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未知の文化に出会うショートトリップへ。神戸のミニシアター「元町映画館」の情熱と挑戦

未知の文化に出会うショートトリップへ。神戸のミニシアター「元町映画館」の情熱と挑戦

兵庫県神戸市

    2026.02.18 (Wed)

    目次

      神戸の中心部・元町駅から西へ。東西約1.5kmにわたるアーケード街「神戸元町商店街」に、ミニシアター・元町映画館があります。ミニシアターとは大手映画配給会社の系列ではなく、独立経営している小さな映画館のこと。元町映画館の座席数は67席で、神戸でも数少ないミニシアターのひとつです。新旧問わず、国内外の個性的な映画を上映しています。

      今回お話をお聞きしたのは、元町映画館の代表理事で、映写と経理を担当する髙橋勲さん。「異文化」をキーワードに、さまざまな価値観と出会う映画の魅力と、多様性を受け入れてきた神戸の土地柄について語っていただきました。

      みんなで作り、みんなで育てる。支配人のいない映画館

      かつてはパチンコ店、その後は100円ショップだった建物を映画館に改装。

      元町映画館は2010年に開館。映画好きの堀忠さんが、映画館を作る目的で建物を購入したことから物語は始まります。当時はまだフィルム上映の時代。映写技師の経験がある髙橋勲さんを含む3名、堀さんをはじめとする約10名の出資者、ボランティアたちが力を合わせ、元町映画館を立ち上げました。

      左より、映写担当の和田たすくさん、髙橋勲さん、番組編成担当の石田涼さん。

      映画館を支えているのは、スタッフだけではありません。企業や個人が参加する「サポーターズクラブ」は寄付により運営をサポート。学生が学生に向けて映画宣伝を行うサークル「映画チア部」は毎年メンバーが入れ替わりながら活動を継続。現在はシネ・ヌーヴォ(大阪のミニシアター)を拠点とする大阪支部もあります。

      「元町映画館ものがたり 人、街と歩んだ10年、そして未来へ」(元町映画館出版プロジェクト刊/責任編集:江口由美)

      宣伝・企画担当の高橋未来さんは元支配人。

      2023年には支配人制度を廃止。スタッフ、サポーター、学生、お客様……映画を愛する人たちが作る “みんなの映画館”として、新たな一歩を踏み出しています。

      若手監督を応援。国内外の多様な映画をセレクト

      若手監督の新作、数十年前の古い映画、ドキュメンタリーなど幅広い作品をセレクトしている元町映画館。毎月の“特集上映”は、ミニシアターとしての個性の見せどころです。特定の監督や国、テーマに沿った複数の作品をピックアップし、上映しています。

      「作品を選ぶ基準は、まずお客さまに喜んでいただけるかどうか。東京や大阪で評価が高かった作品を神戸の人たちにも観ていただきたい。才能ある新進気鋭の監督を応援したい、知られざる良質な作品を紹介したいという想いもあります。」

      上映されるのは、日本作品と海外作品が半々。ミニシアターとしては比較的国内作品の割合が高めな方ですが、残りの半数はフランス、中国、韓国など世界各国の映画です。

      例えば、こんな経験はないでしょうか、と髙橋さんは問いかけます。初めて訪れた地で、未知の食や言語、習慣に触れる。実際に体験してみると少し理解できたような気がする。でもまだまだ知らないことがたくさん。調べてみると知的好奇心がくすぐられ、さらに興味が湧いてくる……。

      「映画も同じです。途中まで観ても、理解できないかもしれない。でも、最後の10分ですべてが腑に落ちることもある。あるいは、最後まで観てもわからないかもしれない。面白くても、そうでなくても『どうしてそう感じたのだろう? 監督が伝えたかったことは何だろう?』と、掘り下げて調べることも、映画から派生する楽しみ。だからこそ、海外作品は映画館で観ていただきたいですね。建物、生活、文化、空気感、人々の息づかいが感じられる。まるでその国を訪れて旅をしたり、暮らしたりしているかのような感覚を得られるのではないでしょうか。」

      ネットでは味わえない。映画館で観る意味は“圧倒的な体験感”

      「コロナ前までは尖った作品も上映していましたが、現在は、それは難しい状況です。」

      開館から16年、経済状況は決して楽観視できるものではありません。大型の映画館はヒット作品やロングラン上映で収益を確保できますが、ミニシアターでの映画鑑賞は趣味性が高く、わざわざ足を運ぶのは映画マニアのみ。学生や60歳以上のシニアには鑑賞料金を割引いているにもかかわらず、客足は思うように伸びません。近年は動画配信サービスが登場し、いつでもどこでもパソコンやスマートフォンで映画を観られるようになりました。

      髙橋さんは「映画好きが増えることは喜ばしい。しかし私たちとしては、やはり映画館に足を運んでほしい」と、力を込めて話します。

      ミニシアターで上映される作品の多くは、エンターテインメントに特化していません。観客を飽きさせないテンポのいい編集ではなく、観た人に思考を促す時間や余白があります。

      「もし、ミニシアター系の作品をスマートフォンなどの小さな画面で観ようとしたら、余白の多さに数十分も耐えられないでしょう。しかし、映画館は違う。暗闇の中、作品と自分が1対1で真正面から向き合う。優れた作品ほど、期待に応えてくれる。体験として、自身の記憶として刻まれていく。こんな真剣勝負は、パソコンやスマートフォンでは絶対に味わえません。」

      制作者との距離が近い。ミニシアターだからこその醍醐味

      どんなにいい作品を揃えて待っていても、お客様は増えない。ならば、攻める。元町映画館では、イベントや冊子づくり、近隣カフェや書店、神戸の大学や高校とのコラボ企画などさまざまな“仕掛け”で映画の魅力を届ける工夫を凝らしています。

      2022年12月、「ハッピーアワー」上映後の舞台挨拶。

      館内イベントは、月に10回以上開催。舞台挨拶では映画監督や俳優、プロデューサーたちがステージに立ち、観客と対話するように作品世界を語ります。映画関係者と近い距離で交流できるのは、ミニシアターだからこその魅力。監督の「直接、お客様に会いたい」という思いに応えて開催することもあるそうです。

      2階のロビーでは、30人までの少人数のトークイベントを実施。

      作品理解を深めるためのトークショーでは、大学教授や映画ライター、専門家を迎え、映画の解説を行なっています。2026年1月は、「新ドイツ零年」に合わせてドイツ映画研究者/日本大学文理学部教授の渋谷哲也さん、BBC制作の社会派ドラマ「石炭の値打ち」上映後には神戸大学大学院国際文化学研究科教授の小笠原弘毅さんが登壇しました。

      毎月発行するチラシ「今日、なに観よう?」。表紙イラストは創刊号より15年間、朝野ペコさんが手がけている。

      毎月発行するチラシ「今日、なに観よう?」も、映画館と観客をつなげる大切なツール。上映スケジュールに加えて、毎号必ずインタビューを掲載しています。上映作品とゆかりのある人や、神戸で活動している人たちの声を届け、映画への関心を深めてもらう狙いです。

      街で出会う。人とつながる。映画を軸にした、地域とのコラボレーション

      2022年2月、こうべまちづくり会館内「まちラボ」で開催された映画「あした、授業参観いくから。」の演技、脚本ワークショップ。

      元町映画館は地元・元町を巻き込んだ企画も積極的に展開しています。元町商店街の夜市で行われた入場料300円のショートフィルムフェスティバル、ハロウィンイベントでは落語家を招いた落語会を主催。さらに、神戸市立兵庫図書館や元町の書店「1003」や「本の栞」との連携企画、100メートルの場所にある「こうべまちづくり会館」でのワークショップも開催しました。そのほか、甲南女子大学、神戸松蔭女子学院大学、兵庫県立舞子高等学校といった大学、高校とのコラボ企画など、取り組みは多岐にわたります。

      徒歩1分の場所にあるカフェ・Café Cru.(クリュ)とは、しばしばコラボ企画を実施しています。カフェでは、海外作品に登場した料理やスイーツを期間限定で提供。映画の余韻に浸りながら食事やお茶を楽しむお客さまも多いそう。カフェの店主、金田明子さんは、元町映画館のインタビューで「映画館と共に作品の魅力を発信する場を作れているのだとすれば、それはすごく楽しい」と語っていました。

      異なる文化を自然に受け入れる、国際都市・神戸

      商店街は、元町側が1番街。西に進むにつれ2〜6丁目と続きます。1番街はチェーン店が目立ちますが、西へ歩くほど、八百屋や洋品店、雑貨店、昔ながらの喫茶店など地域に密着したお店が増えていきます。元町映画館があるのは4丁目。平日の昼間、ゆったりと歩いているのはシニア層が中心です。

      映画館の前にはチラシを置いたラックが設置されています。商店街を歩く人たちがラックに吸い寄せられ、次々とチラシを手に取ってカバンの中に収めていました。

      80代とおぼしき女性が手に取っていたチラシは、奈良のロックバンド・LOSTAGE(ロストエイヂ)のドキュメンタリームービー「A DOCUMENTARY FILM OF LOSTAGE -ひかりのまち、わたしたちの-」。神戸の人たちは年齢を問わず、多様なカルチャーに関心があるのでしょうか。

      「ほかの街ではあまりヒットしなかったけれど、神戸では大盛況だった作品もあります。たとえば、ポップミュージシャン・加藤和彦さんの軌跡をたどるドキュメンタリー映画『トノバン』。当館ではたくさんのお客さまにご覧いただき、好評を得ました。」

      「正直なところ、神戸でどんな映画が受け入れられるのかは完全につかめていないのですが」と、髙橋さんは話しますが、神戸が歩んできた歴史が、その答えのヒントになっているかもしれません。

      1868年、神戸港の開港を機に神戸の街には西洋のさまざまな文化が持ち込まれました。150年以上前から多様な文化や人々を受け入れることで、神戸は国際都市として発展し続けてきたのです。

      「神戸の人は外国人がたくさんいることにも驚かないし、よそから来た人に対しても温かい。神戸の人たちは異なる文化を自然に受け入れているという印象です。いろんな文化や価値観、異文化に対して寛容なんですよね」と、髙橋さん。

      ちょっと難解でも、これまでなじみが薄かった分野でも、何かのきっかけでフックに引っ掛かったら躊躇せずに足を運ぶ。神戸の人たちは、驚くほど柔軟。その背景には、国際都市として歩んできた神戸の歴史、そして多様性を受け入れてきた風土がありました。

      元町映画館

      公式ウェブサイトhttps://www.motoei.com/