愛知県知多市
2024.04.10 (Wed)
目次
愛知県知多市を代表する伝統織物「知多木綿」。その歴史は江戸時代までさかのぼります。生地問屋として知多木綿を全国に卸してきた「竹内宏商店」は、伝統織物を後世に残そうと、さまざまな取り組みをおこなっています。ユニークな視点で知多木綿に新しい風を送り続けている、竹内宏商店の代表・竹内亮さんに会いに、知多木綿のアンテナショップ「478(ヨンナナハチ)」を訪ねました。
愛知県・知多半島の北西に位置する知多市。四季を通じて温暖な気候で、緑豊かな丘陵地が広がり、農業や工業が盛んなエリアです。しかし、半島を縦断する愛知用水が整備される以前は、知多の農家は水不足に悩まされ、貧しい暮らしだったそう。農家では、農作物以外の収入を得るため、副業として機織りが広がったとされています。
江戸時代初期に知多で生産されていた生白(きじろ)木綿は、伊勢で加工されて「伊勢晒(いせさらし)」「松阪晒(まつさかさらし)」として江戸に送られていました。江戸時代中期になると、知多にも晒し(さらし)の技術がもたらされ、江戸に「知多晒(ちたさらし)」として送られるようになります。
丁寧な手仕事から生まれる木綿の風合いは評判を呼び、“江戸送り日本一”と呼ばれるように。さらに明治以降は工業化が進み、生産性が飛躍的に向上し、昭和に入ると、知多は、大阪の泉州、静岡の遠州と並び、白生地の3大綿織物産地の1つとして発展していきました。
知多木綿とは、知多地域で織られている木綿全般を指します。中でも、江戸時代から変わらない“小幅の白木綿”は今も多く織られているものの1つ。染色していない木綿糸で織られ、ナチュラルな風合いが特徴の、手ぬぐいや浴衣などに使われる幅40センチ前後の白い生地です。流通している手ぬぐい生地と小幅の浴衣生地を合わせると、約5割が“知多地域の小幅の白木綿”を用いているといいます。
知多地域では、今でも昭和時代に作られたシャトル織機で生地を織っている工場が残っているとか。ゆっくりと布を織り上げるため生地の負担が少なく、手織りに近い独特のやわらかな風合いが特徴です。
白くて染めやすいことから、同じ東海地域の伝統的な木綿絞り「有松絞り」でも、知多木綿は多く使われています。
竹内宏商店は、知多の中でも織物のまちとして栄えた岡田地区で、生地問屋として昭和28年に創業。知多木綿を全国各地の染物屋に卸し、生地と染めの橋渡し役を担ってきました。3代目として跡を継ぐ竹内亮さんは、2019年に知多木綿のアンテナショップをオープン。伝統的な知多木綿に現代のエッセンスを加えた商品を数多くプロデュースするなど、知多木綿の魅力を発信しています。
「知多木綿は素材として流通しているため、あまりその名が知られていませんが、400年の歴史を誇る知多の伝統織物です。とはいえ、地元の人であってもどこで売っているか分からず、親しむ機会はほとんどありませんでした。もっと知多木綿を広く知ってもらい、実際に手に取ってもらえる場所を作りたい。そんな思いでアンテナショップ『478』をオープンしたんです。」
指定文化財となっている建物をショップに改装した趣ある店内には、洋服やバッグ、アクセサリー、雑貨などが並び、その多彩さに驚きます。知多木綿の風合いを活かしながらも日常生活になじむ使い勝手のよいプロダクトが揃い、「知多木綿を身近に感じてほしい」という思いが伝わってきます。
「綿匠WATAKUMI」は、竹内さんがアンテナショップのオープンと同時に立ち上げたブランド。本来は染められるための素材ですが、素材そのものの良さを伝えたいと、知多木綿ならではの“小幅の白木綿”で、現代に取り入れやすい白シャツをオリジナルで作りました。
「幅が狭くて真っ白な“小幅の白木綿”は、江戸時代からずっと織られてきた日本特有のスタンダードな生地です。その生地の良さや風合いを感じてもらえるようなものを作りたいと思って、『綿匠WATAKUMI』の白シャツは、知多木綿らしさをぎゅっと凝縮した1枚になっています。」
「定番の白シャツですが、選ぶ楽しさを提供したくて4つのタイプを用意し、デザインのスタイルに合わせて、生地やボタンの選定も少しずつ変えています。女性も男性も、ジャストサイズでもオーバーサイズでも着ていただけるように、5つのサイズ展開にしているのもポイントです。当初はメンズシャツとして発売したのですが、女性にとても好評だったので後からSSサイズを追加したんです。初めて『綿匠WATAKUMI』のシャツを買っていただいた方も女性でしたね。」
現在は白シャツに加えて、後から染められる「いつかの染色のための白シャツ」を新たにラインナップ。白シャツを楽しんだ後は、好きなタイミングで藍染めや草木染めなど、好みの染めを施して、長く大切に着てもらう工夫をしています。
名古屋商工会議所が2016年から始めた「名古屋匠土産(なごやたくみやげ)」。ものづくりが盛んな愛知県で、匠の技に光を当て、名古屋の新たな土産物となる商品を国内外に広く発信しようというプロジェクトです。竹内宏商店は、「綿匠WATAKUMI」の白シャツでプロジェクトにエントリーし、2021年に認定を受けることになりました。
「私たちは生地問屋ですので、プロダクト製作というのは初めての試みでした。ですが、これまで培ってきた織物業界のつながりに助けられて、ノウハウを学ぶことができたんです。完成した『綿匠WATAKUMI』の白シャツは、『名古屋匠土産』のコンセプトに合致していて、ぜひ挑戦したいと思いました。認定を得ることができて、知多木綿の名前を広く知ってもらうきっかけになっていることがうれしいです。」
松坂屋名古屋店では、「名古屋匠土産」の取り組みに賛同し、2019年から認定商品を展示販売する催事をおこなっています。2024年度は、新たな「名古屋匠土産」を選定する最終選考会を同時に開催。オルガン広場に投票箱を設置し、お客様参加型のプロジェクトとして盛り上がりました。
※2024年度は、2/28(水)〜3/4(月)に開催
「2019年当初は、本館6階リビングフロアの15坪ほどのスペースで行っていた催事が、回を重ねるごとにファンが増えて、南館1階の広いオルガン広場で開催できるようになり、経緯を見てきた1人としては胸が熱くなります。」と小野田。
「竹内さんが知多木綿を広めたいと思うのと同じように、私たちとしても知多木綿を含め、愛知の素晴らしいものづくりをお客様に広く伝えたいと思っています。お客様が『名古屋匠土産』の商品を実際に見て、触れて、ストーリーを知って、お気に入りを見つけて帰って行かれる姿を見て、よい時間を過ごしていただいているなと感じています。」
期間中は竹内さんも催事の店頭に立ちました。
「松坂屋名古屋店での催事は、知多木綿を知らないお客様との出会いの場です。催事中には、シンガポールから来たという方が『綿匠WATAKUMI』の白シャツを購入していかれました。言葉はまったく通じませんでしたが、海外の方にも知多木綿の魅力が伝わったように感じて印象深かったです。」と振り返ります。
竹内さんは岡田地区を知多木綿のふるさととして盛り上げるための活動もしています。2023年には、地域の有志と共に「CHITA MOMENT」というイベントをスタート。岡田地区で、クリエイターや企業による知多木綿商品の展示販売があったり、昔ながらの建物を活かした古民家カフェを巡ったりできるクラフト市です。
さらに、「478」の奥にスペースを借りて、染色体験ができる場所の準備もしているのだといいます。
「岡田は木綿で栄えた時代の名残を色濃く残すまちです。当時の機械で機織り体験ができるスポットもあるので、岡田を訪れたときには、知多木綿に親しんでくれる人が増えたらうれしいです。」と、地域への思いを話してくれました。
知多の沿岸部からは少し離れ、木綿生地が頬をかすめるような優しい潮風が吹く岡田のまち。アンテナショップ「478」とともに、竹内さんのこれからの活動が楽しみです。
竹内宏商店
知多木綿アンテナショップ「478」
〒478-0021
愛知県知多市岡田開戸28-1
電話 0562-55-3239
公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://shirushi-zome.jp/