京都府京都市
2025.11.28 (Fri)
目次
京都には、長く愛される“ええもん”があります。それは形あるモノに限らず、土地に根づいた美意識や、丁寧に暮らす人の姿勢そのもの。この連載では、そんな「京のええもん」をよく知る京都の人々に、愛用品やその魅力を語ってもらいます。今回登場するのは、京都の洋菓子ブランド・マールブランシュなどの営業を担当する株式会社ロマンライフの堀切義允さん。食を通して京都の文化を広めるべく全国を飛び回る堀切さんが選んだのは、京都の革職人さんによるブランド・Srray craft(スレイクラフト)の名刺入れ。京都のモノづくりをリスペクトし、応援する堀切さんの日常には、ビジネスパートナーとも呼べる一品がありました。
堀切義允さん
プロフィール:和歌山県生まれ。株式会社ロマンライフ 執行役員 マールブランシュ事業部 広域営業部長/侘家事業部 副事業部長。京都産業大学を卒業後、名古屋、京都で情報誌の営業職を務め、2002年、(株)ロマンライフに入社。営業マネージャーとして洋菓子ブランド・マールブランシュ、祇園にある鶏料理専門店・侘家古暦堂、2025年10月にオープンした祇園・西花見小路の洋菓子ブランド店・菓子wabiyaの企画・商品開発・店舗設計に携わる。
愛用品:Srray craftの名刺入れ
堀切さんが勤めるロマンライフは京都市山科区に本社があります。主軸ブランド・マールブランシュの代表商品は「茶の菓(ちゃのか)」。茶道に使われるお濃茶のラングドシャにホワイトチョコレートを挟んだ和洋折衷の焼き菓子で、京都みやげとして全国にファンが多い人気商品です。

京都限定、お濃茶ラングドシャ「茶の菓」

「ロマンライフのコンセプトは“京都クオリティ”。京都のモノづくりや文化を大切にし、京都のみなさまに親しんでいただける商品を開発しています。茶の菓に使う宇治抹茶は2007年の発売当初から変わらず、茶の菓のために合組(ごうぐみ)されたお濃茶。合組とは、気候や条件によって左右されやすいお茶の品質を保つために数種類の茶葉をブレンドする技術のことです。こちらのお濃茶は茶道でも使われる抹茶で、海外では最高品質を指す“セレモニーグレード”と呼ばれています。まさに“京都クオリティ”を象徴するお菓子です。」

マールブランシュの定番ケーキ「モンブラン」
マールブランシュのはじまりは1982年の京都北山本店から。以降、百貨店や商業施設に店舗を構え、「茶の菓」の全国的な認知度向上にともない観光客からも支持を得ていますが、一貫しているのは“地域貢献”です。
「常々、会長からは『京都で長く続く老舗企業に見習うべき。時代性やお客さまのご要望を反映しつつも、流行に翻弄されないように』と口酸っぱく言われています。北山本店でもほかの店舗でも、おかげさまで地元のお客さまに支えられ、今日まで続けてこられました。」
堀切さんが入社を決めた理由は、新しいことにチャレンジができること。出店ラッシュや商品開発も積極的に行われていた時期でした。堀切さんが最初の店舗改装に関わったのは、大丸京都店での店舗リニューアル業務でした。

入社後まもない2010年、堀切さんが関わった、大丸京都店でのリニューアルのチラシ
「茶の菓を代表的なお菓子にしようと意気込み、むちゃくちゃ気合いを入れていました。当時のチラシは私の宝物です。」

厨房を併設し、新しく生まれ変わった大丸京都店のマールブランシュ
2025年10月には、長年の取引がある大丸京都店 地下1階にある店舗をリニューアル。「生クリームのアトリエ」というコンセプトのもと、売り場に厨房を設け、パティシエの手仕事を目の前で見られる店舗に生まれ変わりました。堀切さんが店舗設計でこだわったのは、子どもたちに夢を与えるお店にすること。
「きらきらと輝くケーキを作るパティシエは、子どもたちにとっては“身近なアーティスト”。パティシエに憧れる子どもさんはとても多いのですが、子どもたちが一番興味を持つ“生クリームを絞る”、“ホールケーキを美しくカットする”といった作業を見られる場は意外と少ないんです。こちらの店舗では、子どもたちがガラス越しにパティシエの作業を見ることができるように工夫しました。」

大丸京都店限定、ふんわり生クリームシフォンサンド
リニューアルにあわせ、主力商品は、生クリームをシフォン生地で挟んだ「ふんわり生クリームシフォンサンド」が開発されました。以前から人気だったフルーツを挟んだシフォンサンドの新バージョンです。開発のきっかけは、大丸の担当者さんから「このフルーツを挟んだシフォンサンドの生クリームが大好きで、晩ご飯の代わりとしてケーキをご飯に食べることもあります。生クリームだけを販売してほしいくらいです」という声があったこと。
「さらに美味しい生クリームを作ろう、とシェフと一緒に北海道の牧場に向かったところ、究極の生乳に出会うことができました。この生クリームは香りが高くふわふわ、とろとろ。私は“飲むシフォンサンド”と呼んでいます(笑)。」
柔らかな生クリームを使ったシフォンサンドは崩れやすいため、市内の工房から運ぶのは難しいのだとか。「厨房が併設されているからこそ提供できる商品。お客さまには、2時間以内の移動でとお願いしています。京都には全国各地の洋菓子店さんも出店され、素晴らしいケーキを販売されています。私たち京都のメーカーとしてできることは“地元のお客さまを大切にする”こと」と、堀切さん。ここにも地域密着の精神が色濃く息づいています。

生クリームシフォンサンドは、子どもたちを意識して開発された商品でもあります。
「近年は原材料の価格高騰にともない、生ケーキの値段も上昇。ケーキは誕生日や記念日といった特別な日に楽しむものとなりつつあります。『上質なケーキを、日常で気軽に食べてほしい』という想いを込め、1個200円台に抑えています。子どもたちには、パティシエの手作業を見て、本当に美味しいケーキを食べて、お菓子の素晴らしさを感じてほしいと思います。」

観光客のほか、地元民も多く訪れる「ロマンの森」
2020年10月には、京都市山科区の本社敷地に「ロマンの森」をオープン。生菓子やパンなどを製造するオープンキッチン、販売スペース、カフェを併設。2階はオフィススペースです。

マールブランシュの歴史をたどると順風満帆にみえますが「何度もピンチが訪れた」と、堀切さん。そのたびに会長は「ピンチはチャンス。真正面から挑むことで新しいチャンスを掴もう」と、社員を鼓舞しました。ピンチをチャンスに変えた例のひとつは、コロナ禍でのデリバリーサービスでした。このときにもキーワードになったのは、原点に立ち返る“地域貢献”です。
「コロナ禍は外出自粛が続き、『お誕生日などのお祝いでケーキを買いたいけれど、電車に乗ってお店に行くことができない』というお客さまがたくさんいらっしゃいました。ケーキは崩れやすいため、外部の業者さんに配送をお願いするわけにもいかない。そこで社員みんなで手分けして、お客さまのもとにケーキを運ぶサービスを実施。シェフはコック服、営業担当者はスーツ姿。私自身も、お客さまの大切なシーンを彩りたいという想いを胸に、京都市内のあちらこちらにクルマを走らせました。」
ケーキのデリバリーはまたたく間に評判となり、1日30〜40件もの注文が舞い込みました。会長の奥さんがクルマを出すこともあったそうです。

「チャレンジが大好き」という堀切さんは、ピンチが訪れるたびにアドレナリンが出てやる気がみなぎるのだそう。ちなみに、現在直面しているピンチは、抹茶価格の高騰。
「抹茶の質を下げるわけにはいかない、商品価格を安易に上げるわけにもいかない。頭を悩ませています」と話す堀切さんの目はどこか輝いていました。どんなアイデアが飛び出してくるのか、次の展開を楽しみにしたいところです。

全国各地を巡る堀切さんの大切なお供は、京都・大原にアトリエを構えるSrray craftの名刺入れ。Srray craftは革製品のデザイナー・木戸誠司さんによるブランドで、着色されていないヌメ革を使ったお財布やキーホルダーなどを手がけています。
「出会いは3年前。知人が主催するバーベキューに参加したところ、その知人が使っていたのがSrray craftの長財布。とてもカッコ良かったんです。」
以前から堀切さんは「京都ブランドで仕事をしているからこそ、京都メイドの名刺入れを使いたい」「顔を知っている人の作品を手に取りたい」「長く使うことで愛着が湧くものがほしい」と思っていたそうです。そのバーベキューに参加していた木戸さんに声をかけ、すぐに名刺入れをオーダーしました。
木戸さんの作品の基本は、キャメルに近い、ヌメ革の素材色。作品にはヤモリのマークが付けられています。
「グレーに着色してほしい、マークは付けず、ブランド名のロゴだけにしてほしいとお願いしたところ、快諾いただきました。」

身につけているアイテムもギフト選びもセンスがよく、社内でも“洒落者”として知られる堀切さん。Srray craftの名刺入れを選んだ理由は、京都メイド、カッコよさ、知っている人の作品であること以外に加えて“値ごろ感”もありました。
「高価なものは丁寧に扱いすぎてしまう気がして。私は日常づかいするアイテムは、ジーンズのベルトのように気を遣いすぎず扱いたい。名刺入れは日々の仕事で手にするものなので、デイリーに使えることが条件でした。Srray craftの名刺入れはオーダーメイドなのに手に届く価格だったのも、即決の理由です。」

3年使い込んだ、Srray craftの名刺入れ。革の表情が深まり、さらに愛情を感じているのだとか
毎日使うからこそ、傷が入ったり、着色が抜けて下地の色が出てきたりすることもあるのだそう。そんな時にはシューケア製品の出番です。
「パラブーツの革靴を愛用していて、シューケアの習慣があります。同じケア製品のクリームを使い、傷を目立たなくしたり、色の抜けをカバーしたりしています。」
使えば使うほど革の表情が変わり、時にはお手入れで自分好みの風合いに育てていく。そうして手をかけることで、より一層愛着が深まります。
「Srray craftの木戸さんはワイルドな雰囲気の男性で、バイカー向けの作品も得意とされています。そのいっぽうで、心が優しい面もある。京都市動物園でライオンが永眠したことを受けてライオンの造形作品を制作され、のちに京都市動物園に寄贈されました。そのハードさと柔らかさのギャップにも惹かれます。」

堀切さんは京都の老舗企業とも懇意にしており、頻繁に情報交換をしているのだとか。京都の老舗から学んでいること、そして感じていることとは。
「和菓子のとらやさん、日本茶専門店の一保堂さん、精肉業の銀閣寺大西さんといった京都の老舗企業と接して感じるのは、美意識の高さ。商品はもちろん、店舗ディスプレイ、スタッフさんの言葉遣いや佇まいも素晴らしいんですよ。セロテープ台に使いかけのテープが貼られていることは決してないですし、制服の胸ポケットに何本もボールペンを挿していることもない。お客様の目が届かないバックヤードまでも美しく整頓されています。さらには、製造現場を見せていただくと、機械は決して最新のものではないけれど清掃やメンテナンスが行き届いていてピカピカ。伝統を脈々と受け継がれておられるからこそ、社員やスタッフさん全員が隅々にまで気を配っておられる。このことにいつも感動しています。長く続けておられる老舗企業からは教えられることがとても多いです。同じ土俵に立たせていただいていることは奇跡。感謝の気持ちでいっぱいです。」
「ほんまもんの京都を伝えたい」という想いで全国を飛び回る堀切さんの手元にはいつも、京都の職人さんが手がけた名刺入れがあります。老舗企業から学んだ美意識、職人さんへのリスペクト、そして京都の価値を次世代へ繋ぐという使命。それらすべてを体現する、かけがえのない一品です。
Srray craft
公式ウェブサイト(外部サイトへ移動します)https://srray-craft.com/