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これからのサウナは「地産地蒸」。京丹後市「蒸」が描く地域コミュニティの可能性

これからのサウナは「地産地蒸」。京丹後市「蒸」が描く地域コミュニティの可能性

京都府京丹後市

    2024.04.12 (Fri)

    目次

      現在、幅広い世代に愛されている「サウナ」。全国にさまざまな施設がありますが、京都府京丹後市に、地域コミュニティの可能性に挑戦しているユニークなサウナがあります。サウナでコミュニティをつくるとは、どういうことなのでしょうか。支配人である足立キリさんに話をうかがってきました。

      サウナー大注目のアウトドアサウナ「蒸」

      2020年代、引き続き若者を中心に大ブームとなっている「サウナ」。地方のサウナへ行くことを目的とした旅「サ旅」、サウナ後に食べる食事「サ飯」など、サウナに関することがたびたび注目を集めていますが、京都府京丹後市にユニークな活動を行っているサウナがあります。

      京都の最北端である京丹後地方の中でも、「五箇」とよばれる地域は、いわゆる観光地などではなく、山間ののどかな里山。サウナ「蒸(むす)」はさらにその山あいを進んでいった先にあります。

      築100年を超える、茅葺き屋根の古民家を改装してつくられた「蒸」。古民家の目の前には羽衣天女伝説の逸話があるという磯砂山から流れる鱒留川(ますどめがわ)が流れます。

      サウナユーザーはこの鱒留川を天然の水風呂として使い、庭で外気浴をする…いわゆる「アウトドアサウナ」とよばれるスタイルのサウナなのです。

      この施設がオープンしたのは2022年の11月。近所に飲食店や商店も見当たらない、この山奥にサウナをつくったのは足立キリさんです。

      幼少期から見ていた「銭湯のあるまち」の風景

      「僕は京都出身。もともと家業がお風呂屋というわけではないのですが、実家の目の前が銭湯だったんです。だからお風呂屋さん、というのはかなり近い存在でしたね。小さい時は母に連れられて通っていたのですが、見知らぬおじさんに話しかけられたり、地元の人同士が喋っていたり…。そのワイワイした光景を見て育ったので、温浴施設は“地域と人がつながる場所”という居心地のよさを感じていました。」

      日本の銭湯の歴史を紐解くと、そのルーツは寺院で行われていた心身を清める意味での入浴・施浴などにたどりつきます。その遺構が現在に至るまで残されていたり、京都独自の文化を備えているゆえに観光スポットになっているような施設もあったりします。

      そんな“銭湯の聖地”とも呼ばれる京都ですが、お年寄りだけでなく、小さな子どもや、学生が多いエリアでもあるので若者の利用も多く、銭湯は老若男女が集うコミュニティとなっています。足立さんが幼い頃から見ていたその風景は、今まさに理想として掲げている景色でもあるのです。

      長野「The Sauna」で見た「地域×サウナ」の可能性

      長野県:The Sauna

      足立さんがサウナを本格的に運営していくのにはコロナ禍が大きく影響したのだそうです。

      「大学を卒業した後は、東京で大手企業に就職したんです。何かしっくりこなくて、その後一回広告代理店に転職して、営業職をやっていました。その頃ちょうど世の中がコロナ禍になって。自宅で過ごす時間が増えたことで、改めて考える時間があった。ちょうど20代の後半に入ったこともあり、何かチャレンジしようと思ったんです。本当に自分がいいと思うことを世の中に広めていきたい、と。」

      そんな頃出会ったのがサウナでした。健康にもいいし、もともとの銭湯好きも相まって、足立さんはサウナにのめり込みます。そして、友人と訪れた長野県の「The Sauna」と出会ったことが転機になりました。

      「衝撃を受けたんですよね。『The Sauna』があるのは長野県の信濃町という小さな町。交通アクセスもよくないので都市部から行くのは大変なんですよ。でもそこに、年間1万3千人が訪れるんです。サウナがあるというだけで、これだけ多くの人を惹きつける。これって本当にすごいなと思って、すぐにここで働こう!と決めました。」

      タイミングもよく「The Sauna」に参加させてもらえることになった足立さんは、その魅力を「アウトドアサウナ」という形態なのだといいます。

      「サウナ室の設備なども、もちろんいいんですが、何より信濃町の気候や土地ならではのロケーション。それが都会のサウナでは体験できないものなので、わざわざ訪れた人を感動させるんですよね。全国からここ目がけて人が集まるのは、唯一無二だから。」

      そして、地域コミュニティというサウナの可能性を足立さんは考えつきます。

      「ロケーションを含めた『独自性』を突き詰めれば、どんな田舎でもできるし、どんな場所でも人を呼べる。場所の数だけ個性が出せる。」

      そう確信を得た足立さんは、自身のルーツである京都でサウナにまつわる事業をやろうと決めたのだそうです。

      「とはいえ人脈が何もないので、ひたすらいろんな、街づくりなどに関わっている人にTwitter(現在のX)で『サウナ興味ないですか?』とDMをひたすら送っていましたね。」

      京丹後というまちとの出会い

      そんな積極的な足立さんの行動は、運命を切り拓きます。

      「まず与謝野町の人とつながって、その人の紹介で、京丹後市の人との接点ができました。のちに出資もしてもらうような大きな出会いだったんですが、そういった形で数珠つなぎでさまざまな人を紹介してもらって、地域おこし協力隊にも入って…。導かれるように現在『蒸』をやっている物件と出会ったんです。」

      ここの魅力は、なんといってもこの「日本昔ばなし」に出てくるような風景です。

      「茅葺の古民家で、目の前に川が流れていて、石階段があって。川を水風呂として使っているんですが、その横では近所のおばあちゃんが畑作業している。外気浴がひと段落したら、囲炉裏を囲ってもいいし、ドラム缶風呂も用意しました。そんな、日本の原風景みたいなロケーションは本当に奇跡のようです。来てくれるお客様はやはり皆このシチュエーションの素晴らしさに感動してくれますね。」

      山奥で突然サウナを始めた足立さんを、地域の人々はとても温かく見守ってくれているのだそうです。

      「ここは全部で15世帯ほどの小さな村なんですが、一軒ずつきちんと挨拶に行って、誰の紹介でここに来て…と丁寧に説明しました。若者が少ないエリアなので、困ったことがあればなんでもやります。」と大事にしているのは基本的なことだけだと語る足立さんですが、蒸が目指しているものも関係ありそうです。

      「僕が目指しているのは、やっぱりここを中心とした地域コミュニティ。幼い頃見た銭湯の風景なんです。毎週月曜には『地域開放デー』として地域の人々に開放したり、さまざまなイベントを行うことで、オープンな印象を持ってもらっていると思います。村の人々は高齢の方が多いので、サウナに入りに来るというよりは、こういう施設が村にあることで安心してもらったり、村に活気が出てくることに意義を感じてもらったりしていますね。」

      温浴、という機能だけでなく、「ここにはこの場所がある」という安心感、日々の営みに近い施設は心のインフラになれる可能性があるようです。

      「地産地蒸」?これから目指す、サウナという新しいコミュニティの形

      サウナブームの過熱ゆえか、都市部では「サウナ待ち」や「個室サウナの増加」などさまざまな現象が起こっています。しかし、蒸が目指すのは、あくまでも「コミュニティ」としてのサウナ。「老若男女が集い、サウナ室の内外で会話をする」風景を実現するために、さまざまな取り組みを行っています。

      たとえば、2月に行われたのはイベント「熟成ブリとサウナ」。舞鶴市の水産加工会社とともに、京丹後の名産である「ブリ」を使ったコラボイベントを行いました。その名の通り、サウナでブリのコース料理を食べてもらうというユニークな企画です。サウナ初心者でも、ブリが食べたいというだけで参加してもらうことで蒸を訪れることができます。3月に行われた「牡蠣とサウナ」と、食コラボシリーズは大好評を得ています。

      また、「うつとサウナ」というクローズドなイベントも、蒸ならではの取り組みといえるかもしれません。以前うつ病を患っていたというスタッフさんの発案により始まったこのイベント。

      「うちのスタッフは、サウナに行くことによって、自律神経が整って、外出するきっかけになったみたいなんです。そうやって、彼みたいにサウナに救われる人もいるかもしれない。」

      そうやって社会的に置き去りになってしまった人たちの居場所にもなり得ると足立さんはサウナの可能性を語ります。

      「もちろん、当事者の人たちだけでなく、関係者や精神科の先生なども来てくれています。これは汗をかいて水風呂入って整いましょうよ、という話だけではないんです。それをきっかけに会話をしたり、とりあえず外出してみよう、輪になって喋ってみよう、サウナ室は行っても行かなくてもいい、ぼーっとするもいい。その自由度がアウトドアサウナにはあると思っているんです。箸休めのような存在になれればいいですね。」

      さまざまなイベントで、地域の可能性と、サウナの可能性を試し続けている足立さん。

      「都市部と比べると、地方のほうが面白い」と語っていますが、そのポイントは「余白」なのだといいます。

      「地域でやっていると、事業の中に余白があるように感じるんです。その余白があるからこそ、好きなことができると思う。やりたいことを実現するためには、遊び心がある地方のほうが僕はやりやすいし、やり甲斐もありますね。」

      -蒸-五箇サウナ
      京都府京丹後市峰山町鱒留1648
      定休日:火曜日・水曜日
      公式サイト(外部サイトに移動します。)
      https://musu-sauna.com/