三重県志摩市
2024.10.25 (Fri)
目次
真珠養殖発祥の地、伊勢志摩で真珠を70年以上養殖している中北さん。しかし、年月と共に同業者は減り、生産した真珠すべてが市場のルートに乗るわけではない背景がありました。こうした現状を知った孫の尾崎ななみさんは、真珠の価値を伝え、販売することを目指しました。後編では、ブランド「SEVEN THREE.」の誕生と、「金魚真珠」の魅力をご紹介します。
前編はこちら(https://think-local.dmdepart.jp/story/20241025mie1/)
品質が良くても市場のルートに乗らない真珠があることを知り、自身にできることを考えた尾崎さん。
「現実的に養殖業を継ぐことは難しい。でも、販売を手伝うことはできるのではないかと考えました。色味が真っ白でないものや、グラデーションのもの、さまざまな形をしたバロックパールも多く、すべてが同じ工程を経てできた努力の結晶です。その魅力がこれまで伝わってなかっただけだと気づきました。」
そこで、真円・真白の真珠は、従来通り組合に出し市場へ。一方業界が取引しなかった真珠をフェアトレード価格で買取り、生産者さんを応援しようと考えたのです。
「祖父は知り合いからの依頼があれば、ジュエリーに仕上げて販売も行っていましたがそれでは限度があると思いました。でも、祖父はインターネットを使いこなすことは難しいんですね。そこで『おじいちゃん、私がブランドを作ってオンラインストアで販売するから、その真珠を買わせて』っていいました。」(尾崎さん)
「それを聞いたときは、そんなことできるんかな、と少し心配やったね。」と中北さんはしみじみとした表情で振り返ります。
そこから尾崎さんは独学でものづくりを学びました。準備期間に2年が経ち、2018年9月に、株式会社サンブンノナナを設立。12月にオリジナルブランドSEVEN THREE.を発表。
「ブランド名は名前、ドットは真珠に見立てて。昔から真珠養殖者の屋号は苗字+真珠なんですよね。だから名前のななみの7(SEVEN)と3(THREE)と真珠(.)で。」
ブランドコンセプトは「真白、真円だけでなく、生まれ持った色や形はそのままで美しい」
すべての真珠を無調色、無加工のまま、これまで市場のルートに乗らなかった真珠を新たな視点で価値を見出し、生産背景も伝えていきました。
真珠は色も形も一粒ずつ異なる自然の宝石であるものの、流通する真珠と流通しない真珠に分けられてきました。
「長い年月をかけて誕生した真珠は、どの形も色も美しく価値があるのです。これまで流通してこなかった真珠の素晴らしさをいかに伝えるかが課題でした。」
知られていなかったことを伝えるには時間がかかります。しかし、まずは真珠ができるまでの背景を知ってもらうことを目指すうちに、少しずつ想いが伝わり、購入にもつながっていったそう。真っ直ぐな目でその素晴らしさを語る尾崎さんの想いが少しずつ浸透していったのです。
なかでも、金魚が泳いでいるような尾びれが生えている真珠は「金魚真珠」と名付け商標登録しました。
金魚真珠はバロックパールのなかでもさらに数パーセントしかできない奇跡の産物。希少な唯一無二の宝石です。真珠が育つなかで、核と細胞が動いてずれた部分に、層が重なり尾びれのような形ができるのです。しかしながら、これまで、流通に乗ることはほとんどなく、尾びれの部分を切り取り球体の部分だけを見せてパーツに接着するなどして販売していたため、このような真珠が存在していたことを知らない方が多いのです。
「私はこの形がすごくかわいいと思っていたんです。だから『金魚ちゃん』と呼んでいました。本当に泳いでいるみたいでしょう。そのままで魅力的なのになんで加工するんだろうって。」
形というものは個性。優劣をつけるものではなく、好みで選んでほしいのだという尾崎さん。自然が生み出した奇跡のような一粒の価値を見出したのです。
尾崎さんの耳や胸元で小さな金魚がゆらゆらと泳いでいるようなジュエリー。見た瞬間思わず「かわいい」と口に出してしまうでしょう。
こうして、「金魚真珠」は 2020年1月に、「伝統産業・地場産業や地域資源を活用し、デザイン性に優れたこだわりのある革新的な商品」として、令和元年度選定商品三重グッドデザイン賞を受賞。
2021年には流行情報誌「日経トレンディ2021年12月号」の2021年「ヒット商品ベスト30」の地方発ヒット商品ベスト30にランクイン。
また、2023年には持続可能な社会の実現につながる、優れた「ソーシャルプロダクツ」に光をあてた表彰制度「ソーシャルプロダクツ・アワード2023 審査員特別賞」に選ばれるなど、多くの話題を呼びました。
これまで着目されなかった資源から新しい価値を見出し、産業・環境を守ることや、持続可能な社会につながる、サステナブルなジュエリーとして注目を集めています。
社会の風潮も後押しし、統一した形より、唯一無二の自然が生み出したままの姿に価値を見出す人が増えるなかで、個性あふれる自分だけの特別なジュエリーとして認識されていくようになりました。
SEVEN THREE.では自然の魅力を閉じ込めた「瑞花」、「百花」、「冬花」、「月花」という4つのコレクションを展開。コレクション名にはすべて「花」が入っています。
「貝のなかから、真珠が出てきた時にはすでに光り輝いて、お花が咲いているように見えたことから、花の漢字を含む熟語で種類を分けています。」
手でパーっと花が開くジェスチャーをしながら語ってくれる尾崎さん。真冬の海から真珠が誕生した瞬間の輝く様子が目に浮かぶようです。
コレクションのなかでも、沢山の色とりどりの花という意味の「百花」では、無着色ブルー・シルバー・イエローゴールドなどのカラーと、さまざまな形の真珠が使われ、美しく咲き乱れる花を想像させます。
「金魚真珠」は「百花」のコレクションのなかで販売。個性あふれる姿が、多くの人を魅了しています。
真珠の魅力を伝えるなかで、尾崎さんが大切にしていることがもうひとつあります。それは、真珠の産地をきちんと伝えることです。
上京したころ、東京の友人が伊勢志摩が真珠養殖業の産地であることを知らないことに衝撃を受けた尾崎さん。
伊勢志摩が真珠の一大産業であることが知られていないのは実は訳がありました。真珠は、産地よりも色や大きさ、形などの見た目が重要視されてきました。さまざまな産地の生産者から買い付けをした後に、混ぜてしまい品質別で販売されるので、一粒一粒の産地の特定ができなくなってしまうのだそう。
「その土地の真珠と出会えないことは寂しいですし、産地を伝えていかないと伊勢志摩が真珠養殖が盛んな地である事も知られない。SEVEN THREE.の真珠は必ず産地を伝えるようにしています。」
「食べ物は産地を確認する人が多いと思いますが、身につけるものはそこまで気にならないのかもしれません。でも、私は生産者さんの努力や、伊勢志摩の魅力を伝えていきたい。真珠を見て、『あー楽しかった!綺麗だった!また行きたい』って伊勢志摩の情景と思い出を蘇らせていただければ、そこから巡ってまた観光や産業にもつながるかもしれません。」
伊勢志摩の真珠を守り、職人の支援につながることをしたいという強い想いがあります。今後は、ジュエリーだけにとどまらず、日本の伝統技術と組み合わせた作品など「新しい真珠の魅せ方」を積極的に提案し地域振興につなげたいと考えているのだそう。
「真珠の色や形、美しさの背景は、まだ広く伝わっていませんし、伝え方次第だと思います。大切に育てられた真珠を少しも余すことなく、つないでいきたいです。」
海を見つめながら語る尾崎さんの目には将来を見据えた強さがありました。
先日、初めて新幹線に乗ったという祖父の中北さん。東京の尾崎さんのオフィスに、尾崎さんの友人や仕事仲間が、「あの真珠を作るおじいちゃんに会いたい」と集まってくれたそう。
「(孫、真珠が)こんなにもようしてもらってるんやと思って、うれしかったね。最初に真珠を売りたいと聞いた時には本当にそんなことできるかなと心配もあった。でも、毎月東京から伊勢志摩に戻ってきてくれて会えるしね、たくさんの人たちにようしてもらってありがたい。ずっと(真珠を)作り続けたいね。ちょっとでも長く、続けたいね。」(中北さん)
無邪気に笑い合う中北さんと尾崎さん。その姿は年齢を超え、同志として深く結びつき同じ方向を目指して歩いているようでした。
自然が作り上げた色とりどり、豊富な形の真珠。職人の想いと努力、自然の恵みを凝縮した一粒を手に取ると、一生懸命この世に誕生した力強さと赤ちゃんのような純粋無垢な美しさ、愛おしさを感じることでしょう。
「そのままのあなたが美しい」と人生を後押ししてくれるようなSEVEN THREE.のジュエリーを身にまとい、個性の美しさを体感してみるのはいかがでしょうか。
SEVEN THREE.
公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)https://www.seventhree.jp/