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先輩から渡された食のバトン。高校生が手がけるブランド「3年A組の」の挑戦

先輩から渡された食のバトン。高校生が手がけるブランド「3年A組の」の挑戦

鹿児島県阿久根市

    2024.12.02 (Mon)

    目次

      鹿児島県・阿久根市内のスーパーで販売され、地元に親しまれている食品ブランド「3年A組の」シリーズ。このブランドは、地元の伝統と若者の情熱が結集したものです。「鶴翔(かくしょう)高等学校」の生徒たちが授業の一環で手がけた商品で、地元の食文化を次世代へと繋ぐバトンとなっています。その誕生秘話や阿久根の食文化との関わりについて、食品技術科の教諭・山口美枝さんと食品技術科3年生の増田羚ナさんにお話を伺いました。

      「3年A組の」の人気商品「豚味噌仕込」についてはこちら

      地元の高校生が手がける加工品ブランド「3年A組の」シリーズ

      鹿児島県の北西部に位置し、古来より海・陸交通の要衝として海運業・商業などが栄えてきた阿久根市。ここは、海と山に恵まれ、柑橘系作物や海産物など、特産物が多い地域です。

      そんな阿久根市で暮らす人々に馴染み深いのが、食品ブランド「3年A組の」シリーズです。鶴翔高等学校・食品技術科の生徒たちが企画から製造まで行い、阿久根市の特産物を加工して、安心して食べられる商品として提供されています。ブランドは老若男女に愛され、地元の食文化に貢献しています。

      食品ブランド「3年A組の」のロゴマーク。学科別にロゴマークが用意されています

      食品ブランド「3年A組の」が誕生したのは1991年、鶴翔高等学校の前身である阿久根農業高等学校時代。その後、2005年に鶴翔高等学校に改称したタイミングで、「3年A組の」をブランド名として商標登録し、商品ラインナップを増やしてきました。

      特許庁に商標登録し、学校ブランドとして「安心・安全なもの」であることを証明するための印となっています

      「『3年A組の』というブランド名に関しては、ブランド創業当時に製造に関わっていたのが『3年A組』の生徒たちだったことと、『AGRICULTURE』のAをかけて決まったと聞いています。また、人気のドラマに3年B組が登場していた当時のムードも後押ししたとか(笑)。今では地元でブランドの認知も広がり、地元のスーパーなどで品切れすることも多いです。」(食品技術科教諭・山口美枝さん、以下山口さん)

      先輩から味と想いを受け継いだ全14品のラインナップ

      在校生によって企画・開発・製造を行う「3年A組の」シリーズ

      「3年A組の」では現在、全14種類の商品が展開されています。主力商品の豚味噌をはじめ、ジュース、ジャム、トマトケチャップ、醤油など、阿久根市の特産物や学校で育てた農産物を活かした加工品が並びます。これらの中には、歴代の生徒たちが開発に携わった商品もあり、現在の在校生たちがその伝統を受け継ぎながら製造を続けています。

      • ブランドの主力商品である「豚味噌仕込」を調理している様子

      • 充填・計量を行う様子。誤差がないよう正確に計量します

      • 「3年A組の」シリーズのジャムを使ってつくったパンは、文化祭などで販売されるとのこと

      「あくまで高校の授業の中で製造するものなので、新しい商品を開発するとなると、在学中の3年間では完成まで辿り着かないこともあります。先輩たちの試行錯誤や商品に込めた想いを、次の学年が引き継ぐ形で検証を繰り返し、商品が生まれていきます。」(食品技術科 3年生・増田羚ナさん、以下増田さん)

      「3年A組の」の人気商品「豚味噌仕込」についてはこちら

      地域の課題のために阿久根ブランドを育てる

      「鶴翔高等学校」には、「3年A組の」シリーズの製造や開発を行う食品技術科をはじめ、食や農業に特化した学科があり、生徒たちは実践的に学ぶことができます。食品技術科での取り組みは、生徒たちの学びの場であると同時に、地域の農林・水産業の後継者不足という課題に対する解決策としても機能しています。

      「『3年A組の』シリーズは、鶴翔高等学校の前身である阿久根農業高等学校の生徒と先生、そして阿久根市・観光課の職員によって生まれました。その目的は、生徒たちの学びのためだけでなく、地元特産品に注目してもらい、地域が抱える後継者不足の解決に少しでも寄与することでした。」(増田さん)

      地域の未来を担い、若者の活躍にも繋がる

      特産物が豊富で「食の町」として知られる阿久根市で育った子供たちが、食文化に興味を持つのは自然なこと。実際に、生まれ育った地元に残って働きたいと考える生徒も多くいます。地域の繋がりが強く、家族のようなコミュニティの中で育った子供たちは、地元で働き、貢献したいという思いを持つようになるのです。

      「母が食品や栄養の知識があり、関連する仕事に就いているので、その影響もあり、私も同じように食に関わりたいと考え、鶴翔高等学校の食品技術科に進学を決めました。とにかく、生まれ育った町が大好きなので、自ら起業して働きたいと思っています。高校卒業後、すぐに就職することも考えましたが、あまり惹かれる職がなく、自分で起業したいと思うように。そのためにも、卒業後は、専門学校で調理の勉強をし、地元でお年寄りも楽しめる世代間交流ができるカフェをオープンしたいと考えています。」(増田さん)

      増田さんのように地元愛の強い生徒たちが多いのも、鶴翔高等学校の魅力です。

      後輩に次のバトンを繋ぐ。地元の食文化への使命感

      阿久根高等学校、阿久根農業高等学校、長島高等学校が統合し、鶴翔高等学校として開校したのは2005年のこと。令和6年11月2日に創立20周年記念式典が行われました

      「3年A組の」プロジェクトに関わることで、30年以上続いてきた先輩たちの想いを知り、食に関わる学びを深めてきた食品技術科の生徒たちは、卒業する頃には「食のプロ」へと成長します。地元、さらには日本の未来の食を支える即戦力として巣立っていくのです。

      「就職に関しても、ここ数年で変化が見られます。以前は、地元で就職したくても働き先を見つけられず、県外に出る生徒も多かったんです。近頃は、地元志向の強まりや、本校の活動内容を知っていただいたことで、地元企業の皆さんも意識が変わったようで、積極的にPR活動をされるようになり、地元就職の比率が上がってきました。

      さらに、実際に地元就職をした卒業生とは、ブランドを通して交流が続いています。例えば、カフェでジュースを使ってくれたり、漁業に携わっている卒業生から海産物で商品がつくれないかといった相談を受けたりしています。商品化はまだ決まっていませんが、海産物は生徒たちのアイデアで、ふりかけにできないか企画開発中です。」(山口さん)

      「本校の大きな強みは、食品衛生責任者の資格を取得できますし、加工品の企画開発・製造、販売促進、そしてブランディングについてと、多くの知識と経験を得ることできることです。

      ブランド『3年A組の』については、30年以上受け継がれたものを、さらに未来へ繋ぐためにも、私たちが責任を持って後輩たちに伝えていかないといけないと考えています。残り少ない学校生活の中ですが、今、私たちができるのは認知度の向上だと思っています。鹿児島以外の方々にも広く知っていただき、後輩たちに次のバトンを繋ぎたいと思います。」(増田さん)

      未来の後継者たちへ。阿久根市の食文化を閉ざさないために

      増田さんをはじめ、生徒一人ひとりが責任感を持ち、自主性を持って取り組んでいる「3年A組の」シリーズ。長く愛されている味を守り続けること、築いてきた信頼を守り続けること、さらに、「3年A組の」としての新たなチャレンジも、生徒たちがバトンを繋ぎながら、守り、進化させてきたのです。

      このバトンは校内だけでなく、地域で働く卒業生たちが受け継ぎ、阿久根市で永遠に繋がれていくのです。

      鹿児島県立鶴翔高等学校
      (外部サイトに移動します。)http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/kakusho/