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浜松発、日本の未来を担う若者たち。静岡大学「レスキューやらまいか」が受け継ぐもの

浜松発、日本の未来を担う若者たち。静岡大学「レスキューやらまいか」が受け継ぐもの

静岡県浜松市

    2026.03.03 (Tue)

    目次

      浜松は、多くのグローバル企業を生み出してきた日本有数の工業都市です。その浜松で、災害救助をテーマにロボット開発へ取り組むのが、静岡大学の学生チーム「レスキューやらまいか」。設計から製作、制御、運用までを学生自身の手で担い、競技会という実践の場で工学と向き合う彼らの活動には、浜松のものづくり文化と、次世代へ受け継がれていく確かなDNAが息づいています。

      レスキューロボットコンテスト優勝が示したもの

      2025年8月に開催された「レスキューロボットコンテスト2025(レスコン)」で、静岡大学浜松キャンパスを拠点とする公認サークル「ロボットファクトリー」内のチーム「レスキューやらまいか」が、最高賞である「レスキュー工学大賞」を受賞しました。

      レスコンでは大地震で倒壊した市街地を模した空間で、ロボットが人形を救出する技術や手法が競われる。

      阪神・淡路大震災を契機に2001年から始まったこの大会では、倒壊家屋を想定したフィールドで、ロボットが要救助者をいかに安全かつ確実に救出できるかが問われます。同チームは2008年から参加し、2018年に初優勝。そして今回、2度目の栄冠を手にしました。

      授賞理由として評価されたのは、シンプルかつ信頼性の高い機構と、“自分が救助される立場”を想定した設計思想。安全性を徹底したそのアプローチは、競技用ロボットの枠を超え、実災害への応用可能性を示すものと高く評価されました。昨年は3年生とともに出場し、現在は新チームの部長を務める早川友規さんに勝因を尋ねると、こう答えます。

      「エレクトロニクス」と「材料・エネルギー化学」の両方の知識を学ぶ、レスキューやらまいかの部長・早川友規さん(工学部電子物質科学科2年)。

      「時間内に救助に成功したことが大きいですね。会場内の電波状況にも恵まれましたが、一番は、確実にロボットが動く技術を生み出してきた先輩たちが凄いのだと思います。」(早川さん)

      それは個人の力ではなく、積み重ねてきた技術と文化の成果でした。今回の優勝は、チームが受け継いできたものが、確かに次の世代へとつながっていることを示す証でもあります。

      チームに引き継がれる“やらまいか精神”

      チーム名にある「やらまいか」は、「まずはやってみよう」を意味する遠州の方言です。失敗を恐れず挑戦する前向きな姿勢を表す言葉として、この地に根づいてきました。「ロボットファクトリー」の顧問・伊藤友孝准教授は、学生たちの特徴をこう語ります。

      「レスキューやらまいかのすごいところは、自分たちで問いを立てて解決する力ですね。レスコンでは、床に寝ている人形をベルトコンベアで巻き取る方式が主流です。そのほうが効率的ではありますが、実際の災害現場では、必ずしもそうはいきません。だから、うちの学生はアームで優しく救助する形にこだわります。何度失敗しても、簡単な方法に変えようとはしません。」(伊藤さん)

      静岡大学大学院総合科学技術研究科の伊藤友孝准教授は、ロボット工学を専門とする工学博士。

      効率よりも、“どうあるべきか”を優先する。その姿勢は、技術の選択にも表れています。

      「遠隔操作用のマイコン(マイクロコントローラ)も、主催者が提供するものを使えば簡単です。でも彼らはそれをあえて使わず、自分たちでプログラムを書き、小型で多モーター制御ができる仕組みを作るんです。」(伊藤さん)

      失敗を経験しても、方針は変えない。改良を重ね、信頼性を高めていく。その積み重ねが、レスコン優勝へとつながりました。やらまいか精神とは、ただ挑戦することではありません。困難でも自分たちの選択を貫き、最後まで作り切る姿勢そのものです。そしてその精神は、このチームだけのものではありません。静岡大学工学部という土壌の中で、長く受け継がれてきた価値観でもあります。

      静岡大学工学部に根づく“ものづくりのDNA”

      1922年創立の浜松高等工業学校を前身にする静岡大学工学部は、100年以上にわたり実学を重んじる工学教育を続けてきました。

      工学部と情報学部がある静岡大学浜松キャンパス。ものづくりを中心とした様々な研究が行われています。

      浜松は自動車やバイク、楽器産業の街として知られていますが、日本で初めて電子式テレビジョンが開発された地でもあります。その研究が行われたのが浜松高等工業学校、現在の静岡大学工学部でした。世界で初めて電子式テレビジョンによる「イ」の字の表示に成功した高柳健次郎氏は「電子の神様」と呼ばれました。何度も失敗を重ねながら、信念を持って挑み続けたその姿勢は、今も学生たちに語り継がれています。

      新入生は必ず訪れるという「高柳記念未来技術創造館」には、その挑戦の軌跡が残されています。

      工学部が掲げる理念は「自由啓発」。自ら学び、自ら考え、自ら行動する。その校風は、浜松という土地に根づく“やらまいか精神”と響き合っています。この地からは、本田宗一郎氏をはじめ、多くの起業家や技術者が巣立ちました。彼らに共通していたのは、失敗を恐れず、既存の枠にとらわれない挑戦心です。静岡大学工学部には、効率だけを求めない挑戦文化と、ものづくりへの誇りが確かに息づいています。レスキューやらまいかの姿勢も、決して偶然ではありません。この土地で育まれてきたDNAの延長線上にあるのです。

      サークル「ロボットファクトリー」が受け継いできたもの

      「レスキューやらまいか」を支える母体が、ものづくりサークル「ロボットファクトリー」です。約25名が所属し、その約9割が工学部生。学年を超えて活動し、今年は2年生8名を中心に連覇を目指しています。

      昨年から始動している「レスキューやらまいか」の今期のメンバー。

      今年も4体のロボットで挑みます。2~4号機は、昨年から引き継がれた機体。大会後に全員で課題を洗い出し、改修方針を議論しながら改良が重ねられていきます。

      レスコン連覇に向けて改修を進めるロボットの1~4号機。階段の上り下りやガス栓を閉める機体、瓦礫を撤去して埋もれた救助者(人形)を運び出す機体など、それぞれに役割が与えられている。

      「先輩たちが残してくれた基板やプログラムは、本当に完成度が高い。それをベースに、さらにブラッシュアップする形です。」と語るのは、副部長の白井悠さん。昨年の優勝メンバーの一人として、冷静に全体を見渡しながらプロジェクトを進めています。

      電力、通信、電子デバイス、ロボット、AI技術など、電気エネルギーと情報通信技術を学ぶ、レスキューやらまいかの副部長・白井悠さん(工学部電気電子工学科2年)。

      このサークルの強みは、先輩たちが残してきた“技術的遺産”にあります。2018年世代が開発した高性能、高信頼性、低コストの自作基板。再現可能な形で整理されたプログラムデータ。それらは単なる成果物ではなく、次の挑戦を可能にする土台です。しかし、受け継がれているのは技術だけではありません。

      「途中で諦めたくなることも正直あります。でも、アイデアを出した以上、作り切らなければいけない。どんなに大変でもやり切る先輩たちの背中を見てきました。」(早川さん)

      技術以上に大切にされているのは「作り切る」という責任感。大会に出る以上は、期限までに必ず完成させる。その姿勢が、サークルの文化として自然と受け継がれてきました。

      ロボット開発が教えてくれる、学びと実践の距離

      毎年、ルール発表後には全員でアイデアを出し合い、設計と電装のペアを基本に、役割分担が行われます。共通のソフトウェア班が全体を支え、開発は1つの企業プロジェクトのように進みます。

      ホワイトボードに書き出されたアイディアをもとに話し合う学生たち。

      しかし、ロボット開発は授業で学んだ理論だけでは進みません。思い通りに動かない機構、エラーを繰り返すプログラム。トライ&エラーの連続です。

      「高柳健次郎氏も、きっと同じように何度も試行錯誤を重ねたと思います。」(白井さん)

      「設計やプログラムを考えることと、実際に動かすことは別物です。動かすには、想像以上に細かな調整や新しい知識が必要になります。壁にぶつかるたびに、まだ足りないと実感します。」(早川さん)

      困難の先にあるのは、完成の喜びだけではありません。理論と実践の距離を、自らの手で埋めていく。その過程こそが、学生たちを技術者へと成長させていきます。

      継続と、新たな挑戦

      改良を重ねる機体がある一方で、新チームはまったく新しい挑戦にも踏み出しています。従来のタイヤやキャタピラではなく、多脚ロボットへの挑戦です。

      「毎年、1号機はゼロベースから作ります。これが一番大変です。タイヤやキャタピラ型はアイデアが出尽くした感もあり、新しいことに挑戦したいと思いました。」(白井さん)

      タイヤで行けない場所を移動できる6本足のロボット「ウォーカー2」を開発中。

      学内で開かれる展示会用に製作した段差や不整地の移動能力の高い6本足のロボット「ウォーカー」は、災害救助への応用も可能だと考え、レスコン仕様の「ウォーカー2」として改良が進められています。実際の災害救助を想定し、“本当に人を助けるならどうあるべきか”を問い直す。その姿勢は、効率より思想を優先するチームの特徴をよく表しています。そして、もう1つの挑戦があります。

      「8年前の優勝チームが開発したモータードライバーという基板があって、性能がいいのでずっと使い続けているのですが、それを越えるものを作りたいんです。今、設計している最中ですが、正直うまく動くかはわかりません。でも、自分がこのサークルにいる間に完成させて、後輩に残したいと思っています。」(白井さん)

      試作中のモータードライバー。マイコン等の制御信号を受け取り、電気モーターの回転速度・方向・停止を制御する電子部品。

      未知への挑戦は、常に不安を伴います。それでも手を動かし続ける。先輩を超えたいという思いと、何かを残したいという責任感が、新しい技術を生み出していきます。受け継ぐことは、決して守ることだけではありません。更新し、次に渡すこと。その繰り返しが、このチームの力になっています。

      好きがつなぐ、ロボット開発の世界

      サークルでは、2年生が1年生に機械、電装、ソフトを教える体制が整えられています。授業では得られない実践知を、仲間同士で共有する。その姿は、まるで企業の開発現場のようです。

      ロボットの前に集まり、議論し、手を動かし、失敗し、また試す。その積み重ねの中で、技術だけでなく、責任や覚悟も受け継がれていきます。

      多くの部員が大学院へ進学し、半導体、組み込み設計、ロボット関連分野へと進みます。大学と地元企業の強いつながりも、彼らの将来を後押ししています。しかし、原点にあるのはもっとシンプルな動機です。「ロボットが好きなんです。」という一言が、すべての始まりでした。好きだから、挑戦する。好きだから、やり切る。好きだから、次の世代に渡したいと思う。

      技術は、教科書だけでは受け継がれません。現場で悩み、失敗し、それでも作り切る。その積み重ねの中でこそ、次の世代へと渡されていきます。浜松のものづくりの街で育まれてきた“やらまいか精神”は今、学生たちの手によって更新され続けています。何が生まれるかは、まだわかりません。だからこそ、日本の未来は、きっと面白い。

      取材協力:静岡大学

      静岡大学 工学部

      公式ウェブサイトhttps://www.eng.shizuoka.ac.jp/