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台湾・上海の味が、神戸の文化になるまで。南京町「YUNYUN」の物語

台湾・上海の味が、神戸の文化になるまで。南京町「YUNYUN」の物語

兵庫県神戸市

    2026.02.05 (Thu)

    目次

      神戸の中華街・南京町。東西約270メートル、南北約110メートルのエリアに、中華料理の飲食店を中心に100軒以上の店舗がひしめき合っています。平日も休日も食べ歩きをする観光客でいっぱいで、一年を通してお祭りのようなにぎわいを見せています。その南京町で行列が絶えない人気店が、焼ビーフンと焼小籠包のお店・神戸 南京町 YUNYUN(ユンユン)。運営するのは、日本にビーフン文化を広めたケンミン食品株式会社です。今回はYUNYUNのブランドマネージャー・金谷拓実さんと店長の高見篤さんに、南京町での歴史や焼小籠包へのこだわり、地元への想いをお聞きしました。

      始まりは、神戸に住む同郷の人たちのためのビーフン作り

      右から2番目が創業者の高村健民氏(写真提供:ケンミン食品株式会社)。

      神戸 南京町 YUNYUN(ユンユン)の運営会社は、スーパーマーケットでも販売されている「ケンミンの焼ビーフン」でおなじみ、ケンミン食品株式会社(以下、ケンミン食品)です。ケンミン食品の歴史は1950年にさかのぼります。当時の日本では、ビーフンなどの米麺は一般的ではありませんでした。そこで、台湾出身の高村健民氏が「神戸に移り住んだ台湾人や中国人のために、故郷の味を届けたい」と、ビーフンの製造販売を始めます。やがてビーフンは日本全国に広がり、家庭でも愛される料理となりました。

      南京町に吹いた新しい風、“中華のファストフード”

      1985年、神戸・南京町にオープンしたyunyun。1階でオーダーして2、3階の席で食事をするファストフードスタイルが画期的だった(写真提供:ケンミン食品株式会社)。

      それから35年後の1985年。ケンミン食品の2代目(当時は社長、現在は会長)・高村一成氏が、アメリカや香港で出会った“中華ファストフード”に着想を得て、神戸・南京町にyunyunをオープンしました。日本の食生活の基本は朝食、昼食、夕食、そしておやつ。対して中国や香港、台湾、東南アジアには屋台があり、人々は日常的に、ごはんでもおやつでもない軽食を食べています。また中華文化圏には、さまざまな料理を少しずつ食べる飲茶文化があります。

      「yunyunでは少量、つまり小ポーションの中華、アジア料理をファストフードのようなスタイルで提供していました。社内に記録が残っていないので正確な時期や経緯は分からないのですが、yunyunのオープン後に、南京町に食べ歩きできるフードが広がったようです」と、YUNYUNのブランドマネージャー・金谷拓実さん。

      それまで南京町の主流は、レストランで着席して食べるスタイルでした。yunyunの登場がきっかけとなったかは定かではありませんが、この時期から少量のフードを食べられるカジュアルな飲食店が増え始めます。その結果、観光客は飲食店を“はしご”して、多様な中華の味を味わえるようになりました。yunyunはいわば、南京町の食べ歩き文化のパイオニア的存在だったのです。

      南京町の名物、上海のローカルフード「焼小籠包」

      現在は、リニューアルと移転を経て「YUNYUN」に店名を変更しています。名物の「焼小籠包」は、ファストフード時代の料理長が、上海のローカルフードをほぼそのままの形で再現したメニューです。

      「日本では、小籠包といえば蒸したものが一般的ですが、上海では焼小籠包が地元の味として根付いているんですよ」と、店長の高見篤さん。

      焼小籠包は、蒸した小籠包とは形も調理法も異なります。蒸し小籠包は生地を上部で閉じるため横から見ると山のような形をしていますが、焼小籠包は閉じ終わりが裏側の、丸いボール型。揚げ焼きにしており、上はもちもち、下はカリッ。箸で生地に穴を開けると中からスープがじゅわっとあふれ出します。肉餡はジューシーで旨みがたっぷり。そのままでもおいしいのですが、好みでピリ辛の酢醤油をかけて“味変”するのもおすすめだそうです。

      毎日、お店でイチから手作り。本場仕込みの焼小籠包

      YUNYUNの朝は、生地づくりから始まります。小麦粉と水を練り、生地を軽く寝かせて発酵させることでモチモチ食感を生み出します。肉餡の具材は、豚ミンチ、玉ねぎ、乾燥椎茸。8時間かけて炊いた鶏スープをゼラチンで固めたものを肉餡と合わせ、生地で包みます。

      小籠包を焼くのは、約60センチの大きな鉄鍋。できたばかりの小籠包を平らに並べて蓋をし、たっぷりの油で揚げ焼きするのが本場・上海流。「この鉄鍋は中国で求めたもの。日本ではなかなか見つからないんですよ」と、高見さん。グツグツと油が煮立ち、いい香りが漂うと焼きあがりの合図です。

      工程を見る、出来立てを食べる。南京町だけの食体験

      「焼小籠包は通販も、他店での卸販売も一切行っていません。その理由は、南京町だけの食体験をしていただきたいからです」と、金谷さん。

      その体験を最大化するために、2017年のリニューアルでは通りに面した店舗をガラス張りに改装。行列を作って待つお客さまは、焼小籠包の製造工程すべてをガラス越しに見学できます。

      生地を伸ばす、生地を丸く成形する、具材を包む、鍋で揚げ焼きする……と、テンポよく出来上がっていく焼小籠包を眺めていると、行列の時間はあっという間。待つ時間すらワクワクと楽しめる仕掛けが、ここにあります。YUNYUNは大阪・梅田の商業施設・ルクア大阪にも店舗がありますが、ルクア大阪で提供する焼小籠包も、すべて南京町で手作りしたもの。焼小籠包が作られるプロセスをじっくりと目で見て、出来立てを味わうという体験が叶うのは南京町だけなのです。

      取材班が訪れたのは、平日の朝10時。しばらくすると行列ができ始め、開店の11時からわずか10分後には2階の客席は満席に。スーツ姿の男性グループ、ミドル世代の女性観光客、女性1人客など、この日の客層はさまざま。全員が注文しているのは、もちろん焼小籠包。焼ビーフンや汁なし担担めんを組み合わせてランチを楽しむ人、生ビールと焼小籠包で昼飲みに興じる人など、それぞれが思い思いの時間を、とびきりの笑顔で過ごしていました。

      南京町の観光客のほぼ100%が日本人。最も多いのは10〜30代の女性で、休日には学生グループや子ども連れのファミリーの姿が見られます。YUNYUNを訪れるお客さまの層もほぼ同じで観光客がメインですが、「地元のお客さまも大切にしています」と、金谷さん。近隣に住む中国人や台湾人は行列が途切れる夕方の時間帯を狙い、故郷を思い出す焼小籠包に舌鼓を打っています。

      快適に楽しんでもらうために。南京町全体で取り組む、安心と清潔

      南京町を訪れる観光客の目的は、中華料理の食べ歩き。豚まんや小籠包、北京ダック、ごま団子、タピオカドリンク……と、多彩な中華料理をあれこれと堪能しています。興味深いのは、街としては食べ歩きを推奨していないこと。歩きながら食べるのではなく、「店先で食べてほしい」と呼びかけています。

      「南京町にはゴミ箱が設置されていません。フードやドリンクを買ったら店頭または店内で飲食をして、ゴミはそのお店に返す。それから次のお店に行く、というスタイルをおすすめしています。南京町では治安と清潔さを保つため、毎日、警備員や清掃スタッフが巡回しています」と、金谷さん。

      「南京町には50年、100年と続く老舗が多く、YUNYUNはまだまだ新参者。古くからこの街で頑張っておられる方々に支えられています。近隣のお店さんは、ライバルでありながら仲間でもあります。毎朝『おはようございます』と声を掛け合っていますし、ちょっとした会話を交わすこともしばしば。お客様をお迎えするため、そして気持ちよく南京町を歩いていただくため、みんなで南京町を作っているという意識があります。」

      YUNYUNも加盟する南京町商店街振興組合では、定期的に会合を実施。ケンミン食品の社長も会合に出席し、春節祭や中秋節といったイベントの運営や、観光客が快適に過ごせるための施策について話し合っているそうです。南京町が長年にわたり多くの人たちの心を引きつけているのは、店同士が協力し合い、街の魅力を高める努力を続けているからといえるでしょう。

      ケンミン食品株式会社の理念は「ビーフンをはじめとするアジアの優れた食と食文化をお客さまに提供し、健康で豊かな食生活に貢献する」。創業からこれまで、アジアの食文化を日本に広めるべく歩み続けてきました。そして75年経った今、ビーフンは日本の中華料理として定着。そして焼小籠包は神戸・南京町の名物として観光客に愛されつつも、中国人や台湾人といった地元の人々からも支持されています。台湾出身の創業者の想いが上海のローカルフードと出会い、神戸・南京町に根付いた。異国と神戸が融合した食文化と出会える場所、それが南京町なのです。

      神戸 南京町 YUNYUN

      公式ウェブサイト
      https://www.k-yunyun.jp/