2024.08.30 (Fri)
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世界に誇れる日本の魅力のひとつが「安全で、美味しい水」。この日本の水を活用したサステナブルな活動が、注目を集めています。その名も「mymizu(マイミズ)」。日本全国にある「ボトルを持参すれば無料で給水できるスポット」とユーザーをつなぐプラットフォームです。
ペットボトル削減という社会課題の解決だけでなく、地域のコミュニティを豊かにしているという、このユニークな活動。「mymizu」を牽引するルイス・ロビン・敬さんにお話を伺いました。
ペットボトル消費を減らすべく、マイボトルを持ち歩く人が多くなってきました。それでも中身を飲み切ってしまえば、またコンビニや自動販売機で飲み物を買う必要があります。「mymizu(マイミズ)」は、そんな現状を打破するため、2019年に誕生したプラットフォームです。
使い方はとてもシンプル。アプリをインストールするだけで、だれでも街のカフェやお店などの給水スポットを調べ、無料で利用することができるのです。
2019年9月にβ版のアプリがリリースされ、現在のユーザー数は約30万人、給水スポットは日本だけで13000か所以上登録されています。マイボトルを持ち歩き、街で給水することにより、サステナブルが「あたりまえ」の世界を実現するためのコミュニティ作りに寄与しています。
また、由比ヶ浜や逗子海岸などを中心としたビーチクリーン活動や、大学での講演会なども実施。実際にたくさんのゴミを回収したり、環境問題や社会問題について知った上で、どうアクションを起こしていくかというディスカッションを学生たちとともに行ったりして、次世代の意識改革にも貢献しています。
今年6年目となる「mymizu」は、今どのような局面を迎えているのでしょうか?
「プロジェクトを立ち上げたのは、宮古島を訪れた際に、美しいビーチにぺットボトルのゴミが山積みにされているのを見たことがきっかけです。でも、プラスチックボトルを削減するのはもちろん大事なんですけど、それを入り口にして『誰でも参加できる環境活動』をやっていきたいと思っているんです。」
より多くの人に、環境問題を身近に感じてほしいと活動を続けているルイスさん。給水しやすい街づくりをきっかけに、「サステナブルがあたりまえの街」を目指し、ローカルの各自治体とともに、環境教育や給水の普及活動支援を行っています。
「自治体との取り組みに力を入れているのは、大きく2つの理由からです。ひとつめは、プラスチックのゴミ捨ての問題。2つめは熱中症対策ですね。毎年ものすごく暑くなっていますし、本当に命の危険もあるので、熱中症を防ぐための仕組みを増やす必要があると思ったんです。
自治体のコミュニティを作りながら、全国で給水できる場所をどんどん増やしていきたいと思って自治体アライアンスも作りました。」
自治体それぞれが主体的に動くためには、横のつながりを作ることがとても大事、と語るルイスさん。環境省の後援を得ながら、現在は、福井県、長野県白馬村、静岡県御前崎市など7つの自治体とアライアンスを結んでいます。
地域ごとに環境や特性が違っても、自治体同士、住んでいる人同士がそれぞれの知見を持ち寄れば、大きな変化を生み出していける。給水をきっかけにサステナブルな街づくりが具現化されています。
猛暑の中、mymizuが向き合う課題で注目されているのが「熱中症対策」。ここには、ルイスさんならではの、グローバルな視点から見た問題点が浮かび上がってきているようです。
「熱中症アラートとかいろいろと出ていても、結局は日本語なので海外から来ている観光客の人たちはその情報にアクセスできていないと思うんですよね。その上、日本のローカルを観光するとなると、コンビニや自販機などが少ないエリアを延々歩くことも多い。彼らのためにも地域のお店やレストランで無料で水を飲める給水スポットを増やして、どこを観光していても必ず安全に動けることを目指しています。」
さらに、海外からの観光客にとって、日本で街中の蛇口から出る水や、自然の湧き水が「安心して飲める」ということはとてもユニークなこと。
「最近多いのが、海外からの観光客のインフルエンサーが『mymizu』の動画を作ってくれていること。あと海外の旅行会社が、日本に来る前に『こういうアプリがあるよ』と紹介してくれることもあるみたいなんです。無料でお水が飲めるというコスパももちろんですが、日本の水が美味しいということも反響のきっかけになっているように思います。」
自治体にとっても、水が美味しいことは地域の魅力として大きな訴求ポイントになります。日本の水、ローカルの水が安全で美味しいことをPRできる機会につながっているのです。
カフェや食事処などが「mymizu」の給水スポットとして加盟してくれることで、地域住民のコミュニケーション活性化にもひと役買っています。自治体の給水スポットを増やすため、地元の若者や学生たちの協力を仰ぐことも多いのだそう。
「たとえば、協定を結んでいる京都府亀岡市では、地域の高校生たちと一緒に、『mymizu』のポスターを作ったことがあります。それで地元のお店に、給水スポットとして参加しませんかと声をかけて回りました。お店との交流も生まれるし、何より若い人たちは環境問題に関心のある人が多いからポジティブですよね。一緒に活動することで、若い人たちならではの創造力を活かした活動を後押しできたら、という思いもありますね。」
また神戸市では、2021年に「熱中症対策」を掲げたキャンペーンを実施。加盟店を増やし安全な街づくりを進めました。ほかにも宮古島では地元の小・中学生とともに加盟店を増やすべくお店を巡り「プラスチックフリーな島を目指そう」というキャンペーンを行ったことも。共通の目標でつながることで、地域の老若男女のコミュニケーションがより活性化されていっています。
「ひとつすごく好きなストーリーがあるんですけど、ある町で、通学中にたまにマイボトルが空っぽになってしまうと悩んでいる小学生がいたんですね。その通学路にたまたま給水パートナーのお店があって、お母さんが『もし水筒が空っぽになったらこのお店に行って給水していいよ』っていってくれて。
結果、子供たちが、そこのオーナーさんと仲良くなったんだそうです。『mymizu』がこういう新たな出会いを作っていくプラットフォームとして機能している、と感じられた嬉しいエピソードでしたね。」
新しい出会い、新しい会話、そして「共有すること」。「mymizu」を通じた小さなコミュニケーションや思いやりが、加盟するお店や参加する人たちへ、大きな喜びを生むきっかけとなっています。
「mymizu」を通じて地域の環境を考えることは、ペットボトルの削減とともに、参加する人の意識を変え、行動を変えるという体験を提供しています。ひとつの目標に向かって課題解決する姿勢は、今後、地域のほかの課題解決にも役立っていくだろう、とルイスさんはいいます。
「日々の小さなコミュニケーションでもいいんですけど、それが一個一個増えていくと、必ずより強い社会になってくると思うんですよ。それぞれの自治体が、コレクティブに(集合体として)活動する、というその体験自体に価値があるんじゃないかと。
水を通してこういう一人一人の関係を強くしていければ、絶対より良い社会になってくると思っています。」
もしかしたら、今、世界が直面している環境危機という問題は、スケールが大きすぎて、捉えきれない人もいるかもしれません。でも「mymizu」に参加すれば、少なくとも自分のまわりの世界が少しずつ変わっていくことでしょう。
水、地球環境、人とのつながり。「mymizu」は、これからもこうした欠くことのできない豊かさを届け続けてくれます。