福岡県福岡市
2025.06.18 (Wed)
目次
博多のまちを古くから見守ってきた「櫛田神社」。その境内を起点に、今回は博多冷泉エリアの路地裏をゆくまち歩きを紹介します。歴史の風情と日常の温かさが共存する路地には、古くからつづく伝統的な食文化や、次世代の感性が息づく新スポットが隠れています。知っているようで知らない博多の素顔をじっくり味わってください。
現在の社殿は1587年に豊臣秀吉が博多復興にあたり建立寄進したもの
「お櫛田さん」との呼び名で親しまれる「櫛田神社」は、博多っ子の心の拠りどころ。歴史は古く、創建は757年。博多の氏神総鎮守として慕われてきました。天照大神(アマテラスオオミカミ)をお祀りし、商売繁盛や不老長寿などのご利益があるといわれています。
権禰宜の髙山定史さんは長年にわたり櫛田神社の広報を務めている
「櫛田神社は奈良時代の創建で歴史が古いことからお祭りも盛んです。地域とのつながりが強い神社ですね。」
博多に夏を告げる「博多祇園山笠」、秋の「博多おくんち」など、博多のまちで行われる祭の中心には、かならず櫛田神社がありました。
「博多は昔から商人のまちです。その商人たちが自治のつながりを大事にして祭を行い、その文化が現代にも受け継がれているんです。」
夫婦円満、縁結び、子孫繁栄などを願う「夫婦銀杏」は樹齢1000年を超えるそう
本殿でお参りしたら、境内をぐるりと歩いてみましょう。「博多べい」は戦国期に焼け野原となった博多のまちを復興する際に、焼けた石や瓦を使ってつくられた土塀です。ほかにも不老長寿を願う「霊泉鶴の井戸」や力試しができる「試石」、博多の祝い唄にも唄われる「櫛田の銀杏」など、博多の歴史をうかがい知れる遺構や石碑などが随所に。
櫛田神社に奉納される博多祇園山笠は、博多の夏の風物詩として全国的にも有名
通常、7月初旬にしか見られない「博多祇園山笠」の飾り山笠を1年中(6月を除く)みることができるのも魅力です。
創業は1974年。2019年には「ミシュランガイドブック福岡」に掲載されています
櫛田神社をあとにして、次は「牛もつ鍋料理 みやもと」を訪ねました。博多名物の代表ともいえるもつ鍋の店。なかでも半世紀以上の歴史を刻む同店は、もつ鍋が誕生したころからある名店のひとつで「もつ鍋の元祖」を味わえます。
著名人のサインや常連のキープの徳利に囲まれた1階。2階にはお座敷も
2人で来店した場合、最初はもつとニラのみの、3人前のもつ鍋が出てくるのがみやもと流。そして2杯目のおかわりは、3人前のもつとニラに加えて、豆腐とキャベツを一緒に味わいます。
たっぷりと盛られたニラの下にもつがぎっしり。こちらは1杯目のもつ鍋
注文をしてから、店内にずらりと並ぶ焼酎徳利を眺めていると、もつ鍋がドンとコンロの上にのせられました。醤油ベースのスープに具材はもつとニラのみ。これこそが昔ながらのもつ鍋です。もともと酒のアテとして親しまれていたことから、お酒に合う醤油辛いスープができあがったそう。
もつとひと言でいってもセンマイや小腸など、数種類が入っており、旨みや食感もさまざま。ニラの風味もあいまって箸がとまりません。旨みがじんわり染み出したスープもついつい飲み干したくなるほど。
2代目の店主、宮本洋さんと、女将の智子さん
「もつは毎日4時間かけて仕込みを行っています。きれいにすることはもちろんのこと、口の中に入れたときに食べやすいよう、大きさや形を考慮しながら丁寧に下処理しているんです。一子相伝のスープは父から、仕込みは母からきっちり教えてもらいました。」と2代目のご主人。
約8種類ほどのもつが入っている
おかわりの2杯目は、1杯目で出たもつのうま味がスープに溶け出して、さらに味わい深い仕上がりになります。そう、一度に2回味わいの異なるもつ鍋が食べられるのがみやもとのいいところなのです。〆には製麺所に特注している、もちもちのちゃんぽん麺をお忘れなく。
インテリアとDIYとハンバーガーが融合した博多区冷泉町の複合カフェ
「友安製作所とハンバーガー」があるのは冷泉公園の近く。2021年にオープンした手づくりハンバーガーを楽しめる新顔のカフェです。タイル張りのレトロなビルの1階をリノベーションしてオープンした同店は、夜になるときらびやかに光るネオンが目印。
友安製作所はもともと大阪府に本社があり、インテリアやDIY商品などの販売を行っている企業です。
ヴィーガンメニューの「ハンバーガー」。皮付きフライドポテトとミニサラダ付き
牛肉100%のパティ、フレッシュなレタスとトマト、マスタードとマヨネーズが、半年ほど試行錯誤してできあがったバンズに挟まれ、口に入れるとジュワッと肉汁が染み出します。
これにチェダーチーズをサンドしたベーコンエッグチーズバーガーが1番の人気メニュー。付け合わせのホクホクとしたポテトもここならでは。
また、海外からの観光客に好まれているのはヴィーガンメニューです。大豆ミートを使用したパティを主役にアボガドやタマネギといった野菜を一緒にサンドしたメニューが充実しています。
店内にあるDIYパーツはすべて購入可能
店内には友安製作所が販売しているドアノブや壁紙、タイルなどさまざまなパーツが並びます。店自体がショールームとなっており、床や壁、天井、家具、照明まで、すべて同社の商品だそう。開店時はリノベーションのほとんどをカフェスタッフも一緒に作業をしたとのこと。
店内の内装は自宅のインテリアとしても参考になる
ハンバーガーに舌鼓を打ちながら、お部屋のインテリアや模様替えについてあれやこれやと妄想できる、一度に二度おいしいお店でした。
「箱崎縞」を復刻・企画販売をするテキスタイルアパレルメーカー「メゾンハコシマ」
福岡の布織物として、博多織や久留米絣などがよく知られていますが、近年、静かに注目を集めつつあるのが箱崎縞です。東区箱崎が発祥といわれ、明治から昭和初期にかけて主に作業着として用いられていた衣類だそうです。かつては博多祇園山笠の当番法被にも採用されていましたが、戦時中の金属回収令によって鉄製の織り機が回収されたため、途絶えてしまったといいます。
そんな箱崎縞を5年前に復活させ、現代プロダクトとしてよみがえらせたのが「メゾンハコシマ」。寺が並ぶ博多旧市街エリアにあり、国内最大級の木造の仏像で知られる、東長寺の真裏にショップがあります。
ゆるやかにテーパードのかかった、ゆったりとしたシルエットが魅力の「はこパン」
同ショップの主力商品は「はこパン」。箱崎縞は単糸の織物のため、生地はやわらかく、着れば着るほど素肌にフィットするような心地よさを生みます。デザインは「縞」にならって、ストライプ模様が主流。太縞と細縞を組み合わせた、博多献上帯柄のパンツは、知る人ぞ知る博多アイテムです。
浅めのVネックを採用することで首周りを綺麗に見せることができる
そして、「上物もほしい」という常連客のリクエストにこたえて、最近リリースされたのが「はこシャツ」。フランスのバスクシャツを参考にデザインされており、ボーダー柄で浅めのVネックが特徴です。後ろ身頃は長く、お尻が隠れるデザインになっています。長袖ですが通気性がよいため、夏でも着やすいそう。
古くから伝わる箱崎縞を現代的な観点で再構築
ハンカチやストール、キッチンクロスなどの小物もあるので、まずはそのあたりから手に取ってみるのもよさそうです。
洋館風の2階建ての建物は、昭和47年に建て替えたもの
散策の最後に訪れたのは博多最古の喫茶店ともいわれる「カフェ ブラジレイロ」です。ここは1934年、ブラジル サンパウロ州のコーヒー局がブラジルコーヒーを広める目的で博多区東中洲に開店。
その後、2度目の移転となった1951年に現在の場所に。かつてこのあたりは問屋街で、百貨店や銀行、大型商店などが立ち並ぶ、天神のようなまちだったそうです。自家焙煎のコーヒーを求めて、作家や詩人などの文化人が訪れ、まるでサロンのような空間でもあったといいます。
同店の看板メニュー。同店のネットショップではオリジナルコーヒーを購入可能
コーヒーはブラジルコーヒーをメインに6種類のブレンドコーヒーを提供しています。また、コーヒーと同じぐらい人気なのがオムライスやミンチカツレツ(メンチカツ)などの本格的な洋食です。この日はオムレツライスを注文。ふわふわのオムレツとやさしい味のデミグラスソースが舌も心を満たしてくれました。長年の常連に支えられている理由を改めて理解しました。
オーナーの中村好忠さんとともに店を切り盛りしてきた久美子さん
「このまちは昔から賑やかですね。近くにお櫛田さんがあって、博多どんたくや山笠などの祭もある。博多駅から近い場所にこうしたほっとできる場所があるってことはいいですよね。」とマスター。
まちともに歩んできた老舗の喫茶店は、初めてくる人も、長年通う人もやさしく迎えてくれるあたたかさがありました。
冷泉エリアは博多祇園山笠の追い山のコースにもなっている
「いわゆる」な博多とはひと味違う。それでいて博多の本質的な魅力を体感できる。それこそが冷泉エリアの路地裏を歩く最大の価値です。博多に訪れた際はぜひ一度訪れてみてください。
牛もつ鍋料理 みやもと(要予約)https://www.motsunabe-miyamoto.com
友安製作所とハンバーガーhttps://tomoyasucafe.com/hakata/
カフェ ブラジレイロhttps://brasileiro.base.shop/