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広島発「みんなと私が共存する」ウェルビーイング。次世代型のコミュニティーminagartenに大注目!

広島発「みんなと私が共存する」ウェルビーイング。次世代型のコミュニティーminagartenに大注目!

広島県広島市

    2023.05.16 (Tue)

    目次

      広島市の「minagarten(ミナガルテン)」は、佐伯区皆賀の園芸事業跡地をリノベーションした複合施設。「人と暮らしのWell-being(幸福)」をテーマとし、緑豊かな住宅地と施設を舞台に、食・文化・芸術などを共に分かち合う次世代型コミュニティーです。地域の人々の憩いの場でありながら、外の人との積極的なつながりを持つことによって自己実現を叶えられる場は、いま、さまざまな枠を超え大きな動きを見せています。今回、仕掛け人である谷口千春さんにお話をうかがいました。

      元園芸資材倉庫をリノベした大人気スポット

      JR広島駅から西へ車を走らせること約30分。広島中心部のベッドタウンとして機能する広島市佐伯区皆賀の住宅街の一画に、朝から人が絶えない人気スポットがあります。地名である皆賀(みなが)と、ドイツ語で庭を意味する「garten」をかけあわせた「minagarten(ミナガルテン)」は、カフェやショップの機能を複数持った複合施設です。さらにフィンランド語で「私、個人」を表すmina(ミナ)と、日本語の「みんな」もその名に託し、「1人1人が持って生まれた個性の種を最大限に育て、この庭で大きな花を開いてもらいたい」というビジョンで運営されています。

      2020年の誕生以来、段階的にワンフロアずつリノベーションを重ねてきた3階建ての元園芸資材倉庫。開放感を生み出す吹き抜け、ガラス張りの壁から差す柔らかな陽光、植物の生命力を感じる大壁面を設けた空間に1歩足を踏み入れれば、どこか懐かしい安心感に包まれます。スタートからわずか3年で、1日平均150人、年間5万人近くが訪れる、賑わいの場の魅力に迫っていきましょう。

      五感をフルに使って楽しめる大空間「minagarten」完全案内!

      1階のエントランスを抜けると、食欲をそそる香りが漂います。こちらは、ベーカリー&カフェ「companion plants」。東京の人気店「365日」から独立し、各地の人気ベーカリーを手がける佐藤一平シェフが立ち上げた広島初出店のパン屋さんです。

      素材にこだわった約40種類のパンがラインアップ。新作もぞくぞく! 野菜たっぷりの色鮮やかなモーニングやカフェプレートも大人気です。その確かなクオリティーと、テンションを上げてくれる見た目に惹かれ、パン好きやカフェ好きはもちろん、多くの人がこの場所に足を運びます。

      • 右上:一番人気の塩パン「きゅーこんパン」左下: クロックムッシュ 右下:紅茶ブリオッシュ

      その横には、日替わり珈琲スタンド「watering duty」が並びます。「水やり当番」を意味するこちらは、7人のバリスタが所属し、日によってメンバーが変わります。バリスタごとに違うコーヒーが楽しめるのも、通って楽しいポイントといえるでしょう。

      訪れた人は、パンやコーヒーをイートインスペースで楽しむことができます。

      どこを切り取ってもおしゃれで緑も陽の光も気持ちいい空間。思い思いにくつろぐことができます。窓際コンクリートベンチは、ペット同伴もOK!

      1階イートインスペースの奥には、新たなスタイルのシェア型本屋「mina books」があります。

      広島を代表する個人書店「READAN DEAT」、「本と自由」、「nice nonsense books」の他、地元小学校で読み聞かせボランティアを続けている母親グループの絵本専門店「みつばち文庫」など、計9つの魅力的なスペースが連なっています。「書店の中でお気に入りの書店を見つけられる」のは「mina books」ならでは。書籍を買うのはオンラインでも可能ですが、わざわざ足を運ぶことによって新たな出会いをもたらしてくれる、本好きのコミュニティーの場となっています。

      2階へ上がると、広々としたキッチンスペースが備え付けられています。普段はベーカリー&カフェのイートインスペースとして利用されていますが、料理教室や講座などの開催日にはレンタルキッチンに様変わり。1Day POP UPカフェの営業も。キッチンを活用したさまざまなイベントを通して、おいしいをシェアする空間です。

      店内には週末や翌月のイベント開催のお知らせがずらり並んでいます

      このスペースは坂の上の駐車場ともつながっているため、来店者はここからも入ることができます。活発に人が行き交う空間となっており、「上には何があるんだろう?」と1階から上がってくる人や、ここから入ってきて「1階はカフェになっているんだな」と下りていく人など、誰でも施設内を自由に行き来できる空気がつくられているのです。

      同フロアには、プライベートサロン「salon élan vital」が構えます。フランス語で「生命の躍動」を意味するスペースには、ヘアサロン、小顔矯正、腸マッサージ、クレイトリートメントなどのスペシャリストたちが曜日固定で登場。ユーザーの「自分らしく生きる」を叶えてくれる場として、各オーナーに多くのファンが付く、美と心身の健康の集積地です。

      隠れ家のような雰囲気を持つ3階の名は「屋根裏の猫」。

      岡山のアンティーク家具と雑貨のお店「海猫」がセレクトする食器や家具などが販売されています。その他、新進気鋭のクリエーターやアーティストが自己表現する場としても開放し、創作物の展示や販売も随時行われており、そのクリエーター自身がこの場所の店番を交代でつとめているのだそうです。

      「minagarten」はこのメインとなる建物内だけにとどまりません。道を挟んで向かいにある分譲住宅と賃貸住宅が建つハウジングエリア、裏手に構える中期滞在型レジデンス「mina residence -a room for artist-」、谷口さんのお母様が管理するシェア農園「ミナバタケ」。そして不定期で開催される音楽や芸術イベント、立地する地域である五日市の地名にちなみ、毎月5のつく日に開催される「5’s マルシェ」。一見共通点のないように見えるそれぞれのコンテンツやプログラム、そしてこの場に集まる人がまるで葉脈のように交差することで「minagarten」というコミュニティーを形成しているのです。

      逆境を乗り越え掴んだのは、「ほしい未来の縮図」

      「minagarten」誕生には、代表を務める谷口さんが抱く、家族や地域、そして広島への並々ならぬ想いがあります。埼玉県で生まれた谷口さんは、祖父母の代から続いた園芸の卸売業を継ぐため、家族で広島へ移り住んだそうです。皆賀では、小学6年生からの8年間を過ごし、京都大学、そして東京大学大学院へと進学。建築を学んだ後、入社した会社や転職先でさまざまな事業に関わり多忙な日々を送っていた谷口さんに転機が訪れたのは2017年。谷口さんのお父様が体調を崩され、家業を閉業。残された土地、そして建物を再生・活用するプロジェクトに着手することになりました。

      「今思うと、東京では働きすぎていました。日々のオーバーワークで自律神経を幾度も崩し、公私共にあらゆる難が降りかかったどん底のタイミング。でもそれが逆に、チャンスだと思えました。家業の再構築だけでなく、自分自身を取り戻すタイミングだと。」
      そんな谷口さんが掲げた「minagarten」のコンセプトが、Well-being(ウェルビーイング)です。

      「ウェルビーイングとは、心身が健康で、社会的なつながりにも満たされた幸福な状態を指します。最近の研究では、個人の才能を発揮する場所の存在や、自身の感情を正しく味わい尽くすという2つの定義が加わっています。『minagarten』は、みんなの庭です。集う人全員が自分らしく振る舞い、能力を発揮でき、自然とコラボ―レーションが生まれる場所を目指してきました。その循環が自動生成されれば、社会全体の豊かさに繋がることを私自身が実感してきました。スタートして3年経った今、描いていた理想像にかなり近づいていると感じています。」

      確かに、ここに集う人たちの幅広い年齢層は「minagarten」の特徴の1つだといえそうです。「minagarten」の顔であるSNS映えしそうなカフェやベーカリーとくれば、若い人たちの溜まり場となりそうですが、広い空間を見渡せば、赤ちゃんから年配の方、男性も女性も関係なく集っています。

      「私たちの欲しい未来の縮図をつくることも、1つのテーマとして企画し運営してきました。昔から、外部と内部が入り混じった曖昧な空間がすごく好きなんです。つい、黒か白かという二項対立の世界で物事を考えてしまいがちですが、大抵の概念や出来事にはグラデーションがありますよね。本来なら分けられないはずのものを無理やり分けようとするから、苦しい思いをする人が出てくる。ありとあらゆる垣根を取りはらうのが、『minagarten』が目指すあり方なんです。」

      「曜日がわり」や「シェア」の概念を持ち込むことで、多くの人が「minagarten」を舞台に、自分らしい働き方を体現しています。訪れる人には常に新しい発見や楽しさが生まれます。「人を呼ぶ」ためには「作る人を呼ぶ」ことに力を入れているのも「minagarten」らしさかもしれません。地域の人々の間では「今度『minagarten』でイベントをやるから来てね」「顔出すね」なんて会話が頻繁に繰り広げられているのでしょう。

      人と暮らしのウェルビーイングを新たな領域へ

      設立からわずか2年後の2022年、「minagarten」は、広島市のひろしま街づくりデザイン賞「街並み部門」受賞という快挙を成し遂げました。さらに谷口さんは、広島市中心部のまちづくりを進めるプロジェクト「都市toデザイン」の企画ディレクターとしてのキャリアもスタートさせ、ここで実現させている「ほしい未来の縮図」を広島全体に波及させる取り組みに携わっています。

      「理想とする社会の縮図ができたら、その後は広島の街全体に広げていきたいと思っていました。思いがけずUターンして、自然環境も近くコンパクトで住みやすい広島の魅力を感じています。反面、若い人たちの人口流出が多く、保守的で他地域との連携が少ない自己完結型な面があるのが残念なところです。平和都市としての広島も、形骸化させず、新しい世代でポジティブなアクションを起こしていく必要があるとも思っています。」

      谷口さんが「minagarten」に落とし込んだのは、調和かもしれません。複数のものごとや人を、1つの空間でどう出会わせ、幸せを創造していくかという壮大な実験の集大成のようでもあります。

      「将来お店をやってみたいけどまだ自分に自信がない若者や、子育ての合間だけどチャレンジしたい人、リタイアしてから新しいことに挑戦している人。そんな人たちの背中を押してあげられる場でありたいと思っています。」

      その原動力となっているのは、谷口さんのポジティブな「人を巻き込む力」。

      「どん底の始まりからこれまで、自分を鼓舞しながら前に進んできました。熱意の延長線上には必ず結果が待っています。今辛い状況に置かれている人、アイデンティティーに悩んでいる人に寄り添える場所でありたいですね。3年あれば、自分は変われる。なりたい自分になれる。世の中を変えることだってできる。この体験そのものを次の世代に伝えていきたいですね。」

      バイリンガル郷土史本の製作、シェア型本屋の拡大、全国・世界とつながる試みなど、まだまだ「minagarten」の挑戦は続きます。誰もがまだ気づいていないローカルの魅力を引き出し、光を当て、温かい気持ちを注ぐ。谷口さんが蒔いた未来のタネはすくすくと育ち、大きな花を咲かせようとしています。

      谷口千春

      幼少期より作曲・漫画・演劇などの創作文化活動に親しみ、京都大学・東京大学大学院では建築学を学ぶ。2017年夏、家業の園芸卸売業の廃業を受け、広島市郊外の住宅街でまちづくりプロジェクト「minagarten(ミナガルテン)」を始動。「人と暮らしのWell-being(幸福)」をテーマに、17戸の緑豊かな住宅群と園芸倉庫をリノベーションしたコミュニティ施設を開発。裏通りの住宅街に日平均150人・年間5万人を呼ぶ人気施設となる。第18回ひろしま街づくりデザイン賞「街並み部門」受賞。
      その他「キッザニア東京」(2007)/「きものサローネ in日本橋」総合プロデュース(2015)/「MOTHERHOUSE シミント広島店」企画ディレクター(2023)/広島のまちづくりヴィジョンを共創する「都市toデザイン」企画ディレクター(広島都心会議主催 2023)などを手掛ける。

      minagarten(ミナガルテン)(外部サイトに移動します。)https://minagarten.jp/