STORY
京都とエルサルバドルを結ぶ“いいコヨーテ”。生産者と街をつなぐ“コーヒー屋”

京都とエルサルバドルを結ぶ“いいコヨーテ”。生産者と街をつなぐ“コーヒー屋”

京都府京都市

    2026.03.12 (Thu)

    目次

      京都・出町柳の路地に、小さなコーヒースタンドがあります。観光都市として知られるこの街で、COYOTEは京都市内に3店舗を展開しながら、遠く中米・エルサルバドルの農園と直接向き合い、豆の背景まで伝える営みを続けています。少し変わった店名に込めたのは、生産者と消費者をつなぐ存在でありたいという想い。オーナーの門川雄輔さんは、遠い農園と京都の日常を豊かにつなごうとしています。消費される風景ではなく、関係性を育てること。京都とエルサルバドル、2つのローカルを結ぶその挑戦を紐解きます。

      京都の日常に根を下ろす。3つの顔を持つコーヒー屋

      COYOTEは京都市内に3店舗を展開するカフェ&ロースターブランドです。京都駅近くのCOYOTE the ordinary shop、清水五条のスタンド型店舗・COYOTE the roots、そして出町柳のロースタリー・COYOTE Roastery。それぞれ異なる役割を持ちながら営業しています。

      COYOTE Roastery。ガラスの引き戸はフルオープンになり、通行人が気軽に立ち寄りやすい雰囲気。

      2021年、最初に開いた京都駅の店舗は、海外からの旅行者も多く訪れる場所にあります。自然とカフェとしての役割が強まり、さまざまな人が気軽に立ち寄れる店になりました。一方で、その後にオープンした清水五条や出町柳の店舗は、より地域の暮らしに近い場所にあります。

      「僕の中では、コーヒー屋とカフェは別物。前者は焙煎を軸に、コーヒーそのものを目当てに人が来る場所で、後者は空間や食を含めた滞在の場所だと思っています。京都駅という場所柄、カフェからのスタートとなりましたが、やはり、“コーヒーだけを楽しんでもらえる空間”も作りたかったんです。」

      店内には、カフェスペースも用意されている。

      自家焙煎のコーヒーを中心に据えた小さな店で、日常の中で通えるコーヒー屋を目指しましたのが、COYOTE the rootsとCOYOTE Roastery。特に出町柳は、門川さんが通学で使っていた駅でもあり、“生活の記憶”と地続きの街です。

      「鴨川の空気や人が流れていく雰囲気。ここならローカルな、毎日来てくれるような人も絶対いるだろうなと思って。イメージしやすかったのも大きかったですね。」

      COYOTEオーナーの門川雄輔さん。

      実際、出町柳の店には近隣住民に加え、京都大学や同志社大学の学生、留学生、長期滞在の海外の人も混ざります。年齢も国籍も幅がある“ローカル”が日常的に交差する、そんな場所だからこそ、門川さんは、コミュニケーションを大切にしていると言います。

      「そもそもコーヒー屋さんって、ローカルな業種だと思っているんです。だからロースタリーの場所は、ど真ん中じゃなくて、地元の人がちゃんといる場所にしたかった。単純にお会計してコーヒー出すだけじゃなくて、合間の会話とか、コーヒーの感想とか。意図的に会話をするように心がけています。」

      一杯の向こうにある風景。産地を目指しエルサルドバルへ

      COYOTEの中心にあるのは、エルサルバドル産のコーヒーです。生産者から直接仕入れた豆を丁寧に焙煎し、提供するまでを一貫して手がけています。そもそも門川さんがコーヒーに興味を持つようになったのは、学生時代のこと。南米を旅していたとき、たまたま訪れたコーヒー農園で大きな衝撃を受けたと言います。

      「歩くだけでも大変な険しい斜面で、コーヒーチェリーを一つひとつ手摘みで収穫し、そこから選別、水洗い、乾燥……、とすごく大変な作業をしている。今まで何気なく飲んでいた。一杯のコーヒーが、想像以上に人の手を経てできていることを知りました。」

      いつか産地と関わる仕事がしたいと、大学卒業後は京都のコーヒー会社に就職。しかし、仕事は流通の営業が中心で、なかなか機会は巡ってこず、商品と産地との距離にもどかしさを感じる日々が続きます。そんな中、青年海外協力隊でエルサルバドルのコーヒー農園の職種案件があると知り、迷わず応募。2018年から参加することになりました。

      「僕が滞在していたのは、チャラテナンゴという生産地です。小規模な農家が多く、品質の高いコーヒーを生産していながら、販路に乗りにくいという課題も抱えていました。」

      現地では、農園に住み込みをしながら、生産者の情報を集めたり、訪れる日本の商社に紹介したりといったPR活動を行いながら、コーヒーの焙煎技術も学んだという門川さん。

      スペイン語が堪能だったこともあり、現地では「カディート」と呼ばれ、頼りにされるように。しかし、コロナによって予定任期より早い帰国をせざるを得なくなりました。

      「産地では、ロックダウンによってバイヤーが買い付けに来られなくなり、せっかく収穫した豆が余って、困り果てていました。いつかは自分でコーヒー屋をやりたいという思いもあったし、この状況をどうにかしたいと、店舗も何もない状態で、約8トンの生豆を仕入れてしまって。今思えば無茶なことをしたなと思いますが、それがCOYOTEを開く大きなきっかけになりました。」

      “いいコヨーテ”でいたい。直接取引にこだわる理由

      COYOTEでは、現在10〜20人の生産者と中間業者を挟まず、直接やり取りをしながら豆を仕入れています。中には、大手商社では取り扱うことが難しい、年間の収穫量が数100キロという小さな農園も少なくありません。

      「小規模な生産者だと、大きな商社はなかなか買い付けに来ないし、さらに、郊外にあるような小さな農園では、自分たちで市場まで豆を運ぶことが難しい場合も多い。そういう場所には『コヨーテ』と呼ばれる買い付け人が来て、その日の収穫を一律の値段で買い取っていきます。でも、それが適正な価格かどうかはわからないことも多いんです。」

      スペシャルティコーヒーとしての価値があっても、ちゃんとした値段で取引ができない。エルサルバドルで実際に見聞きしていた生産者の悩みに、自分たちなりの形で向き合いたい。その想いは「コヨーテ」という店名にも、表れています。

      「消費者と生産者の間に立つという意味では、僕らも中間業者です。だからこそ、ちゃんと買う義務もあるし、伝える義務もある。“いいコヨーテ”になれたらと思ってこの名前をつけました。」

      販売するコーヒーには生産者の名前がつけられている。

      「今日淹れたのは、チャラテナンゴで古くからコーヒーを栽培してきたレネさんのコーヒーです。内戦の時代も畑を守り続けてきた生産者で、この地域のコーヒーづくりを支えてきた人でもあります。紅茶のような透明感があって、柑橘の香りがほんのり感じられる、品のある味わいが魅力です。」

      レネさんのコーヒーとヴィーガン仕様のバナナブレッド。

      一杯のまわりにあるもの。街の日常にあるコーヒー

      COYOTEが目指しているのは、特別なコーヒー文化を広めることではありません。「思い描くのは、街の暮らしの中に自然とコーヒーがある風景」だと、門川さんは語ります。

      「京都の人はもともと飲み手のレベルが高いと思っているんです。スペシャルティコーヒーを広めたいという感覚はあまりなくて、浅煎りでも深煎りでも、みんな好きなコーヒーを飲んだらいいと思っています。ただ、普段の生活のルーティンの中に『ちょうどいいコーヒー屋さん』があるのは大事だと思っていて。なんとなくでも、COYOTEがいいと思ってもらえているのなら、それが一番うれしいですね。」

      出町柳のロースタリーを開いてから2年。常連客は少しずつ増え、いまでは1日に10人、20人と顔なじみの客も訪れるようになりました。週末にはイベントも開催するなど、普段とは少し違う体験を楽しみに来る客もいると言います。

      「僕らは日常のコーヒー屋さんでありたいと思っているんですけど、だからこそ、たまには刺激も必要かなと。例えば他のロースターさんを招いて、普段は置いていないエチオピアのコーヒーを提供したり、サイフォンでコーヒーを淹れたり。そういう機会があると、またこの店に来る楽しみが増えると思うんです。イベントのたびに足を運んでくれる常連さんもいて、日常の延長にある小さな変化が、店と人との関係を少しずつ育ててくれているように感じます。」

      店頭に並ぶカップやTシャツなどのオリジナルグッズも、その関係を広げるための1つの手段です。

      「カップは京都の若い陶芸家の方にお願いしています。老舗というより、新しいことをやろうとしている人たちと一緒に作るのが面白いと思っていて。Tシャツや手ぬぐいも、仲のいいデザイナーやコーヒー屋さんと一緒に作っています。楽しみにしてくださる方も多いので、今後も増やしていきたいですね。」

      2つのローカルを結ぶ。その先にある形

      店や街の風景とともに、門川さん自身の意識も少しずつ変化してきました。

      「最初はとにかくコーヒー屋さんをやりたくて、どうしたら美味しくできるか、クオリティを保てるかということばかり考えていました。でも続けていくうちに、お客さんとの会話や笑顔、それを引き出すホスピタリティなど、コーヒーのある暮らしや人との関係そのものに興味が向くようになりました。品質はもちろん大事ですが、年によってよくなったり悪くなったりするのも含めて、コーヒーという飲み物だと思うようになりましたね。」

      京都の小さなコーヒー屋とエルサルバドルの農園という、2つのローカルを結ぶ関係を長く続けていくこと。それがCOYOTEの営みの軸になっています。

      「例えば年によって収穫量や品質に差が出ることもありますが、ある程度の品質なら今年も買うから来年またがんばってほしい、という付き合い方ができます。自分たちが焙煎を工夫すれば、それも味として提供できますから。続けてもらうことが一番大事だと思っています。小さな農園だと生活が成り立たず、やめてしまうことも少なくないので、毎年買い続けることが支えになればと思っています。」

      こうした関係を積み重ねていくこと自体が、門川さんの考えるコーヒー屋の姿でもあります。

      「今後はエルサルバドルの生産者との関係をさらに広げていくことが目標です。エルサルバドルにはまだまだいい産地があるので、生産者のネットワークをもう少し広げていきたいですね。」

      大きな焙煎機は、韓国のイージスターのもの。日本ではこれが初号機。

      焙煎は週に2回。豆の状態によって焙煎温度や時間、ローストレベルを緻密に調整し、データ化している。

      将来的には、産地に店を開く構想もあると言います。

      「日本の技術でいいコーヒーを出せたら、現地の人にも喜んでもらえるんじゃないかと思っていて。実際にエルサルバドルの人が、京都にこんな店があるとて来てくれることも多いんです。」

      2つのローカルを結ぶ関係は、まだ途上にあります。それでも、その積み重ねの先に、ひとつのコーヒー屋のあり方が見えてくるのかもしれません。

      COYOTE

      公式ウェブサイト(外部サイトに移動します)https://coyote-coffee.stores.jp/