北海道札幌市
2025.12.09 (Tue)
目次
札幌のカルチャーシーンを語るうえで欠かせない存在があります。それが、創成川の東側エリア「創成イースト」に店を構える、カフェ、セレクトショップ、ギャラリーが融合した複合空間「FAbULOUS(ファビュラス)」です。札幌の中心部からわずかに外れたこの場所で、FAbULOUSは約20年にわたり“アートと暮らし”の距離を近づけてきました。洗練された審美眼と空間演出、そして北海道内の若手作家たちとの協働。そこには、アートを“特別なもの”ではなく、“日常の選択肢”に変える力があります。
札幌駅から徒歩10分ほど。創成川を越えた東側一帯、通称「創成イースト」は今、札幌で最も注目を集めるエリアの一つです。もともと倉庫や問屋街だったこの場所に、2005年、FAbULOUSは移転してきました。

もともと駐車場だった場所をリノベーションする形でつくられた天井高のある開放的な空間。
「当時は何もなかったんですよ。ただ、札幌中心部ではできないことが、この場所なら全部できると思ったんです。」と語るオーナーの中村さん。天井高5メートルを超える空間は、アメリカのライフスタイルショップのような無骨さと広さがあり、そこにアートやインテリア、洋服、生活雑貨が自然に混ざり合う、唯一無二の“編集された空間”が生まれました。

FAbULOUSのオーナー・中村健一さん。
自由に空間を構成できるこの地を選んだことが、後に創成イーストという街全体の潮流にもつながっていきます。FAbULOUSは、再開発以前からこの土地に文化の種をまいていた、まさに先駆けの存在なのです。

札幌市中心部を流れる創成川の東側(写真右側)に広がる「創成イースト」。
今でこそ国内でも広く知られているロンハーマンやフレッドシーガルのような、いわゆる“ライフスタイルショップ”。FAbULOUSの魅力は、それを20年以上前からこの地で体現していたことにあります。

インダストリアルな質感が目を引くFAbULOUSの外観。
そんな同店のオーナー・中村さんのキャリアは20代の頃に渡米したことから始まったそうです。当時の日本は空前のヴィンテージブーム。中村さんはその黎明期にロサンゼルスでホールセラーとして、主に日本人バイヤー向けに商品を卸す仕事をしていたそうです。

アメリカンな生活雑貨と日本の工芸品が混在する店内。いい意味でのカオスこそがFAbULOUSらしさといえる。
帰国後は、札幌にてアメリカン古着やアンティーク家具、ミリタリーグッズを扱うショップをオープン。カルチャーに根差したセレクトで一部の熱狂的な支持を集め、やがてそのセンスはFAbULOUSという複合型のショップに結実します。

国内外から買い付けられたヴィンテージ家具たち。実は紙一重の距離にあるアメリカのミッドセンチュリーモダンと日本の民藝が共存するという玄人好みのセレクト。
「アメリカでモノを見る目を培い、日本で文化として育ててきた。」その言葉通り、店に並ぶ商品はすべて、使い込むことで味が出る“ストーリーあるもの”。ヴィンテージとローカル、グローバルとパーソナルが絶妙に混ざり合っています。

同店オリジナルのコーヒーバッグも人気のアイテム。1パック250円。
FAbULOUSの最大の特徴は、セレクトショップ、カフェ、ギャラリーが自然につながる一体空間です。天井高を活かした開放的なフロアには、生活雑貨や家具、洋服、アートが並びますが、そこには“アートを遠いものにしない”という明確な意志があります。

さまざまなプロダクトが混在する店内。ライフスタイルショップとはまさにこのこと。
「アートをファッションやインテリアの延長で感じてもらえればうれしいですね。構えず、自然に手に取ってもらいたいんです。」そう語る中村さんが選ぶのは、北海道の若手作家による版画や陶器、木工、札幌軟石を使った作品など。作家名に縛られず、自分の目と感覚で選び抜いた作品たちです。

ディスプレイされているアートのプライスリストは別途店内にて確認可能。
店内に並ぶ作品の多くは販売もされており、展示は1〜2カ月ごとに入れ替えられます。名物のガレットを食べながら、ふと壁のアートに目を留める。そんな“偶然の出会い”を自然と生み出す導線こそ、FAbULOUSの大切にしている設計思想です。

特に週末は満席になることが多いカフェスペース。アイテムセレクトだけでなくオリジナル料理やコーヒーの美味しさもFAbULOUSの大きな魅力。

看板メニューのガレットは、北海道産の蕎麦粉と下川町の卵など、できる限り北海道の食材を使うというこだわり。
FAbULOUSでは、北海道を主に全国の作家によるクラフトやアート作品と、海外で買い付けたヴィンテージアイテムがごく自然に同じ棚に並んでいます。その背景には、中村さんの「逆発信したい」という想いがあります。

「お客様に商品だけでなく何か新しい発見を持ち帰ってもらい『また来たい』と思ってもらえるような、記憶に残る店づくりを大切にしています。」
「今まではアメリカや東京からモノを仕入れてきたけれど、北海道には世界に誇れる作り手がたくさんいるんです。彼らの作品をここから世界に向けて発信していきたいと思います。」

FAbULOUSの原点にあり続けるのは「お客様に喜んでいただきたい」というシンプルな願い。
その言葉を体現するように、FAbULOUSでは“北海道土産の新定番”として独自の北海道土産ブランド「子羆屋(こぐまや)」も展開。オリジナルの木彫り熊をもとにしたプロダクトなど、北海道ならではのプロダクトを、新しい形で提案しています。

FAbULOUSのオリジナル北海道土産ブランド「子羆屋」。木彫り熊「熊っこさん」(右)13,200円と、それを型取りした「熊っこキャンドル」(左)2,200円。

近年海外でも人気が高まり一部のヴィンテージの価格高騰も進む木彫り熊。
札幌では1980年代から「文化都市構想」が掲げられ、公共の取り組みとして「札幌芸術の森」が生まれました。行政によるアートの拠点が“森”にあるとすれば、FAbULOUSはまさに“街に根づく”民間発の文化拠点。

創成川の周りにはさまざまなアート作品が点在する。アートとの距離が近い街、それが札幌。
これまでに花屋やギャラリーとのコラボレーション、ジャズイベントの開催、金継ぎのワークショップなど、多様なコラボレーションを通じて、FAbULOUSは「買い物をする場所」以上の役割を果たしてきました。
「創業時のピュアな気持ちをそのままに、札幌の文化を耕していく一つのピースでありたいんです。」中村さんのその一貫した思想が、道内外からFAbULOUSが高く評価される大きな理由なのです。

FAbULOUS
公式ウェブサイト(外部サイトへ移動します)https://www.rounduptrading.com/