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立ち止まらないことが、未来への光。「岡垣漆器店」が示す輪島塗の可能性

立ち止まらないことが、未来への光。「岡垣漆器店」が示す輪島塗の可能性

石川県輪島市

    2024.06.21 (Fri)

    目次

      震災から6ヶ月。石川県輪島市の「岡垣漆器店」は、歩みを止めず国内外で活動をされています。ネガティブなことだけでなく、震災を経たからこそ得られた新たな視点をもって未来を描いています。松坂屋静岡店での展示を前に、今感じられていることを代表の岡垣さんにうかがいました。

      (前編はこちらから)

      まだ歩き出せない人たちの想いも背負って

      地震で欠損してしまった商品を修繕し、日本全国から手を差し伸べてくれる人たちの手も借り、岡垣漆器店は国内外の展示会への出展を精力的に行なっています。

      「今、僕は、『旗を立てる』ということをひとつ活動の軸にしています。それは職人さんのための旗です。『旗』というのはもちろん、商品を売って、職人さんたちの生活に還元するということもありますが、売上ということだけではないんです。今、職人さんとひと言で言っていますけれど、震災後すぐ走り出してダッシュできる人もいれば、ゆっくり歩く人もいる、でもなかなか立ち上がれない人もいるんですね。被災の状況も、お一人おひとり違うので。」

      2年3年でも待つよと言ってくれるお客様や、「使うことが震災復興だと思ってるよ」と声をかけてくれるお客様。旗を立てにいった先で受け取った言葉は、可能な限り職人さんたちに伝えるのだそうです。

      「なかなかうまくいかないことばかりだけど、お客様はこう言ってくれてる、ゆっくりやりましょう。」

      東北、関西、東京そしてニューヨーク。さまざまなところに旗を立てて、その場所の声を直接職人さんに届けるのが今の岡垣さんの使命です。

      「なかなか立ち上がれない職人さんたちの背中を押す機会になればいいなと思っています。」

      それは震災があったからということではなく、岡垣漆器店が心がけている“声を届ける役割”をどんな時も守っているといえます。

      展示会だけではなく、講演もその「旗立て」のひとつです。

      「震災や防災の話がきっかけかもしれませんが、改めて輪島塗を多くの人に知ってもらう機会にもなります。学生さんが『漆ってなんでこうなんですか』『輪島塗と他の違いは何?』『うちにもこんな器があるんですけど、これいくらぐらいしますか』とか(笑)。リアルな学生さんの声も、職人さんにも伝えられるし、もしかしたらこの中から未来の職人さんが出てくるかもしれないですよね。」

      まだ立ち上がれない人たちの思いも背負って岡垣さん自身が走れているその原動力は何なのでしょうか。

      「最初は何もできないので、目の前のことを一つひとつ片付けることだけでした。2月以降のことなんてまったく考えていなかったのですが、妻から『(2月に参加が予定されていた見本市の)ニューヨークは行くよね?』とさらっと言われたんです。反射的に『え?行っていいの?』と思わず返事してしまいました。勝手に(この状況に)つぶされたものだと思っていたんですよ。」

      「ニューヨーク、行きます」と言い出した岡垣さんに、周囲はそれが実現するよう、さまざまな協力をしてくれたのだそうです。

      「『私これやります』『僕こういうことできますよ』『何か手伝えることないですか』といろんな人が助けてくれました。いわば“ツギハギ”ですし、もともと想定していたニューヨーク行きとは全然違いますが、なんとか道筋は見えた。周囲の皆さんのおかげなんです。」

      今だからこそ描けた、未来へのアプローチ

      ニューヨークでのお客様との対話は、岡垣さんにとって未来の選択肢が少し見えるような、有意義なものだったそうです。

      「向こうの人は質問をたくさんしてくれました。そういうのも新鮮で、話をしていて楽しかったです。想定以上の反応があって単純に嬉しかった、というのはあるのですが、一方で、想定してなかった出会いもありました。それは輪島塗をアートピースとして見てくれる人たちとの出会いですね。」

      日本の伝統工芸品が美術品として受け止められる、ということ自体は想定していたものの、「美術品だとしたらこういう展開ができる」などアートならではの世界の広がり方は今まであまりリアルに感じたことはなかったのだと言います。

      「僕が目指してる“伝えたいこと”を改めて考えてると、こういうお客様をターゲットとしていくのもひとつだなというところが見えたと思います。」

      海外のお客様を相手にどうアプローチしていくかが見えた一方、改めて今までのやり方をアップデートする必要を感じている岡垣さん。今までは直接言葉で説明することで伝えてきた「職人さんたちの高い技術力」を、より多くの人にわかりやすい形で伝えたい。目に見える形でどう伝えるかということも、ひとつ次にトライすることとして見据えています。

      「木地から塗りまでの工程を全部3Dスキャンしようかなと思っています。1回漆を塗って0.03ミリの厚みがつき、次はその上にまた0.03ミリ塗ります……という輪島塗特有の技術を、可視化できる形にしたいんです。」

      「通だけが知っている世界ではなくて、よく知らない人たち、あるいは少し興味がある人たちにも輪島塗の世界へ入ってもらうためのツールとして、表現したいと思っています。」

      コロナ禍で止まっていた海外へのアプローチと、最も大切にするべき職人さんたちの技術力をより多くの人へ伝えるためのツール開発。

      その2つが時を同じくして岡垣漆器店の未来への道を照らしています。

      「もちろん震災はとても悲しいことでした。でも、それを経たからこそ気付けた新しい価値観や視点に目を向けたいんです。悪いことばかりじゃないという言い方は少し語弊がありますけど。例えば私の息子は、震災を機に炊き出しに参加して、地域の人たちとのコミュニケーションや社会参加のきっかけを得た。リモートが当たり前になった今、職人さんたちの分業自体、輪島にこだわらず地域分業などを活かせないだろうかとも考えています。常に何か問題はありますが、柔軟にポジティブに捉えて、未来へのヒントを見つけることを大切にしていきたいですね。」

      奥深い輪島塗の世界、そしてポジティブに未来を見据えていく岡垣漆器店に注目せざるを得ません。

      震災から半年の節目として、岡垣漆器店と創業当初からお付き合いがある松坂屋静岡店では、復興支援を目的とした展示会が行われます。私たちが日常的に使えるものも多く取り揃えられており、質の良い漆器を間近に見られる貴重な機会です。ぜひ匠の技を手に取り、輪島に思いを馳せてみませんか。

      (復興支援)能登半島地震から半年 輪島塗特別販売会

      日程:2024年6月26日(水)〜7月2日(火)
      会場:松坂屋静岡店 Blanc CUBE「CUBE3」
      ※最終日は午後4時閉場

      本企画の売上の一部を、被災された輪島塗の職人さんたちを支援する組織「輪島漆器商工業協同組合」へ寄付いたします。

      千舟堂(岡垣漆器店)
      〒928-0001 石川県輪島市河井町20-1-83

      公式WEB(外部サイトに移動します。)https://www.senshudo-japan.com/