京都府京都市
2025.03.28 (Fri)
目次
京都の街に根ざし、100年以上にわたって座布団や布団を仕立ててきた「洛中高岡屋」。長年培ってきた職人の確かな技術を絶やさないために、形や使い方を大胆にアレンジすることで、今の暮らしに寄り添う新たな“寛ぎ”のブランドを提案しています。畳からリビングへと変わる暮らしの中で、座布団の価値をどう再構築してきたのか。時代と共に変化する「寛ぎ」を追い求めた洛中高岡屋の挑戦に迫ります。
今回お話しをうかがった3代目社長・高岡幸一郎さん
洛中高岡屋の歴史は、京都大丸(現・大丸京都店)の布団の加工所として創業した1919年から始まります。現社長である3代目・高岡幸一郎さんの祖母の実家が京都大丸向けに布団を手がけていたのを受け継ぎ、その技術と品質の高さが評価されて、京都人の生活に深く根ざした企業へと成長していきました。
しかし、長年にわたり「寛ぎ」を提供し続けるためには、時代の変化に柔軟に対応することが不可欠でした。特に大きな転機となったのが、1950年代中期から1970年代初期にかけての高度経済成長期です。日本のライフスタイルが急激に変化し、家庭でも畳の上に座布団や布団を敷いて過ごすという伝統的なスタイルが次第に薄れ、代わりにテーブルや椅子、ソファやベッドを取り入れた洋式の暮らしが浸透していったと高岡さんは話します。
この変化に伴い、座布団や布団といった和式寝具の需要は急速に減少していきます。これまで当たり前のように求められてきた和式寝具が、「古臭いもの」として扱われるようになっていったのです。時代の波にどう対応するべきか、その課題に直面した高岡さんは、座布団を主軸とし新しい形の「寛ぎ」を模索することになりました。
「ライフスタイルの変化にともなう売上の減少に直面し、このままではいけないと痛感しました。これまでのやり方に固執していては、もう続けていけない。だからこそ、私たちは和式寝具を作り続けることそのものを目的にするのではなく、変わりゆく時代に合わせた新しい形の“寛ぎ”を提供する企業へと進化していこうと思ったのです。」(3代目社長・高岡幸一郎さん、以下高岡さん)
洛中高岡屋が京都で培ってきた座布団や布団といった和式寝具の技術を絶やさないために、高岡さんは職人たちが得意としていた座布団の未来について考え続けました。
洛中高岡屋の京座布団は、熟練職人が一つひとつオーダーメイドで手がけることで完成したものです。長年にわたって受け継がれてきた技術があるからこそ、この仕上がりが実現したのです。しかし、時代の変化により和式寝具の市場が縮小する中で、この貴重な技術が途絶えてしまうことは、京都の伝統産業にとっても大きな損失になります。
「機械による大量生産と大量消費は生活を豊かにすることに役立ちますが、職人が心を込めて作り上げる“もの”も生活を豊かにできると思いました。」
そんな中、高岡さんが気づいたのは、座布団が“座る”という用途にとどまらず、さまざまな使われ方をしているということでした。座布団を半分に折って枕代わりにしたり、3枚並べてごろ寝に使ったりと、その用途は多岐にわたります。
この発見をきっかけに、高岡さんは従来の座るための座布団という枠にとらわれず、「寛ぐための座布団」という新しい発想に舵を切ったのです。
お手玉の縫い方を参考にして、4枚の布を使って仕立てた座布団「おじゃみ」
そこで生まれたのが、洛中高岡屋のオリジナル座布団「おじゃみ」です。関西地方で親しまれているお手玉(おじゃみ)を着想源に、従来の座布団の形を立体的に進化させ厚みを持たせることで、座るだけでなく背当てやクッションとしても活用できる多機能なアイテムとして開発されました。
「高さのある座布団づくりを検討していた時に、職人さんが持ってきたのが“お手玉”。これを座布団にしたら面白いのではないかと考えました。形状に厚みを持たせることで、背当てにも使えるなど、より快適に寛げるアイテムになると確信しました。」
1年にわたる職人たちの試行錯誤を経て「おじゃみ」が誕生しました。一定の厚みを持ちながら、立体的な形状をしたこの座布団は、通常なら型崩れしてしまうような難しい技術を要します。しかし、「職人たちの長年の経験と卓越した技があったからこそ、この形を実現することができた」と高岡さんは振り返ります。
座布団は約50種類の生地色見本から選ぶことができる
洛中高岡屋の魅力は、お客様の好みやライフスタイルにも寄り添う豊富な生地や色のバリエーションにあります。使う人が自分らしい「寛ぎ」を選べるよう、細部まで工夫されたデザインが揃っています。伝統的な和室からモダンな洋室まで私たちの暮らしに溶け込み、どんな空間にも心地よい寛ぎを届けてくれます。
「『寛ぐ』ということは、座り心地や機能性だけではなく、視覚や手触りといった感覚、さらにはその場の空気や雰囲気にまで影響されるものだと思っています。そのため、私たちは美しさと機能性が日常生活にどう溶け込むかを常に考え、多くの選択肢を揃えています。さまざまなライフスタイルにもフィットし、心から寛げるものをお届けしたいと考えています。」
洛中高岡屋の工房は、京都の中央部五条通に面した自社ビルの2階にあります。そこで、15名の熟練職人たちが一針一針、心を込めて布団や座布団を仕立てています。生地裁断から縫製、綿入れ、仕上げの4つの工程を経て、一つひとつが丁寧に作り上げられています。
社屋の3階にはギャラリーがあり、ギャラリーを訪れる前に必ず2階の工房を通って、職人さんたちの姿を目にするような仕組みになっています。この構造からも高岡さんの、職人たちの技と心を大切にし、ものづくりの過程を訪れる人々に感じてほしいという思いが伝わってきます。
このような洛中高岡屋の一貫した姿勢からうかがえるのが、「寛具(かんぐ)」という考え方です。これは、「くつろぎ(寛ぎ)」と「道具」を掛け合わせた造語で、さまざまなライフスタイルに寄り添った「寛ぐための道具」を提供することを目指しています。
「たとえば、床にごろんと寝転ぶとき、赤ちゃんがお昼寝をするときなど、座布団という概念にとらわれずそれぞれのライフスタイルに合った形で使ってもらいたい。だからこそ、生地やアイテムのバリエーションを豊富に揃え、お客様自身が『これが私にとっての寛ぎ』と思えるものを選んで欲しいと思っています。」
座布団の枠を超えて自由な発想で進化させることで、新たな「寛ぎ」をデザインしている洛中高岡屋。移り変わる時代の波に流されることなく100年以上にわたり京都で培った職人技術を絶やさぬように、これからも「寛ぎ」の追求は続きます。
洛中高岡屋
公式ウェブサイト(外部サイトへ移動します。)
https://www.takaoka-kyoto.jp