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老舗の看板商品「ノースマン」リブランディングで起死回生。地域銘菓が秘める可能性

老舗の看板商品「ノースマン」リブランディングで起死回生。地域銘菓が秘める可能性

北海道札幌市

    2025.01.10 (Fri)

    目次

      完売続出の北海道の銘菓「生ノースマン」。キャッチーなパッケージから、今流行りの北海道土産かと思いきや、実は昭和49年からある看板銘菓「ノースマン」のリブランディング商品なのです。看板商品を思い切ってリブランディングしたことにより、息を吹き返した「札幌千秋庵」の代表取締役社長・中西克彦さんに、生ノースマン誕生の裏側について話をうかがいました。

      発売から約半世紀後の再ヒット

      バターとミルクを使用した風味豊かな洋風煎餅「山親爺」

      大正時代から続く、北海道を代表する老舗菓子メーカー「札幌千秋庵」。1998年頃まで放送されていた代表銘菓「山親爺」のテレビCMは北海道では非常に有名で、そのCMソングは道民であれば誰もが口ずさめるといっても過言ではありません。

      そんな山親爺と並ぶ看板商品が、和洋折衷な菓子「ノースマン」です。

      今も昔も変わらぬ製法で作り続けている「ノースマン」

      さらに、ノースマンに生クリームを加えた「生ノースマン」は大丸札幌店と新千歳空港でしか買えないということもあり、2022年の発売以来、連日多くの観光客が行列をなしています。

      看板商品でありながらも年々売上が落ち込んでいたノースマンが、発売から約半世紀経ったこのタイミングで再ヒット。その立役者となったのは、創業101年目にして初めて創業家以外から社長に就任した、5代目の新社長・中西克彦さんでした。

      ベンチャー企業での経験を糧に

      小樽で生まれ育った中西さんは「私が幼い頃は小樽にもアーケードや百貨店があって、週末になると家族で買い物に行くのが日常でした。それがどんどん衰退していく様子を目の当たりにして、すごく寂しくて。いずれは地域経済に貢献できるような仕事がしたい」と漠然と思っていたそうです。

      北海道の農業や食に貢献したいとの思いで、大学卒業後は総合商社に入社。その後、高校時代の同級生で洋菓子店「きのとや」の創業者の息子、長沼真太郎さんが立ち上げたお菓子のスタートアップ会社「BAKE」に入社することに。これが中西さんの人生の転機となりました。

      「単純にお菓子が美味しいというだけではビジネスとしては成り立たない。パッケージのデザインや、売り場での販売形態など、いわゆるマーケティングが重要な要素を占めるということをBAKE時代に学びました。」

      BAKEといえば、いわずとしれたチーズタルトの専門店ですが、この焼きたてチーズタルトは、きのとやの「ブルーベリーチーズタルト」が原型になっています。

      社員からは圧倒的な支持があったものの、なかなか売れ行きが伸びずに苦戦していた頃、海外の催事でブルーベリーチーズタルトを実演販売する機会がありました。最初は焼き上がったものを箱に詰めて販売していましたが、途中で箱の在庫が切れてしまい、仕方なく鉄板にチーズタルトを並べて販売したところ、焼きたての魅力がお客様に伝わり売れ行きが劇的に向上したのだそう。

      そこから着想を得てBAKEの代名詞でもある工房一体型の店舗が生まれ、さらに、やや好き嫌いが分かれるブルーベリージャムを除いて万人受けするレシピに変えて販売したところ大ヒットするようになったそうです。

      BAKEのあとに勤めた帯広の畜産ベンチャー企業で飲食事業に従事した経験から、長くお客様に愛されるためには企業の新陳代謝が必要だということを学んだのだそう。

      「商品も会社もそのままでは年月を積み重ねるにつれて古くなってしまう。それにお客様もどんどん年を取っていく。だから伝統の製法など変えてはいけないところは守りつつも、変化も必要だと。」

      札幌千秋庵が北海道コンフェクトグループ(元・きのとやグループ)との業務提携を進める中で、長沼さんから中西さんに再びオファーがありました。

      本州に比べて100年続く企業が少ない北海道の中で、自分の経験を生かして立て直しができるんだったら一緒にやってみたいと、気持ちを固めるのにそう多くの時間はかかりませんでした。
      そして、2021年に札幌千秋庵へ入社し、翌2022年に5代目社長に就任することになったのです。

      「歴史もあるし、お客様もいる、あとはどう伝えるか」

      経営の経験はないものの、前職のBAKEとベンチャー企業で培った経験があったことから、創業100年を超える会社の社長に就任するということに不思議と不安はなかったといいます。

      「業務提携をしなかったら札幌千秋庵は存続できなかったかもしれないし、北海道と関係のない資本の会社に買収されたかもしれない。私はそれだけは避けたかった。札幌千秋庵は歴史もあるし、お客様もいらっしゃる、良い商品もある。だから、あとはそれをどう伝えるかというところを見直すだけでお客様はついてきてくれるんじゃないかなっていう感覚はありました。」

      「『社員の皆さんと一緒に会社をよくしていきたい』とワクワクしながら初日を迎えたような記憶があります。」と話す中西さんですが、当時の札幌千秋庵は財務的にもかなり厳しく、
      「入社後まずは業績の立て直しが最優先でした。新商品の投入や既存商品のリニューアル、そして札幌千秋庵というブランド全体のリブランディングなども含めて、やらなきゃいけないことは山積みでした。」

      「僕が入社した当時の札幌千秋庵の店舗には焼菓子ばかりが並んでいました。焼菓子は日持ちがするので、製造効率はいいし、販売のオペレーションも楽。でも、本来のおいしさを考えるとちょっと弱いんです。まず思い立ったのが生菓子を作ることでした。」

      ある程度日持ちが短くても、おいしい生菓子を増やしていけば魅力あるラインナップになると思い、まずは2022年4月に新商品としてきのとやと共同開発した「巴里銅鑼」の販売をスタート。これが順調に販売数を伸ばしていったところで、既存商品であるノースマンのリニューアルへと着手します。

      特製オムレット生地で求肥とこしあん、生クリームをサンドした「巴里銅鑼」

      札幌千秋庵の新たな顔「生ノースマン」の大ヒット

      「生ノースマン」あんこを引き立てるため、生クリームは甘さ控えめ

      北の大地に生きる人々のたくましい力を表した「ノースマン」は1974年に発売スタート。北海道産の小豆を使用したあんこをパイで包んだ、和洋折衷のお菓子として、長く愛されてきました。

      「はじめに着手したのはノースマンの再解釈です。ノースマンの開発者ももうすでにおらず、社内にも記録があまり残っていなかったため、どういう思いでこの商品が作られたのか、思いを馳せるところから始まりました。」

      どういった商品であるべきか、開発チームとともに改良を重ねながらレシピを決定。
      それから、マーケティングのキーとなるパッケージデザインを刷新することを決めました。長く愛されてきたロゴデザインはそのままに、北国文化を感じられる織物や編み物をモチーフにした現代風のパッケージへと刷新したのです。

      生スノーマンを入れる保冷バッグにも大胆にモチーフが施されている

      既存商品であるノースマンを進化させた「生ノースマン」の誕生は、札幌千秋庵の流れをがらりと変えました。基本的な製法は、長年愛されてきたノースマンをベースに、生クリームを加え、リッチな味わいへと仕上げた生ノースマンは、専門店も同時にオープンすることで話題を呼び、一気に大ヒット商品に。まさしく中西さんの読み通りでした。

      懐かしさもありつつ、口当たりや味わいは現代風に。「ここでしか買えない」という希少性も話題となり、多くの人たちの心を掴んだのです。

      北海道の銘菓だということを改めて印象づけるため、大丸札幌店にあるノースマン専門店には「札幌軟石」や樹齢100年を超える「タモ材」を使用。

      「商品をただ売るだけでなく、売場でもノースマンの世界観を表現したこともヒットの大きな要因だったと思います。」

      生ノースマンを目当てに専門店に訪れることで、その世界観も感じられる「買い物体験」として人気を博しました。

      伝統を守りつつ、新しい在り方を模索し続ける

      ノースマンのリブランディングは成功したものの、札幌千秋庵自体のリブランディングには時間がかかると話す中西さん。

      「100年にわたり、創業家一族が大切にしてきたものがあるので、何でも簡単に変えられるわけではない。経営理念や企業としての在り方などについては、中長期で考えていく必要があると思っています。まずは札幌千秋庵の歴史を理解するため、昔の札幌千秋庵を知っている人に話を聞いたり、わかる範囲で調べたり。もっと認識を深めてから着手していければ。」

      一方、会社のシステムや製造工程など、時代に合わせて変えられる部分は変えていきたいと意欲的です。

      「たとえば製造工程では、細かいニュアンスが表現できなくなるものについては手作りにこだわる必要がありますが、なんとなくの慣習で続けていることについては見直す必要があると思っています。」

      日々現場の職人たちと意見交換を行いながら、製造工程や新しい機械の導入等、検討を重ねているそうです。

      「僕ができることはより良いものを追求し、お客様に喜んでもらえて、その売上を社内に還元していくこと。この好循環を作っていくこと、ただそれだけです」と話す中西さん。

      愛され続ける地域銘菓の再ヒットの裏側には、守り続けてきた伝統と、時代のニーズに合わせた新たな挑戦がありました。

      ノースマン 大丸札幌店
      北海道札幌市中央区北5条西4丁目7 地下1階ほっぺタウン和洋菓子売り場

      ノースマン 公式サイト(外部サイトに移動します。)https://northman-hokkaido.com/