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国産デニムブランドJELADOがローカルファクトリーと紡ぐ、現代によみがえるヴィンテージデニムとは?

国産デニムブランドJELADOがローカルファクトリーと紡ぐ、現代によみがえるヴィンテージデニムとは?

東京都渋谷区

    2025.09.29 (Mon)

    目次

      「良いデニム」とは? その基準は数多あるものの、世界のスタンダードとして言っても過言ではないひとつの指標があります。それは「ヴィンテージのリーバイス501XXの仕様にどれだけ近いか」です。そして、海外から日本製のデニムが評価されているポイントはまさにそこ。今回は、ローカルファクトリーと連携しその最先端を走るアメカジブランド「JELADO」を訪ね、どのようにデニム開発を行っているのか。代表後藤洋平さんに伺ってみました。

      そもそも「501XX」とは何か?

      JELADOが保有している501XXのデッドストック(当時の未使用品)。

      リーバイス社がデニム生地を使用した5ポケットジーンズ(以下デニム)のロットナンバー(品番)に「501」の名を冠したのは1890年こと。その後、1900年代に入るとリーバイスにデニム生地を供給していた生地メーカーの最高品質の等級「XX」のデニム生地を「501」に採用し、「501XX」が誕生します。以来、「501XX」は半世紀に渡りさまざまな進化を遂げ、「完成を迎えた」とされる1940〜1950年代の製品がその黄金期とされています。

      「JELADO」が語る「501XX」の魅力

      JELADOの代表、後藤洋平さん。ヴィンテージウエアへの造詣が深いことでも知られる。

      JELADOは2004年に後藤洋平さんが創業したアメリカンカジュアル(アメカジ)ブランドです。彼らが2020年にリリースしたオリジナルデニム生地「LAST RESORT」を使用した「301XX」は世界中のヴィンテージデニムファンに衝撃を与えました。なぜなら、1950年代に製造された「501XX」のデッドストック(当時の未使用品)を解体して某国立の研究所にて科学的に分析。その結果とJELADOが保有する数多くのヴィンテージから得た知見をもとに、ロジカルかつ緻密に「501XX」を再現したからです。

      2020年にリリースされた「301XX」。現在はさまざまなバリエーションモデルが存在する。

      「501XX」の魅力をJELADOの代表、後藤さんに伺いました。

      「世界中の大手メゾンブランドのデザイナーをも魅了する『501XX』ですが、その最大の魅力は普遍的なスタンダード性だと思います。『労働着』が転じていわゆる『カジュアルウエア』という概念が生まれたのが1950年代のアメリカなわけですが、その際に『ファッション』観点で絶対的な中心に位置していたのがデニムなんです。そして、19世紀からデニムの進化を牽引し、高品質のデニムを供給していたのがリーバイスであり、その代表モデルが『501XX』だったわけです」。

      「501XX」の生地を分析するために、デッドストックの生地にハサミをいれた際の写真(2019年)。

      さらにデッドストックの「501XX」を解体してまで「301XX」の開発に踏み切った理由を後藤さんはこう語ります。

      「実は当時のクオリティコントロールは良い意味でザックリしており、ひとえに『501XX』と言っても個体差が激しいのです。つまり、仮に1本の『501XX』を持っていたとしても、それが『スタンダード』かどうかわからない。逆にさまざまな仕様の個体を見てきた僕らからすると、そのバラつきこそが『501XX』が面白さなのですが。自分の好きな個体を徹底的に分析し現代に再現することで、その魅力を後世に残したいと思ったのが『301XX』を開発しようと思ったきっかけでした」。

      そのこだわりは「綿」の選定からはじまった。

      圧縮された状態で産地から届いた1ブロック200kgの綿。

      「301XX」の開発は大阪府泉南市にある紡績ファクトリーにて「糸」をつくるための「綿」の選定からはじまりました。デニム生地はタテ糸とヨコ糸で織られていくわけですが、「501XX」を分解・解析を行った結果の数値と、当時のアメリカ国内の物流と綿の産地を照合し、タテ糸、ヨコ糸それぞれに使用する綿の産地と太さ、繊維長を決めたそうです。

      「綿は繊維長が長いほど、糸が切れにくく柔らかな生地の質感を出せるので『高級』とされますが、『501XX』を分解して驚いたのは、ヨコ糸の繊維長が異様に長かったことでした。具体的な数値は企業秘密ですが、当時からリーバイス社が『良いもの』をつくろうとしていた意志を感じられましたね」。(後藤さん)

      当時のアナログ技術を現代の技術で再現する

      わざと糸の太さにムラをつくることで、よりヴィンテージに近い質感が手に入る。

      紡績ファクトリーにて紡績を依頼する際に、「番手(太さ)」だけでなく「撚り(紡績する際にねじること)」回数すらも再現したという後藤さん。

      「また、1950年代当時は紡績技術がいまよりも進んでいなかったので、ランダムに太さのムラが発生するのですが、その点も再現したところがポイントですね」。(後藤さん)

      染色済の糸の断面。中まで染まりきらず「中白」になっていることがわかる。

      紡績が完了したら、糸を広島県福山市のファクトリーへと運び染色工程を行うのですが、ここでも当時の技術を再現する重要なポイントがあるそうです。

      「糸の中まで染めきらないことが重要なんです。当時は染色技術が高くなかったことから、結果として中白になっていたと思うのですが、それを再現するのは中々難しい。これが実現できるからこそ、ヴィンテージ同様にデニム生地が擦れた際に白い部分が露出し独特な表情を生むんです。

      世界のものづくりは高水準のクオリティコントロールを目指して進化してきました。一方、ヴィンテージを『リアル』に再現するためには、全工程で当時の『不完全なクオリティコントロール』を『精度高く』表現するという技術と手間が必要になるわけです。そんな面倒をやってくれるのは日本だからこそだと思います」。(後藤さん)

      日本のローカルが支える唯一無二のデニムづくり

      岡山県にあるファクトリーに存在するシャトル織機。現代的な織機と違い織れる生地の幅が狭く織るスピードも遅い。そのスピードの遅さがふっくらとした生地の質感を生む。

      糸の染色後は岡山県のファクトリーで織布が行われます。後藤さん曰く、今回の文脈でいうところの「良いデニム」は日本でしかつくれないとのこと。

      「日本には高い技術を誇る紡績、染色、織布、縫製ファクトリーが点在していますが『良いデニム』は彼らがいてくれるからこそ完成します。何よりも、1950年代頃からでデニム生地を織っていたシャトル織機がいまでも現存し、しっかり稼働しているのは日本ぐらいですしね」。(後藤さん)

      「501XX」を解析してわかった打込み本数(生地1インチ四方の中に織り込まれたタテ糸とヨコ糸の合計本数)も「301XX」では再現されている。

      「デニムに対する価値観は人それぞれなので、良し悪しの話ではないですが、海外でつくられたデニム生地はのっぺりとしたものが多い。一方、国内で織られたデニム生地は『501XX』のように凹凸感のあるふっくらとやわらかいデニムであることが多い。この状況は、世界に先駆けて『ヴィンテージウエア』の価値に気づき、その再現をブランドと生産現場が試行錯誤してきた日本だからこそつくれたのだと思います」。(後藤さん)

      JELADOとローカルファクトリー。ものづくりへのスタンス。

      長年の知見が国内のデニム生産現場に蓄積され、相対的に「良いデニム」が多い日本。しかし、「リアル」であることがひとつのゴールとした際に、その基準はブランドによってさまざまです。生地ファクトリーが用意したデニム生地をそのまま使用するブランドも数多存在するし、それを基準にカスタムを施すブランドも数多存在する。そんな中、JELADOが開発した「301XX」は「紡績」つまり糸をつくる綿の選定にはじまり「染色」「織布」「縫製」と、デニム生地自体をゼロからさまざまなローカルファクトリーと連携してつくりあげたことで、世界中のデニムファンを驚かせました。

      こちらはデニムジャケット「Age of Longing 407EXX Vintage Finish」(\61,600)。指で示したボックスステッチは各箇所、ヴィンテージ同様に形が微妙に違う。こういった指示に細かく応えてくれるのが日本ならではのものづくり。

      「一流のシェフは最高のひと皿のために全国を渡り歩き、ベストな食材を探しますよね? デニムづくりはそれと非常に似ています。つくりたいデニムの仕様、そして各製造工程をどのローカルファクトリーに依頼するのかを決めるのはブランドです。ただ、それを生産現場の方々が引き受けてくれるかはまた別の話。JELADOのブランドとしての強みは『501XX』を再現するにあたりヴィンテージのデッドストックを解体・分析したからこそ、ファクトに基づいた精度の高い仕様を提示できるところ。そして何よりも、それを体現してくれる日本に点在する生産現場の方と信頼関係を築けたことだと思っています」。

      当時の新品が手に入る⁉ 世界が注目する「301XX」

      ストレートシルエットの「JELADO Age of Longing 301XX Denim Pants」(¥33,000)は実際に穿いてみると、ヴィンテージのような柔らかさに驚く人も多いという。

      デッドストックの「501XX」とほぼ同じ仕様の綿を使用し、データ通りのスペックで紡績して染色。そして、限りなく当時の状況に近いカタチで製織し、リアルな縫製でつくられるJELADOの「301XX」は海外からのオーダーも絶えないそう。いち消費者目線で捉えるならば、「301XX」を手にすることはヴィンテージを新品で手に入れる感覚にかなり近いのではと思いつつ、後藤さんは良い意味でこれを「完璧」とはせず、今後も挑戦してみたいことがあるのだそうです。

      「301XX」の色落ちサンプル。穿き込むごとにヴィンテージのような表情へと変化する。

      これからのJELADOと「LAST RESORT」

      「301XX」のスレーキ(フロントポケットの袋布)部に配された「LAST RESORT」のタグ。

      「301XX」で使用されたデニム生地には「LAST RESORT」という名が冠されています。それを使用した5ポケットジーンズを「完成品」とするならば、「素材」である「LAST RESORT」自体もひとつのプロダクトとして育てていきたいと後藤さんは語ります。

      現状の「LAST RESORT」の全タグのラインナップがこちら。

      「『301XX』に使用した『LAST RESORT』は1950年代の『501XX』のデニム生地を再現したわけですが、その他にも1940年代の『501XX』を再現した『LAST RESORT』も存在しており、それぞれタグの色をかえているんです。たとえば前者は『白タグ』、後者は『黒タグ』といったように僕たちは呼んでいるわけですが、現時点で『LAST RESORT』には5種類のバリエーションが存在しています。JELADOの製品はもちろんですが、JELADOのこだわりがつまったこれらの生地が、今後世界にどのように伝わり使われていくかも楽しみです」。

      2025年に移転・リニューアルオープンした恵比寿にある「JELADO FLAGSHIP STORE」。

      JELADO

      公式ウェブサイト(外部サイトへ移動します。)
      http://www.jelado.co.jp/