北海道札幌市
2023.04.04 (Tue)
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海鮮、野菜や肉類、乳製品など、北海道のグルメは魅力的な食材がたくさんあります。広大な北の大地が育んだおいしい食材は、今や北海道の代名詞といえます。そんなグルメ大国で生まれ、何度も日本各地でブームになっているのが「スープカレー」。札幌発祥のご当地グルメとして広く知られていますが、そもそもなぜ札幌で生まれたのでしょうか。年間300食ものスープカレーを食べるという専門家にお話をうかがってきました。
札幌市内には「スープカレー専門店」がなんと200軒以上あるといわれています。家庭でもよく食べられている、まさにローカルフードです。聞いたことがある方は多いと思いますが、そもそも「スープカレー」とはどういったものを指すのでしょうか。
今回話をうかがった玉木雅人さんは、30年近く前に初めてスープカレーと出合ってからというもの、その魅力に惚れ込んで「スープカレーを世の中に広める」というミッションを背負い活動しています。
普通のカレールーにはとろみがありますが、スープカレーはサラサラしています。といっても、カレーを薄めたものではなく、出汁やスパイスが効いたスープをカレー味に仕立てているもの。同じカレーという名前がついていても、いわゆるカレーとは作り方がまったく違うものなのです。
「最初はスープカレーという単語はまったくなかったんですよ。スープカレーの始まりは“喫茶店の薬膳カレー”。アジャンタという札幌市内の喫茶店の店主・辰尻宗男さん(故人)がご自身のお父様の健康のためにスパイスと漢方を独自に研究して薬膳スープカレーを作っていたそうなんです。1970年代前半のことですので、今からもう半世紀も前の話。当時は具もない、ご飯にかけるだけの簡単なものだったそう。出汁をとったら捨ててしまっていたチキンレッグを、『捨てるくらいなら乗せてくれ』と常連客がリクエストしたことがスープカレーの始まりとされています。」
とはいえアジャンタは当時まだ知る人ぞ知るような存在。まだまだご当地グルメという知名度にはほど遠いものだったようです。
「1980年代には『スリランカ狂我国』通称「スリ狂」というお店(現在は閉店)が、爆発的な人気になったんです。スリ狂のカレーは、アジャンタともまったく違い、トマトとスパイス、油と塩をベースにしたスリランカ風カレー。あまりにも人気だったので、こちらに影響を受けて、「スリランカカレー」「スリランカ風カレー」と名乗るお店が札幌に徐々に増えていき、その中からいくつか現在でも人気のお店も生まれてきたんです。」
「スリランカ風カレー」が人気になったことで、似たような形状のお店が徐々に増えていったのだとか。それでもお店によって「薬膳カレー」「スリランカカレー」「インドカレー」など、ネーミングはさまざまでした。この料理をスープカレーと命名したのは、1993年にオープンした「マジックスパイス」といわれています。
「マジックスパイスが、アジャンタやスリ狂など他のお店に、“スープカレー”と名乗りませんかと呼びかけたそうです。店によって全然違う味だとしても、わかりやすい共通の名前をつけることで、一気にみんながその名前を呼び始めました。みんな知っているのに、新しい。それまで“あれおいしいよね”とバラバラだった話題が一気に同じ会話になったという感じでしょうか。かゆいところに手が届いた感覚がブームにはまって、スープカレーは一躍人気ご当地グルメの座に躍り出たんだと思います。」
誕生の経緯こそ、たまたま札幌で生まれたスープカレーですが、単なるブームにとどまらず、ご当地グルメとして育まれた経緯にはどうやら必然性があるようです。
北海道はもともと、ラーメンをはじめ、スープの食文化が根付いています。なので“出汁”がベースの汁物は寒い北海道とは親和性が高いようです。
さらに、札幌特有の街の特徴が大いに影響していると玉木さんは話します。
「札幌は“これじゃないとダメ”というある種、決めつけみたいなものがまったくありません。新しいものや今までにないもの、に対してのハードルが低く、なんでもとりあえず受け入れてみる……。新しく何かのスタイルを作るのが好き、という土地柄もあるんだと思います。」
「スープカレーとはこういうものである」という決められた定義が曖昧なのも札幌らしさ。おいしければ何でもアリ、という札幌の飲食店文化が、結果としてスープカレーを進化し続けさせているのだといえそうです。
例え同じ具材を使っていたとしても、店によって出汁やスパイスの配合が違うので味がまったく違います。身体にじんわり染みるスパイスは実に奥深い味わい。トッピングの野菜は素揚げされることが多いのですが、その揚げた野菜からは油が染み出し、スープのコクを更に深めてくれるのです。お気に入りの味を求めてスープカレー巡りをする人たちも続出し、ファンがどんどん増えたのでしょう。
個性的な店舗がその味を競い合うことによって、札幌のスープカレーシーンは大きく盛り上がっていったのです。
札幌のご当地グルメとしてその地位を確率したスープカレーですが、その名を全国区に知らしめたのは、スープカレーを愛する人々の存在が大きいのだといいます。
「北海道出身の俳優がスープカレーをさまざまなメディアで紹介しているのを見たことがある人も多いと思いますね。また、日本ハムファイターズ、コンサドーレ札幌などの所属選手がインタビューで紹介するなど、著名人がさまざまなところで“スープカレー”の名を出してくれました。今までは『札幌だけのもの』だったのが、全国区の知名度へと変化していったのは、このいわゆる“広報活動”の影響がすごく大きいといえます。」
グルメ情報・観光情報を掲載するメディアが増えたことと、スープカレーの店舗が増えていって札幌の食文化として定着した時期が合致したことで、スープカレーは、札幌のご当地グルメとしての知名度を高めていったのです。タウンガイドやフリーペーパーなど、多様なメディアの影響は大きいといえるでしょう。
長い間、札幌でスープカレーを食べ歩き、関連書籍を複数出している玉木さんに、おすすめのお店を教えてもらいました。味わいもトッピングも何もかも違うスープカレー、札幌の“いま”を感じられるスープカレー店です。
前述した「スリ狂」は爆発的に人気だったので、現在の人気スープカレー店は、スリ狂に影響を受けたお店も多いのですが、「gop アナグラ」もその1つで、スリ狂の店長だった方が立ち上げたお店です。
「gop の売りはなんといってもスープそのもの。見事なスパイスの調合と呼べるスープカレーなんです。出汁の旨味の強弱で味を決めるお店もありますが、gopはとにかくスパイスの奥深さを楽しめるカレーです。」(玉木さん)
gopのアナグラ
住所:札幌市西区山の手3-6-1-17
営業時間:11:30~21:00 LO(日・祝20:00 LO)*売り切れ次第終了
定休日:木曜
公式twitter(外部リンクに移動します)
https://twitter.com/gopnoanagura
札幌で3店舗を展開する人気店が「KING」です。
「こちらはラム肉の入ったカレーがすごくおいしいんです。店主は四国出身の方なんですが、ラムが苦手で、『自分でもおいしく食べられるように』と研究を重ねて作り上げた絶品なんですよ。僕は県外から来られた方にはここを案内することが多いです。」(玉木さん)
札幌を訪れるとジンギスカンを食べる人も多いですが、食べやすく開発を重ねられたラムのカレーはまったく別物で、絶品のラムは必食の逸品です。
KING 本店
住所:札幌市豊平区平岸3-16-1-1
営業時間:平日 11:30〜15:30(15:00 LO)/17:30〜21:30(21:00 LO)
土日祝 11:30〜21:30(21:00 LO)
公式twitter(外部リンクに移動します)
https://twitter.com/soupcurry_king
「ソウルストアさんは、スープカレーシーンの進化において外せないお店ですね。シグネチャーメニューには揚げた大きなゴボウがどんと乗っています。おいしさにプラスして、見た目でどこのお店のものがすぐにわかるくらいの演出をする、ということがスープカレーの格をまた1つあげてくれた存在ですね。」(玉木さん)
SNS時代では当たり前になりましたが、見栄えでも話題化するということを初めにやり始めたのがソウルストアのカレー。思わずカメラを構えてしまう美しさはまさに芸術と呼べます。
SOUL STORE
住所:札幌市中央区南3西7-3-2 F−DRESS7BLD 2F
営業時間:11:30~15:00 LO、17:30~20:30 LO
定休日:不定休
公式Twitter(外部リンクに移動します)
https://twitter.com/soul_store
札幌市内に200軒以上あるといわれているスープカレー店の中から、今回は3店舗を厳選して紹介していただきました。個性的な店舗それぞれが自慢のスパイス調合やこだわり抜いた出汁で北の恵みを堪能させてくれます。現在に至るまで人気を保つローカルフードには、札幌の“いま”が映し出されているようですね。