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通称・食べられる植物園。渋谷区が始めた新しい都市のコミュニティ

通称・食べられる植物園。渋谷区が始めた新しい都市のコミュニティ

東京都渋谷区

    2024.07.12 (Fri)

    目次

      東京の渋谷駅から徒歩10分ほどの場所に「日本一小さな植物園」があります。しかも「食べられる植物」のみを育てていて、最近では映えスポットとしてSNSでも話題。そんなユニークな取り組みをする「渋谷区ふれあい植物センター」を訪ねました。

      都会に生まれた「農と食の地域拠点」

      • 「渋谷区ふれあい植物センター」。入口だけ見るとカフェだと勘違いしてしまいそうな外観

      • 温室の周りはハーブガーデン

      「渋谷区ふれあい植物センター」は2004年に開園した、渋谷清掃工場の還元施設です。ごみ焼却時に発生する熱を利用して発電し、その電気を使って運営される「日本一小さな植物園」として親しまれてきました。設備の老朽化により2023年7月に新たに「農と食の地域拠点」としてリニューアル。

      今回は園長の小倉崇さんにお話を聞きながら、館内を案内してもらいました。

      小倉崇さん

      家庭で出る生ゴミを堆肥にする画期的なコンポスト

      待ち合わせた時間に植物センターの前に着くと小倉さんはすでにエントランスで待っていてくれました。まず入ってすぐに、飲み物や2階のカフェメニューをテイクアウトできるBOTANICAL STANDがあります。

      テイクアウトのドリンクやグッズなどを販売しているエントランス

      こちらでは、食べ物や飲み物のほかにも園芸用品などを販売しています。中でも目を引いたのがこちらのバッグ。ただのフェルト素材のバッグと思いきや、生ゴミを分解できる『LFCコンポストセット』というもの。中には生ゴミを分解する独自の材料が入っていて(見た目は土のようなもの)、生ゴミを入れて撹拌し、いっぱいになったら3〜4週間置いておくと、堆肥が出来上がるんだそう。

      • この中で堆肥を作れるそうです

      • 「家庭で出る生ゴミは1日約400グラムと言われていて、2カ月でこのバッグ1つがいっぱいになります。」と小倉さん

      購入したお客様が作った堆肥の回収もしていて、野菜などを栽培している人は無料で分けてもらえるそう。

      食べられる植物のみを栽培。温室には美味しそうな果物も。

      さて、いよいよ温室「Botanical Garden」へ。食べられるものだけが栽培されていると聞いて入っていくと、バナナ、パイナップル、いちご、マンゴーなど、あちこちに果物がなっています。

      太陽光が入るガラス張りの明るい空間

      「ここには普段自分が食べているようななじみのある果物がたくさんあります。果物だと、見てすぐにわかりますし、テンション上がりますよね。こういうふうに木になってるんだ、葉っぱの形はこんな感じなんだ…なんて初めて知ったりして、みなさんに楽しんでもらっています。」

      • パイナップルってこんなふうになるんですね

      • こちらはいちご

      収穫時期が来たら、来園者と一緒に収穫することもあるそう。

      「先日も来園した子供たちと一緒にいちごを収穫して食べました。採れたてだからこそ味わえるみずみずしい美味しさは、市販のものではなかなか味わえません。子供たちがいつか『あの時食べたいちご美味しかったな』と思い出してくれて、今度は自分で栽培してみようとか、そういうきっかけになるといいなと思っています。」

      さて、温室の奥にはピンク色のライトで照らされた空間が。こちらがLEDを使って水耕栽培で葉野菜を育てている「Farm Lab」。

      • 映えるスポットとしても人気

      • ここのLEDは赤と青の割合を調整でき、栄養素の高い野菜を作ることができるそう

      「こういう野菜工場はフランスのパリなどでは大規模に行われていて、古いビル内で野菜が育てられたりしているそうです。渋谷区にも古くて使われなくなったビルがあるので、それらを借りて野菜工場を増やしていけたら面白いなと。また、渋谷って1日に2トンのフードロスが出るそうなんですよ。良いことではないんですけど、それを全て堆肥にしたら区内で肥料も賄える循環型の社会ができますよね。一見マイナスと思えることでも、別の視点から見ると、都会だからこそできる農業のスタイルもある。最近では“アーバンファーミング”と呼ばれていますが、そういったことをここから発信し、広めていけたらと思っています。」

      ここで収穫されるのはレタス、ルッコラ、水菜、からしななど。種を蒔いてから約1カ月で収穫できるのだとか。採れた野菜は2階のカフェでサラダとして提供しています。そこで、温室の真ん中にある階段を上って2階のカフェへ。

      植物園で採れた野菜はカフェで楽しめる

      • 温室の植物を見下ろしながら食事ができる

      温室の植物を眺めながら食事やお茶、お酒も楽しめることから、癒される、SNS映えすると、若い世代を中心に人気となっています。

      ピッツァ2枚とミニサラダがついたピッツァランチとハーブジンジャー

      人気のメニューは有機野菜をたっぷり使ったソースが特徴のピッツァ。グルテンが少ないスペルト小麦を100%使い、有機野菜がたっぷり入ったソースを塗って焼き上げているそう。6種類あり、この日いただいたのは「有機ビーツとハーブバター」「有機ケールとセサミ」の2種類。

      渋谷ビールも開発? ボランティアとして作物づくりに参加

      最後に見せてもらったのはさまざまな植物を栽培している屋上ファーム(普段は非公開)。現在ここではホップを育て、収穫後には“渋谷ビール”の醸造を目指しています。今後、“渋谷茶”の栽培も予定されているのだとか。渋谷には江戸時代末期から茶畑が多くあったそうで、まだ原木も区内に残っているそう。その苗をここに植えます。

      • ビルに囲まれた屋上で美しい植物を栽培

      • ホップはこのようなつる性の植物です

      「3〜4年後には茶摘みができるかもしれません。ホップもお茶もハーブガーデンのハーブも、ボランティアさんを募集して栽培のお手伝いをしてもらっています。1年間の登録制で、月に1回活動日を決めてみんなでお世話をしたり、専門家に来てもらって栽培のコツを教えてもらったりしているんです。この活動はとても好評でボランティアを募集するとすぐに定員に達してしまうほどなんですよ。」

      ただ植物を見るだけでなく、食べる、栽培に関わるというように、さまざまな方法で人々と自然をつなぐハブのような役割となっているのが、ここ「ふれあい植物センター」なのです。

      都会だからこそできる「農でつながる」コミュニティ

      こちらの園長として、日々来園者と接している小倉さん。心がけているのはコミュニケーションです。

      「来園してくれる方は小さいお子さんを連れた親御さんも多いですが、SNSで広まったことから20代の若い方が想定外にたくさん来てくれるようになりました。自然と接することの楽しさを伝えるのが私たちの役目と思っているので、できるだけお客さんに話しかけるようにしていて、植物の説明をしたり、何に興味を持ってきてくれたのかを聞いたりしています。」

      最近は遠方から訪れる人も多く、世代もさまざま。毎週来てくれるおばあちゃんとお孫さんや、植物のデッサンをしによく来てくれる大学生など、楽しみ方はそれぞれ違うそうです。

      小倉さんはもともと出版社に勤務する編集者でしたが、2011年の東日本大震災をきっかけにNPO法人を立ち上げ、区内に畑を持ち、アーバンファーミングを進める活動をして来ました。

      そういった活動の中で、この施設がリニューアルする際に運営事業者の募集を知り、手をあげたのだとか。

      「この施設の運営を通じて、都市においても農業をやったり、緑豊かな環境で生活できたりすることを、多くの人に知ってもらえればと思っています。最近では、先ほど話したパリの野菜工場だけでなく、ニューヨークでは巨大なコンベンションセンターの屋上が広大な農園になっていたり、シンガポールも屋上農園が増えていたりするんです。」

      再開発が進み、次々と新しいビルが建っている渋谷区で、農業を広めようとしている渋谷区ふれあい植物センター。ここに来てくれたことをきっかけに農業に興味を持ち、ベランダにプランターを置いて野菜を育てたり、コンポストを使って生ゴミを減らしたり、できることから環境問題や食料問題に目を向けてくれる人が増えるよう、これからも楽しい企画を行っていくそうです。

      渋谷区ふれあい植物センター
      東京都渋谷区東2-25-37
      03-5468-1384

      開園時間:10:00〜21:00(カフェは11:00〜)
      休園日:月曜日
      入園料:1回100円(小学生以上、未就学児無料)

      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://sbgf.jp/