長野県上水内郡
2023.08.18 (Fri)
目次
長野県北信地方の飯綱町では、閉校した2つの小学校が「いいづなコネクトEAST/WEST」としてそれぞれリノベーションされ、廃校活用施設となりました。小学校だった場所は、再び学びと楽しみの場としての役割を取り戻し、新たな地域活性の拠点として活用されています。
施設の活用を担っている団体「株式会社カンマッセいいづな」の加藤貴彰さん、そしてテナント第1号として入居した「林檎学校醸造所」の小野司さんにお話をうかがいました。
少子化により児童生徒数が減少した長野県飯綱町では、2018年3月、78名の6年生が卒業すると、町内の4つの小学校を閉校し2校に統合しました。閉校となった「三水第二小学校」「牟礼西小学校」の跡地活用方法については、地域住民組織である赤東未来創造プロジェクト、高岡地区活性化109委員会をはじめ、各所からさまざまなアイデアや意見が出されたのだそうです。
「耐震工事を施してまだ間もないから、建物自体は十分に使える。小学校は閉校しても、児童クラブなどの機能はまだ残っていて子どもたちが通っている。ならば、地域内外を活性化する施設にできないか?という声が多かったです。」と語るのは、初期からいいづなコネクトの運営・管理に携わっている「株式会社カンマッセいいづな」の加藤貴彰さんです。
検討を重ねた結果、2020年5月に旧牟礼西小学校は、自然・スポーツ・健康をテーマにした自然体験交流施設「いいづなコネクトWEST」に(全館オープンは翌年4月)、同年7月には旧三水第二小学校が、食・農・しごと創りをテーマにしたしごとの創業交流施設「いいづなコネクトEAST」に生まれ変わり、現在ではコワーキングスペース、飲食店や企業オフィスなどさまざまなテナントが入居しています。
いいづなコネクトの船出は、まさにコロナ禍の最中。施設封鎖や収容人数制限、テナント飲食店の営業制限などの困難が立ちはだかり、ある意味では最悪のスタートを切ることになったのですが、意外にも、そう悪くはなかったのだそうです。
「『人が多くない地方で仕事をしたい』という人が都市部から移住してきたり二拠点生活がブームになったり……。そういったライフスタイルの人が増えたのはコロナ禍の影響ですよね。利便性、というよりも時代のニーズに合ったことで、コワーキングスペースは利用者が増えていったように感じます。」
また、民間の会社ならではのスピード感を持って動けるのは自分たちの強みだと語る加藤さん。
「行政の施設なら、計画変更や予算変更など何をするにも時間がかかる。でも、コロナ禍は日々状況が変化していましたよね。状況に合わせて、少しずつユーザーが使いやすいように改良してきたのが良かったのだと思います。もともと学校なので、とにかく広くて場所はある。“密にならない”やり方は工夫できたので、徐々にお客さんを増やすことができました。」
施設を使いやすくするだけでなく、いいづなコネクトの大きな特徴は、頻繁に行われるイベントにあります。特にEASTでは、週末には多くの人が訪れるイベントが開催されていますが、「流しそうめん」のようなローカル感のあるものから、スイス大使館が共催となっている通称「スイス祭」などの大きな動員があるものまで、規模もジャンルもさまざまです。
「現在、WESTにあるグラウンドの利用者は、8割以上は町外からのユーザーなのですが、イベントは地元の人々がかなり多いんです。イベントとして何か仕掛けると地元の方々が来てくれるというのはすごく良い風景だなと思います。やはり、この場所をどうするかを『自分たちで決めた』ことが大きいですよね。」
テナントとして入居している人々から見た「いいづなコネクト」はどんな風景なのでしょうか。テナントとしていいづなコネクトEASTに入居した第1号である「林檎学校醸造所」をたずねました。ここは、飯綱町の特産であるりんごを使ったお酒「シードル」に特化した醸造所です。
代表の小野司さんは、「私の実家がりんご農家で、新しい商品を私の代でつくりたい、と思ってシードルに注目していました。」と語ります。
家業を継ぐ前から、「日本シードルマスター協会」を立ち上げ、シードルのPRに奔走してきました。
「昔は『シードルってなに?』という人も多く、つくって売るにしても知名度の拡大は必須。助走期間は必要だったんですね。2016年からは『東京シードルコレクション』というシードルだけのイベントを都内で行っていました。年々来場者数が増えていったので、徐々に浸透してきたなというのは実感としてありましたね。」
満を辞して、飯綱町でシードル専門の醸造所をつくろうと決めた小野さん。
「町長に『こういう場所をつくりたい』という話をしにいったら、『今度小学校が閉校になるので、その跡地の廃校を活用したらどうか』という話を聞いたんです。」
それまで飯綱町を離れていた小野さんにとって、小学校が閉校するという話は改めて地域について考え、何か貢献したいという想いを強くするきっかけだったようです。
「もともと学校だった場所なので、地域の人たちにとっては『立ち寄りやすい場所』ですよね。シードルは、名前は知っているかもしれないけれど馴染みのないもの、まだまだ距離感があるコンテンツなので、距離をできるだけ無くしたいと思っていたんです。地元の人々に知ってもらってこそ、シードルのある食文化を広められる。そういった意味では廃校はすごく良いなと思いました。」
また、新規で建物を建てるより、投資が軽くなる点ももちろん重要でした。
「“古いものを活かす”方が今の時代にはフィットしていると思いました。箱にお金をかけるより、人や機械、試作など、ものづくりの本質の部分にお金をかけられるというのは大きな魅力でしたね。」
そんな林檎学校醸造所には、15アイテムほどのシードルが揃います。
「りんごの旬は、さまざまな品種があるので8月から11月までなんです。私たちの商品は、さまざまな品種と収穫タイミングをタイムリーに品種の特徴を生かしてつくっています。やはり生物(ナマモノ)なので、収穫してすぐ製造するのが良いので、この立地にあるのはおいしいシードルづくりにとって必要なことです。」
現在、開業から4年目に突入した林檎学校醸造所。
「自分たちの母校がどうなっているかと不安な中、見に来てくれた地元の人たちが『地元の食材を活用する場になっているのはうれしい』といってくれたり、醸造所立ちあげまではなかなか難しい、というりんご農家の人たちも覗きに来てくれたりして、この場所に入ったことは地域の人々をつなぐ場になっているなと思いますね。」
また、小野さんは「カンマッセいいづなさんがイベントをやってくれるのは大きいですよ」と語ります。
「林檎学校醸造所を目的に来るという人、買いに来る人はそこまで多くないですが、別の目的でこの場所に来た人が寄っていってくれるのは、ここならではです。イベントがなくても、たとえば天候が悪い日でもこの中には遊具や遊び場がたくさんあるので、ファミリーも多く来てくれます。私たちも廃校を活用してますが、来ている人たちにとっても日常的に活用できる場所になっているのが良いと思いますね。」(小野さん)
そういった「地元の人々」と「町外から来る人」のバランスは、いいづなコネクトが大きく意識している点なのだといいます。
「地元寄りの施設だと、町外の人たちは来なくなる。逆に明らかに町外の人のための施設になってしまうと、地元の人たちがここを残した想いに応えられない。いいづなコネクトは、幸いにしてEASTとWESTの2施設あるので、このバランスを非常に意識しています。そういった意味でも、イベントを常に企画し続けていくこと、いわゆる“動き”はとても重要ですね。」(加藤さん)
現在いいづなコネクトWESTのテナントに空きはなく、100%の稼働率。いいづなコネクトEASTは、現在工事中の3階オフィスフロアでテナントを募集中だといいます。
「ここから先は観光ということを視野に入れていきたいなと思います。町外の人、というだけなく、観光客を呼び込みたい。この施設を活用して飯綱町に来る人を増やし、街づくりに寄与していきたいなと考えています。」
地元の人々の思い出や想いがこもった廃校。便利な施設を提供するだけでなく、“動き”続けることが内外の交流の場であり続けるために必要なことなのかもしれません。
いいづなコネクト 公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://iizuna.jp/
林檎学校醸造所
〒389-1203
長野県上水内郡飯綱町赤塩2489 いいづなコネクトEAST 1F
公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)
https://5gaku.com/
林檎学校醸造所
公式Instagram(外部サイトに移動します。)https://www.instagram.com/ringo.school.cidery/