奈良県
2024.09.11 (Wed)
目次
「風の森」は、日本清酒発祥の地、奈良県で300年にわたり酒造りを行う老舗蔵元「油長(ゆうちょう)酒造」の人気銘柄です。微炭酸でフルーティな味わいが飲みやすく、「日本酒に興味を持つきっかけになった1本」として名前が挙がることも。
今回は油長酒造十三代目当主の山本長兵衛さんに、注目銘柄「風の森」の魅力や日本清酒発祥の地、奈良で日本酒を造ることについてお話をうかがいました。
油長酒造は、常に新しい技術を取り入れ、革新を積み重ねてきた精鋭蔵です。その看板銘柄「風の森」は、1998年、先代が「地元の米を使って搾った生のお酒を、地元の人々に飲んでほしい」という想いから生まれました。
そして現在、十三代目を継いだ山本さんが伝統技法に現代の技術を重ね合わせることで、今の時代だからこそできる「風の森」に挑戦しています。一方で、奈良に伝わる寺院醸造の伝統を継承した「水端(みづはな)」など、日本酒造りの原点に立ち返る銘柄も展開。「現代技術」と「伝統」という、アプローチの異なる銘柄を展開していますが、山本さんは「どれも日本酒造りにおける考え方は根底で繋がっている」といいます。
「根底は『日本酒の歴史を知る』という考え方で繋がっています。奈良は日本清酒発祥の地であり、その日本酒造りの技術は、現代の酒造りの礎になったと考えられています。奈良の酒蔵としてまずは、日本酒の歴史や先人たちが積み重ねてきた技法を知ることが大切。それが新しいことにチャレンジするときの基盤になります。だから、誰よりも深く日本酒の歴史や技法について知っておきたいと思っています。」
日本酒の歴史や伝統技法を深めるために生まれたのが『水端』です。「水端」で日本酒の古典技法に触れ、古の味を再現することは、「風の森」をはじめ、日本酒造りにおけるさらなる技術の開拓にも繋がります。
「『水端』は、中世の酒造りにクローズアップして、奈良の先人が築き上げてきた魅力ある酒造りとはいったいどんなものかを探求するために生まれた日本酒です。日本最初の民間の酒造技術書である『御酒之日記』や、戦国時代以降の奈良の酒造りの記録である『多聞院日記』を参考に、当時の技術を可能な限り掘り下げました。」
古の技法を採り入れた酒造りは「水端」以外にも、同蔵の主力商品である「風の森 ALPHA」シリーズにも活かされています。日本清酒発祥の地・正暦寺で編み出された「菩提酛(ぼだいもと)」という技法を採り入れ、現代技術と融合させた日本酒です。
「先人の方々が培ってきた酒造りの技法は、さまざまな時代でブラッシュアップされながら進化してきました。『水端』に限らず、伝統技法と現代技術をミルフィーユのように多層化させることで、1本の日本酒の価値を深める、そんな酒造りをしたいと考えています。」
過去の資料を紐解き現代に通じる酒造りにチャレンジする一方で、未来に向けた酒造りへの挑戦も着々と進めています。それが、酒蔵から車で約15分、標高約400mに位置する棚田の中腹に新造された「葛城山麓(かつらぎさんろく)醸造所」での酒造り。この酒蔵では米の魅力を引き出すため、できるだけ米を磨かず、大地のエネルギーを表現する酒造りを目指しています。
「この地域では、当蔵の日本酒で使用する米「秋津穂」を育てていただいていますが、就農人口の高齢化や後継者不足が喫緊の課題です。地域の農家や酒販店、消費者のみなさんと協力して、この棚田の光景を100年先の未来に繋いでいく。この『葛城山麓醸造所』が、そのシンボルになれるように頑張りたいです。」
日本酒の歴史がある奈良で、「水端」造りで古典技術を習得した油長酒造だからこそ生み出せるのが、「風の森」です。実際、「水端」造りで得た学びを「風の森」の仕込みにも反映しているなど、2つの日本酒は全く異なる製法でありながら、根底では通ずるものがあります。
そんな「風の森」が日本酒のなかでも飲みやすいといわれる理由は、搾ってそのままの酒(無濾過無加水生酒)であり、素材そのままのフレッシュな味わいを楽しめるから。その味わいの決め手となるのが、日本酒の原料である「水」と「米」です。
一般的に、日本酒造りにはミネラルをあまり含まない「軟水」が適しているといわれます。しかし、油長酒造では、金剛・葛城山系の地下100mから取水した「超硬水」を仕込み水(日本酒造りで使う水のこと)として使用しており、これが味の個性となっています。
「当蔵の近くには、かつて活火山だった二上山(にじょうさん)があり、多くのマグネシウムやカルシウムを含んだ粘土層を通るため、硬度250前後という超硬水が井戸から引けます。ミネラルが多い超硬水で仕込むと酵母の増殖スピードが速くなるため、正直なところ酒造りはとても難しいのですが、超硬水が含むさまざまな味の分厚さのようなものが『風の森』の個性として反映されています。」
特に「風の森」は、一般的な酒造りで行う濾過の工程を省いた「無濾過」のため、より旨みや酸味などの要素を感じられる日本酒に仕上がっているとのこと。
「仕込み水を飲んでいただけるとわかるのですが、口当たりがとろっとしているんです。このとろみが、無濾過の旨みや酸味を包み込むような役割を果たして、複雑な味の構成を舌の上で体感していただけます。」
飯米である「秋津穂」を原料米として使用するのも、先代からのこだわり。「風の森」販売当初は、葛城山麓醸造所周辺の棚田で栽培されていた秋津穂だけを使っていたそうですが、現在は収量確保がままならないことから、県内全域の契約栽培農家から仕入れて醸しています。
「風の森を造るなかで私が難しいと感じるのが、米を溶かす技術です。日本酒は麹の酵素がお米を溶かして得られる糖分を酵母に食べさせて、香りとアルコールに変化させます。米を溶かすためには、米粒を磨く必要があるのですが、磨きすぎた米が果たして原料の個性や田んぼの個性、造り手の個性を発揮できているのかと、疑問に思うようになったんです。
米を溶かすには、米を磨く以外にも麹の分量を増やすなど方法がありますが、さまざまな手法を駆使しながら、お米を磨くことなく『風の森』らしい味わいに仕上げるのが、今後の大きなチャレンジなのかもしれません。」
日本酒が持つ本来の複雑な味わいをダイレクトに楽しめる「風の森」。「お客様には、あまり小難しく考えずシンプルに楽しんでいただきたい」と山本さんは話します。
「私たちが新しい技法と古い技法を重ね合わせる理由は、本能で美味しいと感じていただくため。初めて日本酒を飲む人が『風の森』がきっかけで日本酒の美味しさに目覚めていただけるのなら、こんなに嬉しいことはありません。もしペアリングを楽しむとしたら、御所市の名物として知られる鴨肉と合わせるのが私のおすすめです。」
そんな「風の森」の魅力に触れられるイベント「風の森WEEKS」が、大丸心斎橋店で開かれます。期間中はイベント限定酒の販売やゲストバーテンダーによる「風の森」を使ったカクテルの提供、油長酒造による体験型ワークショップの開催など、「風の森」を五感で楽しめるイベントが盛りだくさん。この機会に「風の森」の美味しさを体感してみてはいかがでしょうか。
風の森WEEKSは、誰でも自由に来場できるイベントです。現在、オリジナルグラスなどが付いたお得な前売りチケットを、以下にて販売中。ぜひチェックしてみてください。
▼イベント前売りチケットはこちら
https://www.daimaru-matsuzakaya.jp/Search.html?keyword=240902dm1_yucho
風の森WEEKS
開催期間:2024年9月20日(金)〜10月6日(日)
開催場所:大丸心斎橋店本館 地2階「心斎橋フードホール」
心斎橋PARCO 地2階「心斎橋ネオン食堂街」https://www.daimaru.co.jp/shinsaibashi/kazenomoriweeks/