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祈りと想いが繋ぐ真の美しさ。新潟県・長岡花火のいまを知る

祈りと想いが繋ぐ真の美しさ。新潟県・長岡花火のいまを知る

新潟県長岡市

    2023.07.28 (Fri)

    目次

      ※トップ画像 提供:長岡花火財団

      毎年8月2日、3日と2日間に渡り開催される、日本三大花火大会の1つ新潟県の「長岡まつり大花火大会」。あるランキングでは、見たい花火大会の1位になったことも。この花火大会の始まりは、全国的にも珍しい追悼の想いからでした。ともすれば風化してしまいがちな「想い」を未来にどう繋いでいくのか。長岡花火に携わる方々のお話をうかがいました。

      追悼と復興を願う3日間

      長岡市での取材でまず訪れたのは「長岡花火財団」。
      事務局長を務める戸田幸正さんに「長岡花火」の成り立ちをうかがいました。

      「1945年8月1日に長岡市は戦争で空襲を受けました。この時に多くの方々が亡くなられ、その追悼そして復興を祈念し、翌年から始まった長岡復興祭がこの『長岡まつり』の原点なんです。1日は慰霊の思いで。2日・3日は復興、未来に向けて歩もう、そういった意味合いで長岡市民の皆さんはこの3日間を過ごしています。」

      3日間ある「長岡まつり」のうち、2日目と3日目が花火大会として知られていますが、初日にも大きな花火が上がります。

      長岡の夜空に打ち上がる、白菊。提供:長岡花火財団

      空襲のあった8月1日の22時30分に打ち上げられる、3発の花火「白菊」。ゆっくりと上がっていき、しんなりと開く真っ白な花火です。1,488名もの戦災殉難者に手向ける鎮魂、慰霊の花火で、長岡まつりは幕を開けるのです。

      「うちの花火大会は、発数や玉の大きさ、動員数といずれかが日本一というわけではありません。けれど近年、日本一といっていただけるような花火大会となりました。その大きな要因は、『慰霊』と『復興』『平和』といった想いで打ち上げているからだと考えています。」(戸田さん)

      長岡花火財団が設立されたのは、2017年。同時に長岡まつり大花火大会の打ち上げを担当する花火師の集まりである長岡煙火協会も設立されました。花火大会のプログラム構成のさらなる充実をはじめ、長岡花火ブランドの価値をさらに高めていくことを目的としていると同時に、花火大会が競技会にならないようにするための抑止の意味合いもあるのだそうです。

      新型コロナウイルスの影響で中止となった2年からようやく再開となった、2022年開催時のポスター。提供:長岡花火財団

      「うちの花火大会が認知されると同時に、花火の打ち上げに参画したいという県外の花火師さんからの問い合わせが増えました。たいへんありがたいことではあるのですが、長岡花火本来の目的が薄まっていきはしないか?と疑念が生まれたんです。大切なのは、何よりも“想い”の部分なので。」

      長岡花火で打ち上がる花火のほとんどは、地元企業が協賛しているのだそうです。それぞれの企業の慰霊、復興、平和への想いを花火師が形にします。この形にする作業にも想いが乗ると戸田さんは続けます。

      「この予算なら何発ですね、というようなやりとりはありません。『いかに想いを効果的に伝えられるか』という視点から花火師さんの製作は始まります。正直、花火師さんは採算度外視で、想いに想いを重ねて、毎年花火の製作をしてくださっていますね。」

      “見ていると、すーっと涙が頬を伝う。”

      そんな言葉で形容される長岡花火大会の起源は、そういったところにあるのかもしれません。

      今や花火大会の目玉。復興のための「フェニックス」

      1945年の空襲だけでなく、近年の災害で犠牲になった方への祈りも、長岡の花火には重ねられています。

      「2004年10月23日に発生した新潟県中越大震災では、最大震度7を観測。長岡市や周辺の地域は大きな被害を受けました。ここから早く復旧、復興しよう。みんなで頑張っていこう、という想いから“フェニックス”が始まりました。」と語るのは、NPO法人 ネットワーク・フェニックスの代表理事を務める大原邦夫さんです。

      復興祈願花火フェニックスは、音楽付きの超大型ワイドスターマイン。長岡市民が自分たちの心を支えるために打ち上げる花火は、震災や空襲、未来に向けて何度でも立ち上がってきたその想いを長岡市の市章で不撓不屈のシンボル「不死鳥」に重ね、こう命名されたそうです。

      「当時は長岡青年会議所のメンバーが中心となり、協賛金や募金を市民の方々にお願いして、フェニックスの打ち上げ資金としていました。」(大原さん)

      その名の通り、長岡市民を中心とした多くの方々が少しずつ資金を出し合って打ち上げる、まさに「みんなの花火」なのです。

      NPO法人 ネットワーク・フェニックスが運営する長岡花火情報室は、アオーレ長岡シアターに付設され、長岡駅から直接アクセス可能な複合型施設。5,000人を収容できるアリーナ、屋根付き広場に市役所が一体となった全国初の空間へと続く回廊には、この場所や花火への想いが記されています。

      「震災にあって、避難所や仮設住宅で暮らさないといけない方も多くいらっしゃいました。そんな皆さんの心の拠り所と当時なっていたのが、ラジオ。さまざまなリクエストが番組に寄せられていましたが、その中でも群を抜いて多かったのが、平原綾香さんの『Jupiter(ジュピター)』でした。」(大原さん)

      歌詞の随所に自分たちの境遇と重なる部分が多く、勇気づけられた人が大勢いたこの曲でフェニックスを打ち上げたい。当時の関係者は、平原さんのもとを訪れ、曲の使用を直談判したのだそうです。平原さんご本人から快諾していただき、2005年に初めて、フェニックスが打ち上がりました。

      フェニックスは、見る人を圧倒するプログラム。提供:長岡花火財団

      「翌年からは『震災復興祈願花火』の『震災』の文字を取り、今に続いています。現在、フェニックスは全国を励ます花火として長岡花火を飛び出し、石巻やホノルルなどでも打ち上げを行い、皆さんの心を支える花火という一面も持つようになりました。」(大原さん)

      他では類を見ない全長約2キロの超ワイドスターマイン。あまりの長さで視界に収まらないほどの大迫力花火にも、さまざまな想いが込められています。

      “綺麗だから見に来た”人にも、より深く知ってもらえる「長岡花火ミュージアム」

      「県内外問わず、長岡市以外の方々は、どうして花火大会が始まったのか、知らない方がほとんどです。だからこそ、うちの施設が存在する意味は大きいと考えています」と話すのは、2020年に誕生した道の駅 ながおか花火館の駅長・武士俣一樹さんです。

      同施設内にある「長岡花火ミュージアム」は、ドームシアター、展示室、花火ギャラリー、ミュージアムショップで構成。オープンがコロナ禍の真っ只中であったのにも関わらず、2023年5月には来館者数300万人を達成した人気観光スポットとなっています。

      「今年のゴールデンウイークあたりから、お客様の層が変わってきたように思います。徐々に海外の方も増えてきている印象ですね。やはり人気なのは、ドームシアターです。」(武士俣さん)

      2階にあるドームシアターでは、長岡まつり大花火大会を疑似体験可能。プラネタリウムのようにリクライニング式のシートに横になりながら、天井に映し出された映像と座席の振動、臨場感ある音で、長岡花火を実際に見ているような錯覚に。年末年始と水曜日の休館日以外なら、ほぼ毎日、長岡花火を楽しめる空間となっています。

      また、ミュージアムショップでは、お土産にぴったりなアイテムが購入できます。Tシャツやポストカードのほか、写真のペーパーモビール「正三尺玉-千輪-M」(税込2,090円)」などのような、スタイリッシュなデザインのグッズもラインアップしています。

      「ドームシアターやお土産などを目当てに来ていただくことが多いのですが、来訪者に最も好評なのは展示室ですね。」と語る武士俣さん。

      入館料無料の展示室にはプロジェクションマッピングにより花火ゲームを楽しめる「大はなビジョン」や原寸大の花火玉、花火筒などの現物など、わかりやすく楽しいコンテンツが人気ですが、ただ楽しむだけでなく、花火大会の歴史も学べるようになっています。

      「今や地元小学校の総合学習の場所としても使われているということこそが、この施設の真骨頂だと思いますね。」(武士俣さん)

      「長岡を訪れる理由は“人気イベントだから行く”“花火が綺麗だから現地で見てみたい”でもいいと思うんです。でもこの場所に来ていただくことによって、初めて歴史を知り、学びを深めていただく。この施設の意義はそこにあります。入場無料なのも気軽にいつでも見られる、そういった想いがあるからです。」(武士俣さん)

      歴史に触れることで、長岡の花火がなぜ美しいのか、その“想い”や“祈り”ゆえのものであると理解することができます。

      未来へ継承する、市民の文化

      提供:長岡花火財団

      長岡市民の想いがつまった文化である「長岡花火」。
      ただ伝統のものとせず、最新技術や未来へ繋ぐことで、想い・祈りを途切れさせないという強い想いが皆さんから感じられました。
      長岡花火財団では未来への継承のためにさまざまな活動を行っています。

      「財団ができた2017年に公式のスマホ用アプリを開発しました。このアプリでは、花火大会のプログラムやさまざまなニュースが見られたり、花火大会終了時に花火師さんにお礼の光を贈る際に使用する『なないろライト』などの特別な機能も持たせています。」

      提供:長岡花火財団

      「また、財団の職員が講師となり、市内の小・中学校で長岡花火の歴史や花火そのものの仕組みなどを伝える授業を行っています。こういった取り組みの背景にあるのは、『継承』という想いですね。しっかりと次の世代に、私たちが誇るべき文化とその意味を繋いでいくことが大事だと考えています。」と長岡花火財団の戸田さん。

      さまざまな人の想いが重なり、今に繋がる長岡花火。その歴史を知ることで、花火の本当の美しさに触れられるはずです。

      「長岡花火」公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://nagaokamatsuri.com/

      復興祈願花火フェニックス ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://phoenix-hanabi.jp/pc/

      道の駅 ながおか花火館

      住所:〒940-2121 新潟県長岡市喜多町707
      公式ウェブサイト (外部サイトに移動します。)
      https://nagaoka-hanabikan.niigata.jp/