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継ぎ手のいない新潟の郷土菓子が、再び新潟のシンボルとなる。「浮き星」誕生のストーリー

継ぎ手のいない新潟の郷土菓子が、再び新潟のシンボルとなる。「浮き星」誕生のストーリー

新潟県新潟市

    2024.03.26 (Tue)

    目次

      新潟で最も古いお菓子といわれる郷土菓子「ゆか里(り)」。新潟市にある老舗菓子店「明治屋ゆかり店」で120年以上前から作られてきた、見た目が金平糖のような砂糖菓子です。長い歴史を持つゆか里ですが、時代の移り変わりとともに作り手が減少し、伝統の継承という壁に直面します。そんなとき、ある出会いから「浮き星(うきほし)」として生まれ変わり大ヒットを遂げることに。その裏側について話を聞きました。

      港町・新潟が育んだ和菓子文化

      明治屋ゆかり店がある新潟市は、日本海側で最大級の港町。明治時代には外国貿易港として、海外から砂糖が輸入されるようになり、人口の多い新潟市では、あちこちに和菓子屋が生まれたといわれています。

      かつては和菓子作りには分業制があり、あんこを専門に作るのは「上生菓子屋」、餅専門は「朝生菓子屋」と呼ばれていたのだとか。明治屋ゆかり店は、あられや豆に砂糖蜜をかける「かけもの屋」に分類され、代々受け継がれた職人技で、銘菓・ゆか里を作り続けています。

      新潟で120年以上愛される郷土菓子「ゆか里」

      ゆか里は、あられの周りに砂糖蜜をコーティングしたお菓子です。そのまま食べるのはもちろん、お湯に溶かして飲むこともできます。湯呑にたっぷりとゆか里を入れてお湯を注ぐと、プカプカと浮いてくる姿が愛らしく、目でも楽しめるのがユニークな郷土菓子として長く愛されています。

      保存するときは、お菓子箱ではなく茶筒に入れるのがお決まり。現地の方にとっては幼少期から慣れ親しんだ味であり、大人になっても懐かしい記憶の味を求めて購入する方が多いといいます。

      かつて、ゆか里は「柚香里」「ゆかり」とも表示され、各菓子屋が工夫をしながらオリジナルの商品を掲げていました。しかし、時代の流れとともに店の数は減り、ゆか里を作るのは明治屋ゆかり店1軒のみとなっています。

      郷土菓子・ゆか里はまさに風前の灯ともいえる状況のなか、その運命を変えたのが、デザイナーの迫一成さんとの出会いでした。

      • 新潟市上古町にある雑貨店「hickory03travelers」の代表でありデザイナーの迫一成さん。現在は、上古町商店街の理事長も務めている。

      • hickory03travelers

      迫さんは、「日常を楽しむ。」をコンセプトとした雑貨店「hickory03travelers」を立ち上げた方で、地域に埋もれた名品などに光を当てて、地域を問わず、その魅力を発信するのがミッションの1つ。しかし、単にデザインやイラストを変えてパッケージングすればよしとするのではなく、地域に根差してきた歴史や、それを大切にしている人々など、そのものの“背景”を大切にしています。

      「浮き星として売ろう」歴史を変える大きなイノベーション

      迫さんがゆか里を初めて知ったのは、2012年に開催された「水と土の芸術祭」のショップを運営するにあたり、土産物として紹介する商品を探していたときでした。

      「はじめは金平糖のようなものだと思っていました。でもお湯に入れるという食べ方を聞き、すぐにはピンとこなかったのを覚えています。」

      そこで、hickory03travelersのメンバーの1人が製造元である明治屋ゆかり店を訪ね、「パッケージを変えて販売してみませんか?」と提案。しかし、3代目の小林幹生さんには「お金がかかることはしたくない。」とはっきりと断られたそうです。

      さらに話を聞くと、70代の小林さんは1人でゆか里を作っており、跡継ぎがいないことが分かりました。時折跡を継ぎたいと志願する方が現れたこともあったそうですが、給料を支払って製造するほどの需要もなく、申し出を断っていたのだといいます。

      明治屋ゆかり店の3代目・小林幹生さん(左)と迫さん

      このままでは新潟の希少なお菓子が消滅してしまう。仮に、商品が売れれば後継者を育成する余裕が生まれるかもしれないと、まず迫さんは、なんとかして“跡継ぎづくりのために売上づくり”をしなければと、使命感を抱くようになりました。

      ゆか里は、昔からある郷土菓子ですが、見せ方次第で若い世代にも響くのではないかと思った迫さん。以前、一度は断られたものの、できるだけお金をかけない良い方法がないかと、「無地の袋に詰めるのはどうですか?そこに私たちがデザインしたシールを貼ります。」と再提案してみると「それだったらやってみる。」と返事が来たといいます。

      透明の袋にゆか里を詰めて、新潟市の鳥である白鳥のシールを施すことで、シンプルながら可愛らしいパッケージに生まれ変わりました。

      迫さんは、開発において「作り手に負担を与えないこと」を大切にしていると話します。

      「新しいものを作るにあたり、作業が増えたら大変です。明治屋ゆかり店さんに浮き星を発注するときは、透明な袋に入れてもらい、説明の紙を挟み、上部を丸めてもらうだけ。シール貼りは私たちが担当します。」

      そしてもう1つ、古く懐かしい響きの商品名「ゆかり」に課題を感じていたという迫さん。このお菓子を知らない人にも伝わる名前はなんだろうか。そのヒントはゆか里独特のユニークな食べ方にありました。

      砂糖菓子でありながらお湯に溶かして食べる、そしてお湯を注ぐとポコポコと星形の粒が浮いてくる。この様子を見て迫さんの頭には「浮き星(うきほし)」というネーミングが瞬時に思い浮かびました。小林さんに新たな商品名を告げると「すごくいい」と賛成してくれたそうです。

      そのほかにも、フレーバーの種類を増やしたり、容量を減らしたり、異なる色の粒をミックスしたり、手土産として渡したくなるような見た目やサイズに変更。SNSでの発信や、リーフレットなど宣伝活動にも力をいれました。

      そして2012年2月、満を持して全国のバイヤーさんが集まる展示会に出店すると、浮き星はたくさんの受注をもらい、話題になりました。かつてhickory03travelersの古町店では、年間1千個ほどの売上でしたが、1年目で20倍以上の年間2万個の販売を達成。現在は、全国各地のショップにも並ぶようになり、平均で年間8万個が売れるヒット商品となっています。

      時代の変化に対して素直になる。「柔軟さ」が復活のカギ

      「浮き星」として生まれ変わり、見事に復活したゆか里。トントン拍子に見えますが、苦労したことを迫さんに尋ねると、「実は大きな苦労はしていないんです。」と予想外の回答が返ってきました。

      迫さんは、浮き星のほかにも、地域の商品を伝える取り組みを多数行っており、そのなかでは何かしら、壁があることが多いといいます。生産体制が整っておらず作れない、作り手の経験が浅い、老朽化や高齢化、差別化が困難など、作り手が抱える事情がいくつか存在します。また、信用してもらうまでに、時間を要することもあるといいます。

      一方、明治屋ゆかり店の場合、必要な条件が整い、小林さんからの要望がほとんどなく、迫さんたちがやってみたいことに協力的でした。最初こそ「パッケージ変更にお金をかけたくない」と断りがあったものの、迫さんの情熱と機転、迫さんを信じて身を委ねた柔軟な姿勢が売上を伸ばすことに成功しました。

      小林さんは、「売れればいいんですよ。時代は変わるので、必ずこうでなければというこだわりはないんです。」と、生粋の職人でありながら考え方は柔軟。小林さんは大らかな気持ちで、迫さんとともに浮き星としての進化を楽しんでいます。

      守られた伝統を次なる世代へ。浮き星に込める願い

      • 明治屋ゆかり店の4代目・川崎明広さん

      浮き星が誕生したことにより、店の跡継ぎが現れるという、願ってもない展開にも発展しました。4代目として店を引き継いだのは、娘婿である川崎明広さんです。

      前職では味噌工場の工場長として働いていた川崎さん。浮き星のヒットで生産が忙しくなったことから手伝いをするようになり、作り方の手順を教わっているうちに、ついには店ごと任されるようになりました。

      「新潟の希少なお菓子ですから、伝統を壊すのはもったいないです。ファンがいるのなら、残していかなければと思います。細々とでも、伝統を守っていけたら十分です。」と真摯に作り手としての使命に向き合っています。

      3代目の小林さんは「もう引退したよ。」と笑いつつも、今も毎日何かしら作業をしている様子。川崎さんが継いでくれたことが誇らしく、唯一無二であるこのお菓子を次世代につなげられることに一安心していると話します。

      一方、迫さんは「これからも浮き星を世に広めるための取り組みをしていきます。」と、様々なパッケージ展開を行うほか、多岐に渡る施策を考えているようです。

      上古町の百年長屋 SAN

      発売から10年以上が経ち、浮き星は幅広い世代に愛される存在となりました。
      2021年には、浮き星をその場で楽しめる場所をと、「上古町の百年長屋 SAN」の中に喫茶UKIHOSHIをオープン。ソフトクリーム、クリームソーダ、ぜんざいなど、カラフルな星形の粒が乗った見た目の可愛らしさが、SNSを中心に話題となっています。

      人と人が出会うことで生まれ変わったゆか里、と浮き星。新潟を感じるお菓子として、これからもますます愛され続けていくことでしょう。

      浮き星
      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://ukihoshi.com/

      hickory03travelers
      新潟県新潟市中央区古町通3-556
      025-228-5739
      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://arekore000.com/

      明治屋ゆかり店
      新潟県新潟市中央区湊町通1ノ町2599
      025-222-6613