高知県高知市
2025.02.26 (Wed)
目次
高知県の豊かな自然と食文化に寄り添いながら、こだわりの酒造りを続ける「酔鯨酒造」。辛口でキレのあるその日本酒は、高知県の食卓に欠かせない存在として長年親しまれてきました。なぜ、これほどまでに愛され続けるのか。その理由を探るために、酔鯨酒造の製造現場を訪れました。酒造りの工程を間近で見ながら、職人たちのこだわりと想いに迫ります。
製造現場を案内してくれた杜氏の明神真さん
酔鯨酒造の酒造りにとって欠かせない要素のひとつが、四国山脈の恵みを受けた清らかな水です。酔鯨酒造では、この水を毎日汲みに行き、仕込み水として使用しています。四国山脈の急峻な地形により、雨水は地下に長く留まることなく川へと流れ込むため、不純物が少なく、軟水としての特性を持っています。酔鯨酒造が使用する仕込み水は鏡川水系に由来し、この清水こそが、酔鯨酒造のキレのある辛口を支える重要な要素となっています。
「酔鯨酒造では、この水を使うために、毎日3時間ほどかけて山へ汲みに行っています。水が変わると酒の味わいが大きく変わる。だからこそ、妥協せずに最高の水を使い続けることが大切なんです。」(杜氏・明神真さん、以下明神さん)
高知はもともと降水量が多く、豊かな水資源を誇る地域ですが、土壌の特性上、雨水が地下に染み込まず、一気に川へと流れ出します。このため、酔鯨酒造が汲み上げる水は、岩盤を通ることなく直接湧き出る清らかな水で、ミネラルが少ないのが特徴です。
「ミネラルが少ない水を使用することで、発酵を穏やかに進めることができ、結果的に酔鯨らしいキレのある味わいが生まれます。」(明神さん)
深さ3メートルあるタンクの中では醪造りを行っている
玄米の状態で仕入れた米の状態を見て、酒蔵にある精米機で精米します
酔鯨酒造では、高知の風土に根ざした酒造りを追求するため、県産の酒米「吟の夢」を積極的に使用しています。この酒米は、高知県が開発したもので、酔鯨酒造の酒質にぴったりの特性を持っています。
高知県は東西に長く、標高や気候が地域ごとに異なります。そのため、同じ「吟の夢」であっても、育つ環境によって米の個性が大きく異なり、それぞれが異なる特性を持ちます。酔鯨酒造では、その土地ごとの酒米の個性を見極め、それに合わせた醸造方法を採用することで、最適な味わいを引き出しています。
「吟の夢は、酔鯨酒造が目指すキレのある辛口の酒質にぴったりの酒米です。高知のさまざまな地域で育った米の特徴を活かし、それぞれの個性を引き出すことが酒造りの面白さであり、醍醐味でもあります。」(明神さん)
代表取締役社長の上田正人さん(左)と杜氏の明神真さん
酔鯨酒造の数ある日本酒の中で、代表取締役社長の上田正人さんと杜氏の明神真さんに「最も酔鯨酒造らしいお酒は何か」と尋ねたところ、2人が口を揃えて答えたのが、純米吟醸「高育54号」でした。
純米吟醸「高育54号」
その名は、原料である「吟の夢」の育種番号「高育54号」に由来し、まさに高知らしさを凝縮した一本。酔鯨酒造の持ち味である「キレの良い辛口」を基調としながらも、純米吟醸ならではのやわらかな口当たりと米の旨みのふくらみを兼ね備えた、食中酒として理想的なバランスを誇ります。
さらに、「高育54号」には特別なバージョンもあります。それが、火入れをしていない土佐蔵限定酒の生酒「吟の夢」です。搾りたてならではの瑞々しさとフレッシュな味わいが際立つ一本で、より鮮烈な風味を求める方におすすめです。
土佐蔵限定酒「吟の夢」
「両方を飲み比べていただくと、その違いがはっきりと感じられます。生酒は純米吟醸よりもフレッシュな酸味と米の旨みがダイレクトに伝わり、飲みごたえがまったく異なります。同じ原料を使っていても、製法が違うだけでこれほどまでに味わいが変わるのが日本酒の奥深さ。ぜひ、その違いを楽しんでいただきたいですね。」(明神さん)
パッケージは毎年アーティストの方々とのコラボレーション。2024年のデザインは石川県輪島市に工房を構える漆芸家・桐本滉平さんとのコラボレーション
「高育54号」が高知の風土に根ざした“地酒”であるのに対し、酔鯨酒造の挑戦心を象徴するのが、純米大吟醸「DAITO」です。兵庫県産の最高級酒米「山田錦」を使用し、徹底した温度管理のもとで丁寧に醸されたこの一本は、酔鯨酒造らしい辛口のキレを持ちながらも、繊細で華やかな香り、なめらかな口当たりを実現。食中酒としての枠を超え、特別な時間を演出する日本酒として誕生しました。
「食事とともに楽しむことが基本の酔鯨酒造ですが、『DAITO』はその枠を超えた挑戦です。香り、味わい、余韻のすべてにおいて、これまでの酔鯨酒造にはない特別な表現を追求し、新たな可能性を切り拓く一本に仕上げました。」(上田さん)
2018年に裕人礫翔さんとコラボレーションし限定販売された純米吟醸酒「DAITO 2018」
また、「DAITO」は毎年異なるアーティストとコラボレーションし、限定パッケージを発表しているのも特徴のひとつ。酔鯨酒造のこだわり抜いた醸造技術と、芸術が融合することで生まれる唯一無二の「DAITO」が、特別な輝きを放ちます。
裕人礫翔さんコラボレーション第2弾として2024年に発売された純米大吟醸「月鯨(つきくじら)」。
酔鯨酒造と裕人礫翔さんのコラボレーションは、「DAITO」だけではありません。純米大吟醸の「月鯨(つきくじら)」もそのひとつです。高知の海から大きな月までに上がった鯨が描かれたラベルには、「未知の世界へ踏み出すすべての人に、成功と幸福が訪れますように」という願いが込められています。
自然の中に佇む土佐蔵
1969年の創業以来、酔鯨酒造は「食事に寄り添う酒造り」を追求し続けてきました。老舗の酒蔵と比べると決して長い歴史を持つわけではありませんが、「挑戦なくして成長なし」「まずはやってみる」という精神を貫き、高知の風土を活かした酒造を通して、新たな可能性を切り拓いてきました。その理念を体現する場が、2018年にオープンした「土佐蔵」です。
酒造りを見ることができる酒蔵見学
「土佐蔵」は、日本酒の魅力をより身近に感じられる空間として誕生しました。ここでは、限定酒の試飲ができるストアや、甘酒・酒かすを使ったスイーツを提供するカフェを併設。従来の酒蔵のイメージにとらわれず、気軽に日本酒に触れられる新しい体験型の酒蔵を目指しています。
代表取締役社長・上田正人さん
「高知の人々は食事やお酒を通じて自然と人との距離を縮めていきます。酔鯨酒造のお酒も、その一部として食事の場で真価を発揮しています。この文化を守りながら、日本酒に馴染みのない若い世代や海外の方々にも楽しんでもらえる場を提供していきたい。酒蔵は敷居が高いと感じられがちですが、実際に酒造りの現場 を見てもらうことで日本酒をもっと身近に楽しんでもらえる機会を増やしていきたいですね。」(代表取締役社長・上田正人さん)
高知の豊かな自然の恵みと、人々が盃を交わしながら築き上げた文化。この地で生まれた酔鯨酒造は、風土に根ざしながらも時代の変化を受け入れ、挑戦を重ねつつ進化を続けています。未だ見ぬ一杯を求めて、今日も仕込みの音が響き渡ります。
酔鯨酒造
公式ウェブサイト(外部サイトへ移動します。)https://suigei.co.jp/