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島根から「根のあるくらし」を。“復古創新”を体現するセレクトショップ「石見銀山 群言堂」

島根から「根のあるくらし」を。“復古創新”を体現するセレクトショップ「石見銀山 群言堂」

島根県大田市

    2024.11.22 (Fri)

    目次

      セレクトショップ「石見銀山 群言堂」の本店があるのは、島根県大田市にある大森町。豊かな自然の中に素朴な瓦屋根の民家が立ち並ぶ街並みがまるで江戸時代のワンシーンを再現したような場所です。そんな山間の町から、島根に息づくものづくりや衣食住と美に関する一貫した価値観を発信。“日本の生活文化にもう一度光を当て、これからの暮らしに活かせる新しいカタチや美しい環境を生み出す”そんな「復古創新」をテーマに、島根に根差した暮らしを提案しています。

      世界遺産「石見銀山」。その麓にある大森町民たちの矜持

      島根県大田市にある「石見銀山」は、古く戦国時代から江戸時代初期にかけて栄えた日本最大の銀山です。主に16世紀から17世紀にかけて、銀の採掘により世界経済に大きな影響を与えた鉱山であり、1923年に閉山。その麓にある大森町には、近代化された採掘手法や採掘装置をはじめ、伝統的な製錬、精錬の考古学的証拠がそのまま残った状態に。そんな歴史的に貴重な遺跡の数々により、2007年には石見銀山そのものが世界遺産に登録されました。

      江戸時代には、全世界から石見銀山の銀を求めて人々が集まり、およそ20万人が暮らしていたといわれています。1923年の閉山をきっかけに、人口は減少したものの、残された民家や鉱山遺跡が歴史的価値を持つ文化財として指定され、それを守る動きが1960年代から高まりました。

      1966年には、地元の小学校が「石見銀山遺跡愛護少年団」を発足し、教育とも連携して文化財保存に力を入れ始めました。その後1987年に重要伝統的建造物群保存地区として選定されました。

      ユネスコ世界遺産に登録された2007年には、大森町に80万人の観光客が押し寄せたのだそうです。

      大森町のセレクトショップ「石見銀山 群言堂」の代表である松場忠さんに、その頃の大森町のことをうかがいました。

      「人口が減り続けている街に、いきなりそれだけの人が来るとなると大変です。その時のオーバーツーリズムをきっかけに住民たちの想いが変化していった。『石見銀山 大森町住民憲章』を自分たちで作り、“このまちには暮らしがあります。私たちの暮らしがあるからこそ世界に誇れる良いまちなのです”という言葉のもと、自分たちの暮らしを大切にしながら観光に来る人々をお迎えするという考え方、理念が確立していったのだと思います。」

      まちの移り変わりと共に変わっていった「石見銀山 群言堂」の形

      そんな労働集約モデルの元都市として歴史を持つ大森町に「石見銀山 群言堂」の礎となるブラハウスが誕生したのは約40年前。

      「大森町は先代・松場大吉の生まれ故郷。元々の家業は呉服屋でしたが、時を経て、切手やタバコも売るなど、地域の萬屋のような存在になっていったそうです。そこから先代は一度、県外へ出るんですが、結婚後、夫婦で大森町へ戻り、改めて自分たちで何かものづくりをして販売しようということで『ブラハウス』が始動。当時は地域の女性たちと一緒に針仕事をしながら、パッチワークキルトなどを作って商売をしていました。」

      二代目となる忠さんは結婚して婿養子となり12年前、この地へ移住。初めて大森町へ来たときはこんな場所がまだあるのだと驚きつつ、“独自の感性やセンスがあって、楽しく軽やかに生きている人々に感動した”といいます。

      「この町の資料館には、遺跡から見つかったオランダのジンボトルが展示されているんですが、想像以上に世界中の人や物の往来が盛んだったことがわかります。外からの人を受け入れる文化はもともとあったから、今も『よそ者を受け入れない』という空気はなく、程よい距離感で接しながら、共に暮らしている。そんな中で、テキスタイルを扱っていたブラハウスから、より取り扱うプロダクトの幅が広がり『石見銀山 群言堂』となったんです。」

      時代や環境、ニーズに合わせて、群言堂の事業展開も緩やかに今の形へと変化していきました。

      事業の発端となった繊維ものは自分たちの得意分野として続けながら、現在は雑貨や日用品を揃えたセレクトショップへと変化。そのほかにも日本各地にある作家さんのプロダクトなどを選りすぐって並べています。近年では、島根の窯元が作る伝統工芸品や、家具職人の方々と一緒に商品開発するなど、地元に根差したものづくりの分野を強化している最中なのだそう。

      改めて思う、自分たちの役割やあり方

      「人口およそ400人の大森町の特徴は、人々が共に暮らしている、共同体意識だと思います。道を歩いても道幅が狭くお互いにすれ違うと会釈するし、しょっちゅう知り合いとも会う。この町では程よくみんながみんなのことを知っていて、何かあっても自分ごと化できる。そんな絶妙なヒューマンスケールは現代社会、世界的に見ても良いモデルになるのではないかと思っています。人口が少ないということをプラスに捉えて、その規模だからこそ実現できるプロダクト作りを続けながら、その先に街や暮らしを作っていくのが僕らの目標であり、在り方です。」

      そう語る松場さんは、大森町を“ある意味で「石見銀山 群言堂」の総本山”といいます。

      全国に展開するお店の店長やスタッフには、必ず全員一度は大森町へ来てもらい、ここの時の流れるペースや暮らしぶり、人々の様子を知ってもらうことを研修のひとつにしているそうです。

      研修を行う本社は、茅葺き屋根の古民家を改装した場所。昔の暮らしの中で、現在の「日常」を過ごすことで、それが地続きであると感じさせてくれます。

      自信を持って伝える「島根のものづくり」のプロダクト3選

      群言堂本店の店内には、季節感あふれる衣服から焼き物、生活雑貨や料理ツール、日用品、家具まで、ライフスタイルに紐づくあれこれが並べられています。数あるプロダクトの中から、焼き物、家具、草木染めのお洋服を松場さんに紹介してもらいました。

      ① 嶋田窯と一緒に作った「野の花に捧げるピッチャー」

      お茶碗、お皿などに比べて利用頻度が落ちるピッチャーを「野の花に捧げる」と名付け、フラワーベースとして提案。石見地方で採れる土を使って作られた石見焼きのピッチャーは、一つひとつ職人の手で作られており、優しい丸みを保ちながらも重厚な佇まいに。

      「花瓶にするにも素敵ですし、水を入れたり、本来の用途としてもしっかり役目を果たしてくれます。」

      ② タンスでありながら階段にもなる「気持ちも上がっていくタンス」

      ぱっと見は昔懐かしのタンスでありながら上へと登れる階段にもなるユニークなタンス。観音開きの収納スペースや細かな引き出しなど、細部まで職人の意匠が感じられる仕上がりに。「有効活用できていない木材をどうにか使いたいということで、地元の家具職人さんと一緒に作りました。発端は林業の人々との繋がりから、木工業もやるチームを作って。一般的な家具の常識を無視したものが作れると、若者たちが喜びながらとても頑張ってくれました。」

      ③ 自然界の色で染め上げられた「里山パレット」シリーズのワンピースたち

      地元の草木や実を原料にして染め上げられたアパレルシリーズ「里山パレット」。栗の皮やブルーベリー、野ぐるみなど、季節によって変わるさまざまな素材から、想像もつかない色に仕上がるところが面白いのだそう。「ボタニカルダイという、自然と化学のハイブリッドといえる染め方で作っています。植物を染料にしながら、より発色も良く定着するところが利点。化学製品を全否定するのではなく、自然のものを大切にしながら、現代の品質基準やお客様のニーズに応えることも大切にしたいですね。」

      スーパーローカルを、グローバルに発信。それが群言堂らしさ

      現在、北は北海道から南は九州、熊本まで、全国に33の店舗と飲食スペースを展開する「石見銀山 群言堂」。衣服から生活雑貨、家具やスキンケア用品まで、店頭に並ぶプロダクトは、クオリティも高く、毎日使えるプロダクトが厳選されています。

      「インターネットが普及し、全国各地の良いものが簡単に手に入れられる現代。昔は珍しかった『セレクトショップ』も増えていく中で、自分たちに対してより深く考えるきっかけになったのは、世の中の動きが一時停止したコロナ禍のときです。そこで自分たちの役割や存在意義、この地域にしかできないことを考えるようになりました。改めて大切だと思ったのは、島根や地元のものづくりにフォーカスすること。そしてそれらに光が当たり、多くの人々の目に留まることです。私たちはこの場所でプロダクトを作って、“スーパーローカルなこと”を追求して、より一層自分たちのアイデンティティを高めていく。それが、群言堂の『らしさ』であり、お客様に支持されるものだと思います。」

      全国の店舗や、ECサイトなどを通して、その「らしさ」を世界へ発信します。

      「今やネット社会のおかげで手軽に世界中の人々と繋がれますから、同じような価値観を持つ人、あるいはそれを求める人に巡り会うことで、地元のさまざまな伝統工芸のサプライチェーンを守ることができる。それが今『石見銀山 群言堂』の役割であり、やるべきことだと思うようになりました。」

      「昔ながらの」などと銘打って価値をつけるのではなく、あくまで大森町や島根の人々が今も大切にする暮らし・文化・価値観が形になったプロダクトたち。「ただの技術自慢ではなく、現代の暮らしにフィットする姿形になりながら、技術を継承していくもの」と松場さんが語るように、現在進行形の日常に寄り添うものとして、多くの人々から愛されていくのです。

      石見銀山 郡言堂 本店
      島根県大田市大森町ハ183

      公式サイト(外部サイトに移動します。)https://www.gungendo.co.jp/