大阪府
2025.06.13 (Fri)
目次
世界150以上の国と地域が参加している海外パビリオン。各国のパビリオンは、テクノロジーや環境への取り組みだけでなく、建築や音楽、食、アートなど多様な切り口でその国の「未来の考え方」を紹介しています。壮麗な建築、意表を突く演出、あたたかく迎えてくれるスタッフたち。国ごとに異なるアプローチにふれながら、それぞれの国もそれぞれの地域と共に生きているのだと、「違い」と「共通点」という気づきをくれるのが、海外パビリオンの大きな魅力です。
4カ国共同パビリオンの一つのブースに入ったチリ館は、こじんまりとしていてシンプルですが、入り口の「マクン」の赤いパネルが存在感を主張しています。
建物に入ると目に飛び込んでくるのは、木の柱に吊られた大きな織物。これが「マクン」と呼ばれる手織物で、チリ館のメインインスタレーションとなっています。なんと表面積は242平方メートル。マクンはマプチェ語で「マント」や「保護する衣」を意味し、先住民族であるマプチェ族の女性たちが全て手で織り上げたもの。染料も自然の植物だけですが、赤や緑など実にカラフルです。
生命や先祖へのリスペクトを表す赤色と、自然や癒しの象徴である緑色のタペストリーが館内を鮮やかに彩っています。触ってみると、硬質そうな見た目に反して、意外と柔らかくボリュームのある手触り。チリ南部は南極に近いため冬は寒く、この羊毛で織られたマクンは飾りだけでなく暖を取るための防寒具でもあるのです。チリ=南国というイメージですが、この展示によって私たちはチリ国内での意外な気温差とそこに根付く土着の智恵について知ることができます。
マクンと共に注目したいのが、松の木で造られた木組み。実はチリは地震が多発することから、耐震性に優れ乾燥にも強い松の木によるCLT材(直交集成材)を用いた建築技術が発達しています。組み立て・分解・再利用が可能な、サステナブルな木造建築システムです。この展示では、悠久の歴史の中で先住民族が紡いできたものづくりと、最先端の建築技術を融合させることにより、チリの伝統×革新を提示しているのです。
パビリオン内の三面の壁いっぱいに展開されるのは、宇宙科学、自然、スポーツ、農業など毎週変わるテーマに沿った動画。プロジェクターで壁に映すシンプルなシステムを導入しており、消費電力を極力抑えることができるのだそうです。
チリパビリオン Instagram:
https://www.instagram.com/expo2025chile/
昼と夜で違う姿を見せてくれる、ユニークな目を引く建築。それが、オランダパビリオン「Common Ground(共創の礎)」です。建物の中心には、直径約11メートルの巨大な球体「次世代への太陽」が浮かび上がり、日の出を象徴するように輝いています。この球体は、持続可能なクリーンエネルギーの象徴として、未来への希望を表現しているのです。
パビリオンのテーマは、「水」と「エネルギー」。オランダは、長い歴史の中で水と共に生きてきた国であり、その経験を活かして、水素などの再生可能エネルギーを水から生成する最新技術を紹介しています。来場者は、手渡される「エネルギーオーブ」に導かれながら、インタラクティブに展示を体験していきます。
オランダの国土は海抜が低く、1/4が海抜0メートル以下。運河が多いことから水上交通や交易によって発展してきた国ですが、同時に水害と共に歩んだ歴史があります。近年の温暖化現象はオランダの人々にとって、差し迫った脅威でもあるのです。
そういった未来の課題に対してのシミュレーションや都市計画をわかりやすく展示。彼らのライフスタイルをリアルに感じることができます。
オランダの人気キャラクター「ミッフィー」がキッズアンバサダーとして登場し、ともすれば難しくなりがちな内容を、子どもたちにもわかりやすく案内しています。家族連れでも楽しめる工夫が随所に施されており、未来のエネルギーについて、世代を超えて学ぶことができるのも、「子どもに優しい」といわれるオランダ館ならではといえそうです。
オランダパビリオン:
https://www.expo2025.or.jp/official-participant/netherlands/
大きな羽根を広げたようなダイナミックな建築が威容を誇る、巨大なクウェートパビリオン。そのデザインは「歓迎」の象徴であり、同時にクウェートの寛容性と受容性を表現しています。
入り口から入ると、真珠をモチーフにした大きな球体のスクリーンが迎えてくれ、すでに近未来にワープしたような気分に。クウェートの自然や産業を紹介してくれるキャラクターの案内に合わせ、白煙やミストが噴出するなどエンタメ感もたっぷり。
奥へ進むと、本物の砂漠の砂を使った「宝探しコーナー」が登場。手の動きに合わせてサソリやヘビなどが動くので、ついつい没頭してしまいます。続いて、「シルク」「白檀」などと書かれた壺の蓋を開けると輸入ルートがスクリーンに映し出される展示。コーヒーの搬送方法が「ラクダ」と表示されると、「本当?」と訝しがる声が上がりましたが、本当に砂漠の一部ではラクダがコーヒーを運ぶそうです。
他にも、ポンプを押してスクリーン内の水を噴き上げて岩を浮かせるゲームや、宇宙空間をくぐるような長い滑り台など、「自然」や「未来」といったキーワードに絡めながら楽しく学べる体験展示を用意。バーチャルのキャラクターの動きに合わせて踊るダンスレッスンもあり、子どもが楽しむ姿が印象的です。
締めくくりに驚きなのは、天井一面に広がる楕円型の大型スクリーンで見るプラネタリウムやクウェートの自然・歴史を紹介する最先端シアター。砂漠の造形物をイメージした曲線型ベンチに座ったり、寝転がったりして眺めることができます。頭上に降り注ぐような星や、花火、美しい映像だけでなく湾岸戦争の時代の風景なども映し出され、とにかく迫力満点。クウェートという国が辿ってきた歴史や、石油・資源大国として世界各国とどう関わってきたかといった過去と未来に意識を連れて行ってくれます。
クウェートパビリオン:
https://www.expo2025.or.jp/official-participant/kuwait/
ドイツ館「わ!ドイツ(Wa! Germany)」は外観から展示の流れ、さらにはマスコットキャラクターに至るまで、すべてが「循環経済(サーキュラーエコノミー)」というコンセプトに貫かれており、まさに“丸ごと循環”を体現している空間です。
パビリオンの名前にある「わ!」には、三つの意味が込められているそうです。ひとつは「環(わ)」、つまり循環。もうひとつは「和(わ)」、調和。そしてもうひとつは、訪れた人の感動の声、「わ!」。このユニークな多重構造が、入り口からすでにドイツらしい知性と遊び心を感じさせてくれます。
館内を進んでいくと、まず迎えてくれるのがマスコットキャラクター「サーキュラー」。まんまるな姿で、循環型社会の考え方や、ドイツ国内で実践されている再利用・再生可能エネルギーの取り組みをわかりやすく案内してくれます。
展示は大きく構えた説明ではなく、実際の暮らしや社会に即した内容が中心で、家庭で出た食品廃棄物がエネルギーに生まれ変わる過程や、建築資材の再利用の仕組みなどが紹介されていました。
展示に使われている素材や建築そのものもまた、循環をテーマに作られています。木材やガラスは、使用後の再利用を前提に設計されており、解体後はドイツへ持ち帰られる予定です。つまりこのパビリオン自体が「一時的な構築物」ではなく、「再びどこかで生かされる資源」なのです。
ドイツパビリオン:
https://www.expo2025.or.jp/official-participant/germany/
海外パビリオンの多くは動画や映像コンテンツなどで自国の歴史・文化を紹介する展示がメインとなっていますが、その表現方法やアプローチは実にさまざま。館のデザインも使われている素材も国ごとに全く違います。ただ共通していることは、どの国も「自国の伝統や先人の叡智を大切にし、自然と動物に敬意を持つ」という姿勢。
自国の芸術的名作を披露するイタリア館、最先端の技術とカルチャーの勢いを感じる韓国館、多様性とイノベーション、宇宙開発など自国が世界をリードする分野を発表するアメリカ館……。国の個性はさまざまですが、世界中の「地域」を感じることで、自国のローカルをあらためて認識することができるでしょう。
各パビリオンで気付いたのは、出展者同士が「万博は他国とつながるチャンスの場」と捉え、かなり積極的に国を超えたコミュニケーションを図っていることです。あるパビリオンの担当者は、他国の出展者と交換したピンバッヂを胸に何個も誇らしげに付けていました。
「普段は絶対に行くことのできない国と、ここで交流できる」。その根底にあるのは、地球の一員として未来へと歩みを共にするメンバーシップ精神です。今地球が抱えている課題をどう解決し、未来を描くか。「それぞれの土地で育まれた智恵を惜しみなく見せ合い、ともに生きるために助け合う」ことこそが、地域共生の根幹といえそうです。