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造船古材が家具に-仲間と共に漕ぎ出した「瀬戸内造船家具」

造船古材が家具に-仲間と共に漕ぎ出した「瀬戸内造船家具」

愛媛県今治市

    2023.04.14 (Fri)

    目次

    瀬戸内海を臨む愛媛県今治市は、全国有数の「造船のまち」です。古くから瀬戸内海の海上交通の要所であり、現在では国内で製造される船舶の30%以上が、今治産といわれるほど。そんな今治の地で、「瀬戸内造船家具」は生まれました。

    アップサイクルブランド、瀬戸内造船家具

    造船と家具。イメージがかけ離れた単語が並び、どんなブランドなのか気になる方も多いのではないでしょうか。「瀬戸内造船家具」とは、造船の現場で使われた古材を家具にして販売するアップサイクルブランドです。

    不用品を再利用し、魅力あるプロダクトを生み出す“アップサイクル”。環境にやさしいだけでなく、暮らしや社会をよりよく変えるクリエイティビティーが求められます。単なる中古品を超え、さらに新品にはない「新たな価値」を生み出した、瀬戸内造船家具によるアップサイクルの取り組みをご紹介します。

    着目したのは、足場板の「ビンテージ感」

    今回お話をうかがったのは、浅川造船の村上賢司(むらかみ けんじ)さん。現在は、東予工場(愛媛県西条市)で製造部長を務めるかたわら、自ら立ち上げた瀬戸内造船家具を運営しています。

    「もともとは、東京で記者の仕事をしていました。でも、父が病に倒れたことをきっかけに、家業である浅川造船を継ぐことに決めたんです。2011年に妻と今治に戻り、翌年に家を建てようと考えたとき、造船工場にある古材のことが頭をよぎりました。」

    ここでいう古材とは、「足場板」のこと。造船の現場では1隻あたり約1万本の足場板が必要で、数年周期で取り替えられていきます。その大半は焼却処分するしかなく、造船業界にとって積年の課題でした。

    足場が組まれた造船現場

    「本来は捨てられてしまう足場板ですが、使い込まれたビンテージ感があって、私たち夫婦にとって魅力的に感じました。」と村上さん。

    そこで、知り合いの家具職人に依頼し、足場板を新居の家具の材料として使いました。ここで作られたダイニングテーブルや飾り棚が、のちに「瀬戸内造船家具」が生まれるきっかけとなったのです。

    1万枚の足場板をどうする? 仲間を集めてアップサイクルブランドへ

    村上さんが足場板に着目してから8年後、2020年に「瀬戸内造船家具」は生まれました。創業の背景には、足場板を木製からアルミ製へと置き換える動きがあったといいます。

    「2018年頃から、アルミ製へ順次移行することになったんです。工場の敷地内には、不要になった足場板が1万枚近くも積み重なってしまって……。」

    当時の様子

    「生産現場なのに、大量の物が置かれてしまっていては効率的に作業もできません。早急に処分しなくてはいけないけれど、焼却炉で燃やすにしても、細かく切断する手間がかかってしまうし、CO2排出の問題もある。産業廃棄物として処理してもらうにはかなりの費用がかかってしまう。頭を悩ませました。」と、当時を振り返ります。

    そんな時に思い出したのが、自宅で愛用している家具。足場板の経年変化を活かしたアップサイクルで、新たな価値を生み出せるのではないかと考えました。そこで、記者時代から付き合いのあったオズマピーアールの一ノ瀬さん、愛媛県伊予市でインテリアショップ『ConTenna』を運営する真聖建設の吉野さんに声をかけ、異業種3社共同でのアップサイクルブランドが実現したのです。

    古材の味が生きる、ビンテージ調家具

    こうして生まれた瀬戸内造船家具では、注文を受けてから職人が1つ1つ手作りで家具を作っています。

    資材として使う足場板には、船を建造する過程でついたペンキや焦げ、ワイヤーで縛っていた跡などが残り、個性豊か。また、現場で作業員の安全を守っているだけあって、一般に流通している資材と比べると強度も優れているのだそう。

    • 足場板は国産天然杉からできており、長さは3m、厚さは50㎜ほど

    足場板をカットして、心地よい手触りになるよう、かんなをかけます。ここで削りすぎないことで、古材独特の風合いが残るのだといいます。そして安全性が高い天然塗料で仕上げ、家具へと生まれかわっていきます。

    家具の脚部分には、色ムラがあり素材感も楽しめる黒皮鉄を採用し、さらに強度を高めているのだとか。1つ1つの素材や工程にこだわりが詰まっています。

    こうして丁寧に作られる家具の魅力は、新しい資材や、古く見せるエイジング加工では醸し出せない、とても趣き深い味わいです。鉄などの素材を組み合わせたインダストリアルな雰囲気も魅力を引き立て、最近では個人だけでなく、飲食店などからの注文も増えてきているそうです。

    できることを柔軟に。広がりゆく地域との取り組み

    廃棄処分されてしまう古材が減り、オンリーワンという付加価値が加わったプロダクトを生み出し、CO2の削減にもなる「三方よし」のアップサイクルを実現した瀬戸内造船家具。この事業を始めたことで、浅川造船の社内にも好影響があったと村上さんは話します。

    「今までは不用品として見ていた足場板が、魅力的な家具に生まれかわったことで、工場の中にある使用済みの資材が何かに利用できるのでは? という発想の転換ができるようになったんです。船体の湾曲している部分や細かな部分では木製の足場板がまだまだ活躍していますし、その他にも造船所で使う資材はたくさんありますから。」

    そう話す村上さんに今後の展望をたずねると、「展望はないんです」と意外な答えが。

    「決まった展望がないのが、このプロジェクトの良いところかと(笑)。それぞれの本業が優先。何か課題が出てきたら、その時に考えてみる、そういうスタンスで良いと思っています。持続可能な限り、肩肘張らず、私たちにできることを柔軟にやっていくだけです。」

    できることを柔軟に。その言葉通り、瀬戸内造船家具では地域のためにさまざまな取り組みを始めています。例えば、売りあげの10%を愛媛の子どもたち、将来を担う人材育成のために使う基金として積み立てることもその1つ。

    「足場板のアップサイクルだけでなく、もっとできることはあると思います。瀬戸内造船家具としては、まだまだ序章の段階ですよ。」

    持続可能な明日に向けて、瀬戸内から船出を

    伝統ある地域産業でありながら、環境課題を抱えている造船業界。古材のアップサイクルを通じて、造船と地域のサステナブルな関わりを模索する瀬戸内造船家具は、船が大海へとのりだすように、未知なる明日へ向けて航海しています。

    瀬戸内造船家具
    公式サイト(外部リンクに移動します)
    https://setouchi-upcycle.jp/

    瀬戸内造船家具
    販売サイト(外部リンクに移動します)https://www.iichi.com/shop/contena

    浅川造船株式会社
    公式サイト(外部リンクに移動します)http://asazo.com/