の存在がもっと知れ渡り、魅力を伝えることができたら年齢問わず多くの人を魅了すると思うのです。」

    山響屋を通じて誕生したコラボレーション。伝統と革新が調和した現代の郷土玩具

    「九州の郷土玩具といえば雉子車(きじぐるま)が有名でしたが、今では九州中で作る工房は数カ所しかありません。世の中に知られず衰退していくことは寂しいことです。まずは郷土玩具の存在を知ってもらいたいですね。」と郷土玩具を啓蒙することに対する熱い想いをにじませます。

    近年では新しく若い作り手が増えてきています。初代の作り手たちから2代目、3代目へと継承されていけば、今後もずっと日本の郷土玩具は残り続ける。そう信じて瀬川さんは若い作り手たちを積極的に応援しているのだそうです。

    8年間、必死に郷土玩具と関わり続けてきたことで今では「九州の郷土玩具といえば山響屋」と認知されるようになってきました。

    郷土玩具に興味を持った企業が瀬川さんに直接問い合わせてくることも少なくないそうです。企業側のやりたいことを伺い、作り手をつなぐ紹介人の役目も担っているという瀬川さん。自らの足で1軒1軒の工房を巡って作り手さんをよく理解しているからこそこなせる役目です。こうして山響屋は今までになかったようなコラボレーションを生み出しています。

    伝統的な作り方は引き継ぎつつ、現代のニーズにあわせたサイズ感の新たな郷土玩具。発信場所をテレビや雑誌だけでなく、SNSの場へと拡大。日本のトレンドが集結する街、渋谷でポップアップストアを開いたり、招き猫やだるまの絵付け体験を提供したり。若者と郷土玩具を結ぶ場を積極的に創りあげています。

    「若い世代も含め郷土玩具を知らなかった層にリーチできるようになった」と瀬川さんは語ります。古き良き伝統と現代のニーズを組み合わせることで新たなカルチャーの誕生を予感させます。

    瀬川さんは多くの人に郷土玩具の存在を知ってもらうだけでなく、郷土玩具を通してできたコミュニティーを大切にしようとしています。「古くて販売されなくなってしまった玩具もたくさん持っているので、それぞれの商品のストーリーを書いて展示するスペースを作りたいと思っています。そこに郷土玩具好きが集まって、郷土料理を囲みながら団らんできたら面白いかなと思うのです。」と楽しそうに話してくれました。

    お土産にも、ギフトにも! おすすめしたいネオ郷土玩具5選

    県外からのお客様が多いという山響屋。自分へのお土産以外に出産・開店祝いなどギフト用に郷土玩具を購入していくのだそうです。若い世代にもおすすめしたい郷土玩具を瀬川さんに5つ選んでもらい、紹介していただきました。

    ①縁起物のプレゼントなら「ヤチコダルマ」(福岡)

    ギフトやお土産にと山響屋で人気ナンバーワンなのは「だるま」。おすすめは、福岡県の女性職人さん「ヤチコさん」が作る「ヤチコダルマ」です。元々だるまのコレクターだったヤチコさんが作り始めた「ヤチコダルマ」は、表情がやわらかく可愛らしいのが特徴的。ものによっては手足があったり、どこかを覗き込んでいるような表情のものなど少し“おとぼけ”なのがとても愛らしいです。今年らしくておすすめなこちらの商品は頭に干支が乗っており、まさに縁起物。手のひらサイズの大きさなのでお土産には最適です。

    ②シュールで愛らしい「団子猿」(熊本)

    悪病・災難除け、子孫繁栄などのお守りとしても用いられる素焼きの土人形「団子猿」はちょっとユニークなものを探している人におすすめ。見方によっては海外の民族に伝わるお面のような雰囲気も醸し出していて、小さくてもインパクトのある造形です。型を使わず指だけで成形し素焼きして作られているので、1つ1つ微妙に形が異なるのだそう。なんともシュールな見た目が愛らしいですよね。

    ③一度見たら忘れられない「ごん太」(福岡)

    福岡県福津市の津屋崎地区で240年余りの歴史を誇る郷土玩具「津屋崎人形」の1つである「ごん太」はインパクトがあって楽しい逸品です。小・中・大と3つのサイズが作られています。元々は「素焼きの人形を口に含むと癇癪(かんしゃく)が治る」と信じられている赤ちゃんのおしゃぶりだったそう。米粉を使って色付けされているので口に入っても大丈夫だということですが、置物として購入される方が多いようです。立たせることもできますが、寝かせたり、何かに寄り添わせたりしても面白いですね。

    ④縁起は倍で招きたい「招き福助」(岡山)

    江戸時代にで流行した福人形の福助は知っている方も多いかと思います。大きな頭とちょんまげが特徴の福助ですが、定番はお辞儀をしている姿。この岡山浅口市鴨方(かもがた)町で作られている土人形「鴨方土人形」の招き福助は、招き猫を抱き、店内に招く姿をしています。招き猫と福助のダブルで願掛けする意味を持たせて2つを掛け合わせたのだそう。今も昔も、「あわよくば多くの願いを叶えたい」のでしょうか。そんなところに人間味を感じます。

    ⑤どこをとっても美しい「とんころ」(飛騨高山)

    店内で目を惹かれて思わず手に取る方が多いのが「とんころ」。五角形が12面張り合わせてあるサイコロのようなものですが、各面には花札の柄が描かれています。木版の美しい絵が魅力的ですね。転がすとカランカランと綺麗な音を出します。子供が喜びそうですが、どのような経緯で作られたのか、どのように遊ぶのかは知られていないんだそうです。「よくわからないけど面白い。」これも、歴史の長い郷土玩具だからこその楽しさなのかもしれません。

    基本的には作り手と直接会って郷土玩具を買い付けるという瀬川さん。会いに行って、コミュニケーションをとっている瀬川さんのおすすめには愛があります。なんの知識もなく「かわいい」「面白い」と感覚的に手にとった郷土玩具に、瀬川さんの語るストーリーが加わることで、その郷土玩具が生まれたローカルにぐっと近づくことができる気がします。「山響屋」でそんなたくさんのストーリーたちと出会ってみてはいかがでしょうか。

    山響屋
    福岡県福岡市中央区今泉2丁目1−55 やまさコーポ101

    (外部サイトに移動します。)
    http://yamabikoya.info/