静岡県静岡市
2024.04.03 (Wed)
目次
昨年の大河ドラマの記憶も新しく、徳川家康公ゆかりの場所や建造物の残る歴史の息づく街として、今、注目を集めている静岡県静岡市。多くの観光客を集める一方で、文化財や建造物の維持管理、後世への継承といった課題を抱えています。
全国の東照宮の創祀(そうし)である「久能山東照宮(くのうざんとうしょうぐう)」では、国宝の刀剣といった文化財を多数所蔵。それらを守るため、クラウドファンディングを活用した取り組みを行っています。文化財の修復と新調について、一体どのような課題や意義を感じているのか。本プロジェクトに関わる久能山東照宮 姫岡恭彦宮司、鞘師 森井敦央さん、株式会社ニトロプラス代表取締役社長 小坂崇氣さんにお話をうかがいました。
400年以上の歴史を持つ久能山東照宮。家康公を祀る霊廟として元和3年(1617年)に創建されました。権現造、総漆塗、極彩色の御社殿は、彫刻、模様、組物等に桃山時代の技法をも取り入れられた江戸初期の代表的建造物として国宝に指定され、その他13棟の建造物は国の重要文化財に指定されています。
博物館には、家康公をはじめ、歴代の将軍の遺品2000点を収蔵。そのうち230点が国宝・重要文化財の指定を受けています。久能山の山全体も歴史的価値があり国の史跡に指定。久能山は、“後世に伝えるべき宝の山”と言われているのです。
久能山東照宮は、これまでクラウドファンディング「BOOSTER」を活用し、文化財の修復費用の支援を募るプロジェクトを行ってきました。第1弾は、国の重要文化財指定の徳川家康公の甲冑「白檀塗(びゃくだんぬり)具足」の修復費、第2弾「秘刀に命の息吹を。刀剣修復プロジェクト」では、計10口の刀剣の修復費を募集。
そして2024年3月6日の記者発表会で、第3弾のプロジェクトが明らかになりました。今回行われるのは、国宝の刀剣「真恒(さねつね)」の拵(こしらえ)の修復と、徳川将軍所有、寄進の14口の刀剣の白鞘(しらさや)の新調です。
鞘師(刀剣を収める刀装具「鞘」を作る職人)で東京国立博物館請負修復技術者である森井敦央さんと、久能山東照宮の姫岡恭彦宮司は、これらの刀剣について次のように語ります。
「久能山東照宮の刀剣の鞘は、大事に修理しながら、令和の時代まで刀をほぼ傷めることなく、刀身を納められる状態であったことが驚くべきこと。古い技法が使われているなど、時代を象徴する資料になり得る素晴らしい作品であり、当時の最高の技術、多額の費用を投じて作られたことがうかがえます。」
「久能山東照宮で所蔵している刀剣は約50振あり、そのうち将軍の代替わり、遷宮(50年ごとの大祭)などに奉納したものが40振、その他10振は個人が奉納したものです。中でも14振が重要文化財に指定されています。各将軍が奉納した刀剣であり、時代の流れを見ることができる歴史的に価値の高い品々です。」
久能山東照宮で所蔵される刀剣が、日本の文化財として非常に価値の高いものだということが分かります。ただ、それらを管理し後世に受け継いでいくには、莫大なコストと労力がかかるのが現実。
今回の修復・新調にかかる費用は総額3000万円以上にものぼり、国から一部補助金は出たとしても、費用の多くは所蔵者の負担になると言います。
そして拵えの修復のためには、現在では行っていない技術を再現する必要があるとのこと。
「綺麗に保管されてきましたが、老朽化が限界の状態。このままでは朽ち果ててしまうだけではなく、刀身そのものにも深刻なダメージを与えてしまう可能性があります。一度失われてしまうと、二度と元には戻りません。時間をかけて慎重に修復し次の時代に技術をつなげていく必要があるものの、刀剣の世界は担い手が徐々に減っているため、技術継承も課題です。」
さらに、保存だけでなく活用も大事で、武家社会の文化を知ってもらう展示の実施なども必要となります。
そんな中で、久能山東照宮が課題解決のために活用したのがクラウドファンディングサービス「BOOSTER」でした。
「私たちの仕事は、神様をお祀りして、文化財を後世につないでいくこと。文化財は放っておけば、どんどん状態が悪くなります。皆さんのご理解とご支援をいただきながら、後世に歴史的な宝をつないでいきたい。そんな中でパルコが運営する『BOOSTER』は、“現代の勧進”だと考えます。サービスを活用する目的は、若い世代の方々に久能山東照宮や文化財について知ってもらうこと。プロジェクトへの共感者の支援を募るだけでなく、商業施設のリアルな場も利用して若い方々に知ってもらい、新たな担い手作りにもつながっていくツールだと感じています。」
そして今回、第2弾に続き、刀剣育成シミュレーションゲーム「刀剣乱舞ONLINE」とコラボレーション。
白鞘を修復する刀剣の中には、家康公の枕刀と伝わる重要文化財の太刀「太刀 無銘 光世作(ソハヤノツルキ)」があり、ゲームにも刀剣男士(キャラクター)として登場します。そういった縁もあり、原作プロデューサーで株式会社ニトロプラスの小坂崇氣さんが“刀剣文化の発展および文化を後世につなぐ”というプロジェクト趣旨に共感し、コラボレーションが実現したと言います。
「刀剣をモチーフにしたコンテンツを作る我々にとっては、歴史的価値のあるものが維持管理され継承されてきたからこそ、インスピレーションをいただくことができ、コンテンツに生かされています。前回のクラウドファンディングで、『刀剣乱舞ONLINE』ファンの皆さんからの支援も非常に多かったと聞いています。我々が関わることで、ファンの皆さんが実際に刀剣を見に久能山東照宮へ足を運ぶきっかけになったり、文化財の保護やそれに関わる仕事に興味を持ったり……そういった流れが生まれたら素敵だと思っています。」
返礼品には、刀剣男士「ソハヤノツルキ」の描き下ろしオリジナルイラストがプリントされたオリジナルグッズが用意されます。
さらに、クラウドファンディングのリアルな告知拠点として静岡パルコ2階に特設会場を設け、ソハヤノツルキの等身大パネル、描き下ろしの新作イラストの大型ポスター、プロジェクトの案内チラシなどを設置。
「近年、若年層の拝観者数の増加を実感しています。今後、こういった刀剣を後世につなげていくという部分にも目を向けていただけたらと考えており、ぜひプロジェクトにもご賛同いただけると嬉しいです。」と姫岡宮司。
刀剣修復プロジェクトを通して見えたのは、多くの人々が、ぞれぞれの立場から“刀剣文化の継承の担い手”として懸命に活動している様子でした。そして彼らだけではなく、若い世代も巻き込んでサポーターを増やしていくことで、文化財は後世に残っていきます。今後もこのプロジェクトが、静岡の刀剣文化を守っていくうえで重要な役割を担うことは間違いないでしょう。
久能山東照宮
〒422-8011 静岡県静岡市駿河区根古屋390
公式サイト(外部サイトに移動します。)https://www.toshogu.or.jp/
BOOSTER プロジェクトページ
久能山東照宮『刀剣伝承』~ソハヤノツルキなど歴代将軍の名刀に命の御衣を皆の手で~(外部サイトに移動します。)https://camp-fire.jp/projects/view/711428