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「神戸牛」の次は「神戸レザー」。廃棄される牛皮活用のロールモデルがここに!

「神戸牛」の次は「神戸レザー」。廃棄される牛皮活用のロールモデルがここに!

兵庫県神戸市

    2024.05.21 (Tue)

    目次

    創業は大正6年。神戸の元町6丁目商店街で100年以上にわたり、地元の人々の足元に寄り添ってきた「マルヤ靴店」。地域の振興活動にその名を刻み、昭和40年に兵庫県産業功労賞を受賞した靴店の4代目であり、革職人として革小物ブランド「STUDIO KIICHI」を展開する片山喜市郎さんにインタビュー。20代で継いだ家業とブランドの立ち上げ、「神戸レザー」を通して見る地元のものづくり、神戸のこれからについてうかがいます。

    地元がシャッター街になるのを食い止めるべく始めた「STUDIO KIICHI」

    日本人のみならず、今や世界にその名を馳せる「神戸牛」。そのブランドビーフを生産する過程で、副産物としてでる皮を有効活用し、新たな神戸のアイコンにするべく2019年に発足した「神戸レザー協同組合」。そこで理事長を務められる片山喜市郎さんは、2010年に自身が企画、デザイン、製造、販売までを行う「STUDIO KIICHI」を始動しました。老舗の革靴店と自身のブランドを両立する片山さんに、これまでの経緯について聞きました。

    1917年に創業し、当時はオーダーメイドで靴作りをしていた「マルヤ靴店」の4代目として、神戸で生まれ育った片山さん。大学卒業後3年ほど地元を離れ就職し、カー用品店でマーチャンダイザーをしていました。その後、地元へ戻り家業を継ぐことになるのですが、その頃には学生靴などの小売りが中心になっていたのだそうです。

    「店は正直、あまり儲かっていなかったのですが、それはマルヤ靴店だけではなくて。商店街周辺も空き店舗やシャッターが閉まっている店が増え、なんだかその地域一帯の元気がなくなっているのを感じたんですよね。そんな場所で、何か新しいことを始めてみようと、皮革に着目して2010年に『STUDIO KIICHI』を始動しました。」

    「靴屋でありながら当時の僕は、靴作りの経験もなく、皮革メーカーとのつながりもゼロ。靴作りの勉強もしてこなかったので、靴の職業訓練や靴作りの学校へ行かせてもらいながら、地元・神戸に根付いたものがいいなと『神戸レザー』に目をつけました。それから神戸から程近いたつの市、姫路市の革を使わせてもらい始めました。そこからさらにたくさんの革職人の方々をつないでもらい、一緒にやっていける製革業者とも出会い、今に至ります。たくさんの失敗も重ね、革製品づくりを学びながら、ここまでやってきました。」

    神戸牛の副産物「神戸レザー」の現実。地域コミュニティ、行政を巻き込んで

    靴を通して慣れ親しんだ革製品の可能性に賭けた片山さんは、そこからさらにディープな皮革業界へと足を踏み込みます。

    一般的に革とは、まだ毛がついているような原皮を製革業者が鞣して、製品が作れる革の状態にしたものをいいます。そして現在、日本で取り扱われている革は、北米やカナダなどの海外産のものが主。革は大きさによって金額が高くなるのですが、海外の原皮は大きく厚みがあり、脂も少なく比較的扱いやすいのだそうです。

    「一方、面積も小さく、革にするまでに手間暇がかかる国内の原皮は、製革業者から嫌われがち。故に、国内外で和牛の肉が生産、消費されるたびに出る原皮は余ってしまい、海外へ安く輸出されたり、廃棄されていることを知りました。そこで神戸牛の皮革を活用することを軸に置き、革小物づくりを進めました。」

    食用として世界で大人気の神戸牛ですが、実は皮革業界ではお荷物になっている現実には驚きを隠せません。片山さんは行政や地域コミュニティを巻き込んで、神戸レザーのブランド化に向けて邁進します。

    「神戸レザーは、神戸牛と同じように、個体識別番号があってトレーサビリティーが可能なものだけを神戸レザーと呼びます。お肉は徹底的に品質管理されて、出荷されてもそれがどこの牛かなどが追跡可能になっている。その神戸牛さながらの徹底した商品管理を神戸レザーにも行おうと考えたんです。しかしこれがタンナーと呼ばれる製革業者にとっては決して簡単ではない。もともとは大量に仕入れた原皮を一緒くたにして水で洗い、機械でほぐしたり、漉く(すく・革の厚みを均一にする)作業があるのですが、個体識別番号を参照しながら作業するのは不可能に近いです。

    しかし僕が今、一緒に仕事しているタンナーの島田製革工業所さんは、冷静に一歩先を見ています。神戸牛の人気により、その原皮が多数流通することを見越して、その難儀なプロセスに挑戦、対応してくださっています。こういった方との出会いによって神戸レザーが実現したのです。」

    またこのシステムは、屠畜場と連携して個体識別番号リストを参照しながら作業を進める必要があるそうですが、その屠殺場自体も神戸市が管理しているところとのことで、神戸市の協力を得られたそうです。屠殺場の方々やタンナーさんとの巡り合わせは、神戸で地場産業を支える同世代のメンバーをはじめ、神戸肉流通推進協議会、中央畜産荷受(株)など、神戸牛に関わる事業者の方々だけでなく、神戸市や兵庫県、経済産業省からの協力と支援のおかげだと片山さんは語ります。

    シンプルで華やかな「神戸レザー」グッズで国内外での知名度をさらに引き上げ

    片山さんが「兵庫で生まれたものを地元の技術で加工し、地元で製品にして販売する。全て兵庫で完結するものづくりとしてサステナブルにつながる」という通り、見事な地産地消のシステム。そのエコサイクルで作られる「STUDIO KIICHI」は今年、インテリア業界の“パリコレ”といわれる「メゾン・エ・オブジェ2024」にも出展しています。

    「これまでも何度か海外の展示会へ出展していますが、やはり神戸牛のおかげで神戸の知名度は抜群です。その上で、ブランドビーフだけでなく、神戸の地場産業やものづくりを知ってもらう機会を増やすべく、長く使えて、飽きのこないデザインの小物を豊富なカラーバリエーションで展開していく。アイテムを手に取ってもらうことで、神戸レザーのストーリーも併せて知ってもらえれば嬉しいです。」

    革小物も靴も新たな目標に取り組みながら、神戸の街をアップデートする

    地元コミュニティから行政まで、多くの人々とオープンなコミュニケーションで実現する「STUDIO KIICHI」。片山さんは今、浮上した新たな目標について語ってくださいました。

    「僕が地元でのものづくりを通して気付いたのは、タンナーさんの仕上げた革がメーカーさんに引き取ってもらえないなど、下請けとして苦労や縫製作業の現場で工賃が安すぎて技術者が育たない現実です。それを目の当たりにした今は、年間約6,000頭とされる貴重な神戸牛の資源を国内で活用しつつ、そのモデルケースを作っていくこと。そして神戸レザーとして、鞣しや製品加工技術を確立し、その取り組みと意義を理解してもらい、同じように製品を作っていけるメンバーを増やしていくことに注力して行きたいです。」

    同時に家業の靴屋を通して感じていたのは、もう大量生産に大量消費の時代ではないということだそう。今後は靴店についても、在庫を抱えず、サイズサンプルだけを店頭に置いて、小規模でも完全に受注生産できる店舗を考えているようです。

    神戸レザーをブランドとしてより強化しながら普及を目指す片山さんは、その他にも神戸の今後を見据えてさまざまな構想があるようです。

    「長い目で見て、神戸=神戸牛だけではいずれ飽きられてしまう。神戸レザーのほかにも、神戸へ行きたいと思う理由を創り出していかないといけないと思います。それは他の地域でも真似できるようなものではなく、この地域独自のコンテンツであること。例えば神戸は今、さまざまな場所で再開発が進んでいるので、海外からのインバウンドを見越したマップを作ったり。僕のお店でもワークショップなどを考えていますが、その土地でしかできない何かが他にないかと考えつつ、今あれこれと動いているところなので、それもいつかお伝えしたいですね。」

    神戸レザーの話を超え、5〜10年先の神戸に目掛けたプロジェクトの話などもたくさん聞かせていただいた今回。革職人でありながら、また違う分野で神戸の街づくりを牽引する片山さんの今後に引き続き注目です。

    STUDIO KIICHI
    住所:兵庫県神戸市中央区元町通6-7-3(元町商店街内)
    営業時間:11:00〜19:00
    定休日:水曜日
    公式サイト(外部サイトに移動します。)
    https://studiokiichi.com/

    神戸レザー協同組合
    公式サイト(外部サイトに移動します。)
    https://kobeleather.or.jp/