兵庫県神戸市
2024.05.10 (Fri)
目次
神戸市垂水区。たるみの中心地から山の方へと向かう国道沿いに「TRUNK DESIGN」のオフィス兼ショップがあります。マッチ型のスタイリッシュなお香「hibi」など兵庫発のさまざまなプロダクトを生み出すデザインチームである「TRUNK DESIGN」の特徴は老舗メーカーや地域産業と“ともに歩む”こと。TRUNK DESIGNを訪ね、代表の堀内康広さんに兵庫のものづくりへの想いをうかがいました。
神戸市の西南に位置する垂水区。かつては播磨国明石郡で呼ばれた地域です。隣接する須磨区から東は摂津国。同じ神戸市内でも昔は違う国だったこともあり、独特の文化を持つエリアといえます。海も山も近く、駅前のレトロな商店街は今も活気付いています。駅を抜けて山方面へ歩いていくと、「TRUNK DESIGN」という看板を掲げた、ガラス張りのお店が見えてきました。
迎えてくれたのは代表であるデザイナーの堀内康広さん。「コーヒーでも飲みながらお話しましょう。」と温かく迎えてくれました。まるで町なかのカフェのようです。
TRUNK DESIGNのオフィス兼ショップというこの場所には、ところ狭しと、兵庫発のプロダクトが並びます。アパレルから雑貨、食器類などスタイリッシュなデザインが目を惹くものばかり。
そのどれもが、TRUNK DESIGNがメーカーと協業で作っているものなのだそうです。デザイン会社が、“デザインだけ”でなく、ものづくりも担っているとは一体どういうことなのか、堀内さんに話をうかがいました。
幼い頃からデザイナーになることを夢見ていたという堀内さん。
最初は、クライアントから発注される広告デザインの仕事をしていたそうですが、徐々に活動する領域に疑問を持ち始めたのだといいます。
「広告デザインは、仕事する相手はクライアント。あまり多くの人との接点が直接的にはないんですね。でも僕は、学生時代に飲食店でアルバイトをしていた経験がルーツにあるので、どこかで人との関わりを求めるようになったんです。」
デザインは、伝える仕事であることには違いありません。“多くの人へ広く伝える”広告の仕事をしていく中で、ある種逆の手法ともいえる「1対1で向き合って伝える“ものづくり”としてのデザイン」に魅力を感じ始めたのだといいます。
「2009年くらいのタイミングなんですが、これからは『自分がいいと思うもの』『これを広めたい!という思いが強く持てるもの』に注力したいと思って、そこから広告デザインを受注する仕事をキッパリやめて、ものづくりという領域の中で、デザインの仕事をしていこうと決めたんです。」
それは“伝え方”と同時に、“何のためにデザインをするのか”という、堀内さん自身がどういうデザイナーでありたいのか、アイデンティティーをどう持つかという大切な軸でした。
「地元を盛り上げたくて、だから地場産業を応援したい!という始まりではなかったんですよね(笑)。もちろん地元愛はありますけど、それよりも『本当に役に立つデザインってなんだろう?』ということを突き詰めて考えた結果。誰かの役に立つデザインがしたいと思ったし、それはこの地域に多かった地場産業の課題にうまくはまったといえると思いますね。」
さまざまなお店やブランドから、プロダクトデザインやロゴ、ラベルのデザインを依頼される中で地元のさまざまなメーカーとコミュニケーションをとるようになります。ものづくりの現場を目で見ることや、プロダクトを手に取るなど実際に足を運ぶことを大切にしている堀内さんは、多くの出会いの中からさまざまな企業が抱える課題を知ることになります。その多くは「デザインフィーを払えない」など経営に関する切実なものでした。
通常、メーカーからデザイン会社に依頼する仕事は、発注する際にデザイン費を支払うという形で発注されることが一般的ですが、現在TRUNK DESIGNではまったく違う方法でさまざまなメーカーと協業しているのだそうです。
「TRUNK DESIGNでは、そういったお金に関するようなところから伴走しています。最初はパンフレット・ロゴ・WEB・パッケージ・プロダクトのデザインをすべてゼロ円で請け負って、僕らが販売元として商社のような役割を果たす。メーカーはもう、作ることに特化してもらうんです。僕らは後に、売れた分のロイヤリティーでまかなうという感じですね。見た目に見える部分だけのデザインをデザイナーの仕事と思われがちですが、事業を続けるための思考やアクションをパートナー企業に落とし込んでいくのもデザインなんです。」
一見、TRUNK DESIGNが大きくリスクを持っているように聞こえますが、受注者・発注者という関係ではなく、お互いが対等な関係で協業していくことこそが、一緒にものづくりを続ける上で大切と考えているそう。その仕組みづくりも「デザインの一部」だと考えているのだと堀内さんは語ります。
「決して、“やってあげている”ということではなく、完全に役割を分担した形の協業ですね。」
堀内さん個人にとっても、TRUNK DESIGNにとっても、自分たちの方向性を定める大きなきっかけとなったのが兵庫県太子町にある「神戸マッチ株式会社」との出会いでした。神戸マッチの工場で見せてもらったマッチは非常に魅力的だったのだといいます。
「神戸マッチさんとしては、廃業の危機といえるような状況だったんです。マッチという商品は、今や100円ライターやチャッカマンに置き換わってしまい、単純に道具として使う人はほとんどいませんよね。でも、すごく美しいし機能的で手軽な製品なわけで、これがなくなってしまうにはあまりに勿体無いと思ったんです。何よりもみんなが知っている存在ですよね。そして、この辺りの人はマッチ産業に何かしら関わっている人が多かった。地場産業こそが町を支えるもので、町づくりに大きく関わっているなと思ったんです。マッチという製品をなくすことは、この町を廃れさせてしまうのではないだろうか、これがデザインの力で盛り上げられるのであれば僕らの使命なんじゃないかと。」
播磨地方の神戸マッチとパートナーとなり、ブランドづくりが始まります。お香にするというアイデアを得て、今度は淡路島の「大発」というお香の老舗メーカーも仲間に加わります。今や海外30カ国以上にも出荷しているという大人気の「hibi」の誕生です。マッチ型のお香というスタイリッシュで目を惹くデザインが突破口となり、ありそうでなかったプロダクトであることや、マッチの懐かしさ、香りのクオリティなどさまざまな要素が受け、現在では量産体制を整えるまでに成長しました。その人気の秘訣は、妥協しなかった伝統産業のパートナーとの開発の日々だったそうです。
「シンプルな商品に見えますが、軸を折れないようにする、マッチの形状に近くする、強度を高める…などプロダクトを生み出すまでに3年半かかりました。完成品のイメージに対して一切妥協はしませんでした。現在では30カ国以上に出荷してますが、いまだにコピー商品がないんですよ。それはこの神戸マッチや大発などの伝統産業のメーカーが持っている高い技術力あってこそ。真似できないほど高い技術なんです。」
「ものづくり」以外のことを自分たちが担い、商品に関することだけをメーカーにやってもらうことで、消えゆく地場産業の役に立つということを実感したのだそうです。
「hibi」のヒットで成功をおさめたTRUNK DESIGNは、他にもさまざまな兵庫県のメーカーと協業し、兵庫県のものづくりと伴走する存在となっていきます。
そこからの10年は、ローカルのものづくりに注目が集まったこともあり、TRUNK DESIGNは多くのメーカーとともに歩み、海外の見本市などでも、兵庫という枠を超え、日本各地のものづくりを伝えるミッションを背負うようになりました。
「hibi」など兵庫のものづくりに関する商品開発やPRを行う「Hyogo Craft」を標榜して約15年ほど経つTRUNK DESIGN。現在では、兵庫のみならず、さまざまな地域から地域ブランドに関連したデザインの依頼が殺到するようになっています。
さまざまな地域ブランドが乱立するようになった今だからこそ、ローカルのクラフトというだけではもう売れる時代ではない、と堀内さんは語ります。
「今後は、よりクオリティが問われる時代になってきます。ローカルのプロダクトも、その土地でしか作れないものや品質をどのように伝えるか。何百年も受け継がれている技術と文化、その部分をしっかり伝えていくのが今後のデザインの仕事かなと思っています。」
その土地の素晴らしさや文化が伝わるようなブランドデザインが今後は求められていくと強く実感しているのだそう。
「兵庫のものづくり」と一言にいっても、地域や産業によってその文化はさまざま。より本質的なクオリティとストーリーが求められるようになった今、TRUNK DESIGNの生み出す、アップデートされたローカルプロダクトから目が離せません。
大丸松坂屋オンラインストア
https://www.daimaru-matsuzakaya.jp/Search.html?keyword=トランクデザイン
TRUNK DESIGN
公式サイト(外部サイトに移動します。)https://trunkdesign-web.com/