京都府京都市
2025.11.27 (Thu)
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京都には、長く愛される“ええもん”があります。それは形あるモノに限らず、土地に根づいた美意識や、丁寧に暮らす人の姿勢そのもの。この連載では、そんな「京のええもん」をよく知る京都の人々に、愛用品やその魅力を語ってもらいます。今回登場するのは、フリーマガジン「ハンケイ500m」編集長の円城新子さん。京都人らしく、日常の中に香りを取り入れ、旅先でも変わらぬ空間をつくる円城さんが愛用するのは、香老舗 松栄堂が手がけるブランド・lisn(リスン)のインセンスケース。香りを纏うように生きる、その姿に京都人の哲学が見えてきます。
円城新子さん
プロフィール:京都市生まれ。株式会社ユニオン・エーの代表取締役。京都のフリーマガジン「ハンケイ500m」、京都新聞とのコラボレーションで運営するwebサイト「ハンケイ京都新聞」のほか、各媒体の編集長。KBSラジオ「サウンド版ハンケイ500m」のパーソナリティ。
愛用品:lisnのインセンスケース「REED」
円城さんは京都生まれ、京都育ち。出版社勤務を経て2011年に起業し、フリーマガジン「ハンケイ500m」を創刊しました。

「ハンケイ500m」は2ヶ月に1回発行。毎号、京都市内にあるひとつのバス停を基点とし、半径500メートル出会った多様な価値観の人々を紹介しています。取材対象者は、職人、個人経営店のオーナー、アーティストなど多岐にわたります。これまでの14年間で88号を発行し、円城さんは440人以上の京都人を取材してきました。

京都市営地下鉄のすべての駅に設置されているほか、京都市内の商業施設やショップに置かれている。発行部数は3万部で、すべてが捌けるほど人気。
円城さんがこだわっているのは、オリジナルな情報。ネットに頼らず、自分たちが足で歩いて探した“おもしろそうな人”を取材しています。
「京都は地方都市ながら、比較的、家賃がリーズナブルなエリアも多く、多様な商いに挑戦できる場所。だからこそ、独自の哲学やポリシーを持ちながら生き、幸せをつかみ取っている人がたくさんいます。私が会いたい、話を聞きたい、読者のみなさんに紹介したいのはそんな“おもしろい人”たちです。」

「ハンケイ500m」の巻頭ページ。「取材では必ず生い立ちから聞き、その人の生き方に迫っていきます」
数多くの “おもしろい人”に会ってきた円城さんですが、取材のたびに「まだまだ京都には、自分の知らない考え方の人がいる」と驚いているのだそう。
「私自身が『おもしろい』と感じるだけでなく、読者の皆さんに『こんなにおもしろい人がいる』『自分にはそんな考えはなかった』と知ってもらい、読んだあとに豊かな変化が起こればうれしいです。多様な価値観の先に、だれもが納得する普遍性が担保されているのも『ハンケイ500m』の特徴です。」

「サウンド版ハンケイ500m」のイベントでは多数の読者やリスナーが詰めかけます。
円城さんは、取材のこぼれ話を披露するKBS京都ラジオの番組「サウンド版ハンケイ500m」で、ミュージシャンの原田博行さんとともにパーソナリティも務めています。「ハンケイ500m」やラジオ番組に「ほかにない情報や読み物が詰まっている」と熱烈なファンからの手紙が届くほか、公開生放送などのイベントでは多数の読者が訪れ、円城さんの話に耳を傾けます。

円城さんは「ハンケイ500m」のほか、学生のための就職情報誌「おっちゃんとおばちゃん」、訪問看護の企業との共作雑誌「ハンケイ5m」の各編集長を務めています。
「おいしいものも大好きですが、人の考えのおもしろさにはかなわない。食べ物の種類より、人の価値観の多様性に興味があります。」

「例えば、町のパン屋さん。銀行からお金を借りて、朝3時に起きて生地をこねて焼いて、単価150円のパンを売るオーナーさんがいます。この町に、パン作りに幸せを感じる人がいるからこそ、私はおいしいパンを食べることができる。世の中には、私と違うところで幸せを感じる価値観の人がたくさんいる。だからこそ周り回って、私は幸せな人生を過ごせていると感じています。」
「ハンケイ500m」をはじめ、円城さんが手がける媒体にはすべて“世の中には多様な価値観があるから、みんなが幸せでいられる”という想いが込められています。
おしゃれが好き、人が好き、アートが好き。そんな円城さんのモノ選びの基準は、その人のポリシーに共感できること。そしてもうひとつは、アート性があり、意外性があること。円城さんの愛用品、lisnのインセンスケースも、アート性と意外性を満たしていました。

lisnは、1705年創業、お香の老舗・松栄堂がプロデュースする、スタイリッシュなインセンスブランド。「香りのある暮らし」をコンセプトに、伝統的な香木ものから現代的なフレグランス系まで常時150種類以上をラインナップしています。lisnの直営店は京都・四条烏丸の商業施設・COCON KARASUMA内と東京・青山の2店舗です。
「lisnとの出会いは、中学生の頃。母に連れられ、当時、京都の北山にあった店舗を訪れたところ、モダンで洗練された世界が広がっていました。お香が日常生活に似合うというイメージを持っていなかったので、そのギャップに驚きました。ガラスの瓶にさまざまなお香が刺してあるディスプレイがおしゃれで、漂う香りが心地よく、すぐにファンになりました。」

こちらのインセンスケース「REED」はlisnのオリジナルで、制作は木工作家・三谷龍二さん。片手におさまる小さな筒状のケースで、中にスティックタイプのお香を収納でき、蓋がお香立てになるという優れものです。10数年前、パリへの家族旅行で母親が使っている様子を見て、コンパクトで機能的、そして美しさに驚き、自身も購入。以来、旅行にも出張にも必ずインセンスケースを持って行きます。

円城さんは、同じ場所に繰り返し通い、“住むように旅をする”派。何度も通うパリでは、市場で食材を買ってアパルトマンで自炊をしたり、カフェでくつろいだり。最近、家族旅行で訪れたのは、沖縄の今帰仁で7〜8回目。パリにも沖縄にも、lisnのインセンスを持っていきました。
「滞在先に “住む”から、観光地にはあまり行きません。仕事もするし、原稿も書く。私の住まい、私のオフィスだからこそ、普段の生活と同じようにlisnのお香を焚いています。」
旅先でも、いつもの香りに包まれることで、どこにいても自分らしい空間を作り出す、これが円城さんの旅のスタイルです。

自宅にはたくさんのインセンスをストックしています。柑橘系、甘い系、フローラル系の3タイプを基本に、その日の気分で選んでいるのだとか。この日、筒の中に入っていたのは、サボテンの香り「NAUGHTY」、苦味のきいたオレンジの香り「ORANGE IN LOVE」、甘酸っぱい「PACHI〃」という3種類のお香。中身は半年に一度程度、そのときの気分で入れ替えています。

自宅で使用しているお香立ては、松栄堂のもの。
「お香専門店だから、お香にこだわっている。これは当たり前といえば当たり前。松栄堂さんのすごさは、お香立てにお香を立てたときにわかります。お香の角度が計算し尽くされていて、とにかく美しい。シンプルな形なのにハイレベルなんですよ。もうひとつ、松栄堂さんは香りがある空間をプレゼンする力が高い。松栄堂 京都本店もlisnも、お香やお香立ての色彩の使いかた、和と洋の組み合わせ方など、何もかもが完璧。すべてにおいて信頼しています。」

円城さんが、松栄堂の13代目、畑元章さん(当時は専務、現在は社長)をインタビューしたときのこと。元章さんは立命館大学を卒業後、家業に入社。何年ものあいだ、手作業でお香を作る現場で経験を積み、家に帰るなりバタンと寝てしまうほど大変な肉体労働だったそうです。インタビューの際、円城さんが元章さんに、lisnへの愛を伝えたところ、「lisnの事業は父の肝入りでした。とても喜ぶと思います」という言葉をもらったそうです。
「元章さんに好きな香りをお聞きしたら、『帰宅したときにリビングに漂う、晩ごはんの匂い』とおっしゃいました。町を歩くと鼻をくすぐる、石畳やコーヒー、お惣菜の香りも好きなのだそう。いい香りは特別なときだけではなく、生活の中にも溢れている、お香も、日常の香りと同じように楽しんでほしいという想いを感じました。」
お香を日常使いしている円城さんは、松栄堂の13代目社長の想いに共感しました。円城さんにとって、日常も旅も仕事も延長線上にあり、そのすべてにlisnの香りを必要としています。沖縄でも、パリでも、京都のオフィスでも。場所が変わっても、lisnのインセンスケースがあれば、そこが自分の住まい、自分のオフィスになる。円城さんにとって、lisnのお香は365日、なくてはならない存在なのです。円城さんは、京都の伝統文化を守る職人さんたちを数多く取材してきました。最後に、円城さんの心に響く「京のええもん」についてお聞きしました。
「京都のモノづくりの素晴らしさは、独特のセンスにあると思っています。受け継がれてきた様式美やセンスを継承し、技術力を高め、新しい創造に反映させている。扇子なら閉じた時の姿こそが綺麗、和菓子ならお皿に置かれた佇まいが美しい、などですね。松栄堂さんとlisnはその最たるもの。昔ながらの原料を使っても新しい香りを生み出しても、センスのよさはずっと最高レベルなんです。伝統的な感性を現代に活かしている、そんな京都の文化は素晴らしいと思います。」
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lisn
公式ウェブサイト(外部サイトへ移動します)https://www.lisn.co.jp/