福岡県糸島市
2023.09.29 (Fri)
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近年、総人口が増え続けている福岡県糸島市。首都圏からの移住者も多く、クリエイターやビジネスの最前線を走る人など、個性豊かな面々が集まり、注目を集めています。しかし、一方では人気のエリアに人口が偏り、商店街の多くがシャッターを締めているという一面も。そんな課題と向き合う、「いとしまちカンパニー」。スキルと魅力にあふれる地元の人たちと移住者を繋ぎ、糸島市をより活気あふれる場所にするチャレンジについて、いとしまちカンパニーの共同代表、福島良治さんにうかがいました。
福岡県の西側にある糸島市は、福岡空港から電車1本で1時間の距離。人口10万人ほどのこの街が、イギリスの情報誌『MONOCLE(モノクル)』が発表する「輝く小さな街ランキング」で2021年に3位に選ばれるなど、海外メディアでも高く評価され、移住先として人気を高めています。その評価には、「自然豊かな環境でありながら、都市への交通アクセスがよいこと」だけでなく、「コミュニティ意識が強く、市外から入って来た人に寛容で馴染みやすいこと」、「クリエティブな人々が集まり面白いビジネスが生まれていること」が挙げられています。
「糸島の魅力はMONOCLEに書かれているとおりなんです。」と語る福島良治さんも移住者の1人。もともと東京に住んでいた福島さんは、東日本大震災をきっかけに、子育て環境のよい場所を求めて糸島への移住を決めたといいます。
福島さんは笑顔で、糸島市に移住者が増える要因を語ります。
「糸島には素晴らしい環境や立地に加えて、魅力あふれる人が集まっています。素敵な人たちが環境と相まって魅力的なモノやコト、イベントも含めたコンテンツを生み出す。それを地域の人も受け入れてくれる。そして、そのコンテンツが新たな移住者を引き寄せる。糸島では、そんな好循環が起きている気がします。」と福島さん。
福島さんは糸島に引っ越してきて、1年も経たない間に500人の友人ができたといいます。紹介してもらった、いわば偶然の繋がり。知り合いのいない街で新たな生活を始める移住者にとって、「人々の温かさ」もまた魅力の1つとなっているのでしょう。
そうして自然とできた新しい友人たちと、毎月「いと会」という名の飲み会を開催し、移住者と地元民が混ざり合い、夢ややりたいことを語り合っていたそう。そこで出てきた「映画館のない糸島で映画祭を開催してみたい」という共通の想いが徐々に強くなっていきました。
「『みんなでやっちゃおうか』と、ノリで話が進んでしまいました(笑)。個々のスキルを掛け合わせて、自分たちのできる範囲でやってみようという話になり、実際に開催を決めて動き出してみると、協力者がどんどん増えていったんです。」
「いとシネマ」と名付けた映画祭は2000人が集まり、大成功を収めました。
「いとシネマ」の成功をヒントに、オープンコミュニティスペース「みんなの」づくりが始まりました。
「仲間と楽しく飲んでいたところから始まり、そこに人が集まり、思いもよらぬ成果物が生まれた。自然発生的に同じような動きが起きたら、『オモシロイ』ことが増え、街が活性化するだろう、というのが僕たちの立てた仮説です。」
この仮説に基づき、「人と人との接点、つまり、集まりやすい場の提供が必要だ」と考え、アイデアを実現させるため、さまざまな場所でプレゼンテーションをしたという福島さん。その結果、NTT西日本と糸島市との連携協定が成立し、ビルの1階を活用したコミュニティスペース「みんなの」が誕生しました。
「みんなの」のデザインには、各要素に意味が込められています。
「知らない人同士でもコミュニケーションが生まれやすいよう、仕切りを極力減らしてオープンな空間にしました。コワーキングスペースの利用者だけでなく、老若男女、誰でも集まりやすい環境になっています。」
「靴を脱いで上がるスペースでは、子連れの親が談笑したり、子供同士が遊んだり、親子でくつろげる設計にしました。また、壁一面に鏡を設置したスペースは、ダンスレッスンなど、カルチャースクールとして活用できます。イベントを開催することも想定し、白い壁のスペースにスライド投影ができるように工夫しました。」
目指したのは、さまざまな属性の人たちと繋がり合える場。旅人たちとの接点づくりのためにレンタサイクルサービスも導入しました。糸島は年間700万人もの旅人が訪れるエリアであり、「みんなの」は住民、移住者、旅人が自然に集まる仕掛けになっています。
大人も子供もワクワクさせる中2階。このアイデアは、共同経営者の1人が「中2階が欲しい」と提案したことから生まれたそうです。
魅力あふれる糸島市には課題も存在しますが、福島さんたち流のユニークな考え方を行動指針にしているそうです。
「僕たちはいつも『大人の部活動』という感覚で活動しているんです。」
そもそも課題ファーストではなく、「オモシロイ」ファーストなのだとか。課題解決や経済合理性を第一に考えるのではなく、思いついた企画が面白いかどうかを大切にしています。
「面白いものは人々を引き寄せ、他の人々を巻き込む力があります。そして、想像もしなかった形で誰かの役に立つこともあるんです。」と福島さんは続け、本屋をオープンしたときの話を教えてくれました。
「70年以上続いた洋装店の建物を借りることになり、『この場所を改装して、いろんなジャンルの本屋が集まるビルを作ろう』という話になりました。ビルの改装自体をイベントにしたところ、人が集まり、解体作業から、皆で楽しく実行したんです。」
本屋ビルというアイデアを思いついた背景には、地方に見られる商店街の衰退が関係していました。
糸島はオシャレなカフェが立ち並ぶ海岸エリアに人気が集まる一方で、中心市街地、「前原(まえばる)」エリアは、休日でも人通りが少ない。年中閉店している店も多く、商店街には本屋が1軒もない状態だったそう。
福島さんたちは、4つの本屋が入った総合本屋を商店街にオープンしました。この本屋の1階部分は、100人のオーナーで切り盛りする100棚本屋になっています。各オーナーたちは自分の棚におすすめ書籍を並べて販売。店番も日替わり当番制です。2階にはアートブックの書店兼出版社、そして大学生が運営する本屋、本の表紙などを作り替えるワークショップを提供するお店の3店舗が入り、ユニークなスペースが誕生しました。
面白い活動の話はまだ続きます。
『すごい旅人求人サイトSAGOJO』のサービスの1つである『TENJIKU』に登録したいとしまちカンパニー。TENJIKUとは、「地域のお手伝い」を行うことで無料宿泊ができるサービス。
「僕たちが用意した『お手伝い』は前原エリアを活性化させる活動。SNSで前原の魅力を発信したり、店舗や農家さんのお手伝いをしていただいたり、やり方は自由にお任せしています。」
※現在はTENJIKU糸島の拠点リニューアルにともない休止中。
糸島の外からも人を呼び込み、化学反応を起こす福島さんたち。旅行会社「クラブツーリズム」と提携し、糸島のツアーを企画している。これまで糸島を周る旅行企画は存在していなかったといいます。「オモシロイ」と「人」をきっかけに過去4年間で50以上の事業者をサポートしてきました。
新たに誕生した事業を振り返りながら、「僕らが作ったわけではありません。」と語る福島さん。夢ややりたいことを自由に語れる場を用意したことで、刺激し合った人たちが、起業する流れが生まれているという。その様子を「波紋」と例える福島さんに、今後の展望を聞いてみました。
「中心市街地で『オモシロイ』活動を継続していきます。そして、今後は人が集まる海岸エリアと中心市街地を結ぶような取り組みに注力していきたいですね。たとえば、前原エリアに民泊やホテルのフロント機能を持たせ、一度チェックインのために立ち寄ってもらう。そこで前原エリアを楽しんでもらってから、海岸エリアの宿泊施設に向かうようなデザインを構想中です。」
波紋はどこまで広がるのか、今後もいとしまちカンパニーの挑戦から目が離せません。
いとしまちカンパニーhttps://itoshimachi.com/