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パビリオンをめぐって、未来の輪郭を探す──シグネチャー、企業、国家。それぞれの視点に宿る「問い」

パビリオンをめぐって、未来の輪郭を探す──シグネチャー、企業、国家。それぞれの視点に宿る「問い」

大阪府

    2025.06.11 (Wed)

    目次

      2025年大阪・関西万博は、多彩なパビリオンが集い、それぞれの視点から「未来」の姿を描き出しています。膨大な展示数に圧倒される中で、どこに注目し、何を感じ取ればいいのか。そこで今回は、万博のパビリオンを「シグネチャーパビリオン」「国内企業パビリオン」「海外パビリオン」という三つの切り口に分けて、それぞれの特徴と魅力を解説します。未来への問いかけを手繰り寄せる道しるべとして、ぜひ参考にしてください。

      建築家が描く未来の問い──シグネチャーパビリオン「いのちの未来館」(監修:石黒浩氏)

      万博の顔ともいえるシグネチャーパビリオンは、建築家やクリエイターが独自の視点で未来を描く場です。

      「いのちの未来館」は、世界的ロボット工学者であり未来学者の石黒浩氏が設計を担当し、技術と哲学の狭間で「人間らしさとは何か?」を探求します。

      館内に一歩足を踏み入れると、まず目に入るのは、人間そっくりに作られたアンドロイドたち。彼らは来場者に語りかけ、問いかけ、時に沈黙をもって何かを伝えようとします。会話は時にぎこちなく、しかしどこか生々しく感じられ、単なる機械ではない「生命の不思議さ」に思いを馳せさせる体験です。

      展示空間はミニマルで静謐な設計。人工的な光と自然光が絶妙に調和し、木や植物のモチーフが随所に配されていることで、テクノロジーと自然の共存を象徴的に表現しています。来場者からは「未来の社会で人間と機械がどう共生していくかを直感的に考えさせられる」「未来がリアルに想像できた」といった声が多く聞かれ、どこか自分たちの暮らしにロボットやAIが少しずつ入ってきた現在地とのつながりを実感することができます。

      また、展示では単なる技術のデモンストレーションにとどまらず、人間の感情や倫理に踏み込んだ映像やインタラクティブな演出も展開。まるで「生命そのもの」を見つめるかのような時間が流れます。

      https://expo2025future-of-life.com/

      『Better Co-Being』でふれる「いのち」と未来(監修:宮田裕章氏)

      シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」は、データサイエンティストの宮田裕章氏が監修を務め、「いのちを響き合わせる」をテーマに、アート・科学・自然・身体性を通じて“共に生きる未来”を体験的に描く空間です。

      来場者は、石の形をした小さなデバイス「不思議な石ころ(echorb)」を受け取り、パビリオン内を歩きます。このデバイスは、周囲の展示や他の来場者と反応し合い、光ったり震えたりすることで、“つながり”を物理的に感じることができるのです。

      パビリオン内には、さまざまなアーティストによるインスタレーションが展開されており、順番にめぐっていきます。

      塩田千春による《言葉の丘》では、宙から垂れる無数の赤い糸に、さまざまな言語の言葉が結びつけられ、椅子や机が浮かぶ空間に導かれます。糸の揺れが、言葉の重みや人と人との関係性を象徴し、見えないつながりの「可視化」として観る者の感情に働きかけます。

      奥に進むと、天井高11mの空間にワイヤーとサンキャッチャーが編み込まれた《最大多様の最大幸福》の展示へ。天候や光の具合によって空間の印象が変わり、虹のような輝きが広がります。

      ここでは「多様であることが美しさを生む」というメッセージが、視覚的に、そして身体ごと感じられます。

      こうした展示に共通するのは、「観る」のではなく「関わる」「響きあう」体験であるということ。展示を通じて、個人の感情や生体反応が空間に影響を与える構造になっており、一人ひとりがこの場の“共作者”になるのです。

      テクノロジーとアートが融合した展示でありながら、自然の中で体験することで、少し自分達の暮らしと地続きのような気持ちになります。

      https://co-being.jp/expo2025

      文化と未来が響きあう海外パビリオン──フランス館&サウジアラビア館

      そして注目度が高いのはやはり海外パビリオン。その国それぞれのプレゼンテーションは個性豊かで、まるで世界旅行をしているような感覚になります。

      フランス館は、「愛の讃歌」がテーマ。芸術と哲学、伝統と革新、そして人と自然が出会う空間として、訪れる人々に新たな視点や気づきを提供します。さすが芸術の国として名高いフランス。歴史の長い文化が、ただ古いだけでないことが映像と音響が巧みに組み合わされて表現おり、訪れる人は五感を通じて「文化の持続可能性」を体感します。

      特に印象的なのは、フランスが誇るメゾン「LOUIS VUITTON」や「Dior」の展示。世界的なブランドの商品をただ誇示するのではなく、そこに息づくアイデンティティやクラフトマンシップが共に未来へつながる姿として浮かび上がります。

      来場者は「文化とは何か」「未来に受け継ぐべき価値とは何か」を自然に考えさせられる体験だと感じることができ、フランスという国が誇る文化の奥深さを実感します。

      展示の最後には、美しい庭園「ミラクルガーデン」が広がっています。

      ここには、南フランスから持ち込まれた樹齢1000年を超えるオリーブの木が展示されており、自然と人間の共生を象徴しています。

      https://www.expo2025.or.jp/official-participant/france/

      サウジアラビア館は、古代都市「アルウラ」の再現や、未来都市「NEOM」の紹介など、過去から未来への旅を体験でき、成長著しい国家のビジョンを力強く示します。

      ここでは未来の都市生活、持続可能なエネルギー利用、さらには文化遺産の保護がダイナミックに描かれています。

      展示では、未来への展望を強く感じられますが、中東らしい文化体験やグルメなどのプレゼンテーションは来場者の心を掴んでいます。

      中庭では伝統音楽やダンス、ファッションショーなど、700以上のライブパフォーマンスが予定されており、日本から遠く離れたサウジアラビアの文化に来場者は釘付けに。擬似海外旅行として楽しんでいる姿が多く見られます。

      伝統的なサウジ料理やコーヒーを楽しめるカフェ、200種類以上の伝統工芸品が並ぶ「サウジスーク」も見どころです。

      来場者は「未来への希望と挑戦を強烈に感じる」「国家のアイデンティティを守りつつ変革を進める姿勢に感銘を受けた」と評しており、感覚的にも知的にも満たされる展示となっています。

      https://www.expo2025.or.jp/official-participant/saudi-arabia__trashed/

      パビリオンは未来を映す鏡

      大阪・関西万博のパビリオンは、単なる体験展示の寄せ集めではありません。それぞれが異なる立場と方法で「未来とは何か」を問いかけているのです。建築家の哲学的な視点、企業の地域共生への挑戦、国家の文化と発展の両立――これらを通じて、私たちは未来の輪郭を少しずつ掴んでいけるでしょう。

      膨大な情報に圧倒されるかもしれませんが、ぜひ今回紹介した視点をもとに、パビリオンをめぐってみてください。未来のかたちを感じ取り、私たち自身の「未来観」をアップデートする体験になるはずです。