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空間を蘇らせる「SKWAT」。場所の価値を転換する彼らの活動にある想いとは?

空間を蘇らせる「SKWAT」。場所の価値を転換する彼らの活動にある想いとは?

兵庫県神戸市

    2023.07.31 (Mon)

    目次

    大丸神戸店にパブリックスペースが新しく登場しました。一見するとアートインスタレーションなのか、展示のようにも見えます。このユニークな場所をつくるにあたりタッグを組んだのは「SKWAT(スクワット)」。大丸神戸店では、場の価値の転換に焦点を当てた取り組みを行っている彼らとともに、旧居留地に新たな価値を加え、旧居留地の歴史を誰もが感じることができるパブリックスペースを展開しています。「場の価値の転換」とは一体どんなことなのか、SKWATのメンバーに話をうかがいました。

    設計・デザイン事務所が手がけるプロジェクト「SKWAT」

    SKWATは、設計・デザイン事務所「DAIKEI MILLS(ダイケイ・ミルズ)」の中村圭佑さんが2019年の冬にスタートさせたプロジェクトです。“SQUAT(占拠する)”を語源とするこのプロジェクトは、都市の遊休施設を一時的に占有し、一般へ解放する運動です。

    「2011年に設立したDAIKEI MILLSで設計を主体とした活動をしていたのですが、10年近く経ったところで、もう少し社会の活動にアプローチできる表現がしたいなと考えました。その頃、東京は五輪のためにいろんな施設やホテルを多く作っているような状況でした。五輪後にはかなり空いてしまう場所ができるんじゃないかなと思って、ピンと来たのが、“SQUAT(占拠する)”だったんです。」

    SQUATは、元々1970年代からイギリスを中心に広まった活動。空き家や空きスペースを若者が不法占拠し、社会活動や政治活動の拠点としていました。近年ではアーティストの活動拠点として使用されることが多く、学生時代をロンドンで過ごした中村さんにとって、それはとてもインパクトがあったのだそうです。

    「アーティストの卵たちが不法占拠する、という本物のスクワットを目にして、すごく刺激を受けましたね。生々しさというか、何が起こるかわからない面白さ、ハプニング性。場所を占拠して、そこでアクションを起こす。そのこと自体が社会的なメッセージとなっていく……。経済合理性に囚われない活動というのがすごく意味を持っていて、五輪後の東京に増えるであろう空きスペースという社会課題に向き合うにはピッタリだと思いました。時代が変わっていくだろうな、というのもあって、2019年にSKWATとして活動を開始しました。」

    しかし、世界的なパンデミックの影響により東京五輪は1年延期に。皮肉にもパンデミックにより、予見していた「空きスペース問題」は想像以上に加速していくことになったのです。

    「価値を転換」? SKWATらしさとは

    中村さんの頼もしいパートナーのひとりが、山口イレーネさん。ドイツ生まれのドイツ育ちの彼女は、法律を専門とし、ドイツの国会で勤務した経験も持ついわばエリートです。

    「2019年に来日した時に、都市カルチャーとしての面白さみたいなものは東京にはあまりないのかなと感じて、少しモヤモヤしていたんです。でも友人の紹介で初期のSKWATと出会って、中村さんと会話した時に“ああ、同じ想いを持って活動しようとしている人がいる!”と。その頃はまったく日本語が話せなかったのですが、英語で中村さんと会話して、意気投合したのがSKWATに加わるきっかけですね。」

    また、もうひとりのコアメンバーである岩崎正人さんは、SKWATとの出会いは学生時代だったのだそうです。

    「僕は大学・大学院と建築を学んでいました。卒業論文のテーマが「SQUAT」だったんです。社会と建築の接点というところにずっと興味があったので、“一般との接続部分を作る”というのが僕はミッションだと感じています。そんなモヤモヤした想いを感じた時に、偶然SKWATと出会ったんです。『僕が卒論のテーマにしたことを、日本でやろうとしている人たちがいる』とビックリしてその場で『インターンやらせてください』と話しかけました(笑)。」

    「僕、岩崎、イレーネの異なるそれぞれの専門領域の3面が核。ただしこの3点はありつつも、プロジェクトによってまた違う要素が入って多面体となります。SKWATとしての表現は、プロジェクトごとに違うんです。」(中村さん)

    根っこに同じ思想を持つことで集い、各々の得意分野をぶつけ合うことで、違う視点や角度からも考えられる“多面体”なプロジェクトになっていくのでしょう。

    “一般を解放する”大丸神戸店でのチャレンジ

    今回SKWATが手がけた大丸神戸店の3カ所のスペースは、いずれも現在空き区画となっている場所です。大丸神戸店に限らず、「空いたスペースをどう活用したらいいか」という相談を受けることが多いのだそうです。

    「以前、2009年から10年間、原宿でVACAN T(バカント)というスペースの企画や運営をやっていたのですが、実はそこを手伝ってくれていた当時学生だった方が、大丸・松坂屋の本社にいるんですよ。マンガみたいな話なんですが、2009年当時から彼は“思想は一緒”だった。いつか時が来たら一緒にやりたいって言ってくれてたんですよね。」(中村さん)

    彼から「この空間をどうにかしてほしい」というオファーを受けたのではなく、神戸店のメンバーも含めて対話を重ねることで、思想やお互いの問題意識のすり合わせができ、「何が一緒にできるのか」が導き出されたのだそう。

    「空き区画って、通常は隠したり、囲ってしまったりしてますよね。人によっては“価値がない”と思っている場所を、どう“価値がある”場所に変えていくかが僕らの表現なんです。もちろん、そこにポテンシャルがなければ意味がないんですが、そこにどういうポテンシャルがあるかを、神戸店のチームと対話しながら見つけていった形です。」

    ディスカッションの中から生まれたテーマは 「新居留地」でした。
    神戸の街に現在も残るエリア「旧(外国人)居留地」は、1868年の神戸港開港によって出入りが増えた外国人が居住のためにつくられた、外国文化の玄関口です。

    「旧居留地って、もともとの歴史もあって、現在でも“ヨーロッパと模されて”いますよね。『海外みたいでおしゃれ』ともよく言われていますし、例えばウェディング写真の撮影などにも使われてますよね。あれは日本ならではというか、日本と海外のミックスの文化として面白い。そこに注目しました。」(中村さん)

    次の新規テナントが入るまでの遊休区画に焦点をあて、大丸神戸店が「旧居留地」で取り組んできた「継ぐ」と「開く」を紐解き、「新居留地」をインスタレーションという手法を用い、場の価値転換を起こしています。

    単なる観賞用の美術展示ではなく、誰もがその土地の歴史に触れ、憩いの場としてのパブリックスペースへと「開かれ」ているのです。

    また、インスタレーションを構築する素材として内装用資材であるLGS(軽量鉄骨)を使用することで、一時的な大丸神戸店保有の「内装用資材置き場」としての機能を有します。新規テナントが決まった際、LGSは従来の下地として次のテナントへ「継承」されます。

    ロジカルなコンセプトを聞くと、思わず「なるほど」と言ってしまいますが「どう受け取られてもいいんです。」とSKWATのメンバーは笑います。

    「フォトスポットでも、休憩所でもいい。使われていなかった場所が使われるようになることが目的ですから。いかに多面的な価値があるかで、使われ方も変わってくるのではないかと思います。」(中村さん)

    見えないものを表へ。SKWATが大切にする「チーム」

    「『一般に解放する』と僕らは表現していますが、課題やアカデミズムなものとストリートをどう繋ぐかを考えるのが僕らの役割。」と語る岩崎さん。岩崎さんの原点とも語っていた「一般社会との接続への意識」はどのプロジェクトにもきちんと反映されています。

    2022年には、SKWATにとって大きな意味を持つプロジェクトに参加したのだそうです。

    「イタリア・ミラノ中央駅の高架下の遊休期間を活用するという大きなプロジェクトに参加しました。列車の高架下には将来的にデザインセンターが出来るのですが、着工するまではただの廃墟。そこを使ってインスタレーションを行なったんです。僕たちは『補修行為』をテーマとしました。補修行為って本来は“隠れている”ものじゃないですか。でも実際に補修を行う施工者からの視点では、空間を彩っているということだなと思って。ただ直すだけかもしれないけれど、彼らのクリエイティブだなと思っていたので、なんとか活かしたかったんです。補修の塗料に蓄光塗料を混ぜて、暗くなるとライトを当てて、補修の跡が幻想的に見えるようにしました。」(岩崎さん)

    通常なら“業者さん”扱いで、表に出ることのない『補修行為』。
    ですが「ものづくり」において、見えない“現場仕事”は欠かせないものであり、クラフトマンシップの根幹でもあります。そこへのリスペクトも可視化することもSKWATの大きな役割といえるでしょう。

    「僕らが建築設計事務所だからこそできたものだったな、と思います。みんなで作りあげる感覚をしっかり掴み取った感じはありましたね。本来は見えないものを見えるようにアートに昇華させるのは僕らにしかできないと思います。」(岩崎さん)

    この得た感覚を大事に、大丸神戸店のプロジェクトでも、本来は見えないはずの存在に光を当てました。

    「商業施設で工事とか施工などをやる際に、実は縁の下の力持ちなのが、『内装監理室』の存在なんですよ。彼らが諸々を調整したり、日々のメンテナンスや補修などに関わっている。一緒にやる仲間としてチームに入ってもらい、光を当てることで、また違う視点や角度が生まれたんです。これは一般のお客さんには伝わらないことかもしれませんが、プロジェクトには大きく意味のあることだったと思います。」

    「何か作品を制作して、それを飾るのではなく、活動そのものが僕らの表現」と語るSKWATですが、現在も国内外でさまざまなプロジェクトを進行させており、神出鬼没。次はどんな場所で「ここをこんなに魅力的に見せられるんだ!」と驚かせてくれるのでしょうか。

    SKWAT 公式Instagram(外部サイトに移動します。)https://www.instagram.com/skwat.site/

    【大丸神戸店×SKWAT】“新居留地”(外部サイトに移動します。)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001938.000025003.html