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W主演・高杉真宙&柄本時生。北海道三笠市オールロケドラマ「三笠のキングと、あと数人 」に見る、ローカル発のエンタメとは?

W主演・高杉真宙&柄本時生。北海道三笠市オールロケドラマ「三笠のキングと、あと数人 」に見る、ローカル発のエンタメとは?

北海道三笠市

    2025.03.31 (Mon)

    目次

      北海道・三笠市で撮影が行われた、この春放映予定のテレビドラマ「三笠のキングと、あと数人」。HBC北海道放送(以下HBC)が制作し、三笠市発祥とされる「北海盆踊り」を題材にしていることから、北海道・三笠市の暮らしが密に描かれた作品となっています。

      エグゼクティブプロデューサーを務めたHBCの藤枝孝文さんに、ドラマの制作秘話や、地元の方々との交流、そしてドラマ制作を経て感じたローカル発エンタメの可能性についてうかがいました。また、W主演のおひとりである高杉真宙さんにも、現地での様子や、作品内で描かれる三笠市の文化・暮らしなどについてお話を聞きました。

      ドラマ「三笠のキングと、あと数人」

      2025年4月から6週にわたり放送予定の本作。「北海盆踊り」発祥の地とされる三笠市を舞台に、現代社会で生きづらさを抱えたW主演の若者2人が盆踊りで巻き起こす騒動とほろ苦い恋物語を描いたコメディドラマです。同時にかつては炭鉱町だった三笠市の産業衰退による過疎化、外資による土地買収、若者のひきこもりといった、現代ならではの世相や地方が抱える社会課題が物語の随所に散りばめられています。

      ドラマの主題となった「北海盆踊り」は、毎年お盆である8月13〜15日に道内各地で行われる北海道民には馴染みの伝統文化。かつて、三笠の炭鉱町で唄われていた「べっちょ節」が昭和に入って「北海炭坑節」となり、現在の「北海盆踊り」になったのだそう。

      「私は生まれも育ちも札幌、生粋の道産子なので、幼い頃から町内会の盆踊りやザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』で『えんや~こらや~』のフレーズとメロディには馴れ親しんできましたが、そのルーツが三笠市にある事は、お恥ずかしながら知りませんでした。」

      そう話すのは、当ドラマの指揮を執ったエグゼクティブプロデューサーの藤枝孝文さんです。

      個性豊かな三笠市民が登場人物のモデルに

      1951年の創業以来、数々のラジオドラマやテレビドラマを制作してきたHBCですが、今回のドラマ制作は実に13年ぶり。

      「私が会社に入った30数年前はまだドラマ専属の部署もありましたが、HBCが制作する全国ネットドラマ枠の消失とともに、その伝統も途絶え『ドラマのHBC』は過去の話となっていました。」

      当時、ドラマ制作に携わっていた社員はすでに引退。プロダクションを探すところからプロジェクトはスタートしました。

      「今回お願いをしたプロダクションはこれまでも全国の地方自治体とタッグを組んで映画製作を行っていたんですよね。自治体と実行委員会を組み、街の人が『食部会』『総務部会』『プロモーション部会』のメンバーになることで制作に参加し、官民一体となって一から作品を作り上げるというスタイルで映像制作をしていました。」

      単に作品を作るだけでなく、撮影が終わってからも映像制作のノウハウを地域へ継承し、ひいては街の発展につなげるというコンセプトがHBCの企業理念とも重なり、2023年から、自治体を巻き込んだ一大プロジェクトがスタート。藤枝さんはロケ期間中は毎日のように札幌から三笠へと足を運び、地域への理解を少しずつ深めていったといいます。

      「当初は廃れた炭鉱町を盆踊りで盛り上げるというストーリーだったんですが、ロケハン、シナハンをしている中で出会う市民の方たちがとても明るく、ポジティブで。キャラが強烈で個性的なんです。『あれ?この街の人たち、めちゃめちゃ元気じゃん、ちっとも廃れてないじゃん』って監督陣も我々も認識が変わったんです。」

      そこから当初の想定していたシリアスなストーリーから内容をがらりと変更。個性あふれる三笠市民を題材にした、ヒューマンコメディへとシフトしていきました。

      「ドラマに登場するキャラクターはすべて三笠市民の皆さんとの交流から生まれたもの。ドラマのタイトルにもそういった思いを込めました。キングも、あと数人も、ほぼ実在の人物と思っていただければ」。

      オール三笠ロケ! 官民一体となって作り上げたローカル発ドラマ

      2023年夏、三笠市での撮影がスタート。「市民の方の協力がなければ、このドラマは成立しなかった」と藤枝さんは言葉に力を込めます。

      ロケ初日には三笠市の皆さんが出演者・スタッフを地元の特産品を使ったバーベキューでおもてなし

      三笠市役所をはじめ、地元の飲食店や企業など、街をあげての撮影となった本作。中でも、「食部会」のリーダー・畑澤愛花さん、「プロモーション部会」のリーダー・千葉ひろみさんの活躍は目を見張るものだったといいます。

      1ヶ月間自身の店を閉めて、撮影に全面的に協力したという畑澤愛花さん

      三笠市内で「ごはんcafeあむっと」を営む畑澤さんは、道内の公立高校で唯一の食物調理科校である北海道三笠高等学校の一期生。少しでも地域に貢献できればと、「食部会」のリーダーを引き受けました。

      「ドラマ撮影中は朝昼晩の弁当やケータリングを三笠市内の飲食店で協力して作っていました。私は担当の割り振りをしたり、毎食ロケ現場までお弁当を届けたり。毎日1食分はうちのお店でも作っていたので、とにかく大忙しでしたね。」

      演者、スタッフを含め最低40食、多いときには300食を用意することもあったのだとか。

      「お弁当にはそれぞれのお店の方からのメッセージを添えてお渡しして。正直大変ではありましたが、楽しかったという気持ちの方が勝っていますね。演者の方やスタッフの方が三笠での滞在を通して、『三笠っていい街だったな』と思ってくれることが一番。『あったかい街だったな』『ご飯美味しかったな』って、そういうふうに思ってもらえていたら私的にはハッピーかな。」

      「プロモーション部」のリーダーには、三笠市の職員であり、地域おこし協力隊の千葉ひろみさんが就任。元ラジオパーソナリティの経験を活かし、YouTubeで撮影の裏側を発信しています。

      「ドラマを支えた三笠の人々をテーマに、すべてのロケ現場に入って撮影しました。エキストラとして出演した市民の方に話を聞いたり、ご飯を作ってくれている飲食店に密着したり。」YouTubeはドラマ放送までに順次配信していく予定だといいます。

      ドラマ撮影中、YouTube用のカメラを回す千葉ひろみさん

      「このドラマをきっかけに三笠の魅力を知ってもらいたい。せっかくこんな素敵なプレゼントをもらったんだから、これからはこのプレゼントを大事に繋いでいかなきゃ。」

      市としては、今後ポスター展や写真展のほか、ロケ地ツアーを計画中とのこと。作品を単なる打ち上げ花火で終わらせず、これを機に新たな取り組みにも挑戦したいと話してくれました。

      主演の高杉真宙さんと柄本時生さん、三笠市民の方々

      主演の高杉真宙さんへショートインタビュー

      ドラマの放送に先立ち、3月に三笠市民会館で行われた完成披露試写会には、主演の高杉真宙さんやヒロインの森田想さんが登壇。

      1か月にわたる三笠市での撮影について、高杉さんにお話をうかがいました。

      「こんなに温かくて、協力的な町というのはなかなかないと思います。全国いろんな場所で撮影をしているのですが、ドラマの撮影というのは長い時間がかかるし、いろんな人に迷惑がかかる。だからお邪魔しているという気持ちが僕は強いんです。でも、三笠の皆さんは迎え入れてくれるような雰囲気があった。撮影しやすい環境を作ってくれたのは本当にありがたかったですね。」

      裏方でドラマを支える「食部会」、「プロモーション部会」のほか、エキストラとして参加する市民の存在も撮影するうえで大きかったのだとか。

      「間違いなく、エキストラの市民の皆さんのおかげで、“三笠のローカル感”を出しやすくなりました。映っている皆さんは確実に本物なので。おかげで“健太”というキャラクターも自然と三笠の町になじむことができました。」

      三笠で暮らしたことも作品にとてもいい作用をもたらしたのだという。

      「ローカルドラマを作る際、その土地について調べたりはするものの、土地の雰囲気というのは、その土地に立ってみないと分からない。実際に三笠に住み、暮らしを体験することで生まれたものはたくさんあるんじゃないかな。」

      今回のドラマの根底には、地方とそこで暮らす人たちの創生というテーマがあります。地方が抱える過疎化や高齢化、担い手不足など、今も問題は尽きません。

      「三笠市を知るきっかけになったり、僕らが撮影した場所などを訪れていただけたら嬉しいなという気持ちで撮影をしていたので、ドラマを通して僕たちが演じた意味を感じてもらえれば。」

      最後に「今回のドラマにおいて、市民の皆さんは制作側だと思っています。同じ気持ちで作品を作っていった結果、本当に素敵な作品を作ることができました。僕自身もたった1か月ではありますが、“健太”という役で三笠に住んでいた。その1か月間がカメラに収まったのがこの作品です」と締めくくりました。

      ドラマプロデューサーが考える地域発のエンタメの可能性とは

      最後に地域発エンタメの可能性について藤枝さんにうかがいました。

      「配信やSNSの普及で、世の中ではすっかり『テレビはオールドメディア』と揶揄されていますが、三笠市の皆さんと一緒にドラマ制作をして感じたのは“オールドメディアのHBC”だからこそ、北海道内でできることはまだまだあるということです。」

      これまでHBCが70年以上にわたり培ってきた地域における信頼性のおかげで、地元の自治体とともにものづくりができたと、ローカル局としての強みを再確認したといいます。

      テレビ以外の選択肢が増えたことで、新たな可能性も広がったといい、
      「新たな動画配信サービスのおかげで、これまでは地域でしか見られなかったドラマが全国、ひいては海外にまで流通するようになった。作品の舞台となった街に、道外やインバウンドの観光客がやってきて、新たな経済効果を生み出す可能性もある」と、今回のドラマを通して確かな手応えを感じたと語る藤枝さん。

      「道内179市町村それぞれに固有の歴史とその伝統をしっかりと守っている人たちがいる。そこには179通りの物語があるでしょうから、ドラマに限らず、ニュース・情報番組・映画・配信などHBCのアセットを活用してその物語を描いて行くことで、地方発エンタメの可能性はまだまだ広がるのではないでしょうか。」

      HBC北海道放送 2025年4月25日(金)スタート
      ドラマ『三笠のキングと、あと数人』https://www.hbc.co.jp/tv/mikakin/