富山県高岡市
2024.01.26 (Fri)
目次
富山県高岡市で伝統的な鋳物産業をリードしている「能作」。歴史ある伝統技術を現代に寄り添ったデザインに落とし込んだ美しい製品は、国内外で高く評価されています。
ものづくりの第一線を走る能作が今、高岡の地で何を仕掛けているのか。単なるものづくりに終わらない、能作が魅せる地域創生のカタチについて、社長・能作千春さんに話を聞きました。
富山県高岡市は、鋳物生産で国内トップシェアを誇る、ものづくりのまち。鋳物産業の歴史は400年と、高岡の歴史と鋳物は切っても切り離せない関係です。
市街地のシンボル的存在である高岡大仏の周辺には、個人の道具店や仏具店などが点在し、まち全体の雰囲気を作り上げています。
そんなものづくりのまち・高岡で特別な存在感を放つ企業が能作です。
2017年に本社工場社屋を新しくし、2023年には前社長・現会長である能作克治さんの娘さん能作千春さんが社長に就任。新体制となり、これまでに克治さんが大きくしてきた事業をさらに盛り上げ、伝統産業を後世に残すべく、さまざまなアプローチで鋳物と高岡の人々、世界の人々を繋ごうと尽力しています。
大学進学を機に実家を出て、神戸へ移り住んだ千春さんですが、卒業後、神戸で就職し働きながら、徐々に地元・高岡への思いが大きくなっていったのだそう。
克治さんの「鋳物産業の職人の地位を高め、地域の人たちに真の意味で評価される存在になりたい」という思いに共感したことから、まずは家業である能作の一員になることを決意し高岡にUターンしました。
「伝統産業としての鋳物をどのように届けるか、どのように企画をするか。0から1を発想することが得意で好き」だと話す千春さん。「本社社屋が高岡の観光拠点となり、能作の製品とその背景にまで触れてもらえる場所になれたら。」と、地元・高岡で続く鋳物産業と能作への揺るぎない想いとともに、さまざまな取り組みを展開しています。
長く高岡の地で受け継がれてきた技術と知識、伝統と精神を広く発信していく拠点として生まれ変わった能作。新社屋は2019年にグッドデザイン賞を受賞、年間約13万人が訪れるなど、着実に鋳物産業と高岡の人々、日本の伝統産業に興味関心がある国内外の人々からの注目が高まっています。
そんな能作が大事にしているのは、「デザイン経営」という考え方です。
「デザイン経営」とは、デザイン性を大切にして製品を企画・製造したり、イノベーションを起こすような事業を立ち上げたりすること。それは、「能作の製品が“おしゃれ”“すてき”というイメージを持ってもらい、地域の人々が憧れる存在になれるように」という決意が込められています。
社内では全従業員を対象に新製品開発のアイデアコンテストを行なっているそう。モチベーション高く製品のデザインに取り組める仕組みづくりに力を入れたり、デザイナーを役員に選出したりと、「デザイン経営」を実行するための体制を整えています。
本社社屋を一般の人々にも開放し、これまでは直営店や小売店などで手に取ったり、オンラインショップで購入したりすることがほとんどだった能作の製品に実際に触れて、訪れる人々に職人の技や鋳物の質感を感じてもらえるよう、社屋の至るところに工夫を凝らしています。
展示スペースの他にも、鋳物製作体験ができる「NOUSAKU LAB」、錫の器を使用したランチセットやアフタヌーンティーなどを提供するカフェレストラン「IMONO KITCHEN」を展開することで、あらゆる角度から能作のものづくりを見せています。
2019年より開始したブライダル事業である「錫婚式」も富山の観光を盛り上げる新たなチャレンジとなりました。
錫婚式は、お客様の声をヒントに生まれた事業です。あるとき、「結婚10周年記念に能作の製品を買いにきた」「結婚10周年の記念に能作の本社社屋を訪れた」というお客様がいることを知ったそう。
すでに錫製品は能作の人気商品になっていたことから、自社の扱う素材である錫に注目し、結婚10周年を祝う「錫婚式」と絡めて能作でブライダル事業ができるのではないかと、千春さんのひらめきから誕生しました。
現在では錫婚式を目的とした県外からの観光客も増加しています。
新しい事業を始めるときに大切にしているのは、「職人たちの技術があるからこその鋳物産業、その価値を伝えていく」という軸がブレないこと。
地域の人々の特別な日に寄り添う事業は、地域の伝統産業のイメージアップと同時に、錫婚式をしたご夫婦のご家族やお子さんにとっても思い出に残るものです。
「400年続く高岡の伝統産業、100年以上続く能作の鋳物産業を、100年先にも残していくための活動をしていきたい。」と話す千春さん。
能作のアプローチを通して子どもたちの記憶に高岡の鋳物産業の存在が刻まれることを思うと、この事業が持つ可能性は計り知れません。
100年企業の後継という、いわば特別な境遇に置かれながらも、さまざまな事業展開を魅せてきた千春さんですが、「そこがやりがい。プレッシャーはあまりない。」といいます。
仕事に対するスタンスは、父である克治さんの、昔から楽しそうに鋳物と格闘する姿から学んだそう。
能作の名が一気に広まるきっかけとなった代表的な製品「風鈴」や「KAGO」(曲がる食器)など、展開している錫製品の6割から7割は、なんと克治さんが現役でデザインしているといいます。
「成功も失敗もない。失敗があるとするならば、何もしないことが失敗。」
克治さんから受け継いだこの教えをもとに、仕事は楽しいことであり、チャレンジングなものという考え方が根付いていると話します。
“鋳物産業をどのように発展させていくか”
歴史ある鋳物メーカーですが、大切にしているのは「伝統を守ること」だけではなく「伝統とともに挑戦すること」。
飲食事業やブライダル事業など、伝統産業としては今までにないまったく新しいアプローチは、このようなインスピレーションから生まれています。
かつては3K(きつい、汚い、危険)というイメージを持たれることもあった鋳物産業ですが、産業観光事業や製品を通じ、さまざまな部分において「見せて伝える」ことを続け、そのイメージを払拭してきた能作。
将来の担い手になる子どもたちに向けては、ものづくりの現場を知れる機会を作っているといいます。
他社のような窓ガラス越しに作業風景を見るスタイルではなく、鋳物づくりの工房の中に入り、職人の技を間近で見ることができる工場見学を毎日無料で開催しています。(※工場稼働日)
また、質感や重量感、テクスチャーなど職人が1つ1つ仕上げる能作の製品の美しさは、手に取ってもらってこそわかるものがあると、販売は直営店舗の展開にこだわり、直接手に取れる、能作を知ってもらえる場所を増やしているところだそう。
チームワークを高めるために、制服は職人もオフィススタッフも同一のデザインに統一しています。
これらの取り組みは能作の世界観を作るブランディングの1つで、実際にここで働きたいと移住を決めた20代の女性もいるのだそう。若手が「この世界観に触れていたい」「ここで働きたい」と、高岡で職人になることを決意する後押しになっています。
「やりたいことを求められるままにやってきたら、わかってきたことがたくさんある。」
千春さんは、これまでに仕掛けてきた事業、これから仕掛ける事業に関して「ヒントは周りからいただく、編集するのが自分の仕事なんです。」と話します。
目論見を立てるよりは、まずは行動。時代の流れとお客様の声を常にヒントにしながら、より魅力的な事業を生み出す経営センスは、富山のまちの活気づくりにも一役買っているのでしょう。
能作の今後についてうかがうと、「これからもずっと地場に根付いた企業でありたい」と迷いはありません。
全国で製品を販売している能作ですが、東京などの都市ではなく富山での売り上げが最も多いそう。富山に在住の方が贈答用などで能作の製品を購入し県外へ持っていき自慢してくれること、地域の人がハレの日に、能作の製品やサービスを利用してくれることがすごくうれしく、ありがたいといいます。
「人と地域を大切にし、製品やサービスを通じて、1人でも多くの方に幸せや豊かさを提供できる企業でありたい。」と千春さんは話します。
今後も、高岡に続く鋳物産業と富山の人々、世界の人々を、能作がどのように繋いでいくのか楽しみです。
能作(外部リンクに移動します。)
〒939-1119 富山県高岡市オフィスパーク8-1
営業時間:10時〜18時
https://www.nousaku.co.jp
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